奈良新聞掲載記事集

令和4年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和3年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和2年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成31年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成30年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成29年度 奈良新聞掲載 「農を楽しむ」

お茶の樹について

 朝夕に少し肌寒さを感じる季節になりました。こんな時期にはお気に入りの場所でとっておきのおいしいお茶を淹れ、心穏やかに過ごしたいものです。
 ところで、皆さんはお茶の樹(苗)をどのように増やすのかご存じでしょうか?大同元年(806年)に弘法大師空海が日本で初めて唐の国から茶の種子を持ち帰り、それを佛隆寺の開祖堅恵大徳が貰い受け宇陀市榛原区赤埴に植えたとの言い伝えがあります。ただ、種子を植えて苗をつくると、茶の新芽の伸びる時期や伸び方が不揃いで品質が一定とならない上、種子が発芽する割合も低いため、良質なお茶の園地を増やすのは難しく大変な作業でした。効率的に良い品質の苗を増やすべく、明治時代には取り木法(枝の一部を土の中に埋め発根させて苗を作る方法)や根ざし法(掘り上げた一定の太さの根を切り分けて土の中に埋め、発芽、発根させて苗を作る方法)が行われるようになりましたが、これも効率が悪く実用化には至りませんでした。
 その後昭和を迎え、1935年奈良県農事試験場(現 奈良県農業研究開発センター)の押田幹太技師により「茶樹の挿木繁殖と育苗」(奈良縣立農事試験場臨時報告)が発表されました。押田技師の開発した挿し木繁殖による方法は、お茶の新梢を6月まで伸ばした挿し穂を使うため、簡単に手に入り、かつ挿し穂の葉が触れ合わないくらいの狭い間隔で植えることができます。これらのことは大量増殖をする上で画期的な方法であり、全国に普及しました。その結果、日本で最も広い面積で栽培されている「やぶきた」をはじめとする優良品種の大量増殖および茶畑の均一化に大きく寄与したことは言うまでもありません。
 現在、皆さんが今見ることのできる美しい茶畑は、品種が揃っているからこそであり、おいしいお茶も押田技師がいなかったら飲めなかったのかもしれません。

tya
  お茶の挿し穂が発根を始めた様子

【豆知識】
 ご家庭でお茶苗を育てる時、園芸店などではなかなか販売していませんが、インターネットなどで検索すると入手可能です。購入した苗は4月頃に日当たりがよく水はけの良い場所に植え付けます。育成者権がすでに消滅している品種であれば、翌年以降に挿し木を試してみましょう 
 挿し穂は5月の新茶の時期はわざと刈り取らずに伸ばします。少し枝が堅くなり始める6月に採取し、2節程度に切断して葉をつけた状態にします。ポットなどにピートモスなどを混ぜた水はけのよい土を入れ、枝を挿します。挿した後は、昼間少し日陰になる場所に置き、水やりは乾かないように毎日行い、暑くなりそうな日は、日中霧吹きなどで葉水をしてください。肥料は8月の中旬ごろに肥料を1苗当たり市販の緩効性肥料(白く丸いタイプ)を1粒程度、その1ヶ月後にも同じように与えて下さい。冬は暖かい日当たりのよい場所で管理し寒害を防ぎ、翌年植えましょう。



奈良新聞で第2日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
※過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。