奈良県教育委員会
教育長 藤原 昭 様

教育改革のための中間提言


 奈良県教育懇談会(以下、「懇談会」という。)では、地方分権時代における奈良県にふさわしい教育の在り方を求めて、平成12年9月1日以来、これまで7回の会議を開催し、建設的かつ率直な討議を行ってきました。
 言うまでもなく、子どもの教育は乳幼児の段階から徐々に始められ、その後の発達段階に即して継続的に積上げられることによって、完成に近づくものです。従って、子どもの健全な心身の発達には、現在の教育が抱える様々な課題、例えば家庭におけるしつけ教育、学校におけるいわゆる荒れや不登校、学力低下、学校の閉鎖性や教員の資質問題等々が、複雑に絡み合って影響しています。
 さらに、現在の教育制度の骨格ができてから相当の年数が経過し、この間の産業構造や社会環境の急速な変化も、当然ながら子どもの人格形成に影響しています。
 これらのことがらを踏まえて、懇談会では、これまで主として基礎となる発達段階にかかわる教育改革について、討議を行ってきました。教育改革が喫緊の課題であり、早急に施策化に向けて検討に着手されるよう現段階において、これまでの懇談会で意見の一致を見た項目について、中間提言を行うことにしました。
 「教育改革のための中間提言」としては、以下の5項目に整理して簡潔に示しました。項目ごとの施策化に向けての視点や項目間の関連性については、これまでの懇談会の討議内容及び資料を参照願いたいと存じます。

                                                                                                                                           

平成13年11月6日          
奈良県教育懇談会
  代表 会長  杉  村    健 

      

教育改革のための中間提言


1.家庭と就学前教育の充実に向けて
<父親学・母親学マニュアル(仮称)の作成と活用>
○初めて子育てをする親のために、父親・母親としての役割と責任、子どものしつけのノウハウなどを分かりやすく説明した奈良県の「父親学・母親学マニュアル」(仮称)を作成し、出産前の夫婦及び就学前の子どもを持つすべての保護者に配布して活用を促すこと。

<幼保連携を見据えた「奈良県就学前教育指針」(仮称)の策定>
○公立幼稚園における幼児の主体性尊重教育と集団性涵養教育のバランスに配慮するとともに、保育所保育と一貫性を持った指導方法についての奈良県独自の指針を策定し、小学校教育への適応がスムーズに図れるよう教育現場への指導を徹底すること。

<公立幼稚園の子育て支援の推進と子育て支援ボランティアの組織化>
○公立幼稚園において地域の家庭教育相談、一時預かり保育、親同士の仲間づくり等子育て支援機能を一層推進すること。また、地域が一体となって幼い子どもやその親たちを支援するという視点から、公立幼稚園の主導により通園区域毎に当該幼稚園の子育て支援ボランティアの組織化が進むよう最大限の配慮を行うこと。


2.学力向上に向けて
<小学校低学年における基礎・基本(読・書・算)及び中学第1学年の英語学習の徹底>
○基礎・基本を徹底するために、小学校3年生までの国語・算数(読・書・算)及び中学校1年生の英語の重要な内容を選び出し、どの児童・生徒にも完全習得させるためのあらゆる措置を講じること。

<到達目標の明確化と奈良県内一斉学力調査の実施>
○奈良県の教育水準の向上を図るために、小・中学校における各科目の各単元毎に到達目標とその評価規準を具体的に設定し、すべての学校が目標達成に向けて教育活動を展開すること。併せて、児童・生徒の達成度を客観的に把握するため、各学校で奈良県内一斉学力調査を実施すること。

<習熟度別指導の推進>
○すべての児童・生徒の学力を伸ばすため、小学校高学年と中学校における習熟度別指導を一層推進すること。

<小学校高学年での学級担任制の弾力化>
○子どもが複数の教員から学ぶことができ、また、教員も得意な教科を教えることができるように、小学校高学年での学級担任制の弾力化を推進すること。


3.学校の経営改善に向けて
<教育目標及び教育計画の策定とその公表>
○校長は、学校経営の責任を明確にするため、年度当初に1年間の学校の具体的な教育目標と、その実現に向けての具体的な計画を作成し、保護者や地域の人々に公表すること。
  同時に、教員は、校長が作成する教育目標を受けて、年度当初に担当業務に関わる1年間の具体的な指導目標と、その実現に向けての具体的な計画を作成し、保護者や地域の人々に公表すること。

<自己評価とその公表>
○校長は、年度末に、年度当初に掲げた目標の達成度を客観的な資料に基づいて自己評価し、保護者や地域の人々に公表すること。
  同時に、教員は、年度当初に掲げた目標の達成度を客観的な資料に基づいて自己評価し、保護者や地域の人々に公表すること。

<外部評価>
○学校が児童・生徒及び保護者のニーズに的確に応えるため、保護者及び地域社会等による外部評価システムを構築すること。並びに、自己点検・自己評価の客観性を検証するため専門家による学校経営の指導助言を行うシステムを検討すること。

<地域連携>
○外部評価の結果や学校評議員の意見を参考に、学校が教育活動の改善策を策定し、実施すること。


4.高校の特色づくりに向けて
<入試方法の改善>
○高校の入試制度について、当面は、内申点や学力検査点の教科間の点数配分及び両者の割合を弾力化し、公表する等の改革を行うこと。将来的には、高校毎の独自入試を実施すること。

<教育課程の弾力化>
○各学校の教育目標に応じて、特色ある学校設定科目を設置するほか、選択科目の中で必修科目の演習を行う等、学校毎に教育課程の一層の弾力化を進めること。


5.県民から信頼される教員を目指して
<教員採用試験の充実>
○教員の採用試験に当っては、子どもと的確に関われる教員としての資質を確実に見極めるため、面接試験の一層の充実や模擬授業の充実等の措置を講じること。

<授業の常時公開と子どもの評価(意見)の取り入れ>
○第三者または同僚による授業の他者評価によって指導力を自己研鑚する観点から、 授業は常時公開するものとすること。また、教育活動を自己点検するため、児童・生徒による評価(意見)を取り入れるシステムを導入すること。

<勤務評定の充実と教員の待遇>
○勤務評定の客観化を一層推進するため、勤務評定のデーターベース化を図ること。また、優秀な教員には積極的な論功行賞を行い、さらに将来、給与格差への活用を研究・検討すること。

<指導力不足教員の処遇>
○指導力不足教員の処遇を早急に検討すること。

<教員研修の充実>
○校長は、校内研修推進体制を確立し、自ら教員研修のリーダーに立つこと。
○教育研究所は、教育現場のニーズを的確に把握し、教育改革に伴う研修講座を開設すること。
○教育研究所は研修講座等の自己点検・自己評価を行い、その結果を公表すること。

<地域人材活用の促進>
○生きた授業の創造に向けて、地域でいろいろな仕事や分野で活躍されている人材を講師として積極的に活用すること。