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第26回奈良県教育懇談会討議の概要

◇懇談会日時      平成19年8月31日(金)   9:30〜12:00

◇場所         奈良市鍋屋町15  共済会館 やまと

◇議事  ・小中一貫教育、中高一貫教育のねらいと課題について

発言のポイント
 ・6−3−3制という既存の制度の見直しを多角的に行うことは大事なこと。
 ・一貫教育を県全体に導入することは、学校選択制とも関連して十分な検討が必要
 ・地域差を考慮しつつ、市町村ではなく“県だからできること”について考えるべき。

◇主な意見

【会長】
 これまでの懇談会の流れを確認すると、今日の学校現場において様々な課題があるが、これらの課題に立ち向かっていく手法の一つとして、新しいシステムの導入を考えるということ。
 今回は、事務局から、現状の分析、案の説明を受け、本格的な議論を展開し、意見の集約をしていきたい。
まず、資料の説明を事務局から。

【事務局】<資料について説明>

 「資料1 小中一貫教育についてについて」
 ・現状の課題
  ○ 小学校から中学校への接続の課題
    教科内容の複雑化、教科担任制、人間関係の変化などによる不適応。
  ○ 中学校1年生で不登校になる生徒が増加する傾向があること。
  ○ 小学校と中学校の校種間の連携が進みにくい状況があること。
  ○ 子どもの発達段階の課題 →  「十歳の壁」・「十四歳の危機」

   ・メリットとデメリットについて

   ・その他
  奈良の状況=奈良県内39市町村の内、1小学校、1中学校の町村は39市町村中12町村ある。(平成19年5月1日現在)

【会長】
 今の説明に対する、質問、ご意見はありませんか。
【委員】
 本来、小中一貫教育は都市部で選択制を前提に実施するものと考えており、前回訪問した田原小・中学校はうまく運営されていたが、少しイメージが違ったような気がする。また、学校訪問時に意見があったが、小中一貫と中高一貫のどちらを重視すべきかというところをお伺いしたい。
【事務局】
 小中一貫教育と中高一貫教育のねらいは同一ではない。したがって、今のところ二者択一というスタンスでは捉えていない。
【委員】
 小中一貫教育、中高一貫教育のそれぞれに持ち味がある。どちらを重視するかというのも、全国の教育委員会や学校が模索しており、現在、正解がないところ。先日、横浜市の教育委員会で小中一貫教育について話をした折に、3つの条件を充足することが大切だということを申しあげた。1つ目は、地域社会の協力体制があること、2つ目は、職員室が同じ場所にあること、3つ目が、教職員の協力・交流が良好であること。最低これぐらいの条件がそろわないと、小中一貫教育の効果を上げるのは難しいと思う。都市部での実施は、地域社会が崩れてきていることを考えると、逆に難しいかもしれない。いろいろな条件を考えながら、パイロット的な学校をつくっていくのが望ましいのではないか。
【委員】
 小中一貫教育から議論を始めているが、中高一貫教育も併せて議論してはどうか。
【会長】
 奈良県の39市町村のうち12町村が1小学校、1中学校という状況を踏まえ、小中一貫教育を考えるとどうなるか。県内でも、生活環境が大きく異なる地域があるので、何もかも一律に導入するということは難しい。それよりも、こういった地域にはこういったシステムが適しているのでは、ということが言えればいいと思うがどうか。

・6−3−3制という既存の制度の見直しを多角的に行うことは大事なこと。

【委員】
 小中一貫教育が、なぜ今必要なのかといった根本的な部分を明確にさせるべき。例えば、現時点での教員同士の交流の実態はどうなのか。そういった事柄を改善させることで現状を改善できる可能性はある。まず、小中一貫や中高一貫というシステムがありきというのではないと思う。
ただ、6−3−3制という制度の見直しは必要。精神的に一番揺れる年齢である中学三年が学校の最高学年というのは、なかなか難しい。昔と比べて、子どもの成長も一般に早くなっていることも考えるべき。
【事務局】
 現在、中学校現場で問題が集中的に顕在化している。端的に言えば、中学校教育をどうするのかが、最も大きな課題と認識している。これまでも、様々な取組みを行ってきたが、成果という部分ではまだまだ不十分。現在の義務教育の6−3制だけでなく5−4制などについても検討が必要。アメリカでは州によって学制も異なるが、中学3年生の段階(15歳)を高校1年生としてハイスクールの段階へ組み込んでいる州もある。そういった例も参考にして、柔軟に考えていただきたい。また、小中一貫や中高一貫という制度を持ち込むことで、教員や保護者等の意識が変わることへの期待もある。資料で教育企画課が示した小中一貫教育の論理は接続の問題で、中高一貫教育の論理は教育の目的論でそれぞれまとめてある。このような別々の捉え方についてもご検討いただきたい。
【委員】
 教育成果をあげている私立の学校は、多くは中高一貫である。中高一貫のどこがいいのかというと、異年齢集団による活動が大きいと考える。特に、子どもの社会性の育成には大きな効果がでている。奈良県は、いろいろな実験をしてはどうか。
【会長】
 小中学校は市町村立。県教委は市町村立学校の改革に具体的にどれだけのことができるのか(する予定か)?
【事務局】
 教育課程の編制や、教員配置等で協力できる。また、中高一貫教育においては、中等教育学校まで視野に入れた検討が必要と考えている。
【会長】
 では、中高一貫教育についても一緒に考えてはどうかという意見があったので、事務局で用意している、資料2の説明を願います。

 「資料2 中高一貫教育について」
   ◇ 中高一貫教育の3タイプ

中等教育学校 一つの学校で一体的に中高一貫教育を行うもの。高校入試は基本的に行わない。
併設型中高一貫校 高校入試を行わずに、同一の設置者による中学校、高等学校を接続するもの。
連携型中高一貫校 既存の市町村立中学校と都道府県立の高校が、教育課程の編制や教職員、生徒の交流等の面での連携を深める形で中高一貫教育を行っているもの。簡便な入試の実施。

 ・現状の課題
  ○ 生徒、保護者の多様なニーズに応えるための新たなシステム導入が必要
    (生徒、保護者の私立学校への進学指向)
  ○ 6年一貫したキャリア教育の推進が必要
     将来、各分野で活躍できる自立した社会人の育成
 ・メリットとデメリットについて

 ・その他
  ○ 公立での導入についての留意点
    入学試験については、制度上、中学入学時に「学力試験」を課すことができない。

【会長】
 今の説明に対する、質問、ご意見はありませんか。
【委員】
 中高一貫教育において、キャリア教育の推進のためだといわれたが、キャリア教育というか職業教育を重視しているイギリスやドイツなどの欧米のキャリア教育、職業教育を参考にしてはどうか。
【委員】
 浦和商業高校などの話を聞いたことがあるが、最近では、職業高校から大学進学するという流れも増えていると聞いている。職業学科、スペシャリストの教育について、奈良県の状況はどうか。
【事務局】
 高校の入学生の減少に伴い、専門高校の生徒数も全体的に減っている。
【委員】
 キャリア教育と一口に言うが、生徒の実態を踏まえたキャリアガイダンスこそが重要。その重要性を学校現場ではわかっていないのではないか。
【委員】
 幾つか教えていただきたいデータがある。まず、奈良県の小学校から私立中学校等への進学者は全体のどのくらいの数になるのか。次に、中学から高校に進学するときには、私学へどのくらい進学するのか。また、高等学校では不登校の生徒数はどれくらいなのか。
【事務局】
 高校への進学者についてであるが、奈良県の公立高校の募集定員は、公私立高等学校協議会で毎年定められる。ここしばらくは、県内中学3年生の高校進学者推定数の63.5%となっている。小学生の私立中学校等への進学率は地域によっても異なるが、平均すれば10%程度と聞いている。  不登校生徒については、平成17年度の資料では、高校生は355名で小学生の344名とほぼ同じぐらい。同年のデータで中学生は1228名と約3.5倍である。
【委員】  ところで、このような懇談会に私学関係者や知事部局の総務部総務課が参加していないのはなぜか。行政区分で、私学は知事部局、県立は教育委員会となっているが、県全体の状況を考えるためには、意見を聞く必要もあるのではないか。
【事務局】
 経緯について個々で説明することはできないが、これまで、少々縦割りに甘んじてきたところはあった。委員ご指摘のとおり、奈良県全体の教育を考えるためには、知事部局の総務部総務課との情報交換、連携は不可欠ということは理解しており、現在取り組みを進めているところ。
【委員】
 小中一貫教育や中高一貫教育を実施するなら、何に重点をおいたものにするのか。社会性やヒューマニティーの部分の教育や学力を伸ばすための教育など、いろいろな場面で効果があるということだが、どれが必要なのか、それとも、財政面で学校の統合が必要なのか。
【会長】
 話が広がってきたので、これまでの議論を大枠で整理する。
 まず初めに、どうも中学校での教育的課題が大きく、問題が多いという状況がある。そこで、中学時代が不安定な時期であることを踏まえた上で、何らかの手だてを打ちたい。その手法の一つとして、各地で取り組みが行われ、何らかの効果が期待できる小中一貫、中高一貫というシステムを考えてはどうか、というのがこれまでの流れだと思う。

【委員】
 小中一貫、中高一貫教育の教育的効果については、まだ十分に検証されていないのか。
【会長】  始まってからの時間を考えると、十分な検証がなされたわけではない。ただ、ここ数年間、全国で右肩上がりで導入されていることを考えると、そのメリットへの期待は高いと言える。東京都の三鷹市、品川区などは学校選択制を導入し積極的に進めている。
 現在、奈良県の公立小中学校は学区制が引かれているが、こういった改革を進めるということは、学校選択制を避けては通れないと思うが、県教育委員会としてはどう考えているのか。
【事務局】
 現在、県内の一部の市町村では保護者の意向により通学する学校を選択できるところもあり、学区についてはかなり柔軟に扱われるようになってきている。今後、このような流れは広がる傾向にあると思う。ただ、交通網の整備状況や地域性の問題もあり、一律に実施できるようになるかについては疑問である。国の方では、バウチャー制度についての検討もされてきている。一貫校について考える場合、児童生徒、保護者が、一貫校とこれまでの形態の学校のどちらかを選択できる形にすることが必要だと捉えている。
 教育3法の改正により、市町村教育委員会の広域化についても検討課題となってきており、学校選択について考える際には、その辺の動きにも注意が必要だと考えている。
【委員】
 現状の教育の状況を考えると、個人的には、様々な問題のもとは幼児教育にあるのではないかと思っている。幼児教育の重要性については、今回の新しい教育基本法でも第11条に「幼児教育」についてはっきり書かれたことでも明らかだと思う。ただ、奈良県での幼児教育についての取り組みについては、まだまだこれからなのではないか。一貫教育という枠組みで考えると、幼小期の一貫教育も重要だと考える。幼小一貫と中高一貫という組み合わせについても考えてはどうか。これから先の時代を考えると、少子化はまだまだ進み、教育課題も大きくなることが予想される。これまでの枠の中での議論では、施策は後手に回ってしまう。県教育委員会は私学も含めて、もっと大きな枠組みで考え英断をしていただきたい。全国47都道府県のモデルになるようなプラン、発想をしてみてはどうか。

 ・一貫教育を県全体に導入することは、学校選択制とも関連して十分な検討が必要

【委員】
 奈良県の状況を踏まえると、一貫教育を全面的に、一律に導入することにはムリがある。できる条件があるところから順次実施することが正解だと思う。また、他府県の先行事例を見てみると、一貫教育の導入に際して、国立の研究所や大学等の支援を受けて実施している。奈良県でも、大学等との連携体制をつくりながら進めるべきだと考える。
 学校選択制については、弊害もあるようで、先進地である東京都でもかなり悩んでいる学校が多い。また、地域とのつながりが薄まり、地域の教育力が学校に活かされにくい状況があると思う。導入する地域の状況を十分配慮して進めることが必要である。
 キャリアガイダンスについては、手厚く行うべきという意見に賛成である。技術科学大学や看護大学等の学生は、比較的落ちこぼれが少ないという実態があるが、やはり、学校の性格上、学生の目的意識が明確であるということが影響していると思う。商業高校や工業高校の生徒の進路も就職から大学進学へ比重が移ってきている。大学や企業もそういった学生を採るような動きを見せている。そのあたりも視野に入れた指導が必要だと思う。
【委員】
 私学を含めて枠組みを考えるべきという意見には賛成。中高一貫教育を進めることについて異論はない。ただ、教員の意識改革は大きなポイントだと思う。システムを変えることも大事だが、教員についてはもっと大事。例えば、教員の服装や職業倫理、社会人としてのモラルなどは、やはり生徒に影響を与えると考える。また、とことん議論するのを嫌う日本人的感覚を打破していくことも大事だと思う。

  ・地域差を考慮しつつ、市町村ではなく“県だからできること”について考えるべき。

【委員】
 県内での地域差は激しい。奈良市の一部地域では、クラスの50%近くの生徒が私立中学校等を受験する小学校もある。あえていうなら、小中一貫、中高一貫といった制度を導入すること自体に異論はないが、地域差を考えながら進めていく必要があり、市町村教育委員会との連携が不可欠であると思う。
 私学は、まず生徒を集めることが必要であり、そのために、わかりやすい特色を示すしかない。奈良県内である私学がつくられたとき、関係者が「大学進学か甲子園出場のどっちかで特色をだすしかない」と言われた。県がやるのだからこそ、独自の視点で、“県だからできること”に取り組むべきだと思う。そういう意味で、小中一貫、中高一貫どちらもあってよいのではないか。
【会長】
 小中一貫、中高一貫ともできる条件のある地域から、導入してはどうかという意見が多いようですが、どうですか。留意点も含めて意見はありませんか。
【委員】
 中高一貫を導入して、高校入試を基本的にやらないとなれば、生徒の学力面で後々問題は出ないか。

【委員】
 それについては問題ないと思う。加えて高校の段階で他の学校に行くこともできる道もある。
【事務局】
 文部科学省では、中学での選抜では学力検査を行わないこととしている。したがって、適性検査、抽選等の手法を使っている。
【委員】
 中高一貫教育校でデメリットととして、転校等の問題があげられているが、ドロップアウトも含めて、そういった生徒に対する受皿を考えておくべき。制度を導入するなら、デメリットへの対処方法をキッチリ示すべきである。
 小中一貫、中高一貫については、基本的な路線としては、導入の方向に反対ではない。
【委員】
 中高一貫で、中学校卒業時の就職者に対する指導はどうするのか。
【会長】
 中高一貫もそうだが、中等教育学校ではどうなるのか。
【事務局】
 中等教育学校では、前期3年、後期3年に分かれており、ご指摘の内容については大丈夫かと思う。また、転入についてのシステムはかなり整えられてきていると認識している。
【委員】
 もし、実験的に導入を進めるのなら、例えば5年後の見直しなどを掲げて、時限を定めて検証しながら進めることを提案したい。
 県でやるなら、私学とはまた異なったコンセプトを確立させなければならないと思うがどうか。
【委員】
 学校の性格づけというのであれば、大学進学を目指す公立の中高一貫教育校があってもよいのではないか。この考え方をわざわざ外す必要は無い。コンセプトとして、学力も重要である。
【委員】
 どのような生徒を育てるのかといった明確な方向性を示す必要はあると思う。前向きな表現で表したらどうか。
【委員】
 新しい制度を導入するのであれば、学校現場や生徒、保護者への十分な説明と啓発が必要。
【委員】
 生徒や保護者の選択肢を増やすということについては賛成である。大学進学を目標とするというのもありという話であったが、個人的には規範意識や社会性の育成の部分にも力を入れて欲しい。中高一貫では、応用的な進んだ学習、小中一貫では情操的なものや社会性の育成を中心にしてはどうか。学校の教員に、今まで以上に、地域や家庭が行ってきた部分の教育を背負わせるのは限界があると思う。社会体験が乏しく、コミュニケーション力が不足している困った教員がいるのも事実だが、もっと教員の負担を軽くすることも必要だと思う。
【会長】
 地域の教育力の低下については、なかなか対処が難しい。むしろ、学校が核になって新しい地
域をつくっていく工夫が必要かと思う。地域をどう取り込んで行くのかが課題。ただ、教員に負担をかけ過ぎないということにはやはり留意すべきだ。
【委員】
 幼、小、中、高一貫教育のモデル校づくりをやってみてもいい。研究所や大学と連携して、文部科学省等から助成金や競争的資金などをもらうことで、特色ある研究の実施も考えてはどうか。
【委員】
 最近、自分のことしか考えられない学生が増えている。家庭教育、社会の教育力が低下してきていることを感じる。社会の役に立てる人間を育てることが急務。学校の教員は、教科内容を教えるだけではなく、親・保護者へ、幼少期の教育の重要性について、指導と啓発をすることが必要だと考える。
【会長】
 ありがとうございました。予定の時間がきていますので、もし他に質問、意見等があれば事務局へ随時伝えていただきたいと思います。
 事務局では次回までに、それらの意見を整理していただければと思います。

(以上)

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