教育長からの「教育アピール」のページ
平成16年11月12日  
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 平成16年11月6日(土)、奈良県橿原文化会館で開催された「奈良県民教育フォーラム」において、
奈良県教育委員会、矢和多忠一教育長は次のような「教育アピール」を行いました。

              奈良県教育の現状と改革の方向


 本年度の「奈良県教育週間」の主要行事として、「奈良県民教育フォーラム」を開催いたしましたところ、多数の方にご参加いただき、ありがとうございます。この機会に、私から奈良県教育の現状と改革の方向性についてお話し申し上げ、教育関係者はもちろん、広く県民の方々の御理解と御協力をいただきたいと考えております。

 ご承知のように、教育は改革の真っ直中にあります。国では、教育基本法の改正、義務教育費の財源制度、六・三制の弾力化、教員免許更新制の導入等、戦後六十年近く続いてきた教育制度の根幹に関わる重要な問題が論議されています。様々な課題解決に向けて、社会全体が教育に関心を持ち、論議をしていただくことは、私たちにとっても歓迎すべきことであり、原点に立ち返って教育や学校の在り方を根本から考えるべき時期を迎えているという認識を持たなければなりません。

 我が国の教育は、戦後、機会均等の理念を実現し、国民の教育水準を高め、経済社会の発展に貢献してきました。しかし、都市化、核家族化、少子高齢化、そして高度情報化、国際化など、社会と産業構造の急速かつ大きな変化によって、子どもたちの生きる環境も変わり、そのことが、子どもたちの成長に様々な影響を及ぼしています。

 いじめ、不登校、校内暴力、引きこもり、青少年犯罪の凶悪化と低年齢化、児童虐待等、現在の子育てや教育に関わる課題は、そうした社会の変化と無関係では語れない状況にあります。また、近年、フリーター、ニート、パラサイトシングルといった働かない若者や自立しない若者を象徴する言葉が次々と生まれ、社会問題化していることも同様であります。

 もともと、人間は、親や周辺の大人たちが子どもに様々な知識や技能、規範などを伝承し、子どもがそれらを受け継ぎながら自立していくことで社会を発展させてきました。そして、社会が高度化・複雑化していく過程で、そうした営み、つまり「教育」を専門的に担うために、教師という職業や学校制度が生まれてきたものと考えられます。
 つまり、学校教育には、子どもを自立した人間に育てるという保護者の願いと、持続的な発展を実現するという社会的要請、この二つに応える役割が期待されてきたのであります。

 こうした観点から現在の社会をみたとき、学校教育が大変難しい時代になっていることを感じます。社会の価値観やニーズが多様化していること、本来子どもたちの手本となるべき大人社会に様々な問題があること、将来の我が国の姿が見えにくくなっていること等々、子どもたちが夢や希望、意欲などをもちにくい状況があり、これらは学校教育だけで解決できる問題ではありません。学校が、家庭や地域の理解と協力を求め、これからの社会の在り方、教育の在り方を一緒に考え、子どもたちの教育を推進していく姿勢が従来以上に必要になっております。

 昨年、県教育委員会が、「教育に対する県民の意識や関心を高めるとともに、家庭、地域社会及び学校が、一層連携を深め、奈良県教育の充実と発展を図ること」を目的として、毎年十一月一日を「奈良県教育の日」と定めたことの背景には、そうした状況があります。各学校では、この日を中心とした時期に授業公開等を行うことで、保護者や地域の方々に学校を訪れていただく機会をつくり、一人でも多くの方に、学校の教育活動や子どもたちの様子を見ていただくとともに、教育への関心を高めていただきたいと考えております。

 従来、地域社会においては、さまざまな年代の人の豊かな交流がありました。異世代の人と交流することによって、特に青少年は、自分の目指すべきモデルを発見し、心を成長させてきたのです。

 子どもたちが集団の中での競い合いや遊びをとおして身につけていく社会性や、大人との豊かな交流を通じて磨かれていく人格形成の大切さを、私たちは少しおろそかにしてきたように感じております。

 県教育委員会では、子育てのポイントをわかりやすく示した「親学サポートブック」を作成、一歳六か月健診時にすべての保護者に配布するなどの家庭教育支援事業を進めています。また、本年度から、退職された教職員の方々に地域で子育てに協力いただく地域家庭教育支援ボランティアシステムを立ち上げました。こうした支援事業を通して、家庭や地域の教育力を高め、一緒に子育てや教育に責任をもてる社会づくりを進めていきたいと考えております。

 同時に、学校は、地域の方々に学校の教育目標や成果、課題等を示すとともに、実際の教育活動や子どもたちの様子を見ていただいたり、意見を聴いたりする機会を持ち、家庭や地域の方々の協力や支援を得られるように努力することが大切であります。
 今後、地方分権が進み、地域の果たす役割はますます大きくなります。教育に関しても、地域の子どもは地域で育てるという意識が必要になり、学校は、その核としての役割を担わなければなりません。

 そして、こうした家庭、地域、学校の連携のもと、これからの時代を担う子どもたちを、自立した社会人として育てることが、私たち大人の責任であります。

 今、県教育委員会では、学識経験者や経済団体代表等を含む委員からなる「キャリア教育実践協議会」を設置し、小・中・高等学校の十二年間を貫く学習プログラム「奈良県キャリア教育プラン」を作成しているところです。これは、子どもの発達段階に即して、様々な仕事や職業のことを見たり、体験したりしながら、夢や希望、目標を育て、望ましい勤労観、職業観を養うことで、将来の自立した社会人の育成を目指すものであります。

 すでに、中学校では職場体験「いきいき・なら体験事業」、高校ではインターンシップなどを実施していますが、今年度は、知事の全面的なバックアップを得て、県庁各課等で実習生を受け入れる「行政インターンシップ」も実施いたしました。今後も企業や地域の方々の協力を得ながら、こうした取組を一層推進していきたいと考えております。

 本年度からスタートしている県立高校再編計画やそれに伴う高等学校入学者選抜制度改革も、キャリア教育を推進する中で、子どもたちが自らの特性や将来の目標をしっかりと考えながら「行きたい学校」を選択できるようにするものであります。

 そのほか、基礎学力の向上と定着、個性や能力の伸長、体力の向上、豊かな心や規範意識の育成、障害児教育の充実等、これまで進めてきた施策についても、子どもたちを自立した社会人に育てることを目標としながら、一層の推進を図りたいと考えております。


 明治の初期、学校制度が始まった時代に開校し、すでに百年以上の歴史をもつ学校も増えています。そうした学校の創設にあたって、地元の篤志家の方々が寄付をして校舎を建設されたとか、地域の方々がお金を出し合って先生を招いたといった記録に出会うことがあります。経済的には決して恵まれていなかった時代に、それでも村に学校をつくり、子どもたちを育て、子どもたちの幸せを、地域の発展を願った人々の、教育への熱い思い、学校や先生への強い期待を感じる話であります。

 教育の問題、それは社会の問題であります。私たちは、もう一度、教育の原点に立ち戻り、次の社会を託す子どもたちを育てるために、すべての大人が協力し、知恵を出し合っていかなければなりません。そのために、学校関係者には地域の信頼と協力を得ることを、県内各界各層の皆様方には一緒に汗をかいていただくことを再度お願い申し上げ、奈良県教育の現状と、なお道半ばではありますが、教育改革の方向についての所信の一端を述べさせていただきました。どうも、ありがとうございました。
    
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