“一月”堂はどこにある?笠置寺

ふと疑問に感じたことはないだろうか? 東大寺に二月堂三月堂(法華堂)四月堂(三昧堂)はあるが、なぜか一月にあたる正月堂がないことに。


京都府の最南端で奈良県との県境にあり、神が宿るとされた笠置山。巨岩・奇石が連なるその山中に、笠置寺はある。創建は諸説あり定かではないが、約1300年前にさかのぼるともいわれ、修験道の霊場としても栄えた。東大寺の北東、直線距離にして約12kmに所在し、昔から東大寺の鬼門よけとして南都を守り続けてきた。

ご本尊は、切り立つように迫る、高さ約20mの一枚岩に刻まれた弥勒磨崖仏。その対面には、弥勒磨崖仏を礼拝するお堂が建っており、その名も「正月堂」。なぜ東大寺にはない正月堂がこの地にあるのか?

正月堂のすぐ近くに、「千手窟(せんじゅくつ)」と呼ばれる修行の場がある。『笠置寺縁起』によれば、東大寺の開山で初代別当の良弁(ろうべん)はこの千手窟にこもり、千手の秘法を行ったことで、東大寺造営のための建築用材を無事、調達することができたという。さらに、良弁の高弟・実忠は、千手窟から弥勒菩薩の住む兜率天(とそつてん)に入って、内院四十九院をめぐり、そこで行われた行法を人間界に伝えたとされる。これが「お水取り」である。

この法会(修正会)は、実忠によって752年1月に笠置寺正月堂で行われ、翌2月に東大寺二月堂で修二会として始められた。つまり、この正月堂こそ、今日まで1200年以上もの間一度も途絶えたことのない「お水取り」開始の場所である。


東大寺と笠置寺は、古代より中近世を通じて、本山と末寺の関係だった。しかし、両寺のつながりを紐解くと、末寺以上の存在だったように思えてくる。2000年前から磐座(いわくら)信仰の対象とされた、神秘的な笠置山を持つ笠置寺は、東大寺にとって「奥の院」的な役割を果たしてきたのかもしれない。

  • 鹿鷺山(しかさぎざん) 笠置寺(かさぎでら)
  • 京都府相楽郡笠置町笠置山29
  • 0743-95-2848
  • 9:00~16:00
  • 300円