「明日の経営を考える会」 教育長講演

                  奈良県経営者協会「明日の経営を考える会」教育長講演
                                                                                        平成24年2月27日(月)
                                                                                        於:奈良商工会議所

1 大阪府の「教育基本条例」の基本的な考え方と奈良県の考え方 
  まず初めに、大阪府の教育基本条例案の基本的な考え方と奈良県の考え方について、最も関心の高いところと思いましたので、レジメに従いましてお話しさせていただきます。



 1 教育目標
   大阪府の教育基本条例案について、一番のポイントになっている点は「教育目標を知事が定める」、それで良いのかどうかということです。現状では、大阪府の議会は「大阪維新の会」が過半数を占めていますので、おそらく成立するだろうと思われます。しかし、法律はどうなるのか、法に抵触するかどうかについての問題があります。
   どうして、このような教育基本条例案が出てきたのかを私も考えてみました。橋下徹さんという方は、希代の政治家であり、毎日のようにメディアでも取り上げられ、非常にインパクトのある方です。「たかじんのそこまで言って委員会」にも出演され、そこでの発言などを聴いておりました。考え方として、「左ふれ」、「右ふれ」という考えがありますが、日本の教育は、「日教組」を中心にして、戦後、振り子として左に振れて行きました。それが大きく振り戻し、いずれは「真ん中」に戻っていくわけで、現在は、「真ん中」だろうと思っていたのですが、振り戻しがやや出てきています。そういった考え方なのですが、橋下さんは政治家ですので、「問題提起」として、「どん」と出していく手法をとっておられるように思います。と言いますのは、「教育目標を知事が定める」と言いながら、まだ教育目標はどこにも出ていません。国の形という意味での「船中八策」は少し見えてきているのですが。
   教育基本条例を制定するところまでいっているにもかかわらず、何を教育目標にするのか、「大阪維新の会」にその姿が見えていません。教育目標そのものより、それを「知事が定める」ということについての是非を問うているように思います。世の中の流れに対して「問題提起」をしている・・・「石を投げて、波紋を広げ、その様子を見る」といった手法をとっておられるのかなと考えています。条例で定めますと、その条例は言うまでもありませんが有効です。ただ、職員の処分など、実際運用された時に初めて訴訟が起こり、判決が出て、法的に是非が決定します。文部科学省は、昨年12月頃に「知事が教育目標を定める」ことについては、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」に抵触するおそれがあると言及しました。それを受けて、国会議員の渡辺さんの「みんなの党」が内閣に対して質問状を提出されました。その内容は、本当に抵触するのか否かとの質問状です。その質問状に対して、文部科学大臣は、閣議を経て、まさに抵触すると言い切ってしまいました。私の考えは、おそらく法に抵触するおそれがあるのではないかと思います。法に抵触するか否かは教育目標の内容次第であると考えています。と言いますのは、教育基本法が安倍内閣の時に改正されました。その中に教育の目標という条文があります。そこでは、かなりアッパーな理念的な規定がなされています。東京都の教育目標を調べてみました。東京都は、教育委員会決定として、東京都の教育目標が示されています。これは、教育基本法の中の教育の目標とあまり変わらないような理念的な教育目標が定められています。教育基本法に書かれている教育目標に対して重点を置くところを明確にしているだけで、具体的に突っ込んだ目標ではありません。例えば、東京都のようなものが出てくるのであれば、全く抵触しないのではないかと思います。つまり、内容次第で法律上問題があると考えます。地教行法には、教育の目標というところは明確に書かれているところはありません。教育委員会の事務と知事の事務の役割部分が示されています。それ以上のことは、書かれていません。
   先ほども申しましたように、法に抵触するか否かは教育目標の内容次第であると考えています。
 

 2 考え方の背景 
   基本的な考え方の背景について調べてみました。大阪府・市の特別顧問に上山信一という方がおられます。上山信一さんは、マッキンゼー&カンパニーの経営コンサルタントを務められていました。それだけで、もうお分かりのとおり、消費者主権・市場メカニズム・競争原理などを取り入れ、企業の組織改革を行われ、立ち直りを図ってきたという実績をお持ちの方です。この方が橋下さんの後ろについておられます。また、橋下さんが大阪府知事として条例を出された時に、堺屋太一さんが明確に評価をされました。この考え方は、消費者主権であって、市場メカニズム・競争原理によったもので、この条例はありなんだと、総論としてコメントをされました。現在、特別顧問に入られています。
 

 3 学校を良くする方法
   さて、学校を良くする方法は、大きくは2つの方法があると言われています。
   一つは、これまで述べてきました、消費者主権、つまり保護者がものを言い、保護者や地域の方が直接教育に関わっていく、そういうシステムを作っていくこと、これが、消費者主権的発想であると思います。そして、その延長線上に「民意」の考え方があると言われます。選挙で勝利して首長になるわけですから、極端に言うと1票差でも勝利すれば、勝者が「民意」で敗者が「民意ではない」という考え方と、民主主義はやはり少数意見も尊重していこうという考え方に立てば、敗者を応援された方々も「民意」としてとらえることもできます。すなわち、100%の得票率で当選する人はいません。そのようなことは、あり得ないことです。それでは、「民意」というのは何割なのか。こういう議論になります。「民意」の傾向としては、当選された方に「民意」がある(勝者)傾向が強いです。こういった延長線上に、「民意」を得た知事が教育の目標を定めるとなってきたのではないかと考えています。
   さて、「大阪維新の会」の特別顧問に原英史さんという方がおられます。この方は経産省の官僚で、東大の法学部卒業で、現在は大学の教授として活躍され、法律家でもあります。メディアにも出演されている方ですが、文科省が地教行法に抵触するのではないかとの意見に真っ向から反対されています。と言いますのは、教育委員会は予算編成権は持っていません。予算編成権を持っている時期が戦後あり、7年間ほど続いたわけですが、予算編成権まで持ちますと、議会で知事部局とぶつかり合いが起こってしまいます。そのような経緯から予算編成権が外され、現在の形ができました。予算編成は知事の専権になります。教育委員会が実施している様々な事業は全て予算がついてまいります。学校の教職員の給料はどこが払っているかというと、(小・中・高、特別支援学校も含めて)県が払っています。国庫負担金は小・中の義務教育で3分の1です。この3分の1も少しだけぼやきますと、実額の3分の1はくれず、理屈上の3分の1で、実効率では24~25%程度にしかすぎません。75%は県が払っており、この人件費は勿論、事業や取組は全て知事の専権にあります。ですから、ある意味、今の制度から言うと知事が教育目標を定めようが定めまいが、「そんな事業は必要ない。こちらの方の事業が必要ではないか。」ということで知事と考え方が違えば、今の制度上は、全てを排除することが可能なのです。私は、教育委員としてまた制度上の常勤の特別職の教育長となっていますが、県内部での予算に関してのやり取りや教育課題や教育の問題のテーマに関しても、知事と議論していきます。その中で知事の教育目標というのも出てきますし、自ずと知事の教育目標に沿う形で成り立っていっているというのが実態としてあります。したがって、知事が教育目標を定めることが法律違反であるとするならば、現行の実態そのものが法律違反ではないかと考えます。以上のことから、原英史さんは、法律に抵触することはないであろうと言及しています。
   このように、考え方は「法律に抵触する。抵触しない」という2つに分かれます。私は、先ほど申し上げましたように、教育目標が具体にどのようなレベルのどういった内容のものなのか、その実物が出されて初めて、法廷で判断されるのではないかと考えます。その際の判決は限りなく微妙であると考えています。
 

 4 奈良県の考え方
   先日、大阪府の教育基本条例について、朝日新聞がアンケートを実施し、6知事3市町が賛成といったセンセーショナルな見出しで記事が掲載されました。勿論、奈良県もアンケート調査に答えたわけですが、基本的には「どちらとも言えない」と回答させていただきました。「首長が教育目標を定めることは賛成ですか。」との問いに、「どちらとも言えない。」と回答しました。その理由は、奈良県では知事及び知事部局と教育委員会及び教育委員会事務局とが連携して県の「主な政策集」の中に教育の目指す姿や目標を示しているからです。その「主な政策集」の中の教育目標というのは、非常に具体的です。全国学力・学習状況調査で明らかになっているところですが、学校のきまりを守ると答えた生徒の割合が、全国順位で最下位のところに位置しています。そこで、「規範意識の高い子どもの割合」や「子どもの体力・運動能力」を全国平均レベルに上げることを目標に掲げています。
   奈良県の子どもたちが他府県に就職したり、結婚をしたりした時に、「体力がないんだね」「規範意識に乏しいんだね」「勉強はあまり好きではないけれども、成績だけいいんだね」ということが定着してしまうことは、教育委員会にいる人間としてあってはならないと思いますので、せめて平均レベルに上げることを定めています。このようにはっきりと目標を定めているところは他府県でもあまり例がありません。
   先ほど、少し申し上げましたが、学校を良くする考え方は2つあります。1つは、消費者主権・市場メカニズム・競争原理の考え方で、もう1つは地域住民・保護者等が参画した民主的コントロールにより学校を運営する考え方です。保護者や地域の方が参画して学校運営を行う例として、学校運営協議会があります。奈良県では都南中学校が実施しています。制度的に、人事に関して難しい面もありますが、奈良市がチャレンジしてくれました。
   2つの考え方のどちらも否定はできません。どちらをどう取り入れるかですが、消費者主権・市場メカニズム・競争原理を押し進めていくと最後の行き着く先は、学校選択制です。奈良県の場合、学校選択制がとれるのか。義務教育の小・中学校ですが、奈良県の町村は、1つの中学校しかない所がほとんどです。十津川村には4つの中学校がありますが、平成24年度から1校になります。十津川村の規模でそうです。学校選択制ができるのは都会部分と思います。ですから、奈良県全体にそれを持ち込むのは難しいので、消費者主権・市場メカニズム・競争原理を優先するべきではないと考えます。橋下さんが大阪市で初めに言われたことが学校選択制をしようということでした。やはりそこへ行き着くのだと思います。上山信一さんの経営コンサルタントの発想から、当然であると思います。学校は選択できるべきじゃないかということを否定はしません。私学へも行くわけですから自由に考えればよいことです。ただ実態として学校を選択しようにも通える学校は1つで選択ができない中で、本当に自由な選択をしていると言えるのでしょうか。
   昔は南部の子どもたちは体力がありましたが、実は奈良県でも南部の子どもたちの体力が落ちてきています。スクールバスの送迎により、歩く距離が短くなっているので、それほど足腰が強くなくなってきています。同一町村内に3つくらい学校があれば、選択できてもよいですが。奈良市等の都会部分であれば、北・中・南と選択できるかもしれませんが、半分以上は選択できません。本県にとって、あまり正しい方向ではないと思います。消費者主権という考え方を入れていかないと早期に活性化しないけれど、本県にとって時間はかかりますが、私は、本県では民主的コントロールによる学校運営が優先されるべきだと考えています。
 

2 「奈良県地域教育力サミット」 
   その1つの考え方として、「奈良県地域教育力サミット」があります。知事に言わせると、サミットは行政と教育の橋渡しの役をするものであり、「第1回奈良県地域教育力サミットは活発な議論がなされ、なかなかよかった。」という感想を持たれました。
   奈良県教育の課題である「規範意識・社会性」「体力」「基本的生活習慣」を早期に解決するためには、学校教育だけでなく、家庭や地域にも考えていただかないと、教育委員会だけの発想だけでは問題解決につながらないと考えました。学校教育にも小・中・高等学校、私学もあれば、公立もあります。公立の中には、国立もあり、また大学もあります。そこで、家庭代表、企業の代表、市町村の行政の方にもメンバーになっていただくことにしました。行政のメンバーは、市町村会にお願いをし、御所市長さんと田原本町長さんに委員になっていただきました。サミットの委員は、議長の荒井知事、御所市長の東川さんと田原本町長の寺田さん、奈良工業会会長の近東さん、県私立中学高等学校連合会会長の藤井さん、奈良教育大学学長の長友さん、畿央大学学長の冬木さん、県PTA協議会会長の出口さん、県小学校長会会長の恒岡さん、県中学校長会会長の伊勢さん、県高等学校長協会会長の辻さん、県都市教育長協議会会長の早川さん、県町村教育長会会長の山野さんです。冬木さんの御都合で、教育学部現代教育学科長安井さんに出席してもらいました。第1回サミットで、発言しなかった方は誰もいません。来ていただいた委員の皆様方からも、「サミットを継続していきましょう。」と言っていただいています。
   なお、サミットは決定する場ではなく、議論をする場です。サミットは年2回の開催を予定していますが、その間には委員の方にアンケート調査を行い、つないでいく予定です。現在1回目のアンケートが終わったところです。議論の中から、できれば「奈良モデル」のようなものができあがってきたらいいなと思っています。「『奈良では』の教育のスタイル」です。週刊誌等で「京大・東大進学率が1位」と取り上げられていますが、奈良県は公立・私立のバランスがよいと言われています。新年度からサミットを軸に動いていくかと思います。2、3年後にこういう「奈良モデル」が出てくればよいと考えています。


3 奈良県教育の現状と課題及び対応施策

 1 奈良県教育の現状と課題
   全国調査等の結果から、奈良県の子どもたちは、「学力は相対的に高いが、学習意欲、規範意識、体力が低い。」ことが明らかになっています。
   奈良県の現状についてデータで詳しく紹介します。
   核家族率が1位。県外就業率が1位。女性の就業率が47位と低く、専業主婦率が1位。貯蓄現在高は2位。空気清浄機普及率1位、インターネットの普及率は1位。新聞発行部数も1位。これらは、国の統計値です。また、全国的に地域の教育力が以前に比べて低下していると感じている大人が半分以上います。
  家族と夕食を食べる割合が、小学校・中学校ともに46位。父親の帰宅時間が遅く全国1位で20時7分。夜11時までに寝る割合は小学校46位、中学校47位。テレビゲームをしている割合は小学校11位、中学校5位。先生が全国テストを活用した割合は小学校45位、中学校43位。予習・復習する割合は小学校43位、中学校42位。塾へ通う割合は小学校3位、中学校2位。授業以外での勉強時間は小学校・中学校とも1位。教員は耳が痛いと思います。
   規範意識の方では、学校のきまりを守っている子どもの割合が低いです。体力テストの合計点は、小学校男子45位、小学校女子45位。中学校男子43位、中学校女子42位。朝食を食べる子どもの割合も全国に比べて低く、あいさつをしている子どもの割合は小学校45位、中学校36位。
   また、課題を分析する中で、家庭でのコミュニケーション不足や地域とのつながりの希薄化が浮上してきました。地域の教育力の向上や絆を深めるためには、学校だけでなく家庭や地域と連携し、地域コミュニティーの課題として取り組むことが重要であると思います。
 

 2 具体の施策
   (1) 3つのフェスタの開催
 
   平成23年度は「奈良県教育週間」に合わせて開催していた「教育フォーラム」に替えて、課題解決に向けた具体策として3つのフェスタを開催いたしました。「教育フォーラム」では、奈良県の教育課題等を提示したり、パネルディスカッションを行ったりしてきましたが、会場規模の制約から1,300人程度の参加が限界であり、もっと多くの方に参加していただきたいという思いからフェスタに替えました。10月に教育研究所で「わくわくまなびフェスタ」を、うだアニマルパークで「ふれあいフェスタ」を開催しました。12月には、橿原公苑体育館で「チャレンジ運動フェスタ」を開催しました。合わせて5,000人の方がフェスタに参加してくださいました。
   「わくわくまなびフェスタ」は、奈良県の力のある先生が、楽しい授業や粘土細工や理科工作、親子体操などを実施したり、企業の方もブースを作って新しい機種などを紹介していただいたりして、1,700人の参加がありました。「ふれあいフェスタ」では、動物のぬくもりや命の尊さを実感することを通して、自他を傷つける行為を抑制したり、規範意識の向上を図ったりすることを目的に開催し、2,300人の参加がありました。内容については我々のスタッフがいろいろ考えて、また高校生も手伝ってくれました。動物の心音を聴く体験などもあって、子どもたちが喜んでくれている姿を見ることができてよかったと思います。
   「チャレンジ運動フェスタ」では、これまで県のホームページを通して8の字とびやボール投げ等の記録に挑戦する機会を提供してきましたが、やはり実際に向き合って競争したいという話が出てきましたので開催することになりました。なわとびはびっくりするほどうまかったです。高学年のなわの回し方が非常にうまいです。ペアなわとびなどのカウントは学校体育に関わる先生方に協力してもらいました。体力が低いという課題を訴えながら、1,000人の方に参加いただき、大いに盛り上がりました。
  

  (2) 体力向上に向けた取組
    各学校で課題を改善する取組を進めるために、「体力向上推進連絡会」を設置しました。県内には、保健体育学会、高等学校体育連盟、中学校体育連盟、中学校体育研究会、小学校体育研究会の5つの団体がありますが、これまで横のつながりがなかったため1本化してほしいということで、「体力向上推進連絡会」が平成22年度に立ちあがりました。連絡会の事務局を添上高校に置いています。体力テスト測定の支援をしてもらったり、連絡会を受け皿にして様々な事業を実施していただいたりしています。
  

  (3) 生徒指導支援室の設置
    平成23年度から、組織の強化を図るため生徒指導支援室を新設しました。規範意識の向上、暴力行為の減少、不登校対策の充実を図るため、生徒指導担当の指導主事・巡回アドバイザー、教員OB・警察官OBからなる学校支援アドバイザーによる学校への支援を行うなど、生徒指導上の諸課題の改善に取り組んでもらっています。また、平成22年度には「生徒会連絡会」が結成されました。新聞にも掲載されましたが、震災後のボランティアとして2回に分けて、宮城県へ80人が参加してくれました。
  

  (4) 「おはよう・おやすみ・おてつだい」約束運動
    小さい頃から約束を守ることが規範意識の向上につながるという思いから、3~5歳の幼児と保護者を対象に、平成21年度から「おはよう・おやすみ・おてつだい」約束運動を実施しています。「3つの約束カレンダー」に、「おはようを言えた」「おやすみを言えた」「おてつだいができた」時にシールを貼っていく取組ですが、今年度は20,542人の子どもがカレンダーを提出してくれました。今年度で3回目ですが、面白いことに、実施前の6月と実施後の9月にアンケートを実施しますと、大体3,000人弱の子どもがお手伝いをするようになるようです。フォローのアンケートでは、大半が「お手伝いの習慣がついた」という報告があります。約束を守れたという達成感があるようです。また小さな賞状を私の名前で、担任から渡してもらっています。(一部は表彰しています。)
  

  (5) 夏休み!ノーテレビ・ノーゲームデーチャレンジ大作戦
    平成23年度から、基本的な生活習慣の定着や家庭での会話の促進を目指して、小学3年生とその保護者を対象に「夏休み!ノーテレビ・ノーゲームデーチャレンジ大作戦」を実施しました。「週に2回テレビを見ない日、ゲームをしない日を作りましょう」ということで、取組には県内98.6%の小学校が自主的に参加してくれました。このような取組が必要だと思っている校長先生も多く、ほとんどの学校が実施してくれました。アンケートの結果から、85%の児童が週1回以上取り組み、50%の児童が週2回取り組んでくれました。また、学校の先生方へのアンケートの結果、「生活習慣が身に付いている」というコメントが目に付くほどたくさんありました。事業としては大成功で、来年度も実施していきたいと思います。
  

  (6) 見直そう!家庭と学校協働プロジェクト
   平成22年度から、県内小学校の5校をモデル校として実施しています。家庭・地域と学校が協働して、ノーテレビデーや家族で一緒に読書をする「家読(うちどく)」、地域ぐるみのあいさつ運動、地域行事への参加の呼びかけなどの取組を進め、子どもたちの基本的な生活習慣や学習意欲、体力、規範意識・社会性等の向上を図ります。実は「夏休み!ノーテレビ・ノーゲームデーチャレンジ大作戦」は、この事業が出発点です。中間の取組状況のデータを見て、小学3年生全部でやってみようという話になりました。校長先生の発想で、ぞうきんがけ選手権を実施している学校もあるのが面白い取組です。5校を選んで誘導しています。学校と家庭がどうしたらコラボ(協働)できるか、メニューを提示したり、また学校でやりたいことも加えたりしながら実施していただきました。
 

4 人材育成と学校経営
   家庭や地域だけに任せておくだけではもちろんいけません。基本的には学校の先生が頑張ってもらわないといけません。家庭や地域とコラボできたとしても最後はやはり、学校の先生が頑張らないといけません。学校教育のウエイトもかなり大きい。学校教育が手を抜いていたのではいけない。家庭や地域に任せておこう、このような考え方ではいけない。先生がリーディングしていかないとこのような取組は成功しないと思います。
   今もって先生の一言は生徒にインパクトを与えるだけの力があります。昔ほど先生の権威はなく、薄らいできていますが、しかし、学校の先生の一言が子どもの一生を左右したりするほどのインパクトを持っているというのも事実です。ですから、学校の先生には頑張ってもらいたいという思いを私は持っています。そこで、奈良県では、人材育成だけでなく、学校経営といった、経営的発想を取り入れていかなければならないということで始めています。
 

 1 人材育成 
  (1) 奈良県の教員構成
   人材育成に関わってですが、現在の小・中・高等学校の教員の年齢構成は、50歳代が全ての教員の半数を占めています。10年後には、半分の先生が退職していきます。半数が入れ替わるわけですが、過去に、人口急増期にあわせて先生を大量に採用していった経緯があります。同じ失敗を繰り返したくないので、現在は数十年後にできるだけ年齢層に偏りが生じないように、採用しています。また最近では、女性の教員に多いのですが、早期退職をされる方がいます。先生方の気ままで退職されているのではなく、50歳代になって、父母などの介護をしなければならないことがその理由に挙げられ、55歳頃になって早期退職をされる方が多くおられます。
   一方、30歳代後半から40歳代前半の教員が非常に少ないのが現状で、新採用の教員にとって、自分の年齢に近い先生が少なく相談しづらいということがあり、新採用の教員のOJTが上手くいかないケースがよくあります。
  

  (2) 「奈良県ディア・ティーチャー・プログラム」(リクルーター制の導入) 
   そこで、奈良県内の学校の教員を志す大学生、大学院生を対象に、班別の演習や学校現場実習を通して、実践的指導力を養成する「ディア・ティーチャー・プログラム」を平成20年度より実施しています。
  また、私の発案で民間の手法(リクルーター方式)を全国で初めて導入しました。リクルーター(採用後2~5年の若手教員)が、直接受講生を支援し、ベテランの指導主事がリクルーターをサポートしています。リクルーターは、初任者研修から10年研修までの間に研修制度がないため、OJTの不足分を補っています。
 

 2 学校経営
   平成20年度に私が教育長に就任して以来、学校経営についてテーマを設けて、直接の守備領域である県立学校の校長とのフリーディスカッションを行っています。今年度は「ミドルリーダーの育成」をテーマにフリーディスカッションを行いました。生徒指導部長、教務部長、進路指導部長という分掌には、年齢が比較的高く、能力があり、次期管理職を期待している方々が就いています。こういった分掌を外されると管理職への道が無くなってしまったのかと思ってしまうようで、校長先生方は、このポストにミドルの先生を抜擢(ばってき)するのは困難とのことでした。そこで教育長名で文書を出しました。「このポストは40代、30代でもかまわないので就けてください。『総括』という名前で、ミドル層の教員を支援する。この『総括』というポストに就いている教員も管理職に登用します。」という内容の文書を発出しました。やっとこの取組も動きだしたところです。フリーディスカッションの中で、共通認識ができて、「文書を出してくれればやります。」とのコンセンサスができましたので、取り組み始めたわけです。
   このような校長とのフリーディスカッションですが、私が最も大切であると考えているのは、リスクマネジメントであると考えています。校長とのフリーディスカッションの最初のテーマがリスクマネジメントで、学校経営ビジョンや経営目標などを立てさせるなど、経営理論を取り入れてきました。
   釈迦に説法になるかと思いますが、「共通目的を持つ」、「コラボレーションの意欲を持つ」、「コミュニケーションを図る」、この3つで組織ができあがるというのが経営学者のバーナードの理論です。共通目的を持つためには、ベクトルあわせが必要である。ということで、校長とのフリーディスカッションを始めました。また、学校経営については、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を読んで、感想を書いて、ある資料に載せたのですが、教育長が読んでいるのであれば、読んでみようという校長が多く、ドラッカーのエッセンシャル版も読んでくれる校長もいました。学校の先生は、経営的な発想が最も苦手なようですが、最近では、私の意図するところを分かろうとしてくれているのが現状で、こちらを向いてくれているようです。
   現在、人事の時期ですが、エッセンシャル版の147ページには、「人事に関わる意思決定こそ最大の管理手段。組織の中の人間に対してマネジメントが本当に欲し、重視し、報いようとしているものが何であるかを知らせる機能がある。」とこのように書かれています。私は、基本的に校長人事をするわけですが、今年の人事のテーマをつけようと思いました。校長にはテーマを考えよと言っていながら自分が率先垂範しなければならないので、今回の人事のテーマは「若返り」としました。少々無理をしても「若返り」をテーマに実施したいと考えています。
   人事の話をする時は、教職員課長も入れて校長と意見交換しますが、経営テーマでは恥をかくことも人間を成長させる一助となるものですから、お互いに成長するために、1時間程度で、しかも経営学的には7~8人のグループに分けてするのがベターであるといわれていますので、その程度のグループに分けて、テーマを与えフリーディスカッションをさせます。発言しないものには発言を促します。このような形態で議論させます。この手法が校長の成長に繋がっているのではないかと感じています。「経営方針を必ずもて」また「スローガンを出せ」とも言っています。私は、事務局のスローガンを定めています。スローガンは、「『愛を基盤として、知力・体力・忍耐力を身に付けて、正々堂々と生きる子どもを育てる』ために・・・」です。県教委や組織の人間がベクトルをあわせるためには、スローガンが早道と考えています。このようなことを県立学校がやり始めますと、市町村教委や小・中学校でもやってくれるかなと期待しているところです。
  

   ご静聴ありがとうございました。