優秀賞 2

 曽祖父の死から

 

香芝市立香芝北中学校 3年 山本 咲花

 

 去年の八月十六日、頭の白いおじいちゃんが亡くなった。両親の結婚が早かったので、私には、祖父母は四人共健在。その上の曽祖母も、まだ健在。頭の白いおじいちゃんとは、母の父方の曽祖父だ。祖父母と曽祖父母が、たくさんいるので、白髪の曽祖父を小さい頃からそう呼んでいた。
 曽祖父は、大変な時代に妻と息子四人と、障害のある自分の妹そして母親を支える大黒柱だった。定年退職後も経理事務として七十二才まで働いた。会いに行くと、いつも私達の好きなものを用意し、食べさせてくれて持ち帰らせてくれた。大きな声で喋り笑う人だった。頑固でプライドの高い人でもあった。
 そんな曽祖父の体調不良を聞いたのは二月頃。買い物が大好きで、地下鉄に乗って買い物に行っていたのに行かなくなり、おいしい物が大好きで大食いだったのに、食べなくなった。季節的に風邪かと思っていたが、少しずつ痩せて行き、居間で横になる事が多くなった。嫌がる曽祖父を説得し、病院へ行くと、検査の結果「癌」だと分かった。六月の終わり頃だった。余命宣告をされて落ち込む私達。曽祖父は結果を知りたがったが、恐がりな性格を考慮して、告知しない事になった。放射線治療では間に合わない事、抗癌剤治療は、効果が期待出来にくい事、本人が「何があっても全て受け入れるつもり。延命はしない。」と言っていた事から、積極的に治療はしない事になった。それからが大変だった。家から点滴などに通院する日々。誰か付きそうにも、軽い認知症の曽祖母を家に一人にはできない。頭の良い曽祖父は葬儀場へ行き、自分の葬式の段取りを組んだ。そんな生活が続き、次第に何も食べられなくなった。大好きなメロンや桃も食べず、祖父の畑で採れたトマトだけは、新鮮でおいしいと少しだけ食べた。太っていた体は、みるみる細くなり、体はシワシワ。通院する本人も付きそう家族も限界を感じ出した頃に吐血し入院となった。積極的に治療しないと決めている私達に、「病院は病気を治す所なので。」と言われ困った。何も口にしないので脱水予防の点滴をするという事で入院できた。曽祖父が、いつも居間で座っていた椅子がポツンと残され、家に残された曽祖母の認知症も進んだ。
 入院中、点滴を持ちながらトイレへ行くと間に合わず失敗するという理由からオムツにされた。頭の良い曽祖父は死を予感しており、死の恐怖とも戦っているのが会話の中で見られた。そんな曽祖父だから、オムツはプライドを傷つけられただろう。家に残した曽祖母を心配し、毎日見舞う家族に気を使い、「家に帰りたい。帰りたい。」と願い続けた。私達も家へ連れて帰ってあげたかったが、吐血したときの曽祖母の驚きやショック、本人的に通院が難しい事から、はぐらかし続けた。そして家に帰れる事なく亡くなった。葬式屋さんにお願いして、病院から葬式場へ行く前に家に寄ってもらった。「ただいま」と言わない曽祖父に、「おかえり。全部分かってたから、余計に辛かったね。」と言った。
 今、少子高齢社会で、介護の事がニュースになる事が多い。今まで他人事だったが、他人事ではすまされない現実を知った。家に往診に来てくれる医師がいれば入院せずに、曽祖父は生まれ育った家で曽祖母や家族と一緒にいれただろう。入院しなければ、介護と看護が協力できれば、頭はしっかりしている曽祖父がオムツで我慢しなくても良かったんじゃないか。けれど家にいる認知症の曽祖母の介護と、曽祖父の看病の両立は難しく、家族が疲れてきているのも現実だった。でも、やっぱり死ぬ間際まで、「家に帰りたい。」と願い続けた曽祖父の顔と声が心から離れない。在宅での、介護と看病が、もっと充実し協力できれば良いのにと、心から思う。少しずつ体が言う事をきかなくなったり、周りの人が亡くなったりと、お年寄りは淋しい事が多い気がする。家での介護や看護に限界を感じ、病院や施設に入れざるを得ない現実も悲しい。
 私は、曽祖父の死から次の三つの事を大事にして、介護の仕事につきたいと思っている。一つ目は、少しずつ体の自由がきかなくなった方や、曽祖母の様に連れ合いを亡くし淋しく切ない気持ちの方に、少しでも楽しみを持ってもらえるような介護。二つ目に、色んな事情で家での介護に限界を感じている家族の方の負担を少しでも減らせる様な介護。最後に、曽祖父のように入院しても家に帰りたいと願う人や、病院や施設に大切な人を托す家族の方に安心してもらえる様な介護。私は、介護する側もされる側も元気で明るく楽しく介護を目指し、いろんなことを見て聞いて考えて頑張ろうと思う。まずは、残っている曽祖父母、祖父母を笑顔いっぱいにしていこうと思う。

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