優良賞 2

 home town

 

智辯学園中学校 2年 大野 新

 

「おい、田舎者。」
「えっ。」
 僕は少し考えて、
「山奥に住んでいるけど、田舎者じゃないよ。」
と答えた。
「山奥も田舎も一緒や。田舎者。」
と、友達は笑いながら言った。奈良市内の塾に通っていた時の出来事だ。
 僕は、奈良県南部十津川村の出身だ。確かに奈良市内まで行くのに車で約三時間かかる。もちろん十津川村に電車なんか走っていない。買い物に行くのにも結構時間がかかり、不便さを感じる。田舎者と言われても、仕方がないと思っていた。
 僕は中学を機に、十津川村を離れた。電車も走っていて、ちょっと歩けば、スーパーもコンビニもある。街暮らしは快適だと思った。
 街の生活にも慣れ、しばらく経ったある日のことだ。同級生から、
「大野君の発音って、みんなと違うね。」
と言われた。そういえば、国語の音読の時イントネーションの違いにとまどうことがある。
 十津川には十津川弁があり、標準語に近い発音だ。興味深い単語もいくつかある。輪ゴムのことを『ギュッタ』という。普段の挨拶では『だんだんおおきによ』という。変は『ひょんげ』だし、語尾に『のら』をつける。相づちも『じゃぁのら』という具合だ。ただし、最近の若い人はあまり使わないが、僕は十津川弁が好きだ。
 街中で、ふと十津川弁が聞こえてきたら、誰が話しているのかと、あたりを見回してしまう。『ふるさとの訛なつかし 停車場の人ごみの中に そを聴きにゆく』という石川啄木の詩がある。まさにこのことだ。どこか懐かしくて温かい、心癒される言葉だ。
 十津川に帰省すると、祖父が、
「よう帰って来たのら。寒いさか、風邪引くなよ。」
とか、祖母が、
「あっちゃん、大きなったのう。声変わりしたんか、嬉しいよ。」
とか、十津川弁で話しかけてくれる。父とも毎日電話で話すが、やはり十津川弁なので安心する。進学や就職で引越しが多かった母は、
「私は、和歌山弁と、奈良弁と、十津川弁が混じっとって、もう分からへんわ。」
と言っている。僕もこうなってしまうのだろうか。あの時友達に、
「おい、田舎者。」
と言われた事は、たしかにショックだった。しかし、この体験から、僕が持っているのとは違う十津川のイメージを知ることになり、それがまた普段何気ない十津川での生活についてあらためて考えるきっかけにもなったと思う。今は、いつかあの友達を十津川に誘って、十津川の良さを教えてあげたいと思っている。
 十津川は、山も川も美しく、空気もきれいだ。温泉があり、心も体もリラックスできる。春は、山菜採り。タラの芽の天ぷらに、ウドの酢味噌あえで食がすすむ。夏は鮎釣り。鮎が掛かった時のググッとした瞬間がたまらない。川原で塩焼きにして食べたら、とても美味い。秋はマツタケ。マツタケ飯に、焼きマツタケ。最高のぜいたくだ。冬には、なれ寿司を食べる。さんま寿司を発酵させたものだ。これは、ちょっと大人向けの味かもしれないが、正月って感じがする。
 十津川の人は、真面目で世話好きな人が多い。特に高齢者や、子供を大切にしてくれる。こんな十津川村で生まれ育った僕は幸せ者だと思う。今度は、僕がその「ふるさと」の素晴らしさを受け継いで、また、僕より小さいな子供達に伝える番だ。そうして、いつまでも、十津川の良さを守り続けることが僕を育ててくれた十津川への恩返しのような気がする。
 『田舎者でもいいじゃないか』そう思える強い自分が、今、ここにある。僕を育ててくれた両親、そして十津川村に感謝。
「おおきによ。」

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