優良賞4

 「翼」

                              奈良学園登美ヶ丘中学校 3年 岸本 采子

 「ありがとうございました。」
 朝、私がバスの運転手さんに笑顔でお礼を言うと、運転手さんも笑顔で「ありがとうございました。」と返してくれます。少し歩いて正門が近づいてきたら、警備員さんに「おはようございます。」と挨拶をして、正門をくぐります。そして、私はすがすがしく学校に行くことができます。今ではこの一連の流れが私の大切な朝の習慣です。この習慣を与えてくれたのは、本当に些細なきっかけでした。
私はバスで通学しています。1年生の初め、やっとバス通学にも慣れたころに、先輩方が運転手さんに笑顔で「ありがとうございました。」と言っているところが目に入りました。運転手さんもにこやかに「ありがとうございました。」と言っていました。何度かその行動を見かけるうちに、お礼を言ったわけではない私まで心地よくなっていきました。しかし当時消極的だった私は、そんな先輩を尊敬する反面、自分にそんなことはできないと思っていました。
ある日、予想もしていなかったことが起こりました。初めに「挨拶」をした先輩に続いて、後ろに並んでいた人たちが途切れる間もなく、次々と「挨拶」していくのです。私はなんだか、この流れを途切れさせてはいけないという責任感を感じました。言おうか言わないか迷っていると、その間に徐々に列が短くなってきます。ついに私の番です。私は思い切って「ありがとうございました。」と言ってみました。朝一の声ということもあり、あまり歯切れのあるいい声とは言えませんでした。しかし運転手さんは私に対して確かに「ありがとうございました。」と言ってくれました。なんとも言えない不思議な感じがしました。バスを降りた時、先輩と運転手さんの「挨拶」を見ていた時の何倍も心地よくなりました。朝から気持ちが軽くなり、自然と笑みがこぼれてきます。そしてその日から私は習慣的に運転手さんに「ありがとうございました。」と言うようになりました。
今では朝の「挨拶」以外にも、警備員さんやすれ違った人など、私は色々な人に声をかけるようになりました。先輩方の「挨拶」を見たことをきっかけに、私は消極的だった現状から飛び立ち、人と積極的に接することができるようになったのです。
この経験から、私は日常にあるきっかけを自分からつかむ大切さを知りました。
先輩方の挨拶がきっかけで私が朝の大切な習慣を始めたように、何か物事を始めるときにもやめるときにも、必ずきっかけがあると思います。そしてそれは、思わぬ形で私たちの前に現れ、私たちの人生にまで影響してきます。それ以前は気づけなかったであろう大切なことを学ばされることもあります。つまり、きっかけが自分をもう一段階成長させてくれるのです。
だから私たちは、積極的にいろいろな人や様々なことに関わり、きっかけを見つけ、つかむ努力をすることが必要だと思います。自分にはそんなことはできないと思っている人もいるかもしれません。確かに私も中学1年生の初めの頃は、環境の変化に戸惑っていました。でも先輩方の行動を見て、それを意識することで積極的になることができました。その結果私は様々な機会を通して、今までは体験できなかったようなことも、体験できるようになりました。
たとえうまくいかなかったとしても、それは自分にとっていい経験になると思います。その経験から学ぶことや反省を生かして、次につなげられることもあるでしょう。うまくいかなかったことがきっかけとなり、成長することができるのです。
これからも私は積極的にきっかけをつかみ、決してあきらめず色々なことに挑戦していきたいです。
きっかけ。
それは私が飛翔するための「翼」です。