座談会:「職場」は「母」以外のもうひとつの“フィールド”

奈良県の専業主婦率は全国1位です。

周りを見回すと「自分も母親も専業主婦」という人は少なくないはず。

 

でも、そんな奈良県も少しずつ変わってきています。

子育て中に、正社員として再就職したり、また、パートから正社員を経て管理職になる女性も増えています。

 

そんな彼女たちは、どんな企業で、また、どんな想いで働いているのでしょうか。県内で働く4 人の女性にそれぞれの“フィールド”のことを聞いてみました。

 

 

 

座談会メンバー紹介

 

社会福祉法人 功有会
野上真依(のがみまい)さん 「全くの素人だったのに職場の人の支えで、国家資格も取れた。」

 

野上真依さん

●入職12年目

●職歴等:

20代 飲食店でアルバイトしながら音楽活動

21歳 「人の役に立ちたい」と思いたち功有会入職。パート職員としてデイサービス担当

24歳 結婚

25歳 介護福祉士資格取得、26歳の時正規職員に

27歳 ケアマネジャー取得

28歳 出産後育休1年取得

現在は入居者の生活相談員 ケアマネジャーとして勤務

子ども:1人(5歳)

趣味:三線の弾き語り

 

 

住友生命保険相互会社 奈良支社
前田佐知子(まえださちこ)さん 「子どもを預けて働くことは、子どもにとってもいいことだった。」

前田佐知子さん

●入社15年目

職歴等:

20代 企業に就職(事務職)。その後結婚し専業主婦に

29歳 長女3歳の時、住友生命奈良支社入社(一般職)

41歳 キャリアアップ制度で大阪本社に2年間勤務

43歳 業務職へ職種変更

現在は営業職員管理等を担うグループ主任

子ども:1人(18歳)

趣味:ピラティス、マラソン

 

 

市民生活協同組合 ならコープ
仁禮雅子(にれいまさこ)さん 「職場は、“情熱をもらえる場”でも“吐き出す場”でもある。」

仁禮雅子さん

入職21年目

職歴等:

20代 栄養士として企業で働く。結婚・出産を機に専業主婦に

39歳 「トラックを運転してみたい」とならコープにパート入職

47歳 パート8年経験後、正規職員に

54歳 管理職(共済部 部長)に

現在は執行役員として制度を作る側に

子ども:2人(成人)

趣味:スポーツクラブで汗を流すこと

 

 

株式会社 リビングイワイ
北添頼里子(きたぞえよりこ)さん 「『母の私』と『職場の私』。いろんな自分が好き。」

北添頼里子さん

入社8年目

職歴等

20代 アパレルショップ勤務。結婚後専業主婦に 

26歳 子どもが1歳の時離婚し就職活動と職業訓練開始

リビングイワイ入社

時間休制度などを会社に提案

30代 現在はショールームの受付業務と販売促進のリーダー

子ども:1人(10歳)

趣味:音楽ライブに行くこと、パン作り

 

 

 

 

みなさんの「専業主婦時代」を教えてください

 

仁禮:専業主婦も楽しかったですよ。ただ、ニュースで世の中の状況はわかっても、自分は社会とつながっていないという思いがありました。
仕事のいいところの一つは、例えば家庭で悩みがあっても、仕事中はそれを断ち切れて気にしないで済む。その逆もあるでしょう。両方あるほうが、バランスが取れるんじゃないかな。

専業主婦の時はそのことしか考えないので、悩みがあるとずーっと考えて落ち込んでいましたね。夫は私が働くことにそれほど理解はなかったのですが、ある時「仕事をしてから明るくなった」と言ってくれました。今から思えば暗かったのかも。

 

北添:家族のために家事をするのってうれしいんですけど、頻繁に「ありがとう」って感謝されることもなく、達成感はあまり感じることができなかったです。働いている友人が私より充実しているように思えてキラキラして見えました。

 

前田:私の母が専業主婦で、自分も結婚したら仕事はやめるものと思っていました。子育ても充実していましたが、当時は、「家庭のことは自分がきちんとやらなければ」と思っていたので、家事や子育てに手が抜けないというプレッシャーはありました。

 

野上:私は産休・育休期間のときだけが「専業主婦」でしたが、毎日赤ちゃんをかかえて、やらなければいけないことはいっぱいある。そして、家の中にずっと赤ちゃんと2人だけでいて、一日が終わるという繰り返し。

職場や周囲は、今子育てに忙しいからと気を遣ってくれて、何のお誘いもないし…。誰かとしゃべりたい! と毎日感じていました。

 

仁禮あぁそれ、育休中のスタッフから同じことを聞きました。「忙しいけど暇やねん」って。何か寂しいんですよね。

 

野上そうなんです(笑)!

 

 

 

働き始めるのに不安はなかったですか?

 

野上私は福祉の仕事が未経験で不安でしたが、先輩方が親切に教えてくれました。

今は「介護職員初任者研修」があり、私の職場ではヘルパーの資格取得のサポートも受けられますし、未経験の人も大丈夫ですよ。

 

北添:私は離職して5年間のブランクがあったので、職業訓練校でパソコンを学びました。

また、保育所が決まらないと企業に採用されないことがありますが、今は保育施設と契約している企業も多いですよ。うちもそうです。

 

 

 

子育てしながらの仕事、大変ではないですか?

 

北添:入社した当初はやはり、子どもが急病になったらだれに預けたらいいのかと心配していました。それがいざ病気になったら、上司が子どもの病気の時くらいは休めと言ってくれました。

また、参観日に数時間だけ休みたいと社長にお願いしたら「時間休」制度ができました。最近は私だけでなく、男性社員も子どもの病気や参観日で休むようになりました。

 

野上:病児保育をやっている保育園が近所にありますが、私の場合もほとんど休ませてもらっています。

福祉関係は、システム的に仕事を共有できているので気兼ねなく休めます。それに、職員の約7割が女性だし、福祉施設という職場なので、子育てや介護などの休みには理解があります。もちろん男性も休んでます。

 

仁禮:組織全体がそういう雰囲気だといいですね。

 

前田:私の場合は、ひと昔前なので子どもの病気で休むのはとても気が引けました。サポートしてくれる親が旅行でいない時に限って、子どもって病気になるんですよね。そんな時にでも、職場の上司やメンバーの理解があったからこそ、続けてこられたと思います。

家庭と職場それぞれに感謝する気持ちや、お互い助けあう気持ちを持つことも必要ですよね。

 

仁禮:そうそう、翌朝には「助かりました」って言うとか、周囲への配慮も大切ですね。

 

 

座談会の様子

 

 

家事はどうしていますか?

 
野上:子どもができて、我が家は家事のハードルを思いっきり下げました(笑)。掃除や洗濯は毎日しなくてもOK、朝使った食器は水に浸ければ出発してOKです。

 

北添:私もそっち派(笑)。平日は、汁物を大量につくって冷蔵庫に入れているので、あとおかずを1品追加だけとか。

そのかわり、休日は子どもとパン作りを楽しんだりしています。

 
前田:私は、抱えこむとしんどくなるので、サービスや人の力を積極的に借りることにしています。

例えば料理だと、自分で献立を考えて買い物もして、ではなくコープさんの調理材料のセットを、通勤電車の中でスマホで注文したりしています。

 
野上:私は、プリンターのインクとかちょっとした買い物に行く暇がないので、ネット注文をよく使います。翌日配送は助かりますね。

 

北添:ネットは確かに便利。私もお米や日用品で利用しています。

 

野上:食洗器や乾燥機も使う(笑)。どうしたら自分の負担が減らせるか考えてます。

家事代行にも興味があるんです。

 
前田:部屋が乱れていると、ちょっと後ろめたさが。サービスを活用して自分が気持ちよく仕事できるなら必要ですね。

 
仁禮:コープにも家事支援のサービスがありますが、利用することで親がイライラせずにすんで、親子の時間が増えるのがいいですね。

 

   

 

みなさんキャリアアップもされていますが、不安はなかったですか?

 
前田:私は入社当時はキャリアアップなんて考えていなかったのですが、経験を積んで次第に成長したいと思うようになりました。

会社の「キャリアアップ支援制度」で2年間他部署業務を経験しましたが、「この人のようになりたい」と思える先輩ロールモデルにも出会え、自分のなりたい姿が具体的に見えました。

 

仁禮:私はパートで入社後、トラックでの配送や、商品のお知らせ活動を経験し正規職員に登用されました。男性職員がほとんどの中での管理職、しかもパートからのスタートだったので、わからないことが多すぎて、結構大変な思いもしました。

今はその経験を生かし、女性職員の声を制度に反映していっています。

 
野上:妊娠中にケアマネジャーの試験に挑戦し、合格しました。初めての出産を前に不安な中、仕事をしながらの試験勉強や、合格後の研修と大変でしたが、周りにも相談に乗ってもらえ、支えてもらえました。

また、奨学金制度もあり、研修にかかる費用はすべて職場が負担してくれます。

 

 

 

みなさんにとって「職場」とはなんでしょう

 
仁禮:今は職場がほとんど“生活の場”のようになっていて(笑)、もう同化してしまっている。でもそれが全然いやじゃないんですね。

仕事は努力や覚悟が必要で簡単なものではありません。ストレスもあるし、落ち込むこともある。それでも「働いてよかった」と思います。

「職場」は“勉強して成長する場”でもあるし、“情熱をもらえる場”でも“吐き出す場”でもある。私の体の一部のようなものでしょうか。

 
野上:娘が2、3歳のいやいや期の頃は結構大変で、保育園に娘を送って職場の席につくと、ホッとして「やっと仕事の時間や」っていう感じでした(笑)。だから職場は“自分の実力を出せる場”と“リフレッシュできる場”でもありますね。

それと、職場の人とのつながりの中で、情報をたくさんもらえる。それは子育てもふくめて、自分が生きていくうえで「武器」になるって思います。

 
前田:私は人に助けてもらうのが苦手でしたが、働くといろんな人に助けてもらわざるを得なくなりました。今から思うと、私にとってそれがよかった。

保育士さんから、家では見せない子どもの様子を聞いたり、相談したりするうちに、信頼関係ができる。そんな人がいることは子どもにとってもいいことでした。

仕事は決してラクではないんですけど、人に支えられ、力をいただきながらやってきました。仕事っていろいろなことに気づけるから、職場は“自分を成長させる場”ですね。

 

北添:うちの職場は、子どもを連れて来てもいいという社風で、学校帰りの子どもが宿題をして私の仕事が終わるのを待っていることも。

それに資格取得や副業まで勧めてくれたりと、私にとって職場は“応援してくれる場”です。

働くのを躊躇している人は、自分が家族のことをすべて引き受けなければいけないと思いすぎてるのかも。私もそうでした。一回自分のことを一番に考えてみてもいいのでは。「家庭」と「職場」両方あるのっていい。両方あることで家族に与えるものもより多くなっていく気がします。

家で「ママ」って呼ばれる私も、職場で名前を呼ばれる私も、どっちも好き。いろんな自分がいて、私は楽しいです。

 
仁禮・前田・野上:「同感!(笑)」。

 

 

 

みなさん、ありがとうございました!