自然と共に生きる「ありのまんま」のパンづくりをしたい
基本情報
- 事業所名: bakery+arinomamma
- 創業:2017年
- 業種:飲食業
- 住所:奈良市菅原東1−22−13 メゾンピュアⅡ 102号
- TEL: 0742-77-8893
- URL:https://arinomamma.com/
農薬や化学肥料を使わない食材でつくるパン
私たちは夫婦でパン屋を営み、食べる人、パン職人、農家さん、農作物を育てる人、土のなかの虫や菌、自然環境までを含めた「みんながハッピーなパン屋さん」を目指しています。すべてのパンに無農薬・無化学肥料で育てた国産小麦と自家製天然酵母を使い、デトックス効果や整腸効果を期待できる「麻炭」を練りこんで焼き上げます。
食材にこだわるのは、妊娠したときに「自分が食べたものでお腹のなかの赤ちゃんが育つ」という経験を通して「人間の体は食べものでできている」と実感したことがきっかけでした。農薬や化学肥料は農地と周辺環境の負担になりますし、小麦の残留農薬はパン職人の手が荒れる原因とも言われています。夫とはいつも「お客さんの大事なお金をいただくのに、後ろめたい気持ちになるものは提供したくないよね」と話しています 。「自分たちで食材を選び、自分たちでつくりたいものをつくって届ける」ということが、起業して経営をする大きな意義のひとつだと思うからです。
夫の夢を応援するために創業スクールへ
パン屋は、小さい頃からきれいなものとおいしいものが好きだった夫の夢でした。私たちは結婚するときに「お互いがやりたいことを応援しあう」と約束をしていたので、私は夫の夢の実現を経営面で支えることにしました。でも、私は元体育教師ですので、経営のこともパン屋のこともわかりません。 まずは、奈良県商工会連合会が開催する「創業スクール」に参加。産後半年の頃だったので、休憩時間に授乳しながら受講しました。
2017年10月に、もちいどの商店街のチャレンジショップ「夢CUBE」で「パン屋福笑」をオープン。奈良県商工会連合会には卒業後も伴走していただき、「夢CUBE」への応募から、オープン準備まで手厚くサポートしてもらいました。福笑という名前をつけたのは「パンを通してHappy&Smileを届けたい」と考えたからです。夢CUBEの卒業生には、かき氷店「ほうせき箱」さんやレザークラフトショップ「HARUHINO」さんなどの人気店舗がおられます。 がんばっている先輩たちの背中を見ることがすごく刺激になりましたね。
移転先の決め手は
「自分たちの魂が喜ぶかどうか」
「福笑」として「夢CUBE」で営業した2年9ヶ月間、「やってみないとわからなかったこと」をたくさん経験しました。たとえば、新小麦が出る10月にはパンの発酵が難しくなること、季節によっては酵母の状態が崩れやすくなること。また、実際に店に立つなかで「こんなショーケースがほしい」「パンの包装によるゴミを減らしたい」と自分たちの店で実現したいことを一つひとつ具体化していくこともできました。
規約で決められた「夢CUBE」の出店期間終了に伴い、当初は家賃が安く自然豊かな田舎に移転しようと思っていたんです。でも、古民家の改修費用が予想以上にかかるなどの現実に直面し、改めて 「自分たちは何を一番大事にしたいんだろう?」と洗い直していくと、ただただ「子どもや家族と過ごす時間を大事にしたい」と思っていることに気がついて。それで、自分たちが暮してきた校区の物件に決めました。頭で考えたというよりは、「自分たちの魂が喜ぶかどうか」という感覚だったと思います。
物件探しと内装は、木津川市の「株式会社喜創」に依頼。すると「ブランディングから広報までをサポートするプロジェクトを一緒にしませんか」と提案があり、各分野のプロが集まるチームが生まれました。新店舗のコンセプトづくりは、「KEYDESIGN」のすみかずきさん。内装インテリアは「工房彩家」の古田光さん、情報発信は「amu」の徳永祐巳子さんがサポートしてくれました。
新しい店名に選んだ「bakery +arinomamma」も、すみさんとのやりとりから出てきた「ありのまんま」という言葉がもとになっています。慣れ親しんだ店名を変更するのは思い切りが必要でしたが、自分たちがやりたいことを明確に発信するために決心しました。その代わり、ウェブサイトなどを通して「パンづくりへの考え方は変わらないけれど、『ありのまま』でその人らしく生きることを認め合うことが素敵な世界をつくっていくという想いを表現したい」と、店名変更の理由を丁寧に説明しました。想像した以上にたくさんの方から、「すごく共感します」とメッセージをいただいてほっとしています。また、新しい看板づくりの費用をクラウドファンディングで募ったところ、多くの方が応援してくださって驚きました。本当にうれしかったし感謝しています。
「ありのまんま」に生きることを認め合う世界をつくりたい
すみさんは、私たちがもっていた「自然」「共生」「森」などのイメージから、「森でパンを摘んでいるような体験ができるパン屋」というコンセプトを考えてくれました。このコンセプトをどう実現していくのか、最初はまったく見当もつかなかったのですが、店の真ん中に樹齢200年のオリーブの木を設置したことで一気に現実的になりました。
このオリーブの木は、スペインから輸入されて日本で枯れてしまったものを加工し、自然の素材を使って装飾したもの。お店に入るとまるで森の中にいるイメージをもってもらえると思います。お客さんには、オリーブの木の周りに配置したサンプルを、“森で摘む”ように選んでカゴに入れてもらい、レジでは木の引き出しに保存したパンをお渡しします。この販売方法は「個包装によるゴミを出さずに、パンを乾燥から防いで販売する」ためのものでもあります。タッパーなどをご持参いただくように呼びかけもしています 。「自分たちの便利さのためだけに、地球環境を悪化させるプラスチックゴミを出し続けるのをやめよう」という店の姿勢を伝えたいと思いました。
ありのまんまの自分が素晴らしい
私たちがパン屋をしているのは、自分たちで表現したいことがあるからだと思います。起業には華やかなイメージをもつ人もいるかもしれませんし、自信をつけるために起業をしようという方もいるかもしれません。でも、 まずは「ありのまんまの自分が素晴らしい」ということに気づいてほしいです。そのうえで表現したいこと、伝えたいことがあって起業するのであればきっとうまくいくはず。私たちも応援しています。
(10月14日 取材)
印刷用PDF(妹尾さん記事)(pdf 514KB)