奈良県林試研報N0.14(要旨)

県北部神社林の調査

片山紀一

 緑に対する社会的な要請に応えて各地での生活環境保全林やその他規模はさまざまであるが、緑地整備が計画、実施されつつある。一方、我々の身近には自然度の高い植生を保持する林として評価される神社林が存在する。
 地域緑化を推進するについては地域固有の植生に配慮する必要があり、その概況把握を目的として本県北部地域の神社林調査をおこなった。
 これまで標高約600mまでは自然状態でシイ、カシ類が優占して出現する地域とみなされてきたが、今回主要植生の出現状況を調べた結果、標高約250mを中心とする200~300mで細区分されることが明らかになった。おもに下部標高域ではイチイガシ、アラカシ、コジイ、クロガネモチ、ナナミノキが出現し、上部標高域ではツクバネガシ、ウラジロガシ、アカガシが出現する。シラカシ、サカキ、ヤブツバキは両標高域にまたがって出現する。常緑広葉樹は寒さに対して悪影響を受けやすい。下部標高域に出現が限られる樹種を上部標高域に植栽すれば正常な生育を期待出来ないばかりか枯死することが想定される。地域緑化を進める際の植栽樹種選定については十分な配慮が望まれる。

 

 

ヒラタケの菌糸生長に及ぼす二酸化炭素の影響

渡辺和夫

 ヒラタケのビン栽培における培養ビン内の二酸化炭素濃度の経時変化とビン外へ排出される二酸化炭素量の経時変化を測定した。さらに、測定範囲の二酸化炭素濃度がPDA培地におけるヒラタケ菌糸の生長に及ぼす影響を検討した。ビン内の二酸化炭素濃度は、種菌を接種して13日後に最大となり、ビン底部で25~28%、ビン上部で15~18%に達した。ビン外へ排出される二酸化炭素量も同様な傾向を示し、種菌を接種して、14日後に最大となり、約80ml/hr/jarに達した。PDA培地での菌糸生長は、二酸化炭素が5~20%存在する雰囲気中では、二酸化炭素が除去された雰囲気中(対照区)よりも良好であった。さらに、二酸化炭素濃度が30%になると、菌糸の生長は鈍り、対照区とほぼ等しくなった。

 

 

奈良県における樹木病害調査

天野孝之

 奈良県下に発生している樹木病害を調査した。病害発生樹種は、針葉樹5科11種、広葉樹20科54種、計25科65種、調査観察した病害は延べ140種であった。発生部位別にみると半数が葉に、1/3が枝幹に発生した。病害が多く観察された樹種は、経済的に有用なため調査がよく行われている、あるいは広範囲に多数植栽されて人目につきやすい樹種であった。

 

 

製材品の除湿乾燥とその装置

小林好紀・小野広治

 小規模製材工場に適した、製材品のための2種の除湿乾燥室を製作し、その性能評価を行った。これらの乾燥室は自家製作が可能であり、設備費は安価であった。多材種少量生産の工場でも、材料を順次入れ換えて乾燥できるように、乾燥方式にはたてかけ式を採用した。
 たてかけ式の乾燥方式では、室内の空気循環を良くしなければ乾燥むらが生じやすかった。材間風速が小さい場合には乾燥が著しく遅れ、大きすぎる場合には表面割れが発生した。スギはヒノキよりも割れが発生しやすかった。柱材の乾燥所要日数は、一般的には10~14日で平均含水率が30%に達し、水分分布はほぼ平均していた。含水率30%以下の乾燥は著しくおそくなるので、低含水率材を必要とする場合には、他の乾燥法を併用すると効率的である。鴨居材の乾燥所要日数は、柱材に比較して短かく、約10日で含水率20%に達したが、表面割れが発生しやすかった。

 

スギ、ヒノキ樹皮を原料とする和紙の製造(Ⅰ)  スギ樹皮の蒸解条件

伊藤貴文・松山将壮

 廃材利用研究の一環として、利用率が極めて低いスギ樹皮を原料とする和紙の製造について試験を行った。本報においては蒸解条件を中心に検討したが、その結果次の様なことが判明した。
(1)樹皮には抽出成分が非常に多く、未抽出のチップを用いて蒸解を行うとパルプ中にピッチが発生した。冷水に20時間浸漬後2時間の熱水2時間の熱水抽出を行うとピッチは認められなくなった。
(2)蒸解液のアルカリ濃度を高くすると、収率の低下、多糖類の流出が認められたが、脱リグニン率の上昇は顕著ではなかった。
(3)亜塩素酸ナトリウムによる漂白は困難で、針葉樹木部クラフトパルプに比べて脱リグニン率、ブライトネスは著しく劣った。漂白に伴う多糖類の流出は認められなかった。
(4)剥皮後すぐに熱水前処理を行うと、チップの黄変を防ぐことができるほか、脱リグニン率が上昇し、ブライトネスが向上した。

 

 

野外杭試験により求めた素材の耐用年数と室内耐朽性試験との関連

中村嘉明

 厳しい劣化条件下で使用される木材の耐久性を検討するため、20種の内外産木材を供試して、野外杭試験による腐朽・ぎ(蟻)害の被害経過の調査と耐用年数の査定、および実験室的腐朽操作による耐朽性試験を行ない、両試験の結果を比較して考察を加えた。
 杭試験材(3cm×3cm×60cm)は、その約半分を地中に立てて試験地に設置した。その被害の調査は毎年1回行い、Table2に示した基準に従って被害度を採点して、平均被害度が2.5以上になった時点をそれぞれの樹種の観察部位の耐用年数として査定した。
 杭試験に用いたものと同一材から作製した試片を供試して、木材の耐朽性試験方法に基づく腐朽試験を行い、腐朽重量減少率を測定した。
 結論は次のとおりである。
1)奈良県の平坦地における樹種別の素材杭の地上、地ぎわ、地中、各部の劣化による被害経過と耐用年数を明らかにした。(Fig.1~3)
2)最も腐朽・ぎ害が激しい地ぎわ部において査定した耐用年数と、耐朽性試験の結果から樹種別の耐朽性を次のように判定した。
 大(耐用年数4年以上):ベイスギ・サワラ・ヒノキ・ベイヒバ
 中(2.5年  ~ 4年):レッドラワン・スギ・ブビンガ・アピトン・チョウセンゴヨウ・カラマツ・カポール
 小(2.5年 以下  ):エゾマツ・ベイツガ(蟻害による)・オウシュウアカマツ・ベイツガ・ブナ・ノーブルファー・スプルース
3)耐朽性試験(オオウズラタケ)による腐朽重量減少率と野外杭試験における地ぎわ部の耐用年数の関係は、[Y=a/(x+b)+c、a=約8、b=1~2、C=1.5~1.8]の双曲線のグラフが良く適合する傾向が認められた(Fig.4)。これによれば、実験室的腐朽操作によって、野外における厳しい劣化条件下におかれた木材の耐久性の予測が可能であると考えられる。

 

 

市販構造用製材品の曲げ強度を低減する要因について

江口 篤・倉谷幸作

 製材-JASによって等級区分された市販の構造用製材品(スギ、ヒノキ、アカマツ、ベイマツの4樹種)の実大曲げ試験を行ない、強度性能とこれを低減する要因である比重、平均年輪幅、繊維傾斜および節との関係を分析し、有効な強度等級区分法を確立するための資料を得た。
 比重は強度性能との相関が高く、強度性能における基本的な要因であることが認められた。
 平均年輪幅は、比重との相関が高い材において、強度性能との相関が高かった。繊維傾斜は、髄が蛇行していたアカマツ材や、心去材であったベイマツ材に現われ、繊維傾斜による強度性能の低減が認められた。節による強度性能の低減は曲げヤング係数においても認められたが、曲げ強さにおいて顕著に認められた。節による曲げ強さの低減は、節位置、節径、節面積やはりせいによっても異なることが認められた。また輪生枝による集中節が現われたアカマツ材やベイマツ材では、この集中節による曲げ強さの低減が特に大きかった。

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