はじめに
第1章 基本的な考え方
1 行動計画策定の趣旨
2 人権教育の定義
3 行動計画の基本理念
4 人権教育を進めるに当たっての県の基本的な姿勢
5 行動計画の性格
6 行動計画の目標年次
7 行動計画策定の背景
第2章 奈良県の人権に関する教育・啓発の現状と課題
第3章 人権教育を推進するための環境の整備
1 人権教育を進めるための学習環境の整備
2 人権教育を進めるための人材の養成
3 人権教育を進めるための学習方法の整備
4 効果的な啓発手法・情報提供の実施
5 ボランティア活動の促進
6 国、市町村をはじめとする関係機関、民間団体、企業等との連携
第4章 あらゆる場を通じた人権教育の推進
1 家庭・地域社会における人権教育の推進
2 学校(園・所)における人権教育の推進
3 企業における人権教育の推進
4 特定の職業に従事する者に対する人権教育の推進
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第5章 重要課題への対応
1 同和問題
2 女 性
3 子ども
4 高齢者
5 障害者
6 外国人
7 HIV感染者等
8 アイヌの人々
9 刑を終えて出所した人
第6章 国際協力の推進
第7章 行動計画の推進
1 全庁体制での推進
2 推進体制の整備とフォローアップ
3 世界人権宣言採択50周年記念事業
4 行動計画の見直し
は じ め に
1994年(平成6年)12月23日、第49回国連総会は、1995年(平成7年)1月1日から始まる10年間を「人権教育のための国連10年」とすることを決議しました。これを受けて、我が国においては、内閣総理大臣を本部長とする「人権教育のための国連10年」推進本部が内閣に設置され、1997年(平成9年)7月4日に、「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画が取りまとめられました。
本県においても、これまでに、「人権教育のための国連10年」の意義や内容について、広く県民に理解を深めていただくために、シンポジウムの開催やリーフレットの発行など各種の事業を実施してきたところですが、1997年(平成9年)4月18日には、「人権教育のための国連10年」奈良県行動計画策定幹事会を庁内に設け、県行動計画の策定作業を進めてきました。特に、行動計画の策定に当たっては、学識経験者等で構成される「人権教育のための国連10年」奈良県行動計画策定懇話会を設置し、真剣な審議を重ねていただきました。懇話会で出された多様なご意見・ご提言を行動計画に反映させるとともに、県民のご意見等にも配慮して、このたび「人権教育のための国連10年」奈良県行動計画を策定したところです。
本県は、古くはシルクロードを通じてユーラシア大陸、とりわけ中国や朝鮮半島から流入した文化が、飛鳥、白鳳、天平の文化として花開いた地であり、8世紀の初めには我が国最初の大規模な国際都市として栄えた地であります。それ以来、多くの異なった文化が溶け合って、伝統・文化が営々と築かれてきており、今、世界に開かれた「国際文化観光・平和県」として、世界の平和と繁栄に寄与することを願い、広く世界各国との文化・学術交流を推進しています。
さらに、本県は、20世紀の初頭、部落差別の撤廃と人間の尊厳の自覚に基づく主体的行動を提起した水平社運動の発祥の地であり、以後、県内においては、同和問題をはじめとするさまざまな人権問題の解決に向けた多くの取り組みが進められてきたところです。
こうした本県の歴史的経緯を認識し、この行動計画に掲げられた諸施策の着実な実施等を通じて人権教育を推進し、もって、県民一人ひとりの人権が真に尊重される、自由で平和な奈良県づくりに積極的に取り組むこととします。
第1章 基本的な考え方 1 行動計画策定の趣旨
「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。」と、1948年(昭和23年)12月10日、第3回国連総会において採択された世界人権宣言は、人類普遍の原理である人権につき、このようにうたっています。我が国の憲法も、平和主義、国民主権とともに基本的人権をその原理の一つとしてすべての国民に保障し、また、これを保持するための不断の努力を求めています。
近年、あらゆる分野での国際化が急速に進展し、国家間の相互依存が大幅に深まるとともに、人種、民族、宗教をめぐる問題や環境問題など地球規模の課題への対応が求められるなか、平和で豊かな国際社会を構築するため、人権が国際基準として果たす役割は極めて重要であると考えます。また、地球環境を守り、自然との共生を図るためにも、人類の英知が強く求められているといえます。
1994年(平成6年)の第49回国連総会は、人権という普遍的文化を世界中に創造することを目指し、「人権教育のための国連10年」の決議を採択しました。この「10年」は、生活文化を形成する最も重要な要素として、普遍的な人権をとらえています。すなわち、私たちの日々の暮らしのなかに人権を根付かせ、多様な文化や価値観、個性を尊重し合う民主的な社会を築いていくため、日常の行動につながる知識や技能の習得、態度の形成を重視していると考えます。
国連の「人権教育のための国連10年」行動計画では、「すべての人権の不可分性と相互依存性を認識」し、また、「民主主義、発展及び人権が相互に依存しかつ補強し合うものであると認識し、『10年』のもとでの人権教育は、政治的、経済的、社会的及び文化的な分野での一層効果的な民主的参加を目指すこととし、経済的及び社会的進歩と人間中心の持続可能な開発を促進する手段として活用される」と規定しています。
我が国においても、「人種差別撤廃条約」への加入をはじめ、「人権擁護施策推進法」や「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」の制定をみるとともに、「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画が策定されるなど、人権の尊重・擁護への取り組みが進展しています。
このように、国内外の人権確立・擁護への取り組みが進むなか、本県においては、1997年(平成9年)3月に「奈良県あらゆる差別の撤廃及び人権の尊重に関する条例」が制定されたところであり、県民一人ひとりの人権が真に尊重される自由で平等な社会を築くために、「人権教育のための国連10年」への取り組みは、極めて重要かつ有意義であると考えます。21世紀を「人権の世紀」とし、この「人権教育のための国連10年」を県民と共に積極的に推進するため、その指針となる本行動計画を策定することにしました。
【ページトップへ戻る】 2 人権教育の定義
人権教育の定義は、1994年(平成6年)の第49回国連総会での「人権教育のための国連10年」決議と行動計画のなかで、次のように示されています。
「あらゆる発達段階の人々、あらゆる社会階層の人々が、他の人々の尊厳について学び、また、その尊厳をあらゆる社会で確立するための方法と手段について学ぶための、生涯にわたる総合的な過程である」(国連総会決議)
「知識と技能の伝達及び態度の形成を通じ、人権という普遍的文化を構築するために行う研修、普及及び広報努力と定義する」(国連行動計画)
ユネスコの「国際理解、国際協力及び国際平和のための教育並びに人権及び基本的自由についての教育に関する勧告」(1974年(昭和49年))においては、「教育とは、個人及び社会的集団が国内的及び国際的社会において、並びにこれらの社会のために、各自の個人的な能力、態度、適性及び知識の全体を発達させることを意識的に学ぶ社会生活の全過程をいう」と、定義されています。
これらのことから、人権教育とは、人権が尊重され擁護される社会を築くため、あらゆる人々が生涯のあらゆる機会を通じ、人権に関する正しい知識を習得するとともに、自分で考え判断し、話し合って問題を解決する技能を培い、これを日常の態度として身に付けるための、また、これらに取り組もうとする雰囲気を醸成するための、教育及び啓発であると考えます。
この行動計画は、学校教育や職場研修はもとより、家庭や地域においても、あらゆる機会に人権教育が行われ、人権が人々の思考や行動の価値基準として日常生活に根付き、人間関係と社会関係の基本原則となり、人権という普遍的文化の創造を目指すことを基本理念とします。
人権教育を行うに当たっては、次に掲げるような基本的な視点に留意することが肝要です。相互に不可分なこれらの視点は、人権問題が自分とは関係のないことではなく、私たちの生き方そのものにかかわるという意識・態度から、人権を守り育てる行動につなげていくために重要です。
(1) 生きる力の育成
生きているという充実感は、家庭や地域社会、職場で豊かな人間関係を築き、主体的に活動してこそ得られるものです。そのためには、自分の個性や可能性をよく理解して自尊感情をはぐくみ、持てる能力を発揮し、自信を持って自己表現することが大切です。文化・芸術、スポーツ活動なども自己表現の手段であります。
(2) さまざまな人々との共生
人は、それぞれに異なる生活文化を持ち、個性や価値観も違います。また、民族や国籍の異なるさまざまな人々が共に暮らしています。しかし、これらの違いを否定して同質化を求めたり、同質なもののなかに、違いや序列を作り出して排除するような状況がみられます。
違いをありのまま受け入れ、共に学び働き、親交を深めるなかから、互いの尊厳への自覚が生まれ、互いを向上させることができます。個性を尊重し、多様な文化を認め合う意識と態度が必要です。
(3) 人権意識の日常化
だれもが「幸せに生きたい」と願っています。生命を大切にし、そのような願いを実現させることが人権といえます。人権は、日常生活のなかに当然存在すべきものであり、常に互いの人権を尊重するという視点で物事をみつめることが重要です。これまで、私たちが日常生活のなかで当然のこととして考え、受け入れてきた事柄についても、人権という物差しで判断し、行動していくことが大切です。
(4) 人権侵害を許さない意識の醸成
私たちの社会には、同和問題、女性問題、外国人問題などさまざまな人権問題が存在しています。このような人権問題の根底には、偏見・因習、世間体や家柄を重視する考え方、男女の役割分担意識、我が国は単一民族から成り立っているという誤った意識などが存在しています。
人権侵害(差別)は、人を傷つけるだけでなく、自らの生き方をも狭めます。さまざまな人々と豊かな人間関係を築き、自分を向上させる機会を自ら閉ざしてしまうことになるからです。傍観することも人権侵害を許す結果になることに留意し、すべての人々が人権侵害を許さない意識を持つことが肝要です。
(5) 社会の基盤となる人権意識の確立
人権は、人のいるところ、どこにでもある人間同士の基本的な関係として、人々の営みのなかに定着させることが大切です。人権を基本とした人間関係が広がってこそ、すべての人々にとって住みよい、豊かな社会が実現します。人権意識が、日常生活のなかに広く根付くような社会づくりが重要です。
【ページトップへ戻る】 4 人権教育を進めるに当たっての県の基本的な姿勢 (1) 県民が主体となる人権教育の推進
人権という普遍的文化の創造を目指すためには、県民一人ひとりが日々の暮らしのなかで、主体的に人権学習に取り組むことが何よりも大切です。
日常の生活そのものを学習の機会としてとらえ、人間の尊厳と社会正義に照らして、自分自身の考え方や価値観を問い直すことが必要です。世界人権宣言や国際人権諸条約等の精神や内容を学び、偏見・因習に惑わされない正しい知識を習得するとともに、人生の課題を考え社会問題に気付き、公正に判断して解決していく技能と態度を養わなければなりません。お互いを個人として認め合い、自己決定や自己実現する権利を尊重し合って、豊かな人間関係を築いていく技能と態度も重要です。県民こぞって人権意識に裏打ちされた行動をとることが、自由で平等な社会を築くことの第一歩になります。
県においては、県民が自主的・主体的に学習や社会参加活動等に取り組む気運の醸成に努めるとともに、地域社会や学校などあらゆる場における学習環境の整備に努めます。
(2) 人を大切にする施策の推進
人権という普遍的文化の創造を目指すために、県の全部局が、あらゆる分野において、すべての人権が不可分かつ相互依存関係にあることを認識し、人を大切にする施策を総合的・複合的に一層推進することに努めます。県民のニーズを的確に把握し、適切な情報提供を通じて県政への参加を促すなど、開かれた県政の推進にも努めます。なお、プライバシーの保護の重要性を認識し、個人情報保護の制度化に努めます。
職員一人ひとりは、常に人権を尊重し、公共の福祉に奉仕するという意識を持ち、公正な判断、誠実な対応、明りょうな手順により、職務を遂行します。
また、さまざまな人権問題への対応に当たっては、個々の問題の解決を図ることはいうに及ばず、あらゆる分野において、人間の尊厳と自由の実現を具体化する施策を実施することにより、豊かな人間関係で満たされた、人権侵害を許さない社会づくりに努めます。
(3) 同和教育等の成果を踏まえた人権教育の推進
本県においては、同和問題をはじめ、女性問題や外国人問題などの人権問題の解決に向けた各種の取り組みを進めてきました。同和教育は、同和問題の解決を図ることを目的に始められましたが、取り組みの経緯のなかで、あらゆる人権問題に関する理解・認識を深める役割も果たしてきました。また、同和問題啓発活動は、人権侵害を許さない雰囲気づくりや人権意識の高揚を図るうえで、大きな役割を果たしてきました。人権教育が根付いていくために、これらの取り組みを大切にしなければなりません。
現在、世界各国において、さまざまな形での人権教育が展開されていますが、これらの人権教育の手法にも学びながら、さらに広く豊かな人権教育を展開することが求められています。
今後の人権教育においては、これまでの人権意識の確立に向けた取り組みの経緯・成果を踏まえ、新たな手法も採り入れ、その推進に努めます。
(1) この行動計画は、「奈良県あらゆる差別の撤廃及び人権の尊重に関する条例」を踏まえるとともに、第49回国連総会で決議された「人権教育のための国連10年」の取り組みを本県において総合的に推進するための計画です。
(2) この行動計画は、奈良県新総合計画と整合性を持つものであり、県のさまざまな施策に係る諸計画に対しては、人権教育の分野における基本となる計画です。
(3) この行動計画は、県が推進する人権教育の指針として具体的な施策の方向を明らかにしたものです。市町村をはじめ関係機関、民間団体、企業等においては、この行動計画の趣旨に沿った自主的な取り組みを期待します。
6 行動計画の目標年次 この行動計画の目標年次は、「人権教育のための国連10年」の最終年に合わせ、 2004年(平成16年)とします。
(1) 世界の動向
二度にわたる世界大戦の反省から、人類は平和と人権の尊さを学びました。世界の平和を願って創設された国連は、1948年(昭和23年)に、すべての人々とすべての国が達成すべき人権の基準を定めた世界人権宣言を採択しました。
その後国連は、世界人権宣言を実効あるものとするため、国際人権規約をはじめ、人種差別撤廃条約、女子差別撤廃条約、児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)などの多くの条約を採択するとともに、女性や障害者、識字等の重要なテーマごとに「国際年」を設定し、人権が尊重される社会の実現に取り組んできました。
しかし、世界各地では、民族・宗教紛争や飢餓・貧困、人種差別や女性差別など、生命と人権を脅かす問題が後を絶たず、これに対応するための人権教育の必要性から、1989年(平成元年)、個人やNGO(非政府組織)により「人権教育の10年組織委員会」が結成されました。1993年(平成5年)3月には、ユネスコが開催した「人権と民主主義のための教育に関する国際会議」において、「人権と民主主義のための教育に関する世界行動計画」が採択されています。また、同年6月、世界人権宣言採択45周年を契機に、これまでの人権活動の成果を検証し、現在直面している問題や今後進むべき方向を協議することを目的として、国連がウィーンで開催した「世界人権会議」では、「人権教育のための国連10年」の設定や国連人権高等弁務官の設置が提唱されるに至りました。
このような経緯を経て、1994年(平成6年)12月の国連総会において、「人権教育のための国連10年」が決議され、世界各国において人権教育を積極的に推進するよう行動計画が示されました。
この国連行動計画では、
ア 人権と基本的自由の尊重の強化
イ 人格及び人格の尊厳に対する感覚の十分な発達
ウ 全ての国家、先住民、及び人種的、民族的、種族的、宗教的及び言語的集団の間の理解、寛容、ジェンダー(社会的・文化的につくられた性別)の平等並びに友好の促進
エ すべての人が自由な社会に効果的に参加できるようにすること
オ 平和を維持するための国連の活動の促進
を目指すこととされています。
また、この計画には人権教育の多様な側面として、人権について教えること、教育を受けることそのものが人権であること、人権が大切にされた状況や過程で教育が行われること、人権を守り育てる個人を育成し社会を創造すること、などが盛り込まれています。
(2) 我が国の動向
我が国は、国際社会の一員として、1955年(昭和30年)の婦人の参政権に関する条約をはじめ、国際人権規約や女子差別撤廃条約、児童の権利に関する条約、人種差別撤廃条約などの人権関係諸条約に加入してきました。
また、日本国憲法がすべての国民に保障する基本的人権の確立と擁護を図るため、教育基本法、職業安定法、児童福祉法、健康保険法など数多くの法律や制度が整備され、行政機関が各分野において種々の施策を推進してきました。同和問題については、1965年(昭和40年)8月11日に同和対策審議会から「答申」が出され、それを受けて、国は1969年(昭和44年)に同和対策事業特別措置法を制定し、以来、法に基づく施策の推進を図ってきました。1996年(平成8年)5月に、地域改善対策協議会から出された「同和問題の早期解決に向けた今後の方策の基本的な在り方について(意見具申)」(以下「地対協意見具申」という)では、「国際社会における我が国の果たすべき役割からすれば、まずは足元ともいうべき国内において、同和問題などのさまざまな人権問題を一日も早く解決するよう努力することは、国際的な責務である」と述べています。
こうしたことを受けて、国では、1996年(平成8年)12月に人権擁護施策推進法を制定しました。人権尊重のための教育・啓発並びに人権侵害を受けた被害者の救済に関する施策の推進を、国の責務として規定するとともに、その施策に関する基本的事項を調査審議する人権擁護推進審議会の設置をうたっています。この審議会は、1997年(平成9年)5月に設置され、教育・啓発に関しては2年を、被害者の救済に関しては5年をめどに、答申が出されることになっています。
また、「人権教育のための国連10年」の取り組みに関しては、1995年(平成7年)12月、内閣に推進本部が設置され、1997年(平成9年)7月には国内行動計画が公表されました。この計画では、人権教育を進めるに当たって、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、アイヌの人々、外国人、HIV感染者等、刑を終えて出所した人などの重要課題に積極的に取り組むこととされ、また、地方公共団体、民間団体等がそれぞれの分野においてさまざまな取り組みを展開するように、推進の具体的方向が提起されています。
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本県においては、1995年(平成7年)3月、県民すべての生活の安定と福祉の向上のために、県政運営の基本指針として奈良県新総合計画を策定し、社会の変化と県民のニーズに対応して、各分野で行政施策を推進しています。この計画では、「心の豊かさやゆとり、生きがいが感じられる」、「多様な選択が得られる、個性を大切にする」、「人と人とのふれあい、コミュニケーションを大事にする」など、人権教育にとっても大切な基本理念を設定し、県民の社会参加や自己実現の機会を提供するため、生涯学習社会の構築や男女共同参画、福祉のまちづくりなど、人権を基盤とした諸施策を推進しています。また、同和問題をはじめ、女性、子ども、高齢者、障害者、外国人、HIV感染者等に関する人権問題の解決は重要な課題として、これまで各種の施策を講じてきました。
特に、同和問題については、1948年(昭和23年)に環境改善事業に着手し、1950年(昭和25年)には奈良県同和問題研究所を設置するなど、約半世紀にわたり県政の主要施策として同和対策事業を推進してきました。
教育に関しては、1952年(昭和27年)に奈良県同和教育研究会が結成され、「差別の現実」に学ぶことを中心的課題として取り組みが始められ、以来、多くの人々によって、すべての子どもたちに部落問題についての正しい理解と認識を培い、部落差別をなくしていく力量を育てる研究と実践が重ねられてきました。1963年(昭和38年)には、地域社会における同和教育を進めるため、奈良県同和教育推進協議会が結成され、住民主体の活動が組織的に取り組まれています。県としても、1953年(昭和28年)には、県教育委員会に同和教育担当指導主事を配置するとともに、就学奨励補助金交付制度を創設しました。また、1966年(昭和41年)には、「同和教育の推進についての基本方針」を公示し、同和地区児童生徒の進路保障と同和地区住民の教育・文化水準の向上、さらには、差別をなくす意欲と行動力を持った人間の育成を図ってきました。現在、同和教育は、部落差別のみならず、さまざまな差別をなくし人権意識の向上を図る営みとして、人権教育の実践へと展開されています。
啓発に関しても、県では同和問題についての県民の正しい理解と認識を培い、その解決に向けての意欲と行動力を高め、人権侵害を許さない環境を醸成するため、啓発パンフレットや指導者用テキストの発行、県広報誌や新聞・テレビ等の活用など、積極的な活動を進めてきました。1988年(昭和63年)には啓発活動の連携と充実を図るため、市町村同和問題啓発活動推進本部連絡協議会が設置され、「毎月11日は人権を確かめあう日」の提唱などの取り組みが進められています。
市町村においても、市町村民集会の開催、各種研修会の実施など、地域の実情を踏まえた同和地区内外の教育・文化活動が積極的に推進されてきました。市町村同和教育推進協議会や行政が連携し、住民を対象とする地区別懇談会の開催なども行われてきました。同和地区住民の願いから始まった識字活動においては、各市町村で同和地区識字学級の開設が進み、現在、多くの人が学習しています。差別や貧困、障害等により、教育の機会が保障されず義務教育が未修了となった人たちが学ぶ場として、夜間学級も開設されています。
このような取り組みにより、若年層を中心とした就労における職域、職種の広がり、部落差別に起因する長欠・不就学の解消、高校・大学進学率の向上などの成果をあげてきました。また、高校・大学進学奨励資金制度の確立、近畿統一応募用紙の策定による差別選考の解消など、すべての児童生徒の教育権あるいは就職の機会均等の保障としての成果も収めています。
女性問題については、1976年(昭和51年)に県行政の窓口を設け、婦人問題啓発フェスティバルの開催や啓発情報誌の発行など、各種事業を実施してきました。1997年(平成9年)2月には、「女性の権利は人権である」との認識のもと、「なら女性プラン21」を策定し、男女共同参画社会の実現に向けた総合的な施策を示しています。
子どもの人権に関しては、就学前教育の充実に努めるとともに、権利の主体者としての子どもの生活権及び教育権を保障し、自尊感情や自己表現力、社会生活への適応力などを培う教育活動を進めています。
高齢者の社会参加活動への支援、障害児教育と障害者の雇用促進、1986年(昭和61年)に示した「在日外国人(主として韓国・朝鮮人)児童生徒に関する指導指針」に基づく在日外国人教育、外国人への日本語教育、HIV感染者の医療・健康相談などの施策を実施するとともに、すべての人々の人権が守られるよう啓発活動も展開しています。
このように、人権に関する本県の教育及び啓発活動は、学校、地域社会、職場などで、多くの人々や機関・団体によって取り組まれ、その結果、人権問題の解決に向けた取り組みは一定の前進をみることができましたが、まだ多くの課題が残されています。同和問題をはじめとする人権問題において、依然として差別事象がみられ、その内容も悪質化・陰湿化する傾向にあります。ニューメディアによる差別事象も起こっています。学校においては、いじめ問題等人権にかかわる諸問題が生じており、児童生徒の個性の重視、児童生徒と教師との信頼関係の醸成などの課題があります。家庭においても、子どもの人権が十分に認識されず、人格の形成や社会生活への適応が図られていない側面もみられます。地域社会においても、多様な県民のニーズや生活様式の変化のなかで、日常的な人権意識の定着に向けた学習の機会と情報の提供が必要になっています。
これまでの学習や啓発の内容と手法については、それぞれに工夫を加えながら進められていますが、知識と理解にとどまりがちで、自らの問題としてとらえられていない面や、画一的な傾向が強く、県民のニーズに応じた魅力的なものになりきっていない面がみられます。
今後の人権教育の推進においては、同和問題をはじめさまざまな人権問題の解決とともに、その基盤となる人権意識の高揚と行動力のかん養を目指し、県民の主体的な取り組みを促し、市町村をはじめ関係機関、民間団体、企業等との連携を図りながら、今日的な県民のニーズの把握と新たな手法の導入等を図りつつ、人権という普遍的文化の創造に向けた取り組みを進める必要があります。
【ページトップへ戻る】 第3章 人権教育を推進するための環境の整備
(1) 生涯を通した学習機会の提供
充実した生活や豊かな人生を過ごすために、人々が生涯にわたり学習する多様な機会を提供することは、今後ますます必要となってきます。こうした学習における現代的課題には、生命、健康、人権、国際理解、環境、さらに高齢化社会、男女共同参画社会といった、人権教育にとって不可欠な内容が含まれています。人権教育の推進には、こうした課題について学習する機会を十分に提供することが求められることから、学校教育も含めた社会のさまざまな教育・学習システムのネットワーク化を図りながら、各種の講座や研修の機会の充実に努めます。また、県民一人ひとりが主体的に学習できるように、人権教育に関する情報提供の充実を図ります。
(2) 地域づくりと結合した学習環境の充実
県民が身近な地域において人権教育に参加し、それが具体的な活動として地域づくりに役立つよう、支援することが大切です。そのためには、基本的なものから専門的なものまで幅広い学習内容を準備し、さまざまな学習機会を提供する必要があります。また、県民にとって積極的に参加する意欲を喚起されるような雰囲気づくりが大切です。
県や市町村、民間の生涯学習施設、社会福祉施設等に人権教育を推進する機能が充実されるよう努めるとともに、県民の自主的な学習活動の支援に努めます。また、市町村が、地域の関係機関や民間の人権教育関係団体等とも連携し、地域ぐるみで人権教育を推進することができるよう、その支援に努めます。
(1) 身近なリーダー・指導者の養成
人権教育の具体化は、日常生活の身近なところから進められなければなりません。その際、それを推進するリーダーや指導者が必要になることから、関係機関・団体の指導者や地域のリーダーなど幅広い人材の養成が必要となってきます。
県や市町村における人権教育にかかわる研修・講座等の開催を推進するための施策の充実を図り、地域における身近な研修指導者や啓発リーダー等の養成と資質の向上に努めます。
(2) 専門的な指導者の養成
今後の人権教育では、多様で多面的な手法や内容が有用なことから、県民に対する体系的な研修・啓発の企画立案者や体験・参加型学習の指導者、人権問題に関する研究者や実践者など専門的な指導者の発掘と養成が必要です。
そのため、専門的な資質を培う研修や講座の開催に努めるとともに、民間の人材を活用したり、民間を含めた各種研究機関等が実施している人権問題に関する講座や研修会についても情報を提供するなど、市町村等と連携して専門的な指導者の確保と養成に努めます。
(1) 人権教育プログラムの整備・充実
人権教育の推進は、学校教育、社会教育等を含めた生涯学習体系の中で進められなければ効果をあげることはできません。そのため、下記の視点を踏まえ、各分野における人権教育を進めるためのプログラムの作成に努めます。市町村等がプログラムを作成する場合には、情報提供等の支援を行います。
・ 幼児期は、人格形成の重要な時期であり、自他の生命の尊重、基本的な人間関係など、人権意識の醸成の基盤となる時期です。家庭や保育所、幼稚園における保育内容の充実に努めます。
・ 学校における人権教育では、人権を正しく理解し、人権の尊重を日常生活において実践できるよう、成長発達過程に応じた人権教育を進めます。また、大学における人権に関する講座等の実施と充実を促します。
・ 職場における教育・研修について、関係機関と連携しながら、その充実に向けた企業等への働きかけに努めます。また、基礎的な内容はもちろん、職務等に応じた専門的な内容も取り入れられるよう、支援します。
・ 地域社会における人権教育の推進は、それぞれの地域の実態に差異があることから、住民の人権意識や生活課題に配慮し、地域の学習ニーズを踏まえた多面的な人権教育プログラムを作成することが必要です。そのため、プログラムや教材についての地域間の交流を図ります。
(2) 効果的な手法の開発・導入
これまでの人権に関する学習の手法は、主として、同和問題の解決を目指す取り組みのなかで、さまざまに工夫されてきました。例えば、自治会等の小人数で話し合う地区別懇談会等による懇談形式や、テーマに即した課題についての講義形式で、映画やビデオ、啓発パンフレットや冊子などを使用した教材学習形式等で行われてきました。これらの手法は、一度に多くの人々に一定レベルの理解を図ることができることから、基礎的な人権教育を実施するのに有効な方法ですが、学習者が受け身となること、知識の理解にとどまってしまうことなどの問題点もみられます。
今後の学習方法については、従来の形式も活用しながら、それに工夫を加えるなど、学習者・受講者の関心や興味も重視し、対象者、教育・研修のレベルに応じたグループ学習等、手法の充実を図ります。また、諸外国で実施されてきたロールプレイ、シミュレーション、ワークショップといった体験・参加型学習等の感性などに働きかける手法の導入を進めるとともに、そのための研修会など学習機会の提供を進めます。
(3) 効果的な教材の開発・整備
人権教育を進めるためには、効果的な教材が必要です。この教材の開発については、県や市町村をはじめ、関係機関、民間団体などが種々工夫をし、作成・開発してきました。これらの一層の活用を図るとともに、今後は、対象者の年齢や意識等に配慮した効果的な教材の開発と整備に努めます。また、人権教育に関する教材や資料の開発に当たっては、地域社会・学校と人権関連施設が連携し、人権関連施設の持つ豊富な教材の活用、民間や大学等での専門的な研究に基づく新たな資料の導入等に努めます。
・ 保育所や幼稚園においては、保育の環境に留意し、成長発達過程を十分に把握して教材を用意する必要があることから、絵や写真を使った教材、がん具等の具体物を生かした教材の開発・整備に努めます。
・ 小・中・高等学校段階においては、児童生徒の興味を引き出せるよう、身近な出来事を題材にした教材、基本的な知識・技能をより実践的に発展させることに重点を置いた教材など、成長発達過程に応じた教材の開発・整備に努めます。
・ 地域社会や職場等において学習や研修に使用する教材は、日常生活とのかかわりを重視したものが効果的です。県民向けに作成している人権に関するパンフレット等を教材として活用することも有効であることから、こうした教材の提供を進めるとともに、対象者に応じた教材の開発・整備に努めます。
【ページトップへ戻る】 4 効果的な啓発手法・情報提供の実施
(1) 人権についての啓発手法・情報提供の内容の充実
人権についての啓発は、人権とは何か、さまざまな人権問題がどういう内容であり、なぜ存在しているのか、また、どうすれば解決できるのかという観点に配慮して進めなければなりません。そのため、身近な課題を取り上げるなど、自分の問題として受けとめ、実際の行動に結び付くものとするとともに、理解しやすいものとなるよう、感性に働きかける具体的な事例の紹介、イラストの活用など手法の工夫に努めます。
特に、情報提供の内容については、世界人権宣言や国際人権規約等の人権教育の基本となる内容、研修や講座、イベント等の情報のほか、家庭や地域での日常生活からの題材をとらえたものとします。手法としては、関係する冊子やリーフレットの配布にとどまらず、県が発行する刊行物等に、人権に関する標語や開催事業の紹介等を掲載するなど、効果的な啓発と情報の提供を進めます。
(2) マスメディア等の積極的な活用
新聞、テレビ、ラジオなどのマスメディアは、その特性から、今後の人権教育の推進に大きな役割を果たすことが期待されます。そのため、県の人権施策、人権教育に関する講座やイベントなどの情報をテレビ等で積極的に提供し、これらの情報がさまざまな学習機会で取り上げられるよう働きかけるとともに、人権尊重の雰囲気づくりを進める標語等を使った啓発などを進めます。
また、県情報提供システムを利用した人権問題の情報提供、インターネット上への人権に関するホームページの開設など、ニューメディアの有効活用に努めます。
5 ボランティア活動の促進 ボランティア活動は、福祉、保健・医療、青少年育成、教育、文化、スポーツ、地域振興、環境保全、国際交流・協力、人権擁護などさまざまな領域に及び、子どもから高齢者まで幅広い世代の人々が参加するようになってきています。
これらの活動は、現代社会の諸課題を背景にして行われる一面を有しており、豊かで活力ある社会を築き、生きがいのある生涯学習社会の形成に大きく寄与するものです。また、ボランティア活動は、個人の自由意思に基づき、その技能や経験、時間等を活用して社会に貢献する活動であるとともに、地域社会を共に支え合う心豊かなふれあいの場として、自己実現を通し新しい活力を生み出していくものであり、人権教育の具体的な実践活動ともいえます。
このように、ボランティア活動は人権教育に資するものであり、一人でも多くの県民が楽しく参加できるよう、体験の機会や情報の提供など、活動の支援・振興に努めます。
6 国、市町村をはじめとする関係機関、民間団体、企業等との連携 人権教育を進めるに当たっては、国、県、市町村各行政間の連携が肝要であり、そのために、それぞれの役割を踏まえながら、協力体制の強化を図ることが必要です。また、民間団体・企業等とも連携を密にし、人権関連情報、指導者、教材等、それぞれが保有する人権教育の推進に必要な情報を共有し、効果的な推進に役立てることが大切です。
(1) 国と県との連携
国が実施するさまざまな人権施策に呼応しながら、県としての取り組みを進めます。また、地方法務局等の国の機関と県とが連携して実施している街頭啓発事業などの充実に努めます。人権相談においても、必要に応じて相互に協力し、問題の解決に当たります。
(2) 県と市町村との連携
市町村が実施する人権教育の取り組みに対しては、県は講師等の紹介・あっ旋、情報の提供などを進めます。また、市町村職員の人権意識の向上を支援する各種研修事業の実施や、市町村での取り組みのための学習・指導資料の作成・配布に努めます。
(3) 県と民間団体・企業等との連携
民間団体・企業等の自主的な人権教育を支援するため、講師や教材、相談機関等について助言や情報提供等を行います。
また、民間の各種団体に人権教育の取り組みの充実を促すとともに、それぞれが独自の役割を踏まえた相互の活動のつながりを強化するよう努めます。とりわけ、奈良県同和教育推進協議会等の研究団体、県内各市町村ごとに組織されている人権教育にかかわる関係機関、人権関係のNGO(非政府組織)やNPO(非営利組織)など、自主的団体の取り組みと連携を図り、県民の人権尊重の意識の一層の普及・高揚に努めます。
【ページトップへ戻る】 第4章 あらゆる場を通じた人権教育の推進
(1) 基本認識
人権を社会のなかに根付かせていくためには、家庭や地域社会において、お互いの人権を尊重し、豊かで生きがいのある生活を送ることができるようになることが重要です。
これまで、家庭や地域社会における人権に関する学習活動は、教育・福祉等の場を中心として、個々の課題に即し展開されてきました。今後は、社会の変化に対応して、だれもが自己実現を図り、生き生きと生活できる生涯学習社会の実現を目指さなければなりません。
(2) 現状と課題
ア 家庭における人権の学習
家庭は、個人の人権を尊重し、生命の尊さを認識させ、基本的な社会性を身に付けさせるなど、子どもの人格形成に大きな役割を果たします。
しかし、近年、核家族化、少子化といった家庭環境の変化に伴い、基本的な人格形成の場である家庭での教育機能が低下し、子育てや子どもとのかかわりに悩みや不安を持つ家族が増加するなど、新たな問題も生じてきています。こうした家庭の状況を踏まえ、一人ひとりの人権を大切にする家庭教育ができるよう、支援する方策がより必要となっています。
イ 地域社会における人権の学習
これまで地域社会においては、同和問題や女性問題、高齢者問題、障害者問題、外国人問題、いじめに関する問題などの人権問題の解決を図るための研修会や講演会が実施されてきました。また、公民館等でも学級・講座として人権に関する学習が進められてきました。
県においても、各種イベントの開催や、リーフレット等の教材の作成、人権をテーマとした生涯学習番組の放送、視聴覚ライブラリーの整備・充実等を図ってきました。
市町村においても、同和教育の推進体制が整えられ、人権や差別についての正しい理解、認識を育てる自主的な取り組みが進められています。
しかし、必ずしも人権が現代社会における不可欠な課題として定着し得ず、学習が個人の知識にとどまったり、自己の生き方にかかわる問題として理解されていないといった面もみられます。また、学習内容が、地域や住民の現状や課題から離れていたり、画一的な展開となったり、または、国際的な視野が希薄であったりして、魅力的な学習になり得ていないケースも見られます。
人権の確立は、私たち自身にとって大切な課題です。毎日の生活のなかから問題を見つけ、教育・啓発の内容として工夫し、効果的に推進することが必要です。
(3) 具体的施策の方向
ア 家庭教育の充実
子育てについてのセミナーの開催、子育て支援のための事業の実施、各種相談機関の相談機会の拡大や相談員の資質向上に努めます。また、男女共同参画社会の実現に向けた、家庭や地域づくりに関する情報等の提供に努めます。
イ 人権教育を進めるための指導体制の充実
市町村が、地域の実情を踏まえ、関係機関や団体と連携して人権教育を推進できるよう、指導体制を充実するための方策に対して、その支援に努めます。
また、人権に関する学習活動のための指導者養成、各種資料の作成等を支援するとともに、国内外の取り組みに関する情報の提供や指導者の派遣に努めます。
ウ さまざまな学習機会の提供
いつでも、どこでも、だれもが参加できる学習機会の提供に努めます。そのため、これまで地域で取り組まれてきた子どもを対象とした活動、女性を対象とした活動、識字学級などの課題に即した活動など、さまざまな人権学習の取り組みを支援します。また、隣保館や公民館等の有効な活用を図るなど、多様な学習機会の提供にも努めます。
エ 有効な学習内容への支援
地域社会における人権教育の推進に当たって、地域の生活課題を踏まえた学習プログラムの設定、学級・講座等での具体的な人権学習の内容の充実を図るとともに、学習内容や教材を作成するための情報の提供に努めます。特に、情報化社会に対応した多様なメディアを利用した視聴覚教材、教育放送番組や視聴覚ライブラリーの整備・充実に努めます。
オ 地域が一体となった人権教育の推進
県や市町村、民間における社会教育施設、生涯学習施設、社会福祉施設等の有機的な連携を進め、人権教育に関する各種講座や学習情報の提供等の充実に努めるとともに、県民の自主的な学習活動の支援や、市民レベルの企画の活用などに努めます。
そのため、PTA等の各種団体の独自の活動を奨励・支援するとともに、モデル地域の指定等を通して、互いの交流・連携を支援します。また、関係施設等を核とした社会教育関係団体との人権教育のための地域ネットワークづくりに努めます。
学校(園・所)においては、幼児児童生徒個人の尊厳とその最善の利益の確保を最も大切にして教育が進められなければなりません。当然のことながら、子どもが学校教育の主役であり、子ども一人ひとりは、権利の主体であることをまず踏まえておく必要があります。そして学校におけるあらゆる教育活動を通して、幼児児童生徒に、自他の人権についての理解を深め、それを具体的な行動へとつなぐことのできる力を育てていくことが大切です。
これまで、就学前教育においては、人権を大切にする心の育成が図られ、また、小・中・高等学校においては、同和問題等について基本的な理解と解決のための主体的な実践力の育成が図られてきました。大学等においても、同和問題をはじめとする人権問題の講座が設けられるなど、人権に関する学習が進められてきました。
しかし、いじめや不登校、差別事象の発生など、子どもの人権にかかわる課題が多く存在しています。また、子どもが、人権や差別についての正しい理解とそれに基づく行動力を十分に身に付けているとは言いがたい状況にあります。
こうした状況から、学校においては、同和教育の成果を生かしながら、幼児児童生徒自らが人権について考え、生活のなかから問題を見つけ、それを解決しようとする力を養えるようにすることが大切です。また、国際化の進む現在にあって、多様な国籍、民族の人々の人権を大切にする意識を培うことも必要です。
こうした取り組みを進めるため、教職員は、人権教育の推進に果たす役割の重要性を自覚し、自ら研修に努めるとともに、学校及び県・市町村教育委員会においても、研修の機会を計画的に確保する必要があります。
ア すべての学校教育活動における人権教育の推進
教科領域における人権学習はもちろん、学校のあらゆる教育活動において、幼児児童生徒の人権意識の育成に努めます。人権学習の指導に当たっては、生活の場をテーマとした体験・参加型学習を取り入れるなど、指導内容とその方法の改善・充実に努めます。また、一人ひとりの個性を認め、意欲を高める教育評価の創造に努めます。
イ 実践的研究を進めるための研究校指定と学習資料の提供
人権教育を進めるために、これまでに構築されてきた研究体制を充実させ、実践的研究や調査研究を行う研究校等を指定するとともに、学校等における新たな教材の開発や各種資料の作成に努めます。
ウ 同和教育の成果を生かした人権教育の内容の充実
同和教育のなかで培われた学習内容や手法を生かし、国籍、民族又は文化が異なる人々と共に生きるための多文化共生教育など、人権教育の内容の充実に努めます。また、すべての児童生徒の基礎学力の向上に努めるとともに、進路保障など、自己実現を支援します。
エ 教職員研修の計画的な推進
教職員の意欲と関心を高め、指導者としての資質向上を図るため、本県の実情とさまざまな教育課題に応じた計画的な教職員研修を実施します。また、市町村や各学校における研修がさらに推進されるように、指導と支援に努めます。
オ 学校・家庭・地域社会の連携
人権尊重の精神や態度は、幼いころの家庭教育に始まり、保育所・幼稚園、さらには小学校から高等学校にかけての教育、地域社会とのかかわりのなかで養われます。幼児児童生徒が、主体的・意欲的に人権について学習し、行動する力を培うため、開かれた学校という観点から見直しを図り、学校・家庭・地域社会が一体となった人権教育を推進します。
カ 大学等における人権教育の推進
県立の大学・専門学校においては、人権に関する講義を充実するなど、人権教育の推進を図ります。その他の大学等においても、人権教育が進められるよう促します。
企業は、文化や社会生活の向上に大きな影響力を持っており、「豊かな社会づくりに貢献する」という社会的責任を担っています。また、企業に働く人自身も、地域社会の一員であることから、企業とそこに働く人々は、差別のない職場づくりと人権を大切にした住みよい社会づくりに努め、地域社会と共存共栄することを大切にしなければなりません。
差別図書である「部落地名総鑑」を購入していた県内企業のあることが発覚したことを契機に、1977年(昭和52年)に、奈良県同和対策就職促進協議会を設置し、企業主及び公正採用選考人権啓発推進員(企業内同和問題研修推進員)を対象に研修会を実施してきました。また、1987年(昭和62年)には奈良県同和対策雇用センターを設置し、雇用指導員による企業に対する巡回指導を行うなど、人権についての啓発や指導に努めてきました。
現在、企業においては、同和問題をはじめとした人権問題への取り組みとして、公正採用選考人権啓発推進員(企業内同和問題研修推進員)が中心となり、社内研修会の実施や人権啓発等の取り組みが進められています。また、市町村単位で、企業内同和教育推進協議会も組織されており、それぞれの市町村同和教育推進協議会と連携しながら、同和問題の解決を目指した企業内啓発や、就職の機会均等を図るための研修会の実施、研修教材の提供等の取り組みが行われています。
しかしながら、依然として職場内での差別事象や採用選考時の統一応募用紙趣旨違反などが発生しており、企業における一層の人権教育の取り組みが必要となっています。
ア 企業内の推進体制の充実
企業主が人権教育の重要性を理解し認識を深めるよう指導し、公正採用選考人権啓発推進員(企業内同和問題研修推進員)選任企業の増加に努めるとともに、同推進員が研修に取り組める体制が整備されるように指導していきます。また、企業としての社会的責任の自覚の高揚を図るため、研修会の開催や雇用指導員による巡回指導の充実にも努めます。
イ 企業内の人権教育の推進
公正採用選考人権啓発推進員(企業内同和問題研修推進員)が社内研修を実施しやすいように、研修内容や方法等を指導するとともに、講師の紹介、研修教材としての啓発冊子等の作成・配布などの支援に努めます。また、推進員等に対する研修の充実も図ります。
ウ 企業相互による人権教育推進のための組織づくり
奈良県同和対策就職促進協議会、市町村企業内同和教育推進協議会等との連携を図り、企業における人権教育の取り組みを促します。企業内同和教育推進協議会が未設置の町村に対しては、その設置を要請していきます。
エ 就職の機会均等の確保
同和地区の人々や女性、高齢者、障害者、外国人、HIV感染者等、アイヌの人々、刑を終えて出所した人などすべての人々の就職の機会均等を確保するため、公正な採用選考システムの確立が図られるように、企業に対して指導・啓発を行います。
【ページトップへ戻る】 4 特定の職業に従事する者に対する人権教育の推進 次に掲げる者は、特に人権の擁護に努めなければならない職業に従事しており、研修等による人権教育を積極的に推進する必要があります。
(1) 公務員
全体の奉仕者である公務員は、憲法の基本理念の一つである基本的人権の尊重を行政施策を通じて具体化するという職責を担っています。一人ひとりが公務員としての自覚と使命感を持ち、常に人権を尊重して職務の遂行に努めなければなりません。このため、あらゆる人権問題に対する正しい理解と認識を深めるとともに、差別を見抜き差別を許さず、積極的に人権問題の解決に取り組む判断力と実践力を習得するための効果的な研修が必要です。
県の職員研修では、新規採用者から管理・監督者に至るまでのすべての階層で、同和問題をはじめとする人権問題についての研修を段階的に実施しています。特に、各職場での自主研修の活性化とリーダーの養成を目的とする職場研修や指導者養成研修においては、研修修了者が中心となって職場研修が行われるよう、討議、ディベート、現地研修等の参加型の研修技法を取り入れ、内容の充実を図っています。
今後においても、時代の変化を考慮し、適宜研修内容の見直しを図り、体験・参加型学習を一層取り入れるなど、研修方法に工夫を加えつつ、体系的な職員研修を実施します。また、職員研修所における研修機材や教材を整備し、各職場での研修が活発に行われるよう積極的に貸し出すとともに、関係機関、民間団体が実施する講座への職員の参加や人権教育を推進する内部講師の養成に努めます。
(2) 教職員
教職員は、学校における教育活動を直接担い、幼児児童生徒の成長発達に大きな影響を与える立場にあり、本県における同和教育の推進に重要な役割を果たしてきました。その成果を生かし、人権を尊重した学校教育を実施するための知識や技術の向上に努めることはもとより、自分の生き方にかかわる課題として人権感覚の向上に努める必要があります。また、教職に携わる者としての社会的な役割を自覚し、PTA活動や地域の取り組みに積極的に参加するなど人権が尊重される社会づくりにも貢献しなければなりません。
そのため、県立教育研究所においては、校長・教頭同和教育研修講座をはじめ、5か年、10か年、15か年、20か年の節目の研修、同和教育実践講座など系統的な研修を実施し、教職員が人権に対する認識を深め、人権を尊重した学校教育を実践できるように努めています。また、県及び市町村教育委員会の関係課においても、それぞれの課題をテーマとした人権に関する研修会を設定し、実施しています。
学校においては、現在、いじめなど幼児児童生徒の人権にかかわる教育課題が生じています。これらの課題の解決を図るとともに、同和教育の成果を生かしながら人権教育を推進するため、教職員の資質の一層の向上が求められています。そのため、カウンセリングマインド(相手の訴えをありのまま受けとめ、その背後にある気持ちに耳を傾けていくという姿勢・態度)の育成を図るとともに、体験・参加型学習を取り入れた職場研修の実施等、研修の充実を図ります。また、関係機関や民間団体の研修との連携など、職員研修の充実に努めます。
(3) 警察職員
警察は、公共の安全と秩序の維持という責務の遂行のため、犯罪行為を行おうとする者に対し実力を行使して強制的に阻止するなど、国民の権利・自由を制限する活動も行うことができます。この警察の権限行使は、あくまでも法律で定められた範囲内で、濫用することなく、かつ、必要な限度を超えないように行われなければなりません。
警察活動に当たっては、被疑者の人権尊重について、警察学校での初任科教養時に憲法や刑事訴訟法などの講義を通じて学習しているのをはじめ、職場における日常的な教養を通じ身に付けるよう努めています。一方、被害者には、直接的な被害の回復や軽減を図るだけではなく、精神的な被害等の二次的被害をなくすように努めています。また、少年の非行防止、健全育成等の少年問題について、婦人少年補導員にカウンセリング研修を受講させるなど、相談体制の充実も図っています。
今後とも、「警察職員の信条」に基づく職業倫理教養を徹底し、適切な市民応接の推進に努めるとともに、初任科教養における人権教育やボランティア体験研修の実施、警察学校及び職場において職員全体の人権意識の高揚を図るための研修会の開催等、施策の推進に努めます。
(4) 医療・保健関係者
医師、歯科医師、薬剤師、看護婦・士、保健婦・士、その他医療技術者等あらゆる医療・保健従事者は、人々の健康と命を守ることを使命とし、さまざまな疾病の予防や治療、介護、相談業務を担っています。業務の遂行に当たっては、患者や要介護者の人権を尊重するとともに、プライバシーへの配慮や病歴等診療情報の保護に努めるなど、人権意識に根ざした行動が求められています。
また、近年の科学・医療技術の発達に伴い、遺伝子治療や臓器移植などの高度先進医療においては、新たな人権問題が発生することも憂慮されます。
このため、職員の採用時の研修や職場研修などで、接遇研修や同和問題など人権にかかわる研修を実施し、医療・保健従事者の人権意識の高揚に努めているほか、県立医科大学においては、生命倫理にかかわる問題を討議するため「医の倫理委員会」を設置し、治療、研究等の実施計画を医学的・倫理的及び社会的な観点から審査するなど、生命の尊厳を守るよう努めています。
今後においては、すべての保健・医療機関に従事する者が、人権の重要性をさらに認識し、患者の立場に立った適切な処遇を図るよう、人権意識の高揚を図るためのカリキュラムを新たに加えるなど、関係機関・団体と連携し、研修の充実に努めます。医療現場においては、インフォームドコンセント(医療内容について十分な説明を受けた後での患者の同意・承認)の徹底を図るため、職場研修を充実するほか、人権意識高揚のための組織を設置又は拡充するよう働きかけます。
県立医科大学、看護学校等医療関係者の養成機関で実施している人権に関する特別講義については、これを拡充するほか、医師の卒後教育として行われる臨床研修において人権意識の高揚に努めるなど、人権教育の推進を図ります。病気に対する社会的な偏見や差別をなくすため、県立医科大学の医療機能を活用したり、専門医等による公開講座を開催するなど、正しい知識の普及にも努めます。
(5) 福祉関係者
福祉事務所職員や民生委員・児童委員、身体障害者・精神薄弱者相談員、社会福祉施設職員、社会福祉協議会職員、ホームヘルパーその他社会福祉関係事業に従事する者は、高齢者や障害者をはじめさまざまな人々の生活相談や身体介護などに直接携わっています。そのため、職務の遂行に当たっては、人間の尊厳と個人の身上に関する秘密を守るなど、人権意識に立脚した判断力と行動力が求められます。
こうした認識に立ち、民生委員・児童委員と保育所職員を対象とした同和問題研修会と同和保育研修会の実施をはじめ、社会福祉主事資格認定講習会や生活保護現業員研修会、ホームヘルパー現任研修会等のカリキュラムに同和問題研修を組み入れるなど、社会福祉関係事業従事者の人権意識の普及・高揚に努めています。
今後、これらの研修会を、人権教育の視点からさらに充実させるとともに、社会福祉協議会等のホームヘルパー養成研修事業等に人権に関するカリキュラムを組み入れるよう指導するなど、人権教育の推進を図ります。市町村や社会福祉法人、福祉関係企業においても、社会福祉にかかわる業務に従事する者すべてが人権意識の高揚を図るため、各職場での人権教育が実施されるよう、助言・指導に努めます。
(6) 消防職員
消防職員は、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減するという、人権そのものの擁護を職務としており、緊急時はもとより、平時においても、社会の安寧秩序を保持し、公共の福祉の増進に努めなければなりません。
市町村職員である消防職員の研修は、県消防学校と市町村で実施しています。県消防学校においては、採用後の初任科研修で同和問題研修を、役職者研修や救助科等の専科教育で人権や倫理に関する研修を、それぞれカリキュラムとして組み入れています。
今後においては、県消防学校での人権についての学習機会の充実を図るとともに、市町村の取り組みも促していきます。
(7) マスメディア関係者
情報化が進展する今日、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌等のマスメディアが社会情報の大部分を提供しており、人々の価値判断や意識形成に非常に大きな影響力を持っています。同和問題や女性問題、高齢者問題、障害者問題等をテーマとした記事や番組を独自に取り上げ、読者や視聴者の人権意識の高揚に役立つ取り組みが行われている一方、個人の名誉やプライバシーを侵害したり、あるいは、偏見や差別を助長しかねない報道も時には見受けられます。マスメディアは、人権を守る有効な啓発手段であると同時に、人権を侵害する危険性もはらんでいるといえます。
マスメディアは正確な情報を国民に提供するという公共的使命を踏まえ、人権尊重の視点に立脚した取材活動や紙面・番組の編集を行うように、社員及び関係者の人権教育を一層充実させる自主的な取り組みが期待されます。
【ページトップへ戻る】 第5章 重要課題への対応
(1) 現状と課題
同和問題は、1965年(昭和40年)の「同和対策審議会答申」に示されているように、日本国憲法によって保障された基本的人権にかかわる課題です。
本県の同和対策は、1948年(昭和23年)に環境改善事業補助を初めて実施し、「同和対策事業特別措置法」が制定された1969年(昭和44年)以降は、国の制度も導入し、市町村をはじめ関係機関、民間団体等と共に積極的に推進してきました。同和教育については、これを教育行政の主要な柱と位置付け、就学保障、学力較差の是正、進路保障、人権尊重の精神の徹底等を課題として、諸施策の充実を図ってきました。啓発活動では、県民の同和問題に対する正しい認識と理解を培い、差別をなくす意欲と実践力を高め、人権侵害を許さない雰囲気を醸成するため、積極的に取り組んできました。
市町村においても、同和対策が進められるとともに、各首長を本部長とする同和問題啓発活動推進本部や各市町村同和教育推進協議会等が連携し、同和問題をはじめとするあらゆる人権問題を解決するための取り組みが推進されてきました。
これらの取り組みにより、生活環境をはじめ同和地区の生活実態は大きく変化し、また、県民の差別意識も着実に解消へ向け進んできました。しかしながら、依然として、教育、就労、産業等における較差の是正、差別事象の発生等にみられる差別意識の解消、同和対策事業に対する「ねたみ」意識の克服などの課題が残されています。
このようななか、1996年(平成8年)5月の地対協意見具申では、とりわけ差別意識の解消に向けた教育及び啓発活動の充実が提起されています。
本県においても、これまでの経緯と成果を踏まえながら、同和問題の解決に向けた教育及び啓発活動の充実に努める必要があります。
(2) 具体的施策の方向
ア 教育課題の克服
同和地区生徒の高校・大学等への進学率はかなり向上したものの、依然として教育をめぐる較差が存在しています。この背景には、生徒・保護者の進路に対する意識、児童・生徒の学力などの問題が考えられます。
これらの問題を解決するため、これまでの施策に検討を加えながら、学校・家庭・地域の教育力の高揚、三者が一体となった就学前教育の充実、学力の向上を図る取り組みなどを進めます。また、隣保館や集会所、児童館等で行われている識字学級や子ども会活動など地域活動の充実に向け、必要な制度を引き続き実施するとともに、これらの事業を推進していくための指導者の養成にも努めます。
イ 啓発活動の推進
同和問題啓発活動を推進するなかで蓄積されてきた成果と手法への評価を行いつつ、世界の人権教育のさまざまな手法にも学びながら、より効果的な啓発活動の推進に努めます。特に、参加者や対象者の学習・研修のレベルやニーズを考慮し、県民の自主的・主体的な学習意欲を喚起するよう内容や手法に工夫を凝らします。
また、これらの実施に当たっては、毎月11日の「人権を確かめあう日」の取り組みなど、市町村をはじめ関係機関、民間団体等との連携・協力をより一層密にしながら推進に努めます。
ウ 就労の安定
若年齢層を中心に職域、職種の広まりなどの成果をみてきているものの、中高年齢層においては依然として不安定就労の傾向が現れています。就職の機会均等を保持し、就職を促進するため、雇用主に対する指導、啓発に努めます。
また、差別のない明るい職場づくりを進めるため、公正採用選考人権啓発推進員(企業内同和問題研修推進員)の設置促進や、従業員への研修の充実が図られるよう、企業への働きかけを、奈良県同和対策就職促進協議会と連携して実施していきます。
エ 隣保館事業の推進
同和地区住民の生活の社会的、経済的、文化的改善向上を図り、同和問題の解決を図ってきた隣保館において、周辺地域を含めた地域社会全体のなかで、住民交流の拠点となる開かれたコミュニティーセンターとして、生活上の各種相談事業をはじめ、社会福祉等に関する総合的な活動や人権・同和問題について理解を深めるための事業が展開されるように支援します。
【ページトップへ戻る】 2 女 性 (1) 現状と課題
日本国憲法の具現化や女子差別撤廃条約の批准等により、我が国においても、男女平等の実現に向けた各種の法律や制度の整備が図られてきました。
しかしながら、人々の意識や行動、社会の慣習・慣行のなかには、いまだに女性に対する差別や偏見、男女の役割に対する固定的な役割分担意識が残っています。こうした社会の在り方は、女性があらゆる分野で自らの可能性を開花させることを困難にしているだけでなく、男性が自由な生き方を求めようとすることも阻んでいます。これは、女性の人権が侵されているということと、同時に、男性の人権の基盤をも弱いものにしているということにつながります。
こうした女性に対する差別や偏見、固定的な性別役割分担の考え方は、本県女性の就業率の低さにもつながり、「男らしさ、女らしさ」の考え方が子どもの育て方にも反映されていると考えられます。また、女性の過半数は何らかの社会・地域活動に参加し、割合としては男性を上回るのに、団体の長やリーダーシップを取っているのは圧倒的に男性で、女性はわずかとなっています。女性があらゆる場に参画し能力を発揮するためには、家庭や学校、企業などにおいて、ジェンダー(社会的・文化的につくられた性別)に基づく固定的な性別役割分担意識を払しょくし、男女平等・対等意識を広めることが大切です。
また、女性に対する暴力は、女性の人権及び基本的自由の享受を妨げ、侵害するものであり、あらゆる暴力を許さない社会の意識を醸成することが大切です。
本県では、1997年(平成9年)2月、「なら女性プラン21」を策定し、女性の人権が尊重され、真の男女平等社会、すなわち「男女共同参画社会」が実現されることを目指しています。
ア 社会活動の活性化
女性のエンパワーメント(政治・経済・社会・家庭などのあらゆる分野で、学習・経験などを通じて力を付けること)の促進、女性の積極的な社会参加などを図るため、県女性センター等での学習機会の整備充実に努めるとともに、さまざまな学習活動・実践活動への支援に努めます。また、女性が被るさまざまな不利益についての相談体制の充実に努めます。
イ 意思決定の場への女性の参画
県審議会等への女性の登用率が、2005年(平成17年)までに30%以上となるよう努めます。また、企業、民間団体に対しては、女性の方針決定の場への参画促進を図るため、広報・啓発活動の充実や女性人材育成にかかる情報収集・提供を進めます。
ウ 生涯学習における男女平等・対等の推進
学校・社会教育において男女平等・対等意識を醸成するとともに、家庭教育においても、家族員の固定化された役割分担の見直しなど、互いの人権が尊重されるよう啓発に努めます。
エ 男女平等・対等を実現するための啓発
女性に対する差別の解消、あらゆる分野における固定的な性別役割分担意識の払しょくとともに、「性の商品化」、セクシュアル・ハラスメント(性的いやがらせ)、家庭内暴力などあらゆる形態の女性への暴力をなくすための啓発を進めます。また、雇用における男女の均等な機会と待遇の確保等のための啓発を進めます。
オ 女性の身体的特性の尊重
学校、家庭、地域社会と連携した低年齢からの性教育の推進や、女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康・権利)を確立するための学習機会の提供と啓発、性的暴力をなくす取り組みなどを積極的に進め、性の尊重についての理解、認識についての浸透を図ります。
カ 国際社会の発展のための女性の連帯
多様な文化や価値観を認め、グローバルな視点で行動できる女性の育成を図るため、国際理解教育、開発教育等の学習機会の提供に努めるとともに、女性問題をめぐる世界各国の取り組みの紹介など、情報の提供を進めます。
【ページトップへ戻る】 3 子ども (1) 現状と課題
戦後、我が国は急速な経済発展を遂げるなかで、学歴重視の傾向が進み、夜遅くまで塾に通うなど子どもたちの教育環境も変化しました。子どもたちは、物質的な豊かさを享受する一方、生活体験や自然体験などが少なくなり、社会性の不足や自立の遅れなどが見受けられるようになり、健全な成長を保障されているとは言いがたい状況にあります。
家庭においては、核家族化や少子化に伴う親の過保護や過干渉、あるいは放任、また、幼児虐待などの子どもに対する暴力のため、子どもたちは将来への夢や希望を持てず、それぞれの発達段階における課題を果たせないまま年齢を重ねる状況もみられます。このことが、子どもたちの自尊感情の醸成や自己実現に影響をもたらすとともに、子どもたち同士が互いの人格を認め、育ち合うことを困難にしています。
そのうえに、有害図書(ビデオ)、テレクラ、援助交際という名の売買春行為など、性の商品化や覚せい剤等薬物乱用の問題が子どもたちの心身をむしばむといった憂慮すべき社会現象もみられます。
学校においては、いじめや、不登校、体罰、高等学校中途退学など、子どもの人権にかかわる教育上の問題も起きています。
こうした問題を解決し、子どもの自尊感情と肯定的な自己概念をはぐくむ環境を整えるためには、学校、家庭、地域社会が互いに連携を図り、それぞれの教育力を高め、その力を十分に発揮しながら、児童生徒の人権の尊重及び保護に向けた取り組みを推進する必要があります。また、地域における人権問題の解決に主体的に取り組む意欲と実践力を育成することが必要です。
ア 「児童の権利に関する条約」の理念・内容の周知とその具現化
子どもの健全な成長発達を保障するためには、その基盤として、子どもを権利の主体者としてとらえることが重要であり、「児童の権利に関する条約」の理念・内容の周知徹底と具現化に努めます。
学校においては、人権尊重、生命尊重の精神の育成に取り組み、児童生徒一人ひとりを大切にし、個性を生かす学校づくりを進めます。
また、家庭においては、家族が互いに支え合い、互いに尊重されるべきであるという観点に立ち、親権が正しく行使され、子どもの権利が認められるよう啓発に努めます。
イ いじめ問題等への取り組み
いじめ問題をはじめ不登校、体罰等の問題は、児童生徒の人権にかかわる重大な問題であるとの認識に立って、対策実行委員会の設置等の施策を講じるとともに、市町村教育委員会や学校においても、その予防や解決の取り組みを進めるよう指導します。
また、児童生徒一人ひとりを多様な個性を持つ、かけがえのない存在として受けとめ、学校教育の枠にとどまらず、家庭や地域、関係機関・団体との連携を積極的に進め、社会全体が一体となって取り組むべき問題であるとの認識を深めるよう、啓発に努めます。
ウ 健全育成に向けての取り組み
覚せい剤等薬物、テレクラ、援助交際という名の売買春行為、児童ポルノなど、子どもたちを取り巻く社会環境がますます悪化していることを踏まえ、家庭や地域、関係機関・団体との連携を図りながら、薬物乱用の防止や性の商品化の防止のための取り組みを進めます。
また、社会性の不足や自立の遅れに対応するため、ボランティア活動などの地域社会への参加活動や自然との触れ合いの場を提供し、体験と出会いの中で、人権尊重の精神と社会の一員としての役割の自覚を促すとともに、視野の広いたくましい子どもの育成を目指します。
エ 教育相談体制の充実
子どもたちの社会生活への適応、子育てに対する支援等を図るため、スクールカウンセラーの配置や各種相談事業など教育相談体制の充実を図るとともに、教育相談や適応指導にかかわるノウハウを提供し、市町村の事業の充実を図ります。
オ 就学前教育における子どもの人権尊重
乳幼児期は、生涯にわたる人間形成の基礎を培う極めて大切な時期であることから、1987年(昭和62年)に示した「奈良県同和保育基本方針」の理念に基づき、家庭や地域と連携しながら、就学前の子ども一人ひとりの発達段階や個性に応じた保育を実施します。また、人権尊重の視点に立った保育を一層推進するため、保育・福祉関係者の研修の充実を図ります。
カ 要保護児童対策の充実
児童虐待、養育放棄など、子どもの人権侵害について早期に発見し、子ども及び保護者への指導・援助活動が迅速に行えるよう、相談支援体制を強化していきます。
また、子どもの保護に当たっては、個別のケースに応じた適切な指導・援助ができるよう、職員の資質の向上に努めます。
【ページトップへ戻る】 4 高齢者
我が国では、21世紀には4人に1人が高齢者という超高齢社会になると見込まれており、本県も、全国に比べて高齢化率は低いものの、着実に高齢化へと進んでいます。そのため、本県では、国の新ゴールドプランに基づき、今後取り組むべき施策の基本的方向を設定して、高齢者が住み慣れた家庭や地域で生活を送ることができるよう努めています。
しかし、高齢化の進展に伴って、寝たきりや痴ほう症の高齢者が急速に増えると見込まれ、また、介護に必要な期間の長期化、高齢者と家族との同居率の低下、介護する家族の高年齢化等、家庭の扶助機能が期待できにくくなるなかで、老後に関する最大の不安として、病気や介護の問題が顕在化しています。
また、家族の介護負担が重過ぎると、身体的、精神的に余裕がなくなり、介護をめぐる家族間の不和が生じたり、介護が放棄されたり、高齢者の人格が軽視されたりすることが生じ得ます。また、近年、高齢者に対するいじめ、暴力、遺棄、財産奪取等により高齢者の人権が著しく侵害されたり、高齢者の孤独死や自殺の増加といった深刻な社会問題も生じています。
このような状況を防止し、高齢者とその家族を支援していくためには、住みよいまちづくりの推進、在宅福祉サービスの充実や住環境の整備、保健福祉施設の整備など、高齢者の人権に配慮した社会づくりに努めるとともに、地域全体で高齢者を支えていく仕組みが必要です。
また、高齢者が健康で生きがいを持ち、安心して生涯を過ごすことができる社会を構築するため、高齢者の人間としての尊厳の確保、プライバシーの保護などに十分な配慮がなされなければなりません。そのためには、成人後見人制度の確立とともに、権利を擁護する機関の設置など、高齢者福祉の環境づくりが課題となっています。
ア 啓発活動の推進
高齢者は、長年にわたり地域社会の発展にかかわってきた人々であり、尊敬の念を持って接することが大切であることや、高齢者の人格やプライバシーに十分配慮する必要があることについて、県民の意識の高揚に努めることが必要です。
9月に設定している「敬老の日・高齢者保健福祉月間」におけるキャンペーンを中心に、さまざまな啓発事業を積極的に実施します。
現在建設中の県営福祉パークの福祉体験館で、高齢者介護の実習等を通じて、地域住民及び中・高校生等への介護知識、介護技術の普及に努めるとともに、介護機器の展示・相談等を通じ、「高齢化社会は住民全体で支えるもの」という考え方を広く啓発します。
イ 生きがいづくり事業の充実
介護等を必要としない元気な高齢者に対しては、活力ある長寿社会の実現に寄与するため設置した「(財)奈良県長寿社会推進センター」と連携を図り、高齢者の生きがいづくりや健康づくりの事業の充実に努めるとともに、「なら高齢者大学」「高齢者美術展」等の開催や、高齢者が参加できるボランティア活動の情報提供に努めます。
ウ 就労の機会の確保
高齢者が長年にわたり培ってきた知識、経験等を活用し、65歳まで現役として働くことができる社会を実現するため、60歳定年の完全定着、継続雇用の推進、多様な形態による雇用・就業機会の確保のための啓発活動に取り組みます。
エ 高齢者の自立・社会参加の支援
虐待その他高齢者に対する人権侵害の発生を防止し、また、介護や日常生活に関する相談が気軽に受けられるよう、県高齢者総合相談センターなどの相談窓口業務を充実します。
高齢者が地域で安全に生活できるよう、福祉のまちづくりを推進し、県民の意識の高揚に努めるとともに、高齢者を支援するボランティア活動を推進します。
県内の障害者は、年々増加する傾向にあり、重度化、重複化及び高齢化が進んでいます。また、障害や障害者に関する理解や認識の不足から、本人や家族が差別的な発言を受けるなど、人権を傷つけられたり、施設や制度の不備から障害者の活動が妨げられるなどの問題が起こっています。一方、障害者自身の自立意識や社会参加への意識が向上するとともに、生活の質の向上への意識も高まってきました。
国では1993年(平成5年)12月に心身障害者対策基本法を障害者基本法に改正し、障害者の自立と社会、経済、文化等あらゆる分野への参加を促進する取り組みが行われています。本県においても、障害者が、住み慣れた地域で自立し、積極的に活動できる社会を築いていくためには、ノーマライゼーションの理念を広く社会に定着させるとともに、「完全参加と平等」に向けた施策に取り組まなければなりません。
子どもから社会人まで、すべての人々が、障害者への理解と助け合いの心を養い、行動できるように、県民それぞれのライフステージに応じた教育・啓発を進める必要があります。また、奈良県障害者福祉に関する新長期計画に基づき、社会的、経済的、環境的、文化的な基盤を整備する施策を展開する必要があります。
障害者の社会参加を阻害している障壁の除去や障害者を取り巻く諸問題について、正しい理解を深めるため、「心身障害者福祉強調月間」「障害の日」「精神保健福祉普及運動」等の機会におけるキャンペーン活動やマスメデイアの活用など、啓発の充実を図ります。また、障害や障害者に対する理解の不足から生じる差別や偏見の解消に努めます。
イ ふれあいの機会の拡大
障害者と障害を持たない人がふれあえるスポーツ活動、文化活動、交流イベントとして「ふれあいの集い」「精神保健福祉大会」等の事業を開催するとともに、障害者が積極的に参加できるように支援します。これらの活動に関する情報の提供やボランティア活動への呼びかけにも努めます。
ウ 研修の充実
教育に携わる教職員、障害者の日常生活を支援する保健・福祉関係職員、治療に携わる医療関係職員、障害者の就職問題にかかわる職業安定所の職員などに対し、人権に関する研修の充実に努めます。
加えて、県民が地域においてそれぞれの立場でボランティア活動に参加し、その活動の輪が広がるよう、ボランティアの養成のための研修等を積極的に実施します。
エ 障害児教育の推進
障害児の自立や社会参加を促進するため、早期教育や通級による指導など、障害の特性等に応じた多様で、きめ細かい教育を展開するとともに、保護者に対する就学等についての相談体制の充実を図ります。
また、障害及び障害者(児)問題に関する正しい理解を促進するための教育も推進します。特に、幼少時からの取り組みが重要であることから、保育所、幼稚園、小・中・高等学校において、障害児教育諸学校や障害児学級との計画的、継続的な交流教育等を推進します。
オ 障害者の自立・社会参加の支援
障害者が地域で安全に生活できるよう福祉のまちづくりを推進し、県民の意識の高揚に努めます。また、障害者が自立した生活を送ることができるように、障害者雇用促進月間を中心とした啓発活動や法定雇用率を達成するための指導、障害者雇用セミナーの開催などにより、事業主の理解を求め、雇用の場の確保を図ります。障害者の個性に配慮した的確な職業・就労相談や生活等に関する相談の体制整備にも努めます。
【ページトップへ戻る】 6 外国人
近年、諸外国との人的な交流もますます活発化しており、日本に在住する外国人が増加するとともに、滞在期間の長期化もみられるようになってきました。本県に在住する外国人登録者数は1万1千人弱で、その国籍は70数か国に及んでいます。その内の約60%は韓国・朝鮮人の人々が占めていますが、これらの人々の多くは歴史的な経緯によって、第2次世界大戦の終戦以前から生活している人々とその子孫です。
戦後50年を経た現在も、在日の韓国・朝鮮人に対する差別や偏見は根強く、民間住宅への入居拒否や就労に関する不利な取扱いを受けるといった問題が生じています。また、国際化が急速に進展するなかで、アジアや中南米等の国々から来日し県内で暮らす外国人と、地域においてかかわる機会が増えてきていますが、言語や習慣・文化の違い等により相互理解が十分でないことから、新たな摩擦や問題も起こっています。
このような問題をなくすためには、在日韓国・朝鮮人をはじめ日本に居住する外国人について、その歴史を正しく認識し、多様な文化、習慣、価値観等を尊重し、国籍を越えてすべての人々の人権が保障される共生社会の実現に努めることが大切です。
ア 「内なる国際化」の推進
国籍や民族を問わずすべての人が、同じ人間として尊重し合い、異なった生活様式や考え方を理解し、違いを認め合って共生していく「内なる国際化」を進めるため、各種セミナーの開催などを行います。特に、近隣諸国と我が国との歴史等について、正しい理解と認識を深めるよう努めます。
イ 生活情報等の提供
外国人は、県内で生活するに当たって、言語などが異なるため必要な生活情報を得にくいという点から、外国語表記による身近な生活情報の提供や生活相談窓口の充実を図るとともに、市町村等における通訳及び翻訳業務の支援を行います。また、公共施設での外国語表記についての検討を進めます。
ウ 厚生援護・住宅問題への取り組み
現在の保健・福祉等の制度について、対象となる外国人が不利益とならないよう、制度の周知徹底を図ります。
また、賃貸住宅等への入居については、単に外国人であるという理由のみで入居が断られたり、制限されたりすることのないよう、関係業界団体等への指導に努めます。
エ 教育・啓発活動の推進
在日外国人教育、国際理解教育を推進するとともに、在日韓国・朝鮮人をはじめ、アジア諸国等の人々に対する差別や偏見を解消するため、正しい文化・歴史認識の醸成を図る教育・啓発活動の充実に努めます。また、在日外国人児童生徒が、進んで自国の文化や歴史等を正しく認識し、確かな自己概念や民族としての誇りを培えるような指導の充実を図るため、在日外国人(主として韓国・朝鮮人)児童生徒に関する指導についての研修会の実施などにより、教員の資質の向上に努めます。
オ 就労の機会均等の確保
国内での生活基盤の確立のためには就労の機会均等の確保が重要です。そこで、就労可能な外国人について不当な取扱いがなされることのないよう、事業主等に正しい理解と認識を求め、就労の機会均等の確保に努めます。
カ 日本語教育の推進
日本で居住し生活する外国人にとっては、日本語の習得が極めて重要であることから、学校における外国人児童生徒の教育の保障、主に、成人が学習している日本語教室等の充実を、市町村等と連携して進めます。また、現在、民間団体等で行われている日本語教室への助成などの支援に努めます。
【ページトップへ戻る】 7 HIV感染者等
我が国の社会においては、今なお、さまざまな病気についての正しい知識と理解が十分に普及しているとはいえません。特に、エイズやハンセン病をはじめとした伝染病に対する医学的・科学的認識が不十分であり、伝染病り患者や感染者及び家族に対する差別や偏見がみられます。
病気に関する人権侵害をなくすため、正しい情報の提供など啓発に努めるとともに、り患者や家族が安心して生活できる社会を実現していく取り組みが必要です。
ア 教育・啓発活動の推進
伝染病り患者や感染者に対する差別や偏見をなくし、人間としての尊厳と自由を認め合い、共に生きる社会をつくるため、街頭啓発、パンフレットの作成配布、フォーラムや県立医科大学での公開講座の開催などにより、病気に関する正しい県民の理解を促進し、人権尊重の理解・認識の高揚に努めます。
イ 医療関係者の研修
医師をはじめとする医療従事者に対し、伝染病り患者と家族のプライバシーの保護や人権を尊重するための研修会等を実施します。
ウ 学校教育の充実
病気に対する正しい理解と認識を深めるため、保健指導等の充実に努めるとともに、啓発教材の作成や指導者の人権意識の高揚を図るための研修の充実を図ります。
エ 自立・社会参加の支援
伝染病り患者等が自立した生活を送れるよう、関係機関と連携して事業主の理解を求め、職場の確保等に努めるとともに、プライバシーに配慮した治療体制の整備と適切な相談体制の充実に努めます。
(注1)エイズ(後天性免疫不全症候群)は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染し発症して起こる疾患です。
(注2)ハンセン病は、今日、治療法が確立しており、感染源対策としての患者の隔離を主体とした「らい予防法」は、1996年(平成8年)4月に廃止されています。
アイヌの人々は、北海道を中心に先住していた民族であり、独自の伝統を有し、アイヌ語や独自の風俗習慣をはじめとする固有の文化を発展させてきました。しかし、今日、十分な保存、伝承が図られているとは言いがたい状況にあります。
このため、1997年(平成9年)7月に、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図り、併せて、我が国の多様な文化の発展に寄与することを目的として、「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」が施行されました。
ア アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発
さまざまな民族が共生し、多様な文化が存在することで豊かな社会が築かれるという認識のもと、国及び関係機関と連携し、アイヌの人々の誇りの源泉であるアイヌ文化の振興や、長い歴史のなかで培われ、伝えられてきたアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に努めます。
イ 教育活動の充実
アイヌの人々の歴史や現状については、小学校段階から社会科の教科書等において取り上げられています。今後とも、人権尊重の観点に立った教育推進のために、教科指導等に関する教職員等の研修の充実に努めます。
刑を終えて出所した人が、地域社会に復帰して社会生活を営むに当たっては、本人の強い意志と併せ、家庭、学校、職場、地域社会などの理解と協力が不可欠です。
刑を終えて出所した人に対する差別や偏見をなくし、これらの人の社会復帰に資する啓発活動を進めます。また、自立した生活を送れるように、関係機関との連携を図り、相談支援に努めます。
【ページトップへ戻る】 第6章 国際協力の推進
現在、世界は、国境を越えて政治・経済・社会・文化等のいろいろな面で相互依存関係を深めつつある反面、民族紛争や飢餓・貧困・環境破壊等の多くの地球規模の問題を抱えています。こうしたなかで、自由で平和な社会を築くことは、我が国をはじめすべての国々に課せられた重要な役割であり、個人レベルにおいても、諸外国の人々と共生し、人権という普遍的文化を築くために積極的な参加が求められています。
本県においても、1997年(平成9年)3月に「奈良県国際交流・協力推進大綱」を策定したところであり、この大綱では、県民が諸外国と積極的に協調し、協力しながら共生の道を探ることが一層大切であるとしています。そのため、県民が諸外国の歴史や文化・習慣を学んで他国の人々の価値観を認め、尊重することを通じて、豊かな国際感覚を培うとともに、ヒューマニズムの精神に満ちた新たな文化を創造することを目指しています。
こうした観点から、次のような事業を総合的に推進していくなかで、内外の人権意識の高揚を図りながら、世界に開かれた国際性豊かな「国際文化観光・平和県」として、世界の平和と繁栄に貢献します。
・ 人権や平和を脅かす地球的規模の課題等についての理解を進めるための講演会、セミナー等を開催します。
・ 人口や平和問題等、人類共通の人権にかかわる問題解決のための情報交換、国際フォーラムの開催に努めます。
人権教育は、あらゆる分野で進める必要があり、県の行政機関相互間はもとより、関係諸団体との密接な連携のもと、全庁をあげてこの行動計画の具体化を推進します。
この行動計画に基づき、人権教育を積極的に推進し、その推進状況をフォローアップしていくため、全庁的な推進組織として、「人権教育のための国連10年」奈良県推進本部を設置します。
1998年(平成10年)は、世界人権宣言が国連総会において採択されて50周年に当たることから、記念事業を実施するとともに、同宣言の趣旨や内容を普及する事業を実施します。
この行動計画は、2004年(平成16年)を目標年次としますが、必要に応じて、その進ちょくと効果について評価を行いつつ推進します。加えて、社会状況の変化に応じ、適宜、見直すこととします。