対談:自分に自信を持って会社という「フィールド」で一緒に輝こう

仕事のブランク、家事や子育て、あるいは介護との両立など、女性が再就職に踏み出せない理由はさまざまです。

しかし、県内には再び働きたいと希望する人がいきいきと活躍できる職場づくりを進める企業がたくさん存在しています。

再就職して活躍する女性の実像と採用したい人材について、経営に携わるお二人の対談をお届けします。

 

 

 

 

メンバー紹介

 

 

五條運輸株式会社 代表取締役副社長
五條メディカル株式会社 代表取締役社長
原田 杏子

原田社長

別企業の勤務を経て先代より父が承継した五條運輸の副社長に2018年から就任。
五條運輸で培ったノウハウを活かし、医療専門の運輸事業を担う五條メディカルを設立。
 

 

 

株式会社池田工業社 代表取締役社長  
和佐野 達也  

和佐野

25歳の時に入社した株式会社池田工業社で営業をはじめ各部門を担当し、2013年に代表取締役社長に抜擢される。

 

 

 

 

本文

 

西橋(奈良県こども・女性局女性活躍推進課長):まず最初にお二方の会社の業務内容および今の採用の状況をお聞かせください。

和佐野:当社はおもちゃのメーカーです。おもちゃの中でもシャボン玉や水鉄砲といった、業界で小物玩具と呼ばれるおもちゃを製造して問屋さんに卸しています。創業は明治35(1902)年ですが、その頃は農機具の仕入れおよび製造販売をしていたそうです。そこで出た半端材、金網とかブリキを使って作った虫かごを売りに行き、そこから少しずつ商材を広げて今日まで続いています。日本で企画して中国で製造し、それを来年の夏に向けて北海道から沖縄まで売りに行く企画営業系の会社です。出荷前に製品の安全性の確認や、指示通り作られているか検品作業を地域のパートさんに助けていただいています。今後、少子化が進みインターネット販売が増えていくことを鑑み、大人からも注文や検索いただける付加価値の高い雑貨(ファンシー雑貨)などの商材に手を広げていきたいと考えています

西橋:五條運輸の副社長でいらっしゃる原田さんは、新たに五條メディカルという会社を立ち上げられました。まず、五條運輸はどのような会社ですか?

原田:五條運輸は今年51年目を迎える物流会社です。1970年に創業した、トラック輸送1本の会社でした。2011年に現会長である私の父に事業承継が行われました。その矢先に東日本大震災が起こり、ガソリン価格の高騰。引き継いだ当初は古びれたトラック20台と小さな事務所に、多額の負債。父は社員を守るためにこの会社を復活させると決意し運送業に取り組みました。7年ほど前から倉庫事業も展開し、今では輸送・保管だけではなく、お預かりしたお荷物の組み立てや小分け等、形を変え、納品まで行っています。この加工や検品に手先が器用な女性の力が必要となり、手作業専門の女性チームを立ち上げました。

西橋:続いて五條メディカルはどのような会社ですか?

原田:五條運輸は「なくてはならない存在となろう」というミッションを掲げています。そのためには何が必要なのか模索する中で、製薬会社が多い奈良県に輸送手段が不足していることに気付き、五條運輸で培った輸送のノウハウと医療の専門家をプラスした医療物流を組み立てればお役に立てる、と立ち上げたのが五條メディカルです。奈良県内の5つの自治体から要請され新型コロナウイルスワクチンの輸送・保管も担当しています。社長以外は全員が薬剤師という環境でスタートさせた「大切な誰かを守る」ための会社です。


 

 

 

 

 

向上心があり 前向きな姿勢で 仕事に取り組める方を求めている


西橋:そんな企業経営を支える人材の獲得は、非常に大事なことだと思いますが、採用したい人材像を教えてください。

和佐野:
これからファンシー雑貨をやっていくためには女性の感性が必要です。今、社内には女性のデザイナーはいますが、企画営業部に女性は1名しかいません。今後はどちらも女性を採用したいです。その際には「向上心がある」「なりたい自分を持っている方に来ていただきたい」ですね。入社した当時、4代目の池田社長からいろいろなご縁をいただいて、2013年に社長に就任させていただきました。自分的にはこの会社に入って、成長できた実感があります。みなさんにとっても、この会社が成長の場であり、手段として池田工業社を活用するイメージを持っていただければ。面接の際には「なりたい自分はありますか?」と聞くのですが、「目標に向かって進んでいきたい」というような人に、どうしても目がいってしまいます。

原田:当社は積極的に前向きな姿勢で仕事に取り組んでいただける方を求めています。仕事のスキルも大切ですが、目標としては一緒に「いい会社にしよう」と願い、行動くださる人材です。採用に際しては「私はこの会社にこれで貢献できる」という志のある方を求めています。

西橋:ブランクがあって再就職を目指されている女性は再就職に向けて一歩を踏み出せない方が多いと感じます。このような不安や勤務条件というのは採用する側からどう受け止められるのでしょうか?

和佐野:時間的な制約があるのは仕方ないと思います。働ける時間に幅があるとか融通が利くというのは条件の部分なので、当社ではパートさん同士で出勤日を調整して自分たちのシフトを回してもらっています。以前は正社員が管理していたのですが、管理者に気をつかうためかうまくいかないことがありました。そこでパートさんのリーダー的な方に任せることにしたのです。すると辞める人がいなくなりました。ただし、フルタイムとパートの間に壁ができるのは避けたいので、朝礼や、全体会議、社内イベント等へは極力参加をお願いして、コミュニケーションを図れる機会を大切にしています。


 

 

 

再就職への一歩は、「自分の活かし方」を考えることから


西橋:自分はこういう働き方ならできるというところをアピールしたうえで、お互いに意思疎通を図ればうまくいくということでしょうか?

和佐野:うちのように小規模で経営している中では、「この会社で何ができるのだろう」と考え、いろいろなことに挑戦したいという人が活躍しやすいと思いますね。うちも「産休・育休に入りますが戻ってこれるか不安です」という従業員がいました。そこで、産休に入る前に「あなたと一緒に仕事がしたい」と周囲に思ってもらい、戻ってこられる環境を確立しなさいとアドバイスしました。また、入社半年で病気のため休職した社員がいたのですが、彼の真面目な働きぶりと「この会社でがんばりたい」という気持ちに打たれ、退院し回復するまで待っていると伝えました。

西橋:スキルのブランクを気にする女性も多いようですが。

和佐野:スキルはあるにこしたことはありませんが、パソコンなどはどんどん進化していくものです。会社に入ってから勉強すればいいと思います。

原田:スキルとは、一概には直接業務に関わることだけではないように感じています。笑顔が素敵だったり、ゆっくりでも確実に安心感ある業務を行えたり。人それぞれが持たれる個性を、お勤め先でどのように活かせるのかをご自身が知ることもまた、大切なスキルであると思うのです。例えば私自身は五條運輸に入社し、まだ3年目です。それまでは別の企業のサラリーマンとして働き、産休を経て復職する経験をしました。ずっと忙しく働いてきましたので、産休中の子どもに向き合える時間がとてもありがたくて。しっかりと産休を取得できた勤め先に、感謝の心を抱きました。だから復職時には、少しでもお役に立てる自分になっていたいと考え、資格取得にチャレンジしました。直接業務に関わらないものもありますが、少なくとも復職後をイメージして努力したことは、自分への自信につながりました。

 

 

 

対談風景

 


「一人がみんなのために、みんなが一人のために」の精神で取り組む

  

西橋:前向きに取り組む意欲が大切ということですね。今まで採用されてきた中で上手くいった事例とそうでない事例を教えていただけますか。

原田:実は当社はコロナ禍でも残業が付くほど忙しかったのですが、給料が下がれば国からの給付金が貰えるかもと思い、シフトの半減を申し出られた方がおられました。どんなに苦しくとも会社は社員を守るために努力しますが故意にシフトを減らしたことで給与が減るのは自己責任と伝えました。結局、給付金は出ませんでした。会社としては自分ばかりを考える利己的な人は守れません。
 会社自体はOne for All=All for One(一人がみんなのために=みんなが一人のために)の精神で多岐にわたる勤め方を受け入れています。先日、小さな子どもがいることを理解して採用した方が、急な子どもの発熱で3日ほど休むことになりました。その方が「みんなに迷惑をかけて、申し訳ない」と泣くのです。「はじめからあなたの環境を受け入れ共に働きたいと採用している。気にしなくていい。ただ、同じように誰かが休まなくてはならない時に、その誰かをカバーする位の気持ちで取り組んでもらえたら、同じような立場の誰かもあなたに助けられる」と、伝えました。

和佐野:当社も女性のデザイナーが、出産して産休を取得。翌年4月から復帰予定でしたが保育所に空きがなく、10月もだめでした。結局、待機児童になり復職も翌々年に持ち越しになってしまったのですが、産休前の彼女の働きを知るみんなが、彼女を待とうというのです。制度上は退職させなければならないとしても求められる人材であれば会社は受け入れます。


 

 

 

すべての経験に価値があり仕事に活かすことができる


西橋:
権利を振りかざしてはいけないけれど、一緒に働きたい人材であれば、会社が条件を受け止めてくれるのですね。女性の活躍は言葉では簡単ですが、まだまだ育児の負担等は偏っているところがありますね。人生100年時代で男性の介護も増えています。女性・男性に限らず働き続けられることが大切になると思います。
 最後にこれから再就職しようか迷っている方に向けて、一歩を踏み出せるメッセージをお願いします。

和佐野:一生懸命子どもを育てている、介護をなさっているその経験は人として素晴らしいものです。そのうえで就職活動の場にもっと出てきていただきたい。自分に何ができるのかアピールし、あなたの存在が認められた職場で、自己実現を目指してください。働くことになったら精いっぱいできることをなさればいいと思います。

原田:再就職前の今だからこそ、心構えが必要かと思います。準備することで会社と一緒に輝く自信を持つ。何かをはじめてみるのも一つの方法です。実務的なスキルでなくても「とびきりの笑顔で、来社される方に好感を持っていただける自信があります。ぜひ受付として採用してください」とアピールするとかね。自分の中で自信を持てるフィールドを整えることが大事と思います。

西橋:お二人とも本日はありがとうございました。



(取材日=2021年11月)