国宝 金峯山寺二王門

国宝 金峯山寺二王門について

 金峯山寺は、吉野郡吉野町吉野山に位置する修験道(※1)の寺院です。二王門の建立は、青銅製の風鐸(※2)に刻まれた銘文に「金峯山寺 二王堂 康正二丙子九月日 大勧進定善」とあることから、康正2年(1456)頃の建立とされていますが、二王門の内部に安置されている仁王像の内部に確認される造立の銘から、元弘3(1333)の「元弘の乱」による吉野山全焼後の復興時に建立された建物である可能性も指摘されています。木部材や瓦に記された銘文から、建立以降、継続的に修理が為されてきたことが知られますが、金峯山寺の諸堂の中で最も古く、中世の遺構がよく残っています。

 

※1 修験道(しゅげんどう):日本古来の山岳信仰に神道や仏教などが融合してできた日本独自の宗教のこと。山で厳しい修行を行います。

※2 風鐸(ふうたく):仏堂の軒の四隅や仏塔の九輪などに吊り下げる鈴。鐘に似た形をしています。

二王門の正面(修理前 仁王像搬出後)

 

 修理は奈良県が金峯山寺より受託し、文化財保存事務所金峯山寺出張所が直営にて実施します。

金峯山寺HP 

 

金峯山寺について

 金峯山寺本堂(蔵王堂)は修験道の霊場である吉野山のシンボル的な建造物であり、東大寺大仏殿に次ぐ規模の木造古建築とされています。吉野山のどこからでもその姿を望むことができ、吉野山の桜は、この本堂の本尊蔵王権現にお供えするために植えられたと云われています。吉野の文化の根源とも云うべき建造物で、世界遺産の中核資産ともなっています。

「いかす・なら」HPより抜粋(一部追記))

 

空撮

空から見た金峯山寺

 

基本情報

指定概要(国宝 金峯山寺二王門)

建立

 室町時代中期 康正2年(1456)頃

構造

 三間一戸二重門 入母屋造 本瓦葺

 

修理期間

 令和2年(2020)9 月~令和11年(2029)3月

 

修理方針

 修理前の二王門は、柱の基礎となる礎石に不同沈下(※3)や割れがみられ、これが建物全体に影響して、木部材に変形が生じていました。また、多くの木部材に虫害がみられ、屋根では、使用されていた瓦に亀裂や剥離、欠損が目立っていました。

 そのため、建物を一旦全て解体して、必要箇所を修繕した上で再度組み立て直す「解体修理」を行うこととしました。建物を解体後、発掘調査を行い、現在の基礎の構造や地下にある別の遺構の有無等を確認し、あるいは不同沈下の原因を究明します。その後、礎石を掘り上げて基礎の補強工事を行い、再度建物を組み立てますが、事前に行っていた耐震診断の結果を受けて、建物の耐震補強も合わせて行います。

※3 不同沈下(ふどうちんか):構造物の場所によって異なる沈みが発生している状況。

 

工事の経過

 本工事は、令和2年度に着手し令和10年度に完了の計画で進めています。令和2年度には常駐現場として現場事務所(金峯山寺出張所)を開設し、準備工事を進めました。令和3年度には、二王門をすっぽりと覆う工事用の素屋根(※4)を建設しました。令和4年からは建物の解体に着手し、令和5年度上半期にかけて実施し、10月上旬に建物の解体を完了しました。その後下半期は、発掘調査を行い、二王門の基壇の築造状況や下に別の遺構がないかを確認しました。また、解体した木部材の詳細調査や修繕作業にも着手しました。令和6年度は引き続き、解体した木部材の詳細調査や修繕作業を実施しました。令和7年度は夏頃より耐震補強工事に着手し、秋頃より組立てに取り掛かる予定です。

※4 素屋根(すやね):主に修理中の建物や解体した部材を風や雪、雨から護るために、その上部に覆い屋として架けられる仮設の建物。

 

現在の修理状況(令和7年11月撮影)

 

現在の修理状況

素屋根内部では、礎石の据え付けが完了し、組立に向け仮設足場を設置しています。

令和7年度の主な工事

前年度に引き続き木部材の詳細調査や修繕作業を行っています。また、8月より耐震補強工事にも着手し、秋より組立作業、一部の塗装工事を実施しています。

木部材の修繕作業

前年度から引き続き、木部材の修繕作業を行っています。解体した部材は原則再用することとしていますが、損傷が著しく、修繕を行っても再用が難しいものについては、新たに取り替えを行います。今回取り替えることとなった部材は、現状と同仕様で加工を行います。

丸桁の修繕作業

丸桁の修繕作業

 

天井組子の新材加工

天井組子の新材加工

 

耐震補強工事

令和元年度に実施した耐震診断の結果、必要な耐震性能を満たしていないことが判明したため、構造補強を行うこととなりました。基礎下にコンクリートの基礎を設け、建物内には鉄骨のフレームや丸鋼ブレースを設置します。今年度は、初重の鉄骨フレームまで施工予定です。

耐震補強概要図(初重 補強配置図)

耐震補強概要図(初重 補強配置図)

耐震補強概要図

耐震補強概要図(棟通り 補強配置図)

 

杭孔掘削

杭孔の掘削の様子

※建物の建っている場所は、史跡・名勝「吉野山」に含まれており、また、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産でもあります。そのため、地下遺構の保護のために、礎石下の地盤が比較的安定している2箇所には基礎下に補強を設けず、その他、9箇所のコンクリート杭及び鉄筋コンクリート補強基礎、1箇所の鉄筋コンクリート補強基礎の掘削は手掘りで進めました。

 

木部材の詳細調査

解体した部材について、使用している樹種や寸法、他の部材とのとりつき方を一つ一つ調査します。特に継手等の部材の組み合わさる部分は、建物を解体しないと確認することができないため、未発見の痕跡がないかしっかりと調査し、記録として写真撮影を行います。

化粧隅木の詳細調査

化粧隅木の詳細調査

 

木部材の調査と平行して、瓦の調査も進めています。

瓦の調査

瓦の調査

これまでに発見した墨書について

部材を解体し、調査を行っていくと様々な発見があります。今回の解体工事中にも様々な墨書が見つかっており、二王門の建立年代や修理歴を考える上で非常に貴重な資料となります。

 

これまでに発見した墨書

これまでに発見した木部材の墨書の一部

令和6年度の主な工事

木部材の修繕作業

ヤリガンナかけ

矧ぎ木修繕を終えた組物の仕上げ作業

 

解体部材の詳細調査・記録

二重柱の撮影

二重の柱についての記録撮影

 

発掘調査

発掘調査令和6年

礎石解体前の据え付け状況確認調査

 

礎石の解体

礎石解体

礎石解体作業

 

令和5年度の主な工事

木部(初重)の解体

初重柱の解体初重の柱を解体する作業

建物の解体完了

二王門解体完了後二王門解体完了後の基壇の状況(令和5年10月)

発掘調査

今回の修理では、二王門の基礎に傷みが生じているため、建物を解体した上で、しっかりとした基礎を作り直す計画です。ただ、二王門の建っている金峯山寺の敷地は、史跡・名勝「吉野山」の範囲に入っているため、基礎工事を行うためには、敷地の発掘調査を行い、地下に貴重な遺構や遺物が残されていないかを確認する必要があります。発掘調査は、建物の解体工事の後に行いますが、もし貴重な遺構や遺物が発見され、遺構を残さなければならないとなった場合には、基礎の設計変更が必要になる可能性があります。建造物修理担当者としては、貴重な発見を期待しつつも、設計変更を考えると複雑な気持ちです。

発掘調査令和5年

平面精査およびトレンチ掘削作業