重要文化財 玉置神社社務所及び台所

重要文化財 玉置神社社務所及び台所について

 玉置神社社務所及び台所は、旧高牟婁院(たかむろいん)の主殿及び庫裡であった建物で、文化元年(1804)に完成しました。聖護院門跡(しょうごいんもんぜき)の御成(おなり)に備えて、書院を設けた格式の高い上質な建物であり、地階には修験者のための参籠所を設けるなど、修験道との係わりも見られます。
 建立以来、何度か修理が行われていますが、経年により雨漏りや軸部の傾斜が著しくなったため、令和3年より、本格的な解体修理に着手することとなりました。
 修理は奈良県が玉置神社より受託し、文化財保存事務所玉置神社出張所が直営にて実施します。

・玉置神社HP www.tamakijinja.or.jp/index.html

重要文化財 玉置神社社務所及び台所

玉置神社について

 玉置山の山頂近く、標高1000メートル付近に鎮座します。第十代崇神天皇の時代に、王城火防鎮護と悪霊退散のため、創建されたと伝えられています。境内の社務所及び台所は国の重要文化財に指定されている他、杉の巨樹群、枕状溶岩など県の天然記念物があります。(「いかす・なら」HPより抜粋)

基本情報

指定概要(重要文化財 玉置神社社務所及び台所)

○建立

・文化元年(1804)竣工

○構造

・社務所:懸造、桁行 22.0m、梁間 15.9m、一重、入母屋造、西面唐 破風付、東面及び西面突出部附属、地階付、銅板葺

・台所:桁行 9.0m、梁間 8.9m、一重、東面入母屋造、西面社務所に接続、銅板葺

・附:棟札1枚(皆造営文化元年七月廿一日遷佛の記がある)

修理期間

 令和3年(2021)7 月~令和12年(2030)3月

修理方針

 南側の石垣に緩み・孕みが見られるため、建物全体を一度解体して、石垣の積みなおしを行った後、再度組み立てます。このような大規模な修理が行われるのは、文化元年(1804)の建立以来、初めてのことです。

令和5年度の主な工事

浴室の解体が完了しました

解体中解体完了

(左)解体中、(右)解体完了

素屋根建設の支障となるため、7月から行っていた浴室の解体が完了しました。これで台所の側面がよく見えるようになりました。

地質調査・耐震診断をしています

ボーリングの様子

社務所は常時人が立ち入る施設であることから、地震時に安全であるかを確認するため、地質調査・耐震診断を行いました。詳細についてはまだ精査中ですが、耐震要素となる壁や筋交が少ないことから、大地震時に倒壊する恐れが高いと考えられています。組み立ての際には、診断の結果を踏まえて必要な構造補強を行う予定です。

浴室の解体をしています

 

浴室解体の様子

 素屋根(覆屋)の建設に先立って、東側の浴室の解体を進めています。一見するとモルタル塗の新しそうな建物で、調査もさほど難しくはないだろうと油断していたのですが、解体を始めてみると、意外にもたくさんの痕跡が出てきました。まだ、完全には把握できていませんが、大きくは3回程度、大規模な修理があったようです。

 浴室は文化財に指定されていませんが、将来的な復原を考慮して、文化財修理と同等の手法で解体しています。変遷調査と平行しながら、12月までに解体完了の予定です。

新発見・調査進捗(文化元年の墨書を発見)

「上旦八畳北間文化元造」の墨書

 孔雀の間の建具の調査中、文化元年(1804)の墨書がある建具が2枚発見されました。そのうちの一枚には「上旦(段)八畳南間 文化元造」とあり、これが文化元年に作られたもので、設置場所も動いていないことがわかります。
 文化財指定されている棟札から、社務所が文化元年の造営であることは知られていましたが、今回の発見はそれを補強する内容でした。事業着手から3年目となりますが、紀年銘のある墨書が発見されたのは初めてです。

令和4年度の主な工事

彩色の復原図を作成しました

彩色復原の様子

 社務所は絢爛豪華な杉戸で知られていますが、中には長年の煤で絵が見にくくなっているものがあります。これらは、描かれた当初はどのような姿だったのでしょうか。それを知る作業を、文化財修理では「彩色調査」と呼んでいます。

 彩色調査では、まず、表面の埃を軽く払った後に、赤外線写真を撮影します(2)。赤外線は可視光より波長が長いので、表面の汚れの奥を透視することができます。これで、おおよその輪郭がわかります。次に、透明のフィルムを重ねて、筆遣いの一本一本をトレースします(3)。実物をよく観察して、色がわかる部分があれば、メモしておきます。フィルムは劣化するので、長期保存のために和紙に書き写します(4)。最後に、当時の色を再現して、見取図を作成します(5)。
 本来なら、竣工当時の煌びやかな彩色を再現したいところですが、実物を描き直してしまうと、オリジナルが失われてしまいますので、今回はクリーニングと剥落止め、一部の補彩のみを行いました。作成した見取図によって、当初の華やかな姿を想像していただければと思います。

 ※陶淵明…中国の六朝時代の詩人。下級役人としての生活に嫌気がさして、田園に戻って詩人となりました。この図は、官職を辞した陶淵明が、長い船旅の末、故郷にたどり着き、若い召使いに出迎えられる場面です。指さす先には、子供が待っています。手に持っているのは柳の枝で、五柳先生の別名にちなみます。

復原の様子剥落止めの様子
(左)復原見取図製作の様子。日本画を専門とする職人が手書きします。
(右)剥落止めの様子。主には筆を使いますが、細かい部分は注射器で膠(にかわ)水を注入します。(写真:(有)彩色設計)

鐘楼の解体完了

 令和4年3月より着手していた鐘楼の解体が5月上旬に完了しました。

 銅板をめくってみると、屋根は60年前の建物とは思えないほどに状態が良く、雨漏りの痕跡もありませんでした。しかし、柱は早い時期に傷んだようで、4本のうち3本の下半分を根継ぎする大掛かりな修理が行われていました。梵鐘を下ろしたのと同時期でしょうか。

 解体にあたっては、元の位置がわかるように、部材ひとつずつに番付札を打ち付け、社務所内に仮保存しました。今後、社務所と並行して修理を行う予定です。

鐘楼解体

  

板戸移動

 社務所の板戸や板壁には金雲極彩色の絵が描かれています。これらは、鶴沢探山の流れをくむ狩野派の絵師、橘保春(寛延 3-文化 12)の手になるものです。破損がないように養生したうえで、村内で移動・保管する予定です。

新発見・調査進捗(赤外線撮影で煤に隠れた杉戸絵を発見)

板戸

 この建物は狩野派の絵師・橘保春が描いた壮麗な杉板戸で知られています。御殿の間などの表側の室では非常に綺麗に残る一方で、台所や神殿(旧護摩堂)に面した部屋の杉戸は、長年の炊事や護摩焚の煤で真っ黒になっていました。目視ではまったく痕跡が見ませんが、赤外線カメラで確認したとこ ろ、物入の杉戸には二羽の鶴、六畳間には枇榔(ビロウ)の樹が描かれていました。 他の室に蘇鉄の杉戸絵がありますが、南洋風の画題が多いのは土地柄なのでしょうか。理由は定かでありませんが、他の杉戸絵と合わせて引き続き調査していきます。

床組解体

 杉戸・畳を移動した後、床板をめくり、順次解体を行います。 鐘楼と同様に、全ての部材に番付札を打ち、記録を取りながら解体していきます。

共通仮設建設

 神楽殿の裏手に、監理棟を建設します。作業員の控室、資材置き場として使用します。その他に、猿飼地内にも執務用のプレハブを建設します。

修理前写真撮影

 修理前の状態を記録するため、7月から秋にかけて、360度カメラでの室内撮影、ドローンでの空撮、フィルム撮影を予定しています。

令和3年度の主な工事

鐘楼の解体

鐘楼

 この鐘楼は、玉置神社の梵鐘が昭和31年 (1956)に奈良県指定文化財※となったことを受けて、昭和33年(1958)に新築されたものです。

 社務所に設ける素屋根(工事用足場)と干渉する位置にあるため、本殿前方へ曳家を行う予定でしたが、令和3年7月に腐朽により柱が折れ、全体が南に傾斜してしまいました。このままでは曳家することができないため、一度全体を解体することとなりました。

 解体にあたっては、元の位置がわかるように、部材ひとつずつに番付札を打ち付けます。併せて写真撮影や 実測を行い、十分な記録を作成しておきます。社務所の修理完了後に、元通り復旧する予定です。

 ※梵鐘はその後、国重要文化財に指定され、現在は十津川村立歴史民俗資料館に寄託されています。

   

社務所・台所実測調査

社務所・台所実測調査

 社務所及び台所が重要文化財となったのは 昭和63年(1988)のことですが、それ以来、大規模な修理を受けていないため、この建物には正確な図面が存在しません。

 まずは、修理の基本となる平面図・断面図・立面図・天井見上図の4点を作成するため、丹念に寸法を測っていきます。現代では CAD で作図することがほとんどですが、重要文化財の修理では、これらの図面は紙と墨で手描きすることとなっています。デジタルメディアは保存が難しいのに対し、紙と墨は、環境が良ければ何世紀も保存できることが経験的に知られているからです。完成した図面は国に納められ、修理前後を記録した最も信頼のおける図面として、恒久的に保存されます(「保存図」と呼ばれています)。

作業小屋建設

 玉置神社は斜面地にあり、作業に十分な面積を確保できないため、猿飼地内(車で20分ほど)に作業小屋 を建設しています。自動かんな盤等の工作機械を据え付け、主な加工はこちらで行う予定です。

史料調査

 修理にあたっては、過去の修理歴や地域の変遷を知ることも重要です。建物の調査と並行して、古文書や古写真の確認も進めています。

修理前写真撮影

通常はデジタルですが、重要なカットは大判フィルム(4x5) にて撮影します。竣工後にも同一カットで撮影し、修理箇所がわかるようにします。