巻頭特集:働くスタイルは千差万別。 きっと見つかる自分らしく輝ける場所(フィールド)

仕事のブランク、家事や子育て、介護など、様々な 理由から就業に踏み出すことをためらっていませんか?

県内には働きたい人が活躍できる条件が整った多くの 企業があります。
さらに、起業して経営の道を目指す女性への支援も充実しています。

今回は、企業経営に携わるお二人に女性の就業について伺いました。  

 

 

 

メンバー紹介

 

 

株式会社ICB 代表取締役 
瀧井 智美

瀧井 智美

金融機関勤務後、コンサルタントなどを経てキャリア開発・組織活性化・人材育成を支援する株式会社ICBを設立。
大学や企業などで講師として活躍中。
 

 

 

有限会社ナイスケアサポート 代表取締役
井尻 祥子  

井尻 祥子

25年間看護師として勤務後、地域の高齢者福祉の拠点として有限会社ナイスケアサポートを設立。
介護事業を展開中。

 

 

 

 

 

本文

 対談風景1

森田(奈良県こども・女性局女性活躍推進課長):最初に、自己紹介を兼ねて、お二人のこれまでのお仕事について伺いたいと思います。

瀧井智美:私は2003年から女性のキャリア支援の仕事をはじめ、5年間は男女共同参画センターで女性のキャリア相談に乗ったり、チャレンジ広場を作るということを担当していました。当時から「再就職するなら自分のキャリアがつながるような働き方を選びたい」とか、「時間や場所を選ばなければ、もっと働ける」という相談が多かったです。日本の企業では制度は整っているのですが、実際に産休や育休制度を使うと他の人の負担になるからと使わず退職する人が多かったんです。そんな企業風土を変えるには、出産・育児といったライフイベントを社員間で協力し合う雰囲気づくりが大切です。そこで2008年からはICBを立ち上げ、ワークライフバランスとダイバーシティをテーマに、企業の中で様々な働き方改革のプロジェクトや女性リーダー育成などに関わらせていただいています。

井尻祥子:私は看護師として市内の病院で勤めていました。その間、3人の子どもをもうけましたが、職場環境がすごく整っている病院であったため、夫が朝早くから夜遅くまで大阪で働いている状況でも看護師として働き続けることができたんです。23年間、働き続けましたが、介護保険制度が導入され介護事業の一端を垣間見て、感銘を受け介護事業を起業しようと思い立ちました。現在、地域にお住まいの方々の支援を中心にした在宅支援事業を運営しています。

森田:お二人ともご自身が目指す仕事の実現に向け、チャレンジされてきたのですね。これまで様々なハードルがあったと思いますが、社会における女性の就業環境についてどのようにお考えですか?

瀧井:今、女性活躍3.0の時代がやっと来たといわれています。1.0はいつだったのかというと、男女雇用機会均等法が施行された時です。ただし、あの法律ができて変わったのかというと、正直、あの時代は長時間労働が主体で、その働き方に合わせられる人しか残れない時代でした。だから、出産を機に退職される方が多かったんです。

井尻:男性並みに働けるということを評価していた時代ですよね。

瀧井:「24時間戦えますか~」というCMの歌があったくらいで。でも、それでは女性活躍は進みません。次に「働き続けられる環境をつくりましょう」と推奨されたのが2.0へ進んだ時期です。その時に「ワークライフバランス」と「両立支援」という言葉が広まって、かなり制度が整い、長期育休や短時間勤務の制度ができたり、フレックスタイム制の導入が進みました。2.0に進んだ時のキーワードは「働きやすさ」です。今、3.0の時代になっていわれているのが「働きがい」ということです。それは、育休後仕事に復帰して、責任ある仕事を任せてもらっているかということ。育児を体験すると、人はすごく成長するものです。だから仕事はもちろん、貴重な育児や様々な経験を積んだメンバーが、自分の持てる力を職場で最大限発揮できるように支援していく、というのが女性活躍3.0で、それを後押しするのが女性活躍推進法です。やっと女性活躍3.0まで進んできたので、就業を目指す女性にとってはチャンスです。その割に就業率が伸び悩んでいるのは、共働きが増えているのに夫が家事・育児に参加できていなくて、妻が両方やらないといけないからです。だから二の足を踏んで、再就職したいけれど一歩踏み出せないという思い込みの「枠」を作っているケースも影響しているのかなと思っています。あまり自分の枠を作らずに就業にチャレンジしてほしいですね。


 

 

 

 

 

今まで自分が築いてきたことをどう役立てられるか、伝えられることが仕事につながる 

 

瀧井:私の娘が一昨年出産して、出産後、9カ月で職場復帰しました。保育園に預けている子どもは、夫が16時までの時短勤務ということで保育園にお迎えに行って、夕食を作って食べさせ、寝かしつけている頃に、娘が帰宅するという生活を送っています。育児も家事も完全に分担することは、若い世代では当たり前になってきているようですが、再就職を希望される世代では、まだ、性別に対する役割意識が強い方が多いようです。そんな女性のキャリアの相談に乗っていると「子育てしかしていないけど再就職できますか」という方が多いですね。

井尻:子育ては立派なキャリアですよね。介護の仕事では子育てを通して身に付けた力はとても役立ちます。子育てしながら働くと、みな段取りしながら仕事しているので、急に何かあったときの判断力や対処の仕方が速いですね。仕事での顔、母としての顔、ご近所での顔といろんな顔を使い分けているので、コミュニケーション能力も高い。アクティブに自分の人生を切り拓いていこうという女性も多いと思います。

瀧井:仕事と生活は別ではありません。それなのに、仕事をしていないとキャリアが止まっていると思い込んでいる人が多いです。今まで自分が築いてきたことをどう役立てられるか、上手く伝えられたら、仕事につながっていくはずです。

 


 

 

 

自分の良さを活かせるところから増やしていける、できることの選択肢


森田:次の一歩を踏み出すためには、どのようなことを大切にすればいいでしょうか?

瀧井:私は子どもが3人いますが、一人目を産んだ時、専業主婦をしていた時期があるんです。そこから再就職するのが大変で、スキルアップするのも大事と思って、パソコン教室に通いはじめました。その時、先生から「瀧井さんは、同じことを何回聞いてもいやな顔しないですね」と言ってもらいました。私は元々、金融関係の会社で働いていたので、わかりにくい金融商品を高齢のお客様でもわかりやすい言葉で説明したり、何回も同じ説明をしたりということが全然苦じゃないんです。これって自分の強みですよね?自分の良さを活かせるところと考えたら、選択の幅は広がるもの。だから、「これしかない」と限定しないで、できることの選択肢を増やしていくといいと思います。

森田:自分を再評価するというプロセスは大事ですね。

瀧井:パートナーシップも大切です。「私はこんなふうに働きたい」ということをパートナーに伝えることで応援してもらえるもの。あと子どもも立派なサポーターですよね。働きはじめると、子どものことができなくなると思われるかもしれませんが、そんなことはありません。むしろ子どもができることを増やしてあげることも大事です。

井尻:
親が社会とつながるって、子どもにとってもいいことですよね。社会とつながることで、子どもに対する見方や接し方が変わってきます。

瀧井:
今、それを実感しています。一番下の子が高校1年生なんですが、中学・高校の頃ってとても仕事のことに関心が高まる時期みたいなんです。進路選択の相談の時とかに自分が働いているからこそアドバイスできることとかありますよね。

井尻:私は一番上の子が小学校1年生の時に、仕事を辞めようか悩んだことがあるんです。40数年前は専業主婦の方が多く、子どもの小学校のクラスでは働いているお母さんが少なかったんです。子どもに寂しい思いをさせているのではないかと不安になって、辞めるかパートになるかと悩みました。すると長女が「私は働いているお母さんが自慢だから、お仕事辞めないで」と言ってくれたんですよ。

瀧井:
娘さんはお母さんの背中を見て育たれたのですね。

井尻:
母親がどう生きているか、小学校1年生の子どもでもわかるんだと思うと、うれしくて泣いてしまいました。あの時の長女の言葉がなければ仕事を辞めていたと思います。

 
 

 

 

対談風景2

 


充実したキャリアを重ねるために大切にしたいサポートしてくれる存在 

  

森田:井尻さんが運営する介護事業では、多くの女性が活躍されています。これまでを振り返り、また今後に向けてどのようにお考えですか?

井尻:看護師は天職だと思って働き続け、看護師長を10数年間勤めていました。ところが介護保険が導入されるようになった2000年頃、病院経営が厳しい時代に入っていったのです。病院の方針に違和感を覚えて、定年までこんな気持で仕事するのかと思うとしんどくなって。介護保険導入時にケアマネの資格を取得し、介護の仕事に携わった時、「やりがいを感じるし、やってみようかな」と思ったんです。ところが「やりがいを求めて仕事している人ばかりじゃない、みんな家族を守るために必死で働いている、それを看護師を辞めて起業するなんてとんでもない」と夫に反対されました。でも働いていたので自己資金で起業できますよね。すると娘が「お母さんのお金だから、好きなように使ってもいいんじゃない」と言ってくれたんです。結局、それで踏み出しました。

森田:
女性が経済的に自立していることは大事ですね。

井尻:
ただ、お金があっても支援がなかったらできません。当初反対していた夫も保証人になってくれ最終的には、支援してくれました。介護は圧倒的に女性が多い仕事です。会社設立時には女性が働きやすい環境を作ることに注力してきました。だから、うちは女性管理職が85%と高いです。介護の現場は利用者さんからうれしいコメントをいただいたり、ご家族から感謝されたりということがいっぱいあるんですよ。続けているうちに、仕事に対してやりがいを感じ、パートから正規職員に変わっていかれる方が多いです。介護の仕事は家事がそのままキャリアになります。生きてきたすべてがキャリアになる仕事だと思っています。

森田:
いきいきと働く職場の雰囲気が伝わってくるようですね。
 最後になりますが、就業を目指す女性にメッセージをお願いします。

井尻:
みなさんが今まで生きてきた中で、培ってきたこと、苦しんだり悩んだりしたことすべては、ご自身の人間性として備わっています。それはどんな業種で働くことになっても活かしていけること。今、就業活動中のみなさんからこれから希望される方へバトンを受け渡すことにつながると思うので、あなたらしく働ける職場でがんばってください。

瀧井:
私も最初は一人で育児と仕事を両立させていました。でも3人目が生まれた時、はじめて夫とどんな家庭を築きたいか話し合い、そこで夫も応援者になってくれたのです。自分を支援し応援してくれる人を増やしてください。そしてネットワークを広げていきながら、就職や起業への一歩を踏みはじめてほしいですね。

森田:
お二人とも本日はありがとうございました。




(取材日=2023年1月)