医療・介護・福祉の現場を守るための意見書
現在、国が進める社会保障費の「歳出の目安」対応や、数値目標を前提とした医療費抑制策は、地域における医療・介護・福祉の提供体制に深刻な影響を及ぼしてきた。現場では、人材確保の困難、診療科の縮小、施設運営の逼迫、薬剤の供給不安などが顕在化しつつあり、医療の質の低下を招くばかりか、結果として将来的な医療費の増大という本末転倒の事態を引き起こすおそれがある。
また、昨今の急激な物価高騰や人件費の上昇に対し、診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬等の改定は十分に追いついておらず、公定価格により運営される医療機関や介護施設等の経営は、著しく圧迫されている。このままでは、地域に不可欠な医療・介護・福祉サービスの安定的な提供が困難になることが強く懸念される。
このような中、2025年6月13日に閣議決定された「骨太の方針2025」では、医療・介護等の物価・賃金上昇への対応や、経営の安定・賃上げの必要性が明記され、従来の「歳出の目安」一本やりの姿勢から一定の転換が見られた点は、前向きな一歩と評価できる。しかし一方で、「歳出改革努力の継続」の記載は残り、また、「予算編成過程における適切な反映」といった抽象的な記述にとどまっており、今後の予算編成や診療報酬・介護報酬の改定において、現場の実態をどこまで真摯に反映させるかは依然不透明である。
よって、国民・県民にとって安心・安全な医療・介護・福祉サービスを将来にわたり安定して受けられる体制を確保するため、次の事項について、骨太の方針2025の趣旨を真に実効あるものとすべく、年末の予算編成において確実に実行されるよう強く要望する。
1 診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬等について、物価・賃金の上昇に応じて適切にスライドさせる恒常的な
仕組みを導入し、診療報酬改定等において確実に実施すること。2026年度の診療報酬改定にあたっては、2024年度
改定による影響や現場の経営状況、人材確保の実態を十分に踏まえ、経営基盤の安定と処遇改善に資する大幅なプラス
改定を実施すること。また、介護・障害福祉分野についても実効性ある対応策を講じること。
2 社会保障費の伸びを高齢化による自然増の範囲に抑制するという「歳出の目安」対応は、結果として現場の逼迫と
医療提供体制の崩壊を招きかねないことから、これを実質的に撤廃し、医療の高度化や疾病構造の変化、物価・賃金の
動向等を的確に反映した柔軟で持続可能な財政フレームに転換すること。
以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。
令和7年7月2日
奈良県議会議長 田中 惟允
(提出先) 衆議院議長 殿
参議院議長 殿
内閣総理大臣 殿
内閣官房長官 殿
財務大臣 殿
厚生労働大臣 殿
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