万葉のうた

万葉のうたイメージ

万葉のうた

第4回 石上(いそのかみ)

屋上庭園万葉スクリーンに掲示している万葉歌の紹介、第4回は、NO.4 石上(いそのかみ)です。
 
石上(いそのかみ) 布留(ふる)の神杉(かむすぎ) 神(かむ)びにし われやさらさら 恋に逢ひにける
(万葉集第10巻 1927番 作者未詳)


〈現代語訳〉
 石上の布留の神杉のように神々しく年をとってしまった私がまたまた恋に逢ったのかなあ。


〈解説〉
 恋人同士として仲を噂されてもいい、と求愛の歌をうたいかけられたのに対して答えた一首です。求愛の歌が春に咲く馬酔木(あしび)の花を詠み込んでいることから、この歌も春の歌に分類されました。神杉をたとえに、年齢を重ねて恋から遠ざかっていた自分を表現しています。当時から、石上神宮の神杉は有名だったようです。


今回は、石上神宮の関連の歌です。石上神宮は、屋上庭園から9kmほど北方、天理市布留町にある日本最古の神宮です。『日本書紀』において「神宮」と記載されたのは伊勢神宮と石上神宮だけであり、社伝によれば崇神天皇7年(紀元前1世紀頃?)から存在しているとのことです。
  〈解説〉にもありますように、この歌は求愛に対する返答の歌です。「春山の 馬酔木(あしび)の花の 悪(あ)しからぬ 君にはしゑや よそるともなし」(春山に咲く馬酔木のように素敵なあなただから、恋人同士とうわさされても構わない)という求愛に対し、「こんなに年をとった自分が恋に出会うなんて」と、戸惑いながらもときめいた思いで答えたものです。問答歌は共に、三句目までが四句目の「君」「われ」にかかる比喩になっています。「春山の 馬酔木の花の 悪しからぬ ⇒ 君」に対して、「石上 布留の神杉 神びにし ⇒ われ」と、見事な対照をなしています。
 「石上 布留の神杉」は、言い慣らされた地名を重ねる表現で、石上神宮の境内にあった神聖な杉を示しています。「神びにし」とは、神々しく人間離れした状態。この三句で、自分がいかに恋とは無縁の年老いた状態であるかということを表し、そんな自分が恋に出会ったことの驚きを強調しています。