インターネット上の人権侵害等について、「被害者救済」と発信者の「表現の自由」という重要な権利・利益のバランスに配慮しながら、適切に対処することを目指し、「プロバイダ責任制限法」(正式名称「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)が改正され、「情報流通プラットフォーム対処法」(正式名称「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」)という法律が令和7年4月に施行されました。
この法律の内容や、この法律によって人権侵害等から被害者がどのように守られるのかについて、インターネット上の権利侵害に詳しい上羽 徹 弁護士(法律事務所奈良中央)にお話を伺いました。 |

上羽 徹 弁護士
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-インターネット上の人権侵害には、どのようなものがあるのでしょうか。
憲法は様々な人権を保障しています。インターネットで侵害されたとよくご相談を受けるのは、「氏名や住所等の個人情報の拡散のようなプライバシーの侵害」、「誹謗中傷等の名誉の侵害」、「店の悪評を書き込む等の営業権の侵害」等です。最近ではSNSや掲示板等での人権侵害が次第に増えて、大きな問題になっています。インターネットが発達したことに加え、匿名で書き込みができることがインターネット上での人権侵害が増えた原因だろうと思います。
-どのような人がインターネット上の人権侵害行為をしているのでしょうか。
年齢層に着目すると、幅広い年齢層の人が加害者になっているようですが、何気なく投稿した書き込みが意図せず人権侵害になってしまうのは若年層に多く、最初から相手を攻撃しようと意図して投稿するのは中高年層に多い印象があります。
-私たち自身が加害者にならないために気をつけるべきことはありますか。
SNS等に投稿をする際には、それが世界中に配信され、誰が読むかはコントロールできないこと、また、投稿を第三者が容易にコピーできることから全てのコピーを削除することは不可能であること、そして、それを読む人がどう思うかを考えてから投稿しましょう。また、誰かの書き込みを閲覧して、それを転送や拡散する際には、その内容が事実かどうかをしっかり確認する習慣をつけましょう。一歩立ち止まって冷静に考えることが大切ですね。自分の考えを投稿する場合でも、誰かの投稿を拡散する場合でも、責任を持って投稿や拡散をすることが大事です。
-事実かどうかは、どうやって確認するのがよいのでしょうか。
SNSなどで読んだ情報について、その大元の情報源となる一次情報、例えば新聞記事や論文などを探して、内容が一致するかを確認するのが最もよいでしょう。次に、情報の発信者が信頼できる人や組織なのかを考えてみることも大切です。AIは間違った回答をすることがあるので、AIに尋ねて確認するのは望ましくありません。
-インターネット上での人権侵害に対応するため、令和7年4月に情報流通プラットフォーム対処法が施行されました。どのような法律なのでしょうか。
私たちは憲法で、表現の自由が認められています。これはとても大切な権利です。しかし、だからといって、インターネット上で、他人の人権を侵害するような書き込みを自由にして構わないということにはならないでしょう。
そこで、情報流通プラットフォーム対処法では、インターネット上で人権侵害等を受けた人の「救済」と、発信者の「表現の自由」とのバランスを取りつつ、インターネット上での人権侵害等に対処するために、SNS等を運営する事業者(プラットフォーム事業者)がすべきことや、すべきでないことを取り決めているのです。
-具体的には、どういうことが取り決められているのでしょうか。
プラットフォーム事業者とは、皆さんご存じのXやYouTube等を運営する企業等のことです。これらの事業者が「どういう場合に投稿を削除すべきか、削除すべきでないか」が法律に書いてあります。もうひとつ、投稿者が誰であるかとの情報開示請求があった際に、「どういう場合ならば投稿者に関する情報を公開していいか」がこの法律には書いてあります。投稿で人権を侵害された被害者は救済されるべきですが、投稿者にも表現の自由があるため、どこかで線を引く必要があるのです。
そして、ここからが大切な部分なのですが、この法律では、大規模なプラットフォーム事業者として9事業者(令和7年11月現在)が指定されており、これらの事業者にさまざまなことが義務づけられたのです。
-どのようなことが義務づけられましたか。
まずは、SNS等で誰かの投稿によって人権を侵害された人が、その投稿を削除してほしいと事業者に申し出ることが法律で認められています。事業者はその申出窓口を設置し、その窓口へのアクセス方法を公表するとともに、投稿を削除する基準を明確にして、ホームページ等で公開することが義務づけられました。加えて、事業者は、削除申出に対して7日以内に「削除するか、削除しないか」の返事をすることも義務づけられました。
これによって、被害者が、事業者のホームページ等にアクセスして自分で削除申出ができるようになり、その結果をすぐに知ることができるようになったのです。削除申出をしたけれど、それを事業者が見てくれたかどうかわからない、という状況にはならなくなったわけですね。
-削除申出をするのは容易になりましたが、実際に削除されやすくなっているのですか?
それは何ともいえません。ただ、事業者は削除申出を受けたら判断基準に従って削除するかどうかの判断をして、その結果を申出者に総務省令で定められた7日以内に通知はします。今までは放置されているのでは?と思われることもあったのですが、そういうことはなくなります。
先ほども説明したように、投稿者にも表現の自由があるので、申出があったからその通り削除すればいいという問題ではないからです。
-実際に私たちがSNS等で人権侵害を受けた場合は、先生がおっしゃったように事業者のホームページ等から削除申出をすればいいということですね。しかし、「ちょっと自分でそういうことをするのは怖いな」と感じる人もいるのではないでしょうか。その場合はどうしたらいいでしょうか。
その場合は、弁護士のような法律のプロに相談するのがいいでしょう。プロに依頼すれば、費用はかかりますが、事業者に対して「なぜこの投稿によって権利が侵害されたのか」を適切に説明してもらえるので、自分で削除申出をするより削除されやすくなる可能性があります。
弁護士に相談するのはお金もかかるしちょっと…という場合には、法務省の「インターネット人権相談受付窓口」等を利用するのもいいでしょう。
なお、自分で削除申出をする場合でも、どういう点で自分がこの投稿によって権利侵害されたのかをしっかり説明することが大切です。
-情報流通プラットフォーム対処法について、そして人権を侵害された場合の削除申出方法について理解できました。ここまでは被害者の側からお話を伺ってきましたが、もし自分がインターネット上で人権侵害をしてしまった場合に法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。
当然あります。誹謗中傷をした場合だと、名誉毀損罪、侮辱罪といった刑事責任を問われるとともに、損害賠償という民事責任を問われる可能性があります。あとは、誰かの写真を撮影して、その人の許可なく投稿した場合には、肖像権の侵害になり、その人から損害賠償を請求される可能性があります。
-人権侵害になるような投稿をしないよう、私たちも注意しなくてはなりませんね。そのために私たちがSNS等を利用する際に気をつけるべきことはありますか?
まずは、閲覧した情報を安易に信じないこと、安易に拡散しないことです。その情報が本当に正しいかを確認する習慣をつけましょう。
そして、投稿する際には、それを読む人の立場や気持ちになって考えましょう。なるべく、いろいろな視点で、多角的にものごとを見るようにするのがポイントですね。