奈良県の自然

 

奈良県は近畿地方のほぼ中央に位置し、海岸に接しない内陸県で、地形、地質上から見ると吉野川に沿って走る中央構造線により、北部低地と南部吉野山地とに大別できます。

北部低地帯の地形は全般的に標高500mないし600mの山地が多く、それらが奈良盆地の四方を囲んでいます。
北は平城山丘陵、南は飛鳥の地から高取、竜門山地、そして東は山の辺から大和高原、さらにその東方には室生火山群の山々が連なり、西は矢田丘陵及び生駒、金剛山脈が南北に走っています。
北部低地の植生は、春日山原始林に見られるように、本来、カシ、シイ等の暖帯性常緑広葉樹林、いわゆる照葉樹林でしたが、現在、その北部はアカマツを中心とした二次林が多く、クヌギ、コナラなどの落葉広葉樹林がこれに次ぎ、スギ、ヒノキの人工林も増えています。
一方、その南部は、標高1000m前後の葛城、金剛山頂や、1249mの高見山頂北側斜面などにブナ林がわずかに残っていますが、スギ、ヒノキの植林地が多くなり、特に宇陀山地は、吉野山地とともに奈良県の代表的なスギ、ヒノキの美林地帯として知られています。
奈良盆地及びその周辺部には社寺、古墳、御陵等が多く存在し、これらの境内や地域内の樹林の多くは、自然林のまま保護されて残っています。
とりわけ、うっそうと茂る春日山原生林は都市に近接する原始林として世界的にも貴重であり、隣接する若草山のススキとあざやかな対比を見せています。
ほかにも、ごろごろとした巨岩の川が600mにもわたって続く鍋倉渓、100mの絶壁が1.5kmも続く屏風岩、凝灰岩でできた山肌がまるで鶴がたむろしているように見える屯鶴峰など、自然の力によってつくり出された全国的にもめずらしい自然景観を見ることができます。
昔から青垣山と称される奈良盆地の山陵地帯は、自然林が点状または帯状に連なり、奈良盆地の田園風景及びそこに散在する数多くの文化遺産と一体となって素晴しい歴史的自然環境を形成しており、観梅で有名な月ヶ瀬、山頂部にツツジが咲きほこる神野山や葛城山、紅葉の美しい多武峰(とうのみね)など四季折々に変化を見せる周辺部の自然とともに、都市住民の身近な自然地域として貴重な存在であるばかりか、日本人の心のふるさととして重要な位置を占めています。

南部吉野山地は、東西70km、南北80kmにわたって広がり、県土面積の約2/3を占めています。
ここには、吉野川、北山川、十津川の渓谷が南北に流れ、山脈もそれに並行して東から台高山脈、大峰山脈、伯母子山地の3つの山脈を形成しています。
標高1915mの八剣山を筆頭に1000mないし1900mの山岳が連なり、谷部はとくに急峻ですが、多くの山頂部は平坦な地形が広がっています。
その険しい地形と豊富な水量は、笹の滝、蜻蛉の滝、不動七重の滝、ミタライ渓谷など特色ある自然景観を生み出しました。
さらに、吉野山地の山深くには、歴史上の人物も湯治に訪れたという古湯・秘湯や近年になって発見された温泉などが数多くあります。
南部吉野山地の植生は、その低山部はいわゆる吉野林業地帯に属し、ほとんどがスギ、ヒノキの人工美林に覆われています。
しかしその高山部は、ブナ、ミズナラ、リョウブなどの温帯性落葉広葉樹林からウラジロモミ、トウヒ、シラビソなどの亜寒帯針葉樹林にいたる自然林地帯となっています。
戦後の奥地開発により、広範囲にわたって自然林が伐採され、スギ、ヒノキの人工林化がすすめられましたが、台高山脈、大峰山脈、伯母子山地には現在もなお広く自然林が残されています。
とりわけ西大台ヶ原のブナ林は、現存する太平洋型ブナ林としては、わが国最大のものであり、東大台ヶ原には大峰山脈のものとともにわが国で南限とされるトウヒの純林が見られ、学術的にも貴重なものです。
吉野山地や奥宇陀の自然林地帯は、県鳥のコマドリをはじめアオバト、コルリ、ジュウイチ、ツツドリ、トラツグミ、コノハズクなど稀少種を含む多種の野鳥の繁殖地であり、秋にはツグミ、シロハラなどの冬鳥も渡来します。
また標高1600m以上の亜高山針葉樹林帯は、ルリビタキ、メボソムシクイ、ビンズイ、カヤグリなど主に中部地方以北で繁殖する鳥の西日本での数少ない繁殖地となっています。
さらにこれらの自然林地帯はその生息密度が極めて高いといわれている大台ヶ原のシカをはじめ、ニホンカモシカ、ツキノワグマ等の大型哺乳動物の生息地でもあります。

このように高山部の自然林地帯を中心とする南部吉野山地は、険しい岩峰、深い渓谷、早瀬急流、いくつもの瀑布が連続するすぐれた山岳風景とそこに息づく多様な動植物が織りなす素晴しい自然環境に恵まれており、豊かな自然とふれあうことのできるわが国でも有数の自然地域といえるでしょう。