奈良のむかしばなし

県民だより奈良 2020年3月号

奈良のむかしばなし
大川杉のはなし
文・山崎しげ子

 奈良県の御所市と五條市の境近くにある御所市西佐味。今回はこの地に聳(そび)え立つ「大川杉」と呼ばれる巨樹と、その根元から絶えず湧き出た有難い水のお話。

 ある夏のこと、金剛山麓の中腹の村で日照りが続き、稲や作物が枯れ始めた。
「ああ、困ったこっちゃ。どないしたらええのや」
 村人たちが頭を抱えているところへ、一人の村人が飛び込んできた。
「湧き水や、湧き水や。大川杉の根元から水が湧き出ているぞ」
 皆が驚いて行ってみると、なるほど、きれいな水がこんこんと湧き出ているではないか。
 「ああ、助かった。命の水や。これも神様のお恵みや」
 大喜びの村人たちは、杉の木に注連縄(しめなわ)を巻き、地蔵さんを祀(まつ)って大切にお守りした。以来、日照りの夏も、この湧き水は里の田畑を潤し続けたということだ。

 この湧き水で、かつては里人たちは野菜を洗い、洗濯し、桶(おけ)で運んで日々の生活に用いたそうだ。
 西佐味の田の畔(あぜ)で、今もひと際高く目を引く「大川杉」。
 竹藪(やぶ)の中、滑り落ちそうな急斜面の細い道を回り込むと、突如、現れた驚くばかりの太い幹。見えるのは幹のみで、八方に枝を広げ繁った葉が天を覆って全体の樹姿は見えない。
 太い幹には、ゴツゴツとした厚い樹皮に幾筋もの裂け目が刻まれている。縦横にうねうねと延びる枝、大蛇のように太くくねった枝。その生命力、迫力、神々しさに圧倒され、思わず「凄(すご)い!」と叫んでしまった。
 周囲約7m、樹高約24m、樹齢約450年。杉の巨樹としては奈良県内でも貴重な存在という。奈良県指定天然記念物。
 視線を移せば、眼下に広がる昔懐かしい棚田の風景。葛城古道の風の森峠、高鴨(たかかも)神社もそう遠くない。山並みの向こうは高見山、大峰山、大台ヶ原へと続く。
 三月、風も和らぎ、春の近さも感じられる。里人たちはそろそろ田起しの準備を始めるそうだ。

大川杉
 奈良県指定天然記念物として昭和58年3月15日に指定。御所市西佐味の集落の南端にあり、大川神社跡地にある老木。井戸杉と称され、根元周辺から冷水が湧き出し、大川の源となって新池に注ぎ、かつては飲み水として尊ばれていた。
 大川杉は、大正の終わりに落雷の被害を受け、直立してそびえていた2幹のうちの1幹が枯死したが、樹勢は衰えずかつ樹姿(じゅし)は美しい。
 毎年7月最終の日曜日には、注連縄を巻きつけ、豊作を祈念する神事が営まれている。
大川杉
物語の場所を訪れよう
大川杉(御所市西佐味)へは…
奈良交通バス「東佐味」下車、西へ1.3km
大川杉の周辺地図
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