奈良のむかしばなし

         
県民だより奈良
2021年5月号

はじめての万葉集
【第73話】
たぬきの恩返し
文・山崎しげ子
 香具山、畝傍山、耳成山の大和三山が美しい山容を見せる橿原市。今回は市の北西部、曽我(そが)町に伝わる、心があったか~くなるお話。

 昔、昔、曽我の村に北林(きたばやし)という大きなお屋敷があった。そこに初孫が生まれて、旦那さんは大喜び。お祝いの赤飯を村中に配ったが、飯はまだお釜に残っていた。
 その夜中、台所で何やら音がする。「もぐもぐ」。旦那さんがこっそり障子の隙間から覗(のぞ)くと、何と、二匹の親だぬきとたくさんの子だぬきが、赤飯をおいしそうに食べているではないか。
 「あれ、お腹がすいとるのか。好きなだけ食べたらええ」。それからは、たぬきの親子のために毎晩ご馳走(ちそう)を用意しておいた。
 ある晩のこと。このお屋敷に包丁を持った泥棒が入った。「やいやい、金を出せ」。旦那さんが恐る恐る蔵の鍵を泥棒に渡そうとしたその時、「ドシッ、ドシッ」と大きな足音がして、二人の大男の力士が入ってきた。「こら!さっさと出て行かんと、捻(ひね)りつぶすぞ」。さすがの泥棒も一目散に逃げ出した。
 旦那さんが「おおきに、おおきに」といって深々と頭を下げている間に、二人の姿は消えていた。
 その夜、旦那さんの夢にたぬきの夫婦が現れた。「いつもご馳走さんです。お陰で子どもたちはひもじい思いもせず育ちました。今夜はその恩返しができました」。「ああ、あの力士はお前たちやったんか」と、旦那さん。それからは、たぬきが北林家の守り神になったそうだ。

 さてさて、この北林家のある曽我町というところ。その名の通り、この周辺は古代の大豪族、蘇我(そが)氏が支配し繁栄した地。
 近くにある「宗我坐宗我都比古(そがにいますそがつひこ)神社」は飛鳥時代に創建されたとされる蘇我氏ゆかりの古社。境内には万葉歌碑「真菅(ますが)よし 宗我の河原に鳴く千鳥(ちどり) 間なしわが背子(せこ) わが恋(こ)ふらくは(巻十二・三〇八七番歌)」が。
 今も曽我町のすぐ西に、千鳥が恋しい人を呼んで鳴くように曽我川が静かに流れている。
たぬきの恩返し
物語の舞台、曽我町
 橿原市立真菅(ますげ)小学校西の国道24号バイパスを中心とする、曽我町中央部地下一帯には、古墳時代の曽我遺跡が眠っています。5世紀後半から6世紀前半にかけて、大和朝廷直属の玉類を作る基地だったことが昭和58年の発掘調査で分かっています。
 また、曽我町は、古代豪族・蘇我氏の一族が住んだといわれ、集落の北西、曽我川の右岸には、蘇我氏の始祖を祀(まつ)った宗我坐宗我都比古神社があります。
宗我坐宗我都比古神社
宗我坐宗我都比古神社
物語の場所を訪れよう

「宗我坐宗我都比古神社」(橿原市曽我町1196)
近鉄真菅駅南西へ約100m
宗我坐宗我都比古神社
橿原市観光政策課
電話

0744-21-1115

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