奈良のむかしばなし

県民だより奈良
2023年10月号

奈良のむかしばなし
狐に化かされた山伏
文・山崎しげ子
 奈良県中央部の南、大峯山系の峻厳な山々に囲まれた天川村。飛鳥時代に役行者(役小角)が開いた修験道の聖地、山上ヶ岳、八経ヶ岳、弥山などが連なり、ひやりとした霊気が漂う。まさに異界の趣き。世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の主要構成要素でもある。
 修験者は、山伏ともいい、大自然の神秘的な霊力を得ようと厳しい山中で苦行を続ける。山伏は頭に頭襟(ときん)、身に鈴懸(すずかけ)、結袈裟(ゆいげさ)、山袴(やまばかま)を付け、手に錫杖(しゃくじょう)、法螺貝(ほらがい)を持つ。今回は、そんな山伏の聖地、天川村に伝わるちょっと怖いお話。
*  *  *
 昔、昔、ある山伏が大峯山中で修行をしていた。ふと見ると、ひる寝をしている狐がいた。ちょっといたずらをしてやろうと、狐の耳元で法螺貝を思いっきり大きく吹き鳴らした。狐は驚いて跳ね起き、一瞬にして林の中に姿を消した。
 山伏は、なおも山中を進んだ。ところが、なぜか空が暗くなり、日暮れてしまった。不思議に思いながらも、山伏は先を急いだ。が、泊れそうな宿も見当たらない。仕方なくある墓地に入り、火葬場の屋根裏で一夜を明かすことにした。
 あたりはますます暗くなった。屋根裏から外を覗くと、あれっ、何やら大勢の光の行列が近づいて来るではないか。葬列であった。
 葬列は墓地に着くと、供養のあと、遺骸に火をつけ、立ち去った。
 さあ、ここからが大変。火をつけられた遺骸が、何と、火の中から飛び出してくるではないか。そして山伏を見つけると、「これから私が行く死出の旅路、一人では心細い。同行してもらおう」と言うやいなや、山伏に襲いかかってきた。山伏は恐怖のあまり気を失った。
 しばらくして、山伏の意識が戻った。すると不思議や、辺りはまだ夕方にもなっておらず、墓地も見当たらない。さては、例の法螺貝で驚かせた狐の復讐か。山伏は、また修行の道を真剣に歩き出した。
*  *  *
 山上ヶ岳の山頂付近にある大峰山寺では、九月二十三日、本堂で修験道の「戸閉式」が行われた。来年五月三日の「戸開式」まで、大峯山系は厳しい冬を迎える。
仙女
みたらい渓谷の伝説
 紅葉の名所として知られる天川村のみたらい渓谷。天川村には「みたらい」の名の由来となった大蛇伝説が残る。
 天川村北角(きとずみ)に器量の良い女性がいた。村内の多くの男性が求婚に訪れ、その中の1人と恋をし、身ごもった。男性はいつも日の出前に帰るため、気になった女性は男性の着物に赤い糸を結んだ針をそっと刺し、朝にその糸を辿った。糸は渓谷の深い淵へと続き、そこには針の刺さった大蛇が死んでいた。それ以来、男性は二度と現れず、女性は失意のうちに子どもを産んだ。その子どもは蛇の子どもで盥(たらい)に三杯になったことから、三つのたらい(三盥(みたらい))といわれるようになった。
 この他にも南朝の帝がミソギ(御手洗(みたらい))をしたとの伝説も残る。多くの伝説が残るみたらい渓谷。奈良県景観遺産に登録されている遊歩道からは、四季折々の自然が楽しめる。
物語の場所を訪れよう
みたらい渓谷(天川村北角)
奈良交通バス「天川川合」下車、
みたらい遊歩道入り口へは南東へ約1.3km
漆復興拠点施設「ねんりん舎」への地図
天川村総合案内所
電話 0747-63-0999
FAX 0747-63-0888
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