山添村東山診療所
八十島 先生
1990年3月 滋賀医科大学 卒業
診療所勤務前 京都保健会 上京診療所 所長
2013年10月 山添村東山診療所 就業
(2016年2月インタビュー)
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- 現在の診療所で勤務するきっかけは何ですか。
- 奈良県のドクターバンクに2012年6月頃に申し込みをしたのがきっかけです。そこで私の情報を奈良県から各町村に流してもらい、所長交代が控えていた山添村が名乗りを挙げてくれました。県がお見合いの仲人のように、村と私を繋いでくださったという感じでしょうか。私はもともとへき地医療を希望していたのですが、それは医師を目指した理由でもあります。研修医としては長野県の佐久病院で研修をしましたが、家庭の事情もあり、その後は京都で働いていました。しかし、こういう場所で働きたいという気持ちがあったので、京都にもすぐに戻れる近畿圏内で探しました。京都府はへき地医療の窓口を府がやっておらず、滋賀県や兵庫県も医師会に丸投げなんですね。県が窓口を置いているのは奈良だけでしたし、力の入れようが違うと感じました。奈良は京都に隣接していますから、安心感もありました。当初は奈良県の南部に赴任するイメージを持っていたのですが、返事があったのがこちらだったという流れです。2013年10月からこちらで勤務させていただいています。
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- へき地医療に興味を持たれたきっかけを教えてください。
- 田舎暮らしがしたかったからです(笑)。高校時代に進路を決めるときも農学部に行きたいと思っていたぐらいです。ただ、農学部に進学した人のその後を見てみますと、企業に就職したり、遺伝子生物学的な研究をしたりと、私のイメージとは異なっていたんですね。高校2年生になったときに、自治医科大学の一期生の先生が2年間の研修を終え、今からへき地の診療所へ赴任するというニュースをテレビや新聞で見て、「これだ」と直感しました。それで自治医科大学を2回受験したのですが、駄目だったんです。私は大阪出身なのですが、面接で「大阪にはへき地がないよ」と言われたことをよく覚えています(笑)。
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- 診療所はどんなところですか。
- 基本的に何でも診ないといけないという診療所ですね。これまでは内科だけを診ていたんですが、膝に関節注射をしないといけない患者さんが多いですし、怪我をして縫わなければいけなかったり、レントゲンを撮って、骨折が見つかって整形外科へ送ったりです。前任の所長が整形外科医ということもあって、外傷や整形外科的なことが多いなという印象です。兼業農家さんが結構いらっしゃる地域なので、農作業をしていてケガをされるパターンも多いですね。でも、季節ごとに採れた野菜を持ってきてくださるし、季節感を感じるようなところもあります(笑)。
往診もしています。あちこち回るんですが、ここは大和高原という一帯で、集落が点在しているんですよ。山の中は谷筋や川沿いに沿って集落が繋がっているというイメージで、実際そういうところも多いはずなんですが、ここはなだらかな丘陵地がずっと続いているので、住もうと思えばどこにでも住めるように感じます。村は割と広いんですが、集落が満遍なく点在していて、日本の田舎の原風景みたいです(笑)。一つ一つの集落ごとが絵になり、すごく美しいなと思っています。そこの一部分だけ切り取って絵にすると、日本昔話に出て来そうな、そんな雰囲気です。
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- 1日の仕事の流れを教えてください。
- 曜日によって違います。村に、この東山診療所、豊原診療所、波多野診療所の3カ所の診療所があります。波多野は一人の医師が詰めておられるんですが、私は東山と豊原を掛け持ちしています。月曜日、水曜日、金曜日は午前が東山診療所、午後は豊原診療所というふうに、外来を丸一日、両診療所でこなしています。火曜日は東山診療所の診療がないので、午前は豊原診療所に行き、午後は乳幼児のワクチン接種をやっています。波多野診療所の近くに保健センターがあり、子どもが産まれると、保健師が計画を立て、「何月何日に注射を打ちに来てください」などと案内しているんですね。住民の方がその通りに来てくださると、そこでワクチンを打つという仕事を午後からしています。
月曜日、水曜日、金曜日は8時半からミーティングなどを行い、9時前から診療を開始します。12時過ぎぐらいに午前診療が終わります。それから昼食を取り、支度して、13時半ぐらいに出発します。豊原診療所は14時開始です。豊原診療所は少し短くて、16時に終了します。往診日を木曜日に設定していますが、往診患者さんも20人ほどいまして、具合が悪くなる方が結構いらっしゃるので、点滴をしに行ったり、臨時往診をすることもあります。また、ここに戻ってきて、一日の仕事を終えるという形です。もちろん、そのあとに書類を書く仕事もありますので、終わる時間はバラバラですが、18時過ぎぐらいには一段落しますね。私は診療所の敷地内に住んでいるので、ほとんど一体化している感じです(笑)。
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- 診療所での勤務はいかがですか。
- 交通の便が割といい村なので、天理市や伊賀市、名張市の病院に患者さん自身が自分で状態を判断して行かれるんですね。私は重症患者さんも多くいらっしゃるイメージがありましたが、それは想像とは違いました。救急車ですぐに行かなければいけない、重症の患者さんが直接、ここに来ることはまずありません。心筋梗塞の患者さんが続々と来られても困りますし(笑)、落ち着いて診療できています。慢性疾患の患者さんを診ることが中心で、冬はインフルエンザの患者さん、怪我や痛みを訴えてこられる患者さんも増えます。大きなことがぽんと飛び込んでくることはなく、同じことをずっと一日することもなく、色々な変化があるのは私の性格には合っていますし、ある意味総合診療ができています。テレビで取り上げているような難しい症例はあまり来ませんが、充実していますし、遣り甲斐もあります。
私は研修先の病院で漢方薬に興味を持ち、前任の勤務先でもそういうことをしていたのですが、ここでも漢方治療を継続しています。前任の竹本先生が漢方薬を使っておられ、生薬を煎じて出しておられたんですね。これだけ生薬を使っている国保診療所は全国でもまずないでしょう。私も同じ思考でしたから、今はその勉強をしています。将来は煎じ薬を自由自在に使っていきたいんです。その意味で、自分がしたい診療にこの診療所が一致していますし、恵まれていますね。
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- へき地での生活はいかがですか。
- 非常に規則的な生活を送らせていただています(笑)。決まったように診療所に来て、ほぼ決まった時間に終わるので、こちらに来てから、本を随分読めるようになりました。以前の職場は夜診や当直があり、特に当直明けは疲れが溜まって、体力を消耗してしまい、勉強しないといけないと思いながらもできない状態で、モヤモヤしたものがありました。今は疑問に思ったことはその日のうちに解決しようということで、調べものをする時間が取れるようになりました。漢方も生薬がきちんと使えるように、経絡を見て針が打てるようなレベルになるために勉強もしています。ここへ来て、本当に良かったです。こういうところへ来る方へのメッセージとして、声を大にして言いたいです(笑)。
親の介護で土日はこちらを離れてしまうので、休みの日も村民の方と一緒に何かをしてというのがあまりありません。村民の方は私がここで勤務している顔しか見ていないので、私生活まで十分に溶け込んではいません。しかし、ある程度の距離を持ってやっていく方が良かったり、長続きするのではないでしょうか。以前、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組に出られた、福井県の名田庄というところでの診療所勤務を20年以上やっておられる中村伸一先生に一度、お話を伺ったことがあります。中村先生は自治医大の卒業で、義務年限が終わっても名田庄の診療所にいらっしゃいます。でも、中村先生も私と同じなんです。福井の北の方に御自宅があって、平日だけ名田庄で過ごして、週末は御自宅に帰っておられるんですね。中村先生も「距離を取った方がいい」とおっしゃっていました。私はもう少し村の中を見て回りたいという気持ちもあります(笑)。
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- 休日などは何をして過ごされますか。
- 親の介護があるので、週末は京都に帰っています。金曜の夜にこちらを出ます。村には許可をもらっているんですが、前の職場で外来患者さんを持っていまして、漢方の処方をほかの先生方ができないので、土曜の午前中だけ行っています。午後は色々ですね。講習会や講演会に行くことが多いです。日曜日は朝からゆっくりしています。母親をお昼過ぎに送って、ここへ夕方戻ってくるようなサイクルです。特に運動はしていませんが、山登りが好きで、京都だと大文字山に登ったりしています。大文字山の頂上を超えたところに、比叡平といって、滋賀県側になだらかに降りていく道があり、降り切ったところにお寺があるんです。そこに実は生薬を一杯植えているんですよ。そこに行って、生薬を見るのが趣味です(笑)。夏場は月に1度くらい、行きますね。
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- 病診連携はどのようにされていますか。
- 県立医大の施設に登録させていただいています。市立奈良病院から週1回、非常勤の先生に来ていただいているんです。そういう形で、市立奈良病院とは連携が取れていますし、こちらから市立奈良病院に患者さんを紹介することも多いです。市立奈良病院の総合診療科の若手の先生が診療所の所長を呼んで、月1回、症例検討をやりましょうという会もあります。
天理よろづ相談所病院からは研修医が年間10人程、1週間単位の地域医療研修に来ています。そういう繋がりもあり、2か月に1度ほど、天理よろづ相談所病院でのカンファレンスに参加して、あちらの先生方と親しくさせていただいているので、患者さんもよくお送りします。また、高井病院に検査などをお願いすることも多いですし、岡波総合病院に患者さんをご紹介することもあります。規則を決めての連携というわけではないですが、個人的な顔の繋がりなどを利用しながら、紹介をさせてもらっています。
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- 最後に、へき地医療に関心のある学生、また、へき地医療勤務を希望される医療従事者の方へメッセージをお願いします。
- まず、技術的な話ですけれども、こういうところでやるには内科、整形外科、小児科は必須です。また、認知症の初期対応、認知症なのか否かという診断をするスキルは身につけておかなければいけません。自己研鑽は必要ですが、敷居やハードルを自ら上げる必要もありません。飛び込んでやってみて、「これが足りないな」というときに研修すればいいのです。私もこちらへ来てから週1回、県立病院で小児科や整形外科の研修をさせていただきましたし、どこの診療所に行っても、そういう研修は可能でしょう。もし興味があれば、飛び込んで勉強しながらやっていけばいいのではないでしょうか。そして、田舎暮らしが好きな人は是非どうぞ(笑)。