奈良県西和医療センター

西野正人先生

奈良県立三室病院
指導医
西野 正人 先生

奈良県立三室病院 小児科 副院長
(※所属・役職は2013年3月インタビュー当時)

〒636-0802 奈良県生駒郡三郷町三室1丁目14-16
TEL:0745-32-0505 内線:2212
FAX:0745-32-0517
病院URL:http://seiwa-mc.jp/

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  • 当院の特徴やポジションについてお聞かせください
    西野:当院は奈良県の西和地域および香芝市周辺地域(人口約20万人)での唯一の地域医療支援病院です。つまり、開業の先生方や地域医療施設との医療連携を柱としておもに急性期疾患を中心に診療しており、地域救急医療を積極的に行っております。とくに心筋梗塞などの循環器疾患、脳卒中や脳梗塞などの脳循環器疾患、小児救急疾患などは熱心に受け入れを行っております。このように西和と中和一部地域における急性期医療の中心的役割を担っていると自負しています。ところで、三室というとあまりピンと来ない方もおられるかと思いますが、奈良県内のJR路線がすべて集まるJR王寺駅から徒歩10分程度のところで大和川と竜田川の間に位置し、その向こうには法隆寺があります。
  • サブスペシャリティについて
    西野:私は小児科専門医であり、これが基本専門分野ということになります。一方、研究分野では血液専門医・指導医でもあります。この分野では、白血病や再生不良性貧血などの多くの小児がん患者や先天的な出血傾向患者を診させていただきましたが、そのなかで血栓止血学の研究を行ってまいりました。他方、臨床分野では、てんかんを含めた小児神経疾患の患者さんを20年以上も診させていただいております。患者さんの中にはすでにお子さんもいらっしゃる方もおられます。奈良県内ではとくに患者さんが多いのではないかと思います。
  • きっかけについて
    西野:小児科に入局して最初の難病は病原性大腸菌によるHUS症例でしたので検査や病因検索をしているうちに血栓止血学/血液学へと研究の道に進み、大学病院時代や留学の間はおもにvon Willebrand病などの研究をしておりました。その後、県立三室病院へ異動となったのを機会に・・・医学生の時期は脳神経外科に進むつもりだったので・・・てんかんなどの小児神経疾患へと興味が変わってしまいました。よって、研究のテーマは血液疾患/血栓止血学、臨床は小児神経疾患という二足の草鞋を履いております。
  • その魅力や面白さについて教えてください
    西野:小児科は子どもが相手ですから、やはり可愛いですよね。
    子供とのコミュニケーションをとることでいろいろ勉強させていただいています。
    小児科の診療は、子どもとの挨拶の段階から始まっているのです。例えば子どもの患者が診察室に入ってくると、「こんにちは」とこちらから挨拶します。すると当たり前ですけど、「こんにちは」と子どもは挨拶を返してきますよね。その時、視線がちゃんとこっちを向いているかとか、そのほかの反応でその子の発達の具合を観察します。また、子どもと遊びながらいろいろやらせてみますと、この子は正常に発達しているのか?あるいは発達が遅れているのか?わかります。これはほんの十数秒で可能ですよね・・・
    視力や聴力なども含めて全部一緒に遊びながら診るのです。これが小児科の魅力であったりしますね。一方で、小児科の医者は、「必ず治す」という強い信念の基に治療しています。まさか、「寿命です」とか、「もうダメです」などという言葉は一切使いません。御両親の立場にたって、何がなんでも助ける、絶対に元気にして家に帰すのだという小児科の先生方の強い信念はいつも感じております。
  • 小児科の医師不足について
    西野:小児科の臨床研修を始めると体力的につらい面ばかりが見えてしまいます。自分に自信が持てるようになり余裕ができて初めて小児診療が楽しくなるのです。
    まだ経験が浅い時期は、子どもの診察に時間を掛けて、一生懸命話を聞いて、どうやって治療をしたらいいのかを必死に考えます。当然、ゆとりなんてなく、焦るばかりで楽しくありません。しかし、指導医クラスになれば、子どもの患者の顔を見ただけで、多分こんな病気でこういう治療をしないといけないだろうというような治療の設計図が頭の中で瞬時にでき上がります。それで、自分自身にゆとりが生まれ、御両親の気持ちやあせり、本人の苦痛が手に取るように理解でき、親御さんに「大丈夫ですよ」と言ってあげることができるようになれます。そして、子どもと一緒に遊びながら診療できるのです。
    親御さんは、自分の子どもが病気になると当然必死になります。大した病状でなくても、心配で堪らず、真夜中であっても平気で救急に連れてきます。どう見ても子どもは、そんなに辛そうでもないですが、お母さんは医者に対して目一杯の事を言ってくるのです。研修医はこれを理不尽と感じてしまうかもしれません。なぜこんな理不尽な要求を受けてあげないとならないのかと思ったら、もうやりたくなってしまいます。小児科は、内科とかと比べて充実感が味わえるレベルになるのに時間が掛かるのです。それなのに初期臨床研修で小児科の最初の楽しくない部分だけを経験してしまうので、当然小児科希望の研修医が増えないのです。悲しい事ですね。
  • 先生の受けた初期研修について教えてください
    西野:僕は昭和52年卒業でしたから臨床研修という制度はありませんでした。医学生の5年生、6年生の時から自主的に実習に入っていきました。今はできませんが、あの頃は学生なのに色々なことを経験させていただきました。学生の時は主に麻酔科に行って色々なことを教えてもらいました。それが僕にとっての初期研修だったと思っています。
    小児科に入局したときは、なんと3ヶ月目で一人当直です。初めての一人当直の晩にCPA(心肺停止)の患者さんが来られて大変困りました。3、4時間汗だくになって心臓マッサージをしましたが、助かりませんでした。いきなり苦い経験をしました。昔は今みたいに順序立てて教えてもらえるシステムがなく、なんでもやらされましたが、一年経ったらほぼ何でもできるようになりました。
    今の研修はいろいろ計画的に研修できてすばらしいのですが、カンファレンスとかプレゼンテーションの準備とかの時間が長すぎて、実地の症例経験が積めなくなる傾向が出ているように思われます。これは、研修教育熱心で研修医の数が多いほで出てきていると思います。
    当院の状況を言わせてもらえば、研修医は1年間1,000名以上救急患者を診るように指導しています。当然指導医はそばにいますが、ある程度は研修医に診断をつけさせて、どうするべきか考えさせて、受け答えをしながら経験値を上げていくというスタイルで、救急における対応力を身に着けさせるようにしています。
  • 初期研修の特徴を教えてください
    西野:当院の初期研修は少数精鋭です。平成24年3月時点で2人、4月から3人になります。3人でも研修医1人当たりの救急の受け持ち件数はかなり多く、例えば内科の救急外来当直だけで一晩に10人~15人を診察します。心筋梗塞、消化管出血や脳卒中などかなり重症度の高い患者も来ますので、多いときは一晩に7人も入院することがあります。CPAも一晩に3人も来るときがありますから、そんな日は、一晩当直するだけでもクタクタになってしまいますね。多くの症例を経験できるのが特徴です。
    研修のモットーは知行合一で、経験をしながら学ぶということです。経験したらすぐにカンファレンス等を含めて勉強する。座学は身につかない・・とよく言われますが、知識だけの勉強はダメ、人の症例やカンファレンスで症例だけ聞いてもだめです。自分で大変な思いをして経験しないと、身には付きません。
    あとは他人の診断や情報をそのまま信じない事です。自分で直接診て確認すること。そこで、疑問を感じたら、ただちに調べる、質問するような習慣をつけなさいと教えています。
  • 大学病院と市中病院での研修がよく比較されますが、どのようにお考えでしょうか
    西野:大学病院はレベルが高いですし、難しい患者さんも沢山来られるので、そういう勉強をするのであれば大学病院が良いと思います。大学病院へ受診の患者さんは ある程度他の病院で診断がついて、難しい患者なのでお願いしますと紹介されて来られるので、初めての症状から診断をつけてゆくというステップはほとんどなく、高度医療へとすすんでゆく場合がおおいと思われます。しかし厚生労働省が初期研修に求めているのは、専門的な教育ではなくプライマリーケアの能力を身につけることです。患者さんが最初に病院に来るときは、臓器別ではなく、症状別で来るのです。症状というのは熱があるとか腹が痛いとか胸が痛くて苦しいとか、その時点では果たして腸炎なのか大動脈乖離なのか心筋梗塞なのか、要するにお腹が痛いといっても胃潰瘍かも分からないし心筋梗塞かも分からないのです。それを区別する能力を身につける研修が大事なのです。一般病院というのは症状をベースに診断をしてから治療するプロセスですが、大学病院はある程度診断がついた状態で更に深い所に踏み込んでいく所です。
    初期研修はやはり症例の経験数が命です。気管内挿管など初期対応で経験する患者数は他の病院の5倍とか10倍になることもあります。しかし、大学病院のような深みのある症例をどの程度経験できるかは市中病院では分かりません。
    要は初期研修に何を求めるかですね。初期研修は市中病院で受けて、後期研修以降は専門性の高いところで受けるのが良いと私は考えています。そういう意味で、当院はかなり初期研修に適した病院だと思っています。
  • 指導の際に心がけていらっしゃるのはどんなことでしょうか
    西野:研修医が3人いると三者三様になります。臨床に向いている人、研究に向いている人、本当に三者三様です。要するにみんな全く個性が違うので、何回も話をします。最初にその研修医にはどんな接し方をしたらモチベーションが上がるか考えてあげることが一番大事です。つまり、個々の個性に合わせて言い方、接し方をかえます。二番目は、将来について一緒に考えてあげることです。
    また、自信をつけさせてあげたいですね。自信を身に付けさせるには、自分のしたことが正しかったと実感させることです。それも一つずつ積み重ねていくようにします。急に自信を持つとそれは思いあがりになってしまいます。
    最初の1、2年が一番大切です。教えられたことを鵜呑みにする癖をつけてしまうと将来伸びなくなってしまいますので、すべて自分で確かめ考えるように指導しています。
  • 研修医に対して、これだけは肝に銘じておくべきだということをお聞かせください
    西野:あせらず一歩ずつ。あなたは優秀だから自信をもって着実に、止まらずに進みなさい。
  • これから研修病院を選ぶ医学生に対し、初期・後期において研修病院を選ぶポイントはどのようなことでしょうか
    西野:初期研修はきわめて大切です。そのときの姿勢が一生の進歩や可能性を決定しかねないことを念頭に・・・研修病院を選ぶときには、指導していただく先生がどういう診療姿勢を持っているとか、どの程度深く掘り下げて物事を考えているか、どういう人であるかをよく見極めて決めたらどうでしょうか。やはり見本は指導医でしょうか?
  • 最後に、再度病院のPRお願いします
    西野:当院は、奈良県内で人口が唯一増えつつある西和・香芝地域に位置しています。最寄り駅の王寺駅はJR関西本線と和歌山線、近鉄生駒線と田原本線の4線が乗り入れている奈良県有数のターミナル駅で開発が進んでいます。今後の奈良県の医療を考える意味では大事な地点であり、今後県立三室病院の役割は更に大きくなってくると思います。
    当院では、急性期疾患を中心とした循環器、心臓、脳神経疾患、小児急性期疾患等の豊富な症例を経験できます。ぜひ見学にお越しください。お待ちしています。

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