南奈良総合医療センター

下川 充先生

南奈良総合医療センター
指導医
下川 充先生

南奈良総合医療センター 副院長・教育研修センター長・麻酔科部長
(※所属・役職は2018年3月インタビュー当時)

〒638-8551 奈良県吉野郡大淀町大字福神8番1
TEL:0747-54-5000
FAX:0747-54-5020
病院URL:http://nanwairyou.jp/minaminara/

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  • 南奈良総合医療センターの特徴をお聞かせください。
    下川:南奈良総合医療センターは奈良県南部に位置する南和医療圏に位置し、「南和の医療は南和で守る」という理念のもと、この地域の急性期医療を一手に担っていることが第一の特徴です。地域の疾患頻度をそのままに反映した患者層ですから、いわゆるコモンディジーズを抱えた患者さんが多くおられます。地域の大きな医療ニーズである「1次/2次救急医療、プライマリケア」に救急センターがしっかり対応しつつ、より専門的な対応が必要になった場合には奈良県立医科大学と連携しながら地域住民の健康を守っています。ドクターヘリの基地病院でもあり、一刻を争う救急疾患に対する迅速な治療介入も行っています。
    また、総合内科が活躍していることも特徴です。総合内科は初診外来や入院診療に加えて、在宅診療や僻地診療所支援まで行っています。患者さんの病気のみならず、心理的・社会的な側面や家族・地域背景にも注目し、臓器別専門医や多職種と連携してチームで対応することで全人的な医療を行っています。各専門科も充実しており、各科の特徴を生かしながら地域特性に応じた専門医療を実践しています。
    このように、救急科/総合内科と各臓器別専門科、院内の多職種、各部署が有機的に連携して医療を提供しているため、病院全体として地域の声に耳をかたむけ、地域の健康を守れる、まさに地域に密着した病院であることが最大の特徴です。
  • 南奈良総合医療センターの初期研修の特徴もお願いします。
    下川:当院のプログラムは「南和まるごと研修」という名称です。当院の研修医が温かい心と確かな技術を身に付けられるよう、全職員が一丸となって教育に携わります。大病院と比べると研修医数は少なく、「臨床現場教育」をとくに重視していますので、見学ではなく主となってしっかりと研修してもらえ、色々な手技も数多く経験できると思います。具体的には、豊富な救急症例(年間救急件数 約13000、救急車受入れ約4000:H28年度)をベースに一年を通して週に2コマ(計1日)の定期的な救急外来研修があります。上級医の指導のもと、季節性疾患も含めてコモンディジーズをまんべんなく経験でき、プライマリケアの実力が確実に身に付きます。また、地域医療研修では当院自前の在宅医療や僻地医療/回復期・亜急性期医療が経験できます。急性期から人生の最終段階まで、その人の人生に継続的に寄り添いながら医療を提供できる現場を実際に経験することができるのは、当院だからこそ実現できる魅力だと思います。
    そして、臨床判断や手技が無理なく身に付けられるよう、ローテーション順番調整やレポート指導などにも様々な配慮をしていますが、特筆すべきは「レジデントデイ」の存在でしょう。研修医は月に一回、完全に業務から離れて「レジデントデイ」に集います。ここでは、一か月の振り返りの実施や、「コンサルテーションの仕方」など医師の基本スキルに関するワークショップ、外部から有名講師を招いての教育回診など、手厚い教育体制が整っています。基幹型研修病院としては認可されたばかりですが、当院の前身の一つである五條病院時代から、総合内科を中心に地域研修として長年にわたり多数の研修医を受け入れてきた実績がありますし、総合診療専門医プログラムの基幹病院にも指定されているため、若手医師に対する医学教育の文化があります。何より基幹型臨床研修病院として研修医の皆さんを受け入れられることを、私はもちろん各科指導医達もたいへん楽しみにしています。
  • 下川先生がいらっしゃる麻酔科の特徴をお聞かせください。
    下川:私を含め、常勤麻酔科専門医が3人います。私も立場上は管理職ではありますが、いち麻酔科医として患者さんと関わる時間も多く、本当に充実した毎日を過ごしています。高度先進医療で行われるような特殊な麻酔症例があるわけではないですが、地域の病院で必要とされる標準的な麻酔と周術期管理とを丁寧に行っています。当院の手術室は4つですが、当初の予想以上に手術件数が増えており、地域のニーズの大きさを実感しています。例えば、南和地域の高齢化率の高さもあり、高齢者の骨折が非常に多いです。以前は整形外科の定期手術日に合わせる形で「1週間後に予定手術」ということもありましたが、いまは出来るだけ48時間以内に準緊急で手術する形に変わってきています。高齢者は入院することでせん妄が起こったりしますし、早く手術する方が合併症も少ないと言われていますので、整形外科の先生方も熱心に手術に臨んでくださっています。他の科の先生方も同様に熱い気持ちをもって診療してらっしゃいますので、麻酔科としてもできるだけフレキシブルに対応し、地域に貢献したいと思って診療を行っています。
  • 先生の初期研修医時代はどのようにお過ごしでしたか。
    下川:卒業して30年以上も経っていますので、麻酔科に入局して、もちろんストレートの研修でした。
  • 先生が麻酔科に進んだ理由をお聞かせください。
    下川:麻酔科を強く希望していたわけではなかったのですが、強いて言えば患者さんが危機的状況になったときにきちんと対応できる医師に早くなりたいと考え、最終的に麻酔科を選んだという感じです。麻酔科の仕事は全身管理をもとにした急性期患者侵襲に対する管理なので、もし別の科に移ったりするにしても、麻酔科の知識が役に立つだろうと思いました。でも入局してみると面白くて、結果として30年以上、麻酔科医をしています。
  • 医師になろうと思ったきっかけはどんなことだったのですか。
    下川:明確な理由はありません。兄がいたんですが、私が小学2年生のときに髄膜炎で亡くなったこともあり、そういった理由から医療の仕事を割と意識していました。医学部に行こうと思ったのは高校2年生のときに理科系、文化系の選択をするときでしょうか。ただ、何が何でも医学部と考えていなかったのが正直なところで、工学部なども受験していました。
  • 診療科の選択で迷った科はありますか。
    下川:放射線科、精神科、整形外科ですね。全身管理が早くできるようになりたいというのが決め手になり、麻酔科を選びました。特に私が卒業する頃は麻酔科には人が少なく、私より上が10人もいなかったんです。今から人が増えるとより活発になっていくだろうという予感もありましたし、創成期の面白みもあるかなというの理由もありました。
  • 指導される立場として心がけていらっしゃることを教えてください。
    下川:大学病院にいた頃からポリクリが好きで、色々なプログラムを組んだりして、関わってきたんです。今から15年ほど前、私が大学病院を離れる少し前にシミュレーション教育のようなものが始まり、麻酔科でもしようということになって、教授から指名されて取り入れたりもしました。私たちの頃は先輩から「俺の言う通りに真似しろ」、「俺について来い」と言われ、先輩の背中を見て覚えたものですが、シミュレーション教育は教育のあり方をかなり変えると思いましたね。患者さんで勉強させていただくのは昔も今も同じですが、手技があまりできないのに、患者さんに侵襲的な処置をするのはおかしいですから、まずはシミュレーションで練習して、それから患者さんに侵襲的な処置をしようというものです。シミュレーションすることで、急に心臓が止まったり、急変してばたばたするなどの普段はありえない状況を想定したうえで対応する訓練ができるんです。そういうシミュレーション教育に関わってきたので、大学病院を出て、当院に来たときもそれを含めて教育に関わらせてほしいと院長にお願いをしました。もう一つは成人教育です。20年、30年前は先生が黒板に書いたことを写す授業が主流でしたが、私は双方向性を心がけています。手術室に看護学生が実習にくると、私は次々に質問をするんです。看護学生からは「下川先生のところに行くと、質問を一杯される」と避けられたりするとも聞いています(笑)。でも、質問されたことに考えて答えるというやり取りの中で学ぶことは大きいです。教科書を読んで学ぶことは家に帰ってからでもできるので、自分で考えた中で気づく学びを大事にさせたいと思っています。
  • 研修医に対して、これだけは肝に銘じておくべきだということをお聞かせください。
    下川:研修医の時代はどうしても自分が診察をしたい、自分が検査をしたい、自分が手術をしたいみたいな「自分が自分が」になってしまいます。しかし、患者さんがおられるわけですから、少なくとも患者さんの気持ちに沿うように、患者さんの立場に立った医療を身につけてほしいです。研修医には「この患者さんが君のお父さん、お母さん、お祖父さん、お祖母さんだったら、同じようにするのかな」と言っていますが、こうしたことを心がけてほしいですね。勉強をしていかないといけない時期なので、「自分が自分が」という気持ちも分かりますが、その中に患者さんを思いやることを忘れないでほしいと思っています。
  • 現在の臨床研修制度についてのご意見をお願いします。
    下川:私が大学病院から異動したのは新医師臨床研修制度が始まってすぐだったので、この制度を大学でしっかり見たわけではないですが、今は地域に近い市中病院にいますので、様々なベーシックなことをしっかり学べる制度は素晴らしいと感じています。
    ただ、ともすればポリクリの延長のような見学や上っ面だけの研修になりがちなのですが、それはもったいないです。それにやりたい専門医療が決まっていたり、基礎的な研究などをしたい人にはストレート研修に近い研修があってもいいでしょう。そうでない人は色々な科を回って、患者さんに実際に関わる中で専門を見つけてもいいし、全体を見ようという希望を持つのなら地域医療的な総合診療や総合内科のようなところに進んでもいいですね。
    私たちの頃はストレート研修だけでしたから、選択肢が増えたという意味では良い制度ですが、偏りが出てしまうのはいかがなものかという気もしています。専門を決めている人にはそれをさせてあげられるようなバリエーションが豊富な方が望ましいです。
    それともう一つ、現代の医学教育現場は非常に恵まれていると思います。わかりやすい医学書やセミナーも多数あり、有名講師の講演がネットで見られるなど、手軽に良質な知識を得ることができるようになりました。このような時代に教育病院が提供すべきことは「上級医の指導のもと、安全な環境で実臨床が行える経験の場」と「その経験に対する適切なフィードバック、及びさらなる成長へのヒントを与えること」だと考えています。南奈良総合医療センターは、まさにそのような環境が整った研修の場であると思います。
  • 最近の研修医をご覧になって、どう思われますか。
    下川:明るい感じがする一方で、指示待ち的なところがありますので、もう少し積極的に臨んでもらいたいです。30代の頃は学生や研修医と近いのですが、40を過ぎると兄貴というよりは親子になり、今は親子を超えています(笑)。そのため、研修医との距離を縮めることに努力がいりますね。私たちの頃は封建的と言いますか、上から下へ押さえつけられているような暗いイメージがありましたが、今はもうほとんどありません。指導医講習なども進んでいますので、頭ごなしに教える医師もいませんから、研修医が割と伸び伸びしているのかなと思っています。
  • これから初期臨床研修病院を選ぶ医学生に向けて、メッセージをお願いします。
    下川:自分のやりたいことが決まっているのであれば、それに向かって、一生懸命やってください。もし決まっていないのであれば、できるだけ色々なことを幅広く習って、その中から自分に向いていることや好きなことを見つけていけるように、とにかく積極的に医療に関わり、積極的な研修をすれば、何かの気づきが得られるのではないでしょうか。南奈良総合医療センターに来ていただきたいのは地域医療に興味があり、将来的に地域医療に関わっていきたい人ですね。
  • ◆ 南奈良総合医療センターのPRをお願いします。
    下川:「南和の医療は南和で守る」ということを未来永劫に渡って実現していくために、教育もしっかりできる病院を目指しています。医療の特徴としては地域の急性期医療、コモンディジーズ、プライマリケアから二次救急までを診ています。また、専門医療を行いつつ、回復期や療養型の病院と協力してベッドコントロールしながら在宅に帰ってもらったり、介護施設に入ってもらうための連携もさらに進めていこうとしています。初期研修の名称を「南和まるごと研修」にしているのは南和地域の在宅や僻地の診療所も含めて、必要があれば奈良県立医科大学附属病院までという、南和地域全体の医療を研修できるからです。これが南奈良総合医療センターの研修の一番の特徴です。
    研修内容としては、「現場力」が身に付く多彩な診療の場と豊富な症例をベースに、実臨床での経験をできるだけ多く積んでいただける環境があります。そして、その経験をやりっぱなしにせず、きちんとフィードバックがあり、医師として成長できる仕組みとしています。当院の研修は「ラクをしたい人、特定の診療科のことだけを学びたい人、自分の実力だけをひたすら伸ばしたい人」にはあまり向かないかもしれません。しかし「地域に根差したあたたかい医療の実践に興味がある人、忙しいながらも実践と理論のバランスの取れた研修のなかで成長していきたい人、チームメンバーとコミュニケーションを取りながら新しいことにチャレンジしたいひと」には、これ以上ない最適な研修環境だと思っています。
    緑に囲まれ四季の自然を毎日感じられる環境でありながら、橿原神宮前から電車で25分、大阪阿部野橋からも特急電車で1本という好立地でもあります。まずはお気軽に病院見学にいらしてください。きっと当院の魅力を感じていただけると思います。

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