市立奈良病院

西尾博至先生

市立奈良病院
指導医
西尾 博至(にしお ひろし)先生

市立奈良病院 総合診療科部長兼医療技術部長
(※所属・役職は2012年3月インタビュー当時)

〒630-8305 奈良市東紀寺町一丁目50番1号
TEL:0742-24-1251
FAX:0742-22-2478
病院URL:http://www.nara-jadecom.jp/

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  • プロフィール
    1964年に大阪府松原市で生まれ、中学時代から奈良県生駒郡平群町で過ごす。
    1989年に自治医科大学を卒業後、大阪府立病院(現 大阪府急性期・総合医療センター)で初期研修を行う。
    1991年に大阪府立病院救急診療科で後期研修を行い、1994年に大阪府立病院救急診療科に勤務する。
    1996年に大阪府立泉州救命救急センターを経て、1998年に近畿大学医学部奈良病院総合診療科に勤務しながら、近畿大学医学部で臨床検査学の研究を行い、学位を取得する。
    2005年に市立奈良病院に総合診療科部長として着任する。
    2007年に市立奈良病院臨床研修委員長、2008年に市立奈良病院医療技術部長を兼任する。
    専門は総合診療、救急医学。 日本救急医学会専門医、日本外傷診療研究機構JATECインストラクター、DMAT認定医、ICLSインストラクターなど。日本内科学会、日本救急医学会、日本動脈硬化学会、日本プライマリケア連合学会などに所属。
  • 先生の研修医時代のお話を聞かせてください。
    西尾:救命救急型のローテートを行い、1年3カ月を救急、残りの9カ月を外科、循環器内科、麻酔科と回りました。外科は腹部外科がメインで、少し胸部外科にも行きました。とにかく「見て覚えろ」という時代でしたし、三次救急の病院にもかかわらず、半年後には責任当直のA当直をやっていましたね。A当直は救急隊からのダイレクトコールを受け、ファーストタッチを行います。そしてB当直にコマンドを出します。B当直には救急診療科のスタッフが入りますが、指導医がいることもあれば、2年目の研修医のこともあります。C当直は1年目の研修医です。したがって、AからCまでの3人が1、2年目の研修医で占められていることもあるわけです。救急診療科のスタッフ自体も10人ぐらいでしたし、当直も3人体制ですから、月に20回ぐらい当直していましたよ。仮眠室が寝床になっていました。力も度胸も付き、経験年数が少ない割には態度も大きかったですね(笑)。高エネルギー外傷も少なくなく、精神的にもハードな日々でした。
  • 一次救急も担当されたんですね。
    西尾:一次救急は全て研修医で診ていました。平日は2年目が1人で、土曜、日曜、祝日は1年目と2年目のペアで診ます。救急当直では三次を診ながら、一次、二次もこなしますので、2年間で一次から三次まで幅広い症例を診ることができました。一次は20人から40人ぐらいの患者さんがいらっしゃいますので、ほとんど寝ることができませんでした。三次はいらっしゃらない日もあるんですが、来院があれば夜間でも緊急手術ですからね。開腹だけでなく、開頭手術も行いましたので、外科的なトレーニングも積めました。その後も後期研修で救急診療科に残りましたし、研修終了後には救急診療科のスタッフにもなりました。大阪府立病院での7年間の経験が私の原点です。
  • 救急診療科から総合診療科に変わられたのはどうしてですか。
    西尾:母が看護師で、県立奈良病院の救命救急センターに勤めていたんですよ。母から救命救急のドラマティックな話を聞いていましたし、「赤ひげ先生」や漫画の「ブラックジャック」にも憧れたことが医学部を目指した理由でもあります。自治医大出身者はへき地に行きますが、私は出身地が大阪だったためにへき地ではなく、救急の現場でトレーニングを積んだんですね。しかし、ずっと救急をやっていくには無理がありますし、将来的にへき地医療に関わっていくためには内科的なトレーニングが必要ですので、近畿大学医学部で総合診療を学びました。そして、これまで勉強してきた救急医療と総合診療を合わせた医療を奈良で実現させようと思い、市立奈良病院に移ったんです。
  • 市立奈良病院の初期研修プログラムの特徴について、お聞かせください。
    西尾:まずはプライマリケアを重視していることが挙げられます。厚生労働省では地域医療を1カ月と定めていますが、当院では3カ月を充てています。当院の運営母体である地域医療振興協会が運営している病院で群を作っていますが、50以上に及ぶ病院群の中から、研修医が一人になることがなく、しっかりした指導医が研修医に必ずフィードバックを行っている病院を選びました。そこで本当の地域医療を経験していただけますので、研修医からの評判もいいですよ。東京の神津島や小笠原の父島などの離島が特に人気がありますね。1年目で行ってみて、指導医の先生に良い影響を受けたり、患者さんに優しくしてもらうなどの経験をしたので、2年目でまた同じところを希望するリピーターも多いです。
  • ほかに、どんな特徴がありますか。
    西尾:将来、へき地に行って活躍してほしいという願いがありますので、当院には「選択必修」という概念はなく、外科、産婦人科、小児科が2カ月ずつ必修科目となっています。したがって、当院の必修科目をクリアすれば、厚生労働省の基準を満たすことができるんです。また、2年目に当院の周辺の医療施設でハーフディバックの研修があります。奈良市立柳生診療所、奈良市立田原診療所、奈良市立月ケ瀬診療所や山添村の国保東山診療所、波多野診療所などは当院のサテライト診療所なのですが、そこで希望により半日間の外来研修ができます。以前はこれも必修にしていたのですが、必修ですと地域研修や担当している患者さんの手術のときなどに途切れてしまうという問題がありました。そのため、開始時期を研修医が決められて、モチベーションも高くなるという利点から希望制に変更しました。
  • 市立奈良病院での研修の方針や教育理念について、お聞かせください。
    西尾:専門科目に特化することなく、何でも診ることができるプライマリケア医を育てることが目標です。救急の体制も見ていただき、研修医もER当直に入ってもらいます。そこで総合診療科の指導医の指導を受け、内科、外科の患者さんを2.5次あたりまで診ることで、ジェネラリストとして育ってほしいです。
  • 指導するお立場として心がけていらっしゃることはどんなことですか。
    西尾:私たちが研修医の頃は「アホ、ボケ、カス」などと言われたものでした(笑)。しかし、今は時代も違いますので、私としては患者さんの診察の場面ごとに気付いたことをフィードバックすることを心がけています。研修医は指導医の一言一言が心に残るものです。本で学んだことよりも臨床の現場の方の印象が強いですし、現場で指導医に言われたことはその先の数十年ぐらい残りますので、間違ったことは教えられませんね。私自身も学ぶことが必要です。
  • 研修医に対して、「これだけは言いたい」と思っていらっしゃることをお聞かせください。
    西尾:当院の研修医は皆、優秀ですし、人間性もいいですよ。当直のときも積極的で、患者さんに対する姿勢や物腰も丁寧です。コメディカルへの対応も良く、コメディカルからの評判もいいですね。私たちの頃よりもそういった点は優れていると思います。ただ、手技に関してですが、手技はどうしても個人差が出ます。できなかったことを本やインターネットで調べるよりも、実際に身体で覚えた方が身に付きますし、できなくて上級医に替わってもらったことを、次回は失敗せずに自分でできるようになっておくという姿勢は少し足りないかなと思います。
  • これまでに印象に残っている研修医はいますか。
    西尾:後期研修医ですが、患者さんやご家族に対してのめり込んでいる人がいました。常に患者さんの立場に立ち、説明も丁寧なんですね。救急では慌ててしまい、患者さんやご家族への言葉が荒くなってしまいがちなのですが、その後期研修医は周りが慌てていても、動じることがありませんでした。患者さんに上から話すことなく、患者さんと同じ視線を心がけていて、膝を床に付けて話している姿はとても印象に残っています。
  • 市立奈良病院の勤務環境などについて、お聞かせください。
    西尾:月曜から金曜までは朝から夕方までの勤務で、土曜日は午前中です。ただ、診療科によってはガーゼ交換などの処置のために日曜や祝日も出勤となることもあります。当直は月に4回です。東棟2階に研修医ルームがあり、ネット環境も完備し、電子カルテも使用できます。週に3回は指導医による勉強会があり、感染症、プレゼンの仕方、神経内科的な鑑別診断などをテーマに行っているほか、英文ジャーナルの抄読会もあります。当院は若手に熱心な指導医が多く、研修医も指導によくついていっていますよ。
  • 現在の臨床研修制度について、ご意見をお願いします。
    西尾:理念自体はいいと思います。「2年の初期研修を行えばジェネラリストになれる。」という厚生労働省の当初の目論見は外れてしまいましたが、ジェネラリストを目指すきっかけとはなっているのではないでしょうか。日本の医療界には総合医が少なく、専門医がいてなんぼだ、という考え方があり、それが結局、地域医療の崩壊に繋がりました。また、欧米ではジェネラリストが診た後に、スペシャリストが診ますが、日本では患者さん自身が自分の症状に対して何科の医師に診て欲しいというニーズを持っていることが多いです。365日24時間、それで回るなら問題ありませんが、医師の数自体が少なく、ましてや専門医が増える状況にない日本では、お互いのニーズがミスマッチを起こしていく一方です。したがって、まずは総合医を養成するべきでしょう。へき地に脳神経外科医が行っても診られる内容は限られていますが、総合医が行けば幅広く診られます。一人の医師という医療資源でも活躍できる面積が違うわけです。しかし、現在の制度が「研修医が大学に残らない。」という事態を招いたことにより、最近行われた改正では、本来満たすべきだったところが逆行してしまっています。仕方ない面もありますので、私たちにできることは地道にジェネラリストを育て、それを積み重ねることで地域医療の崩壊を防ぐことだと考えています。
  • 後期研修については、いかがでしょうか。
    西尾:初期研修だけでジェネラリストになれるわけではなく、後期研修の3年間も大切です。「鉄は熱いうちに打て」と言いますが、5年間で一とおりのことを学んで、ある程度の方向性を決めていけば、能力も付きますし、その後の医師人生が決まります。当院での後期研修は各専門科で行っていますが、総合診療科では地域医療を重視したプログラムと総合診療と救急を重視したプログラムがあり、選択可能となっています。最近では地域医療重視のプログラムで家庭医療学会の専門医を取った人がいましたし、今の後期研修医はERの専門医を目指しています。自分の目指す医師の姿に近づけるようなプログラムを選んでください。初期研修を他院で行った方でも適切にバックアップしています。
  • 奈良県での初期研修を考えている医学生にメッセージをお願いします。
    西尾:奈良県は研修医の数が少なく、救急医療体制もマスメディアで取り上げられているように良い状況ではありません。しかし、奈良県全体として研修医を確保しようという動きが始まっています。奈良県立医大の方や奈良県出身で別の地域の医学部に行っている方だけでなく、大阪や京都などの都市部の方からのご応募もお待ちしています。奈良県は患者さんも温かいですよ。ぜひ、奈良県の医療に貢献してください。市立奈良病院にいらしていただければ、立派にどこでも通用する医師に育てます。

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