奈良県立医科大学附属病院

西尾健治先生

奈良県立医科大学附属病院
指導医
西尾 健治(にしお けんじ)先生

奈良県立医科大学附属病院高度救命救急センター准教授 兼 総合医療学准教授
現在、総合医療学准教授
(※所属・役職は2011年3月インタビュー当時)

〒634-8522 奈良県橿原市四条町840番地
TEL:0744-22-3051
FAX:0744-22-4121
病院URL:http://www.naramed-u.ac.jp/~hp/

研修情報はこちら

  • プロフィール
    1957年に大阪府池田市に生まれる。
    1982年に自治医科大学を卒業後、奈良県立奈良病院で全科ローテート研修を行う。
    1984年に天川村村立診療所(現 天川村国保診療所)勤務を経て、1986年に奈良県立医科大学附属病院小児科に勤務する。
    1987年に奈良県立奈良病院、1988年に奈良県立五條病院を経て、1989年に天川村村立診療所に勤務する。
    1991年に国立療養所福井病院(現 福井病院)に勤務を経て、1993年に奈良県立医科大学附属病院で救急科の講師に就任する。
    1998年に榛原町立榛原総合病院(現 宇陀市立病院)勤務を経て、2000年に渡米し、ミズーリ州のワシントン大学にリサーチフェローとして留学する。
    2004年に市立柏原病院に勤務する。
    2005年に奈良県立医科大学高度救命救急センターに准教授として着任する。
    2011年4月から総合診療部の准教授も兼任する。
    日本救急医学会専門医、日本小児科学会専門医。
  • 先生の研修医時代のお話を聞かせてください。
    西尾:自治医大出身ですので、奈良県のへき地医療に携わることが決定していましたし、 研修は奈良県で全科ローテート研修を行っていた県立奈良病院にお世話になることに 決まっていました。そこではけっこう自由にさせてもらいましたので、楽しかったです 。自治医大の同級生も同期の研修医でしたので仲良くやっていました。今、彼は開業医になっていますが、今も付き合いが続いています。県立奈良病院では敷地内にある寮に住んでいましたので、救急当番を毎日のようにしていました 。夜に遊びに行って も夜中に帰ってき てから、急患があれば診させてもらっていました 。今でも僕の血となり、肉となっている 基本的な 医師としての考え方や全般的な診方はその時代に身に付いたもの だと思います。特殊な技術のコツなどでしたら、 教わった先生を覚えているものですが、この時期に身に付いたことはすべてあまりにも基本的なことで、誰から教わったのかも覚えていない 事が多いです。ただ、怒られたことははっきり覚えています (笑)。肝不全 にいたる患者さんが暴れだしていたので 鎮静をかけた のですが、「やったこともないことをするな」と怒られました。これは良い戒めになっています 。自分の経験していない病態に対して、本を読んで対応する時に、やってもいないことをしていいのだろうかと自問しています。怒ってくれるのは研修医のためになることですし、非常に有り難いことですので怒ってくれた先生に今でもすごく感謝しています。 でも、私は今でもその先生が苦手 です (笑)。教育は本当に難しいですね。
  • 奈良県立医科大学附属病院の初期研修プログラムの特徴について、お聞かせください。
    西尾:自由度の高い、柔軟なプログラムが特徴です。私どもでは初期研修は将来に繋がっていくものと考え、個々の将来のキャリアに応じたカリキュラムを組み立てることができます。診療科の変更についても、社会人のマナーとして迷惑をかけない範囲で、途中で行うことも可能です。また、私どもは大学病院でありながら、地域の中核病院でもあります。プライマリケアから高度医療まで、一次救急から三次救急まで幅広い領域に触れながら、基礎的な診断技術が身に付くことでしょう。二次救急の病院ですと、患者さんが次々に来院されますから、じっくりと「答え合わせ」をする時間がありません。三次救急でしたら時間に余裕がありますので、レントゲンにしろ、CTにしろ、理学的検査の「答え合わせ」をする時間が十分にあります。また、「三次救急の病院で研修すると、一次救急の症例に対応できなくなる」と医学生の間で言われているようですが、それは誤解です。三次救急は一次救急、二次救急を包含していますので、基本的な技術を身に付けることができ ると思います。
  • 奈良県立医科大学附属病院での研修の方針や教育理念について、お聞かせください。
    西尾:本院ではかつて一時的に研修医が少なくなってしまった事があり 、そこから再出発しました。そこで理念としたのは「どこにも負けない研修医を育てる」ということです。大学病院では初期研修は無理だと言う人がいますが、そんなことはありません。本院の研修では十分な手技の経験が回ってきます。そして、忙しい日常でありながらもしっかり学べる環境が整っています。
  • 指導するお立場として心がけていらっしゃることはどんなことですか。
    西尾:私はへき地での勤務経験を通して、患者さんの背後に広がる家族や地域に目が行くようになりました。 医療においては患者さんやご家族に病状説明の機会が豊富にありますが、重症患者さんの場合は特に、患者さんの人生に関わることを言わなくてはいけないわけですから、言葉には重みを伴います。技術は皆が教えてくれますが、私としてはそういった言葉の重さを 感じてもらおうと思って接していることが多いですね。例えば、子どもさんが 急死された場合には、親御さん は悲しみにくれます。 もしその死が避ける事が出来なかった可能性が高い場合、医学的 に理論づけをして 「お父さん、お母さんがついておられたとしても、やはり助ける事は無理だった と思います。」といった言葉がけをするようにして います。これによってご家族は苦しみながらも、あの時傍にいてあげていればとか、私さえ気づいていれば、などの呪縛から救われ る場合がありますし、今後の過ごし方 まで違ってこられる場合があり ます。その意味ではもちろん、三次救急は重い職場です が、自分たちの言葉の重みをかみしめる事ができる職場でもあるということを研修医の先生に伝えるように心がけています。
  • 研修医に対して、「これだけは言いたい」と思っていらっしゃることをお聞かせください。
    西尾:かつて医療は特別な職であるという考え方が強かったのですが、最近は一般職業化してきてい ると思います。研修医にはもっと気持ちを入れ込んで診療してほしいと思 います。患者さんの方がドライになっているので難しい面もあるのですが、やはり患者さんの気持ちにより近くで寄り添い、 受け止めること が大事です。患者さんがポンと投げてきたことをそのまま ポンと 返してしまうと、患者さんも反発し、お互い の主張 が平行線状態と なってしまいます。医師は、いったん患者さんの主張をすべて受け入れてから対応すべき だと思います。技術的には正しくても、患者さんが納得しない限り 、医療としては成立し難いものです。
     最近の研修医は患者さんに対し少し斜めを向いている印象があります。しかし、それはポーズに過ぎず、機会があればまっすぐ見て気持ちを入れ込んでいける人が多いと思っています。 医療の専門分化が進み、専門医は自分の専門分野だけを通して患者さんを診るようになってきました。これでは患者さん全体を見ていませんので、気持ちを入れ込む場所が少ない ですよね。患者さんの心に寄り添って、患者さんの人となりを含めて全体を見なければなりません。そして、患者さんの全体を診てこころを入れ込んだ時、患者さんが気持ちを返してくれた時、そこに喜びを感じることができるようになっていくのではないのでしょうか。
  • これまでに印象に残っている研修医はいますか。
    西尾:ICUの患者さんを6人担当しながら頑張っていた研修医がいました。4人になった頃に「大丈夫か」と声をかけたのですが、 彼女は「いろいろ教えてもらえて 楽しい」と言うのです。頼もしかったですね。今、 彼女は小児科医として活躍しています。優秀な研修医は多いので、あとは彼女のようにどこまで診療に気持ちを 込めて喜びを感じれるかですね。 以前20年前 に研修医だった者が、10年前に「研修医を指導していて、やっとあの頃の先生の気持ちが 分かってきました」と言ってくれたことがあります。ですから僕たちが目指す方向を理解してくれる研修医の先生も多いと思います。 指導医も人間ですので、共感してもらえると癒されて、その研修医が印象深くなり、心に残るようになります。
  • 奈良県立医科大学病院の勤務環境などについて、お聞かせください。
    西尾:以前よりは悪くはないと思いますよ(笑)。先ほども言いましたが、忙しい日常でありながらもしっかり学べる環境が整っています。研修医ルームのスペースを拡充し、パソコンを完備し、専任のスタッフがいます。
  • 現在の臨床研修制度について、ご意見をお願いします。
    西尾:自由度が増えたことは良いことですが、あまりにも 多くの科をローテートすることにこだわるのは疑問です。アメリカの制度を模範にしているとのことですが、アメリカはもう少しコンパクトな初期研修ですから 。自治医大出身者であればへき地診療をおこないますので、全科を研修するのは当然ですが、全医師が 多くの科をローテート しなければならないというのには違和感があります。最近では必須科目が減ってきていますので、いい傾向だと思っています。 最終的には自分で病態を判断し、治療できるようにすることが臨床研修教育の目的 だと思います。初期研修では技術を習得するよりも、 患者さんの苦しさを全身で感じ、 病態判断のプロセスを学び、自分で考えるということを身に付ける ことに、より注力してがんばっていただきたいです。
  • 奈良県での初期研修を考えている医学生にメッセージをお願いします。
    西尾:2011年4月から総合診療部でERの研修が可能となります。総合診療部では研修医が気持ちを入れ込める場所を提供するところでありたいと考えています。同じ気持ちを持った者が集まって、道が開ければ幸いです。志のある皆さんのお越しをお待ちしています。見学はいつでも歓迎です。

研修情報はこちら