奈良県立医科大学附属病院

笠原敬先生

奈良県立医科大学附属病院
指導医
笠原 敬(かさはら けい)先生

奈良県立医科大学感染症センター講師
奈良県立医科大学附属病院感染対策室 室長
(※所属・役職は2013年3月インタビュー当時)

〒634-8522 奈良県橿原市四条町840番地
TEL:0744-22-3051
FAX:0744-22-4121
病院URL:http://www.naramed-u.ac.jp/~hp/

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  • 学歴
    奈良県立医科大学医学部:1999 年3 月卒業
    奈良県立医科大学大学院医学研究科博士課程:2001 年入学、2005 年卒業
    職歴など
    奈良県立医科大学附属病院臨床研修医:1999 年~2001 年
    奈良県立医科大学感染症センター助手:2005 年~2009 年
    ペンシルバニア大学医学部客員研究員:2009 年~2010 年
    奈良県立医科大学感染症センター講師:2010 年~現在
    所属学会など
    日本感染症学会(評議員、薬剤耐性関連委員会委員)
    日本化学療法学会(評議員、抗菌薬適正使用委員会委員、抗菌薬TDM ガイドライン作成委員会委員)
    日本環境感染学会(国際委員会委員)
    日本感染症教育研究会 IDATEN (世話人)
    日本臨床微生物学会
    American Society of Microbiology , Society for Healthcare Epidemiology of Americaなど
    資格など
    医師免許
    日本内科学会認定専門医
    日本感染症学会専門医
    日本呼吸器学会専門医
    抗菌化学療法指導医
    ICD
  • 現在まで奈良県立医科大学を選んできている理由を教えてください。
    笠原:私は、生粋の「江戸っ子」ならぬ「奈良っ子」なんですね。奈良県立医科大学がある奈良県橿原市で生まれ育ち、地元の奈良県立医科大学に進み、奈良県立医科大学附属病院で初期研修を受けて、その後大学院に進み、卒業後入局し、現在は、感染症センターにて勤務しています。実は父も奈良県立医科大学のOBですから、かなり濃いですよね(笑)。
    最近は、このような「純粋培養」キャリアはむしろ避けられる傾向にありますね。もっと色々な施設を経験して「混ざっていく」姿勢が必要だと言われます。私もそれには大賛成ですが、残念ながら私自身はそういうキャリアを歩むことはできていません。
    ただ、「純粋培養ではダメだ」と一概に決めつけることもできないと思います。特に地域に根ざして継続的に仕事をするときには地域での経験や人脈が役に立つこともあります。
    自分が外に出て行けないから、というわけではありませんが、逆に感染症センターには奈良県立医科大学以外の卒業生がたくさん研修に来てもらっています。結果的に私は地元にいながらにして、「混ざる」ことができています。ちょっとずるいですかね(笑)?
    他大学や他病院で研修をしてきた医師の経験を聞くことはとても楽しいものですし、それが混ざり合うことにより「感染症センター流」のやり方が育っていきます。とてもエキサイティングな職場だと思います。
  • 専門医も色々とお持ちとお聞きしています。
    笠原:大学病院に勤務していますので、そのメリットを活かして取れるものは取ってきたという感じですね。
    現在感染症センターに勤務しているため、日本内科学会認定専門医、 日本感染症学会専門医、 日本呼吸器学会専門医、 抗菌化学療法指導医、 ICD(インフェクションコントロールドクター)を取得しています。
    学会の評議員を務めたり、各種委員会にも所属しています。色々なガイドライン作成などにも携わらせていただき、とてもやりがいを感じています。
  • 先生のサブスペシャリティの魅力ややりがいについて教えてください。
    笠原:「感染症」という疾患は日本では長らく臓器別の診療科に分断されてきました。肺炎は呼吸器内科が、尿路感染症は泌尿器科が、腹腔内感染症は消化器内科が見る、という形です。
    それがこの10年くらいの間に臓器を横断して統合的な学問・診療科として扱われるようになりました。その意味では、「感染症」は日本では非常に新しい学問だといえます。
    「前例がない」というのは、裏を返せば「何をやっても構わない」ということです。私たちは日々、「自分たちには何ができるか、臨床現場で欠けているものは何か」と考えながら業務を拡大してきました。
    最初は呼吸器感染症の患者が多かったですが、血液培養陽性例への介入、海外渡航関連感染症、熱帯医学、HIV、ワクチン、寄生虫疾患、感染対策など現在では非常に幅広くその活動分野を広げています。
    当センターは日本感染症学会モデル研修施設、第1種感染症指定医療機関、AIDS中核拠点病院、日本環境感染学会認定教育施設など様々な認定を受けており、このくらい幅広く感染症に関連する業務を研修できる施設は他にはない、と自負しています。
    こういった業務の中心を担っているのは多くは卒後10年目までの医師です。「前例がない」だけに、責任を与えられるのも早いです。また、奈良医大での研修後は地域の病院に出て行き、「感染症科」を立ち上げて医長・科長として働いてもらっています。「やりがい」という意味でも、非常に充実した経験をできるのではないでしょうか。
  • 先生の受けた初期研修について教えてください。
    笠原:当時はまだストレート研修主流の頃ですのでローテートはせずに、第二内科(編集注:現在の呼吸器・アレルギー・血液内科)で初期研修を2年間受けました。同期も多くて、とても楽しかったですよ。
  • 初期研修を受けたその後について教えてください。
    笠原:私は、当時、大学に残って研究や教育等に着手したい気持ちが強かったので、2年間の初期研修修了後、第二内科の大学院に入学しました。
    本学の第二内科では、呼吸器疾患、血液疾患、感染症疾患を扱っています。2003年にSARSが流行したことをきっかけに、当院でも感染症センターが立ち上がり、私は2005年から感染症センターの医局員になりました。
  • 大学病院の良さとはどのような点でしょうか。
    笠原:医療機関には、それぞれに求められる使命と機能があります。大学病院には、優れた臨床医と優れた研究医の二種類の医師が必要です。これは、一人で優れた臨床医かつ研究医という場合もあるでしょうし、優れた臨床医と優れた研究医が協力をするという場合もあると思います。
    よく臨床と研究は天秤にかけられ、あたかも両立が困難であるかのように評されます。それは、完全に間違っています。優れた臨床と、優れた研究は、互いに切磋琢磨すべきものなのです。言い方を変えれば、優れた臨床がなければ優れた研究は生まれない、逆に優れた研究がなければ優れた臨床は生まれないということです。
    優れた臨床医がその行動根拠とする「エビデンス」は、最初から「エビデンス」であったわけではありません。もしかしたら最初は「異端」と思われていたようなプラクティスが、研究を積み重ねることで「エビデンス」となることもあります。
    「エビデンス」を使って臨床を行う陰には、「エビデンスを作る人」が必要なことを忘れてはいけません。そういう活動がなければ、臨床医は10年先も20年先も古いエビデンスをもとに診療を行わなければならないでしょうし、そのエビデンスを作る役割を担うのが大学病院なのです。 もう一度言います。優れた臨床と優れた研究は、天秤にかけるものではなく、互いにその質を高め合うべきものなのです。従って大学病院には、そのどちらも必要なのです。
    米国の有名大学病院で働く「臨床医」は、みな優れた研究者でもあります。「臨床と研究は両立できない」と思ってる方がいらっしゃったら、まずそれが間違った考え方だと気づいて欲しいのです。 これから進路を選択される方には是非気づいて欲しい。大学病院で働くということは、臨床医として生きることを捨てることではなく、むしろより質の高い臨床医として生きるということだということを。
    もちろん、市中病院で勤務することを否定するものではありません。市中病院で長く働き数多くの患者の診療にあたることは、非常に価値のある尊いことだと思います。
  • 指導の際に心がけていらっしゃる事や肝に銘じて欲しい事はどんなことでしょうか。
    笠原:・とにかく病歴にこだわること
    ・他人の言うことを鵜呑みにせず、必ず自分で見聞きした情報で判断する癖を身に付けること
    ・電子カルテの操作時にコピー&ペーストを使用しないこと
    の3点を意識してほしいですね。
    大学病院では、他病院から紹介されてこられる患者さんが非常に多いです。悲しいことですが、奈良医大で初診を担当した医師が紹介状の病歴をそのまま電子カルテに打ち込み、それが延々とコピーペーストされている場面を数多く見ます。紹介状や初診担当医の誤字脱字がそのままコピペされてるあたりはご愛敬ですが、病歴や検査値が間違っていると目も当てられません。
    大学病院に患者が来る頃には、疾患の典型的な所見はたいてい何らかの修飾を受けています。疾患の自然経過を知りたければ、患者に「発症当初」の病歴を詳しく聞く必要があります。大学病院に転院してからの病歴や症状を必死で拾っても大して役に立たないのです。紹介状や他人の病歴は参考程度にして、必ず自分の言葉で問診をとり、自分の手で病歴を記載してください。言いたいことはそれに尽きると言っても過言ではありません。
    検査なんかも「セット」と称してオーダーする場面を見ますが、研修医にとっては百害あって一利なしですね。各々の患者さんに、どのタイミングで、どんな理由で、どの検査が必要なのか。一つ一つをちゃんと考える訓練が必要です。
  • 感染症センターにどんな方が来てほしいですか。
    笠原:後期研修医にはもちろん来てほしいですが、感染症センターでまだやっていないことを提案して、自ら企画・実行できる方が欲しいです。
    初期研修を終えたばかりの後期研修医には、いきなり感染症だけではなく内科の疾患を合わせて経験し、キャリアパスを構築させるように配慮しています。
  • 感染症センターの活動について。
    笠原:現在は、ある意味感染症ブームと言えるかもしれません。
    100年以上前から臓器別に感染症という一疾患についての研究は進められていました。その後SARSが流行った約10年前に、米国で感染症を学んだ医師が日本で米国での取組みを紹介し話題となりました。それをきっかけに感染症はがんなどと同じように、特化した組織が必要であると考えられるようになりました。つまり感染症に関しては、臓器別の組織が個々に対応するのではなく、全身をひとつの組織が診るということです。 合併症として感染症を引き起こすことも多いため、その際は各臓器別の専門性を垣間見ることができますし、各診療科の事もわかっていないと診療ができないため総合診療的に取り組んでいく方向性が見えています。 しかし、まだ感染症専門の医師は少なく、これからの学問と言えます。やる気のある方であれば活躍の場はいくらでもあります。 感染症センターには現在7人いるのですが、実は約半分は他大学出身なのです。 色々な経験や文化がいい意味でとても良く混ざっています。 感染症を勉強したい方は本当に多く、後期研修医だけでなくベテランの先生が他県から入局されており、毎年3名から4名程度入局しています。 結果として当感染症センターは医師を各病院の感染症科に派遣し、県内の病院を中心とした感染症疾患に対するレベルアップに寄与しています。 来る者は拒まず、去る者は追わずという医局の考え方ですので、極めて自由です。一旦離れて戻る方もいます。当センターで勉強して自分で感染症科を立ち上げた先生もいらっしゃいます。現在は物理的に遠く離れていても、インターネットですぐにつながることができます。奈良県、という小さな規模で活躍していただくのももちろん大歓迎ですが、「日本」や「世界」で活躍するのを見せていただくのも嬉しいものです。 求めるものは様々でしょうが、幅広い受け皿があることは事実ですので、いつでもお問い合わせや見学等歓迎いたします。

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