天理よろづ相談所病院

石丸裕康先生

天理よろづ相談所病院
指導医
石丸 裕康(いしまる ひろやす)先生

天理よろづ相談所病院 救急診療部副部長兼総合診療教育部医員
(※所属・役職は2011年3月インタビュー当時)

〒632-8552 天理市三島町200番地
TEL:0743-63-5611
FAX:0743-63-1530
病院URL:http://www.tenriyorozu.jp/

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  • プロフィール
    1967年に大阪府枚方市に生まれる。
    1992年に大阪大学を卒業後、天理よろづ相談所病院で初期研修を行う。
    1994年に天理よろづ相談所病院で内科の後期研修を経て、1997年に天理よろづ相談所病院総合診療教育部に勤務する。
    2009年に救急診療部副部長に就任し、総合診療教育部医員を兼任する。
    専門は内科。日本内科学会総合内科専門医など。
  • 先生が初期研修の病院として天理よろづ相談所病院を選ばれたのはどうしてですか。
    石丸:大阪大学で「医学概論」の講義を 中川 米造 先生に受け、また、公衆衛生などの社会医学を熱心に教えてくださる先生方の影響もあり、専門診療より総合診療やプライマリケアに興味を持っていました。小児科は専門分化していなかったので、惹かれた面がありましたが、やはり内科や外科をローテートできる病院がないかと探しました。しかし、当時は近畿圏では神戸市立医療センター中央市民病院や天理よろづ相談所病院など、わずかしかなく、天理を選んだんですね。私たちの頃の医学部は講義が中心で、ポリクリなどの実習が少なかったんです。研修が始まったときは実際に診るものと教科書とのギャップを感じました。
  • 初期研修で勉強になったことについて、お聞かせください。
    石丸:「患者さんを中心に考えなさい」ということですね。当院は主治医制で、研修医が主治医として患者さんを診るのですが、「それは私に関係のない問題だ」といった態度をとることは厳しく諌められました。「主治医でいるかぎりは、専門外のことであっても、直接関係なさそうなことであっても、患者さんから求められたことはまずきちんと受け止めなくてはいけない。」と、指導されました。自分に解決できないことであったとしても、その領域に詳しい医師やスタッフに尋ねたりして、解決への道筋をつけていかなくてはいけません。様々な職種の人たちと手助けしあって医療を進めていくというのは、今も私の基本的なバックグラウンドとなっています。
  • 専門を総合内科にされたのはどうしてですか。
    石丸:最もジェネラルに診ることができる診療科だからです。私が研修した当時の内科の後期研修は専門内科6科をローテートしたうえでプラスアルファで並行して総合内科の診療を行うというような、珍しいスタイルを採用していたのですが、そのような研修で得た知識・技術を活かし、患者さんのかかえるいろいろな問題を総合的に解決していく診療スタイル、また医学教育に積極的に関われる、といった点で当院の総合内科で仕事を続けることが魅力的に思いました。
  • 天理よろづ相談所病院の初期研修プログラムの特徴について、お聞かせください。
    石丸:まず内科研修を、主として「総合病棟」と通称呼んでいる混合病棟で行うことが挙げられます。当院は一般病床が800床以上とかなり大きな病院ですので、各内科ではそれぞれの専門領域に長けたプロフェッショナルな人材が多く、専門分化されているんですね。そこで各内科をローテートしてしまいますと、結局は短い期間で細切れの研修になってしまいます。そこで総合病棟に初期研修に適した病状の患者さんを各内科から選んで入院していただき、初期研修医はそこで内科をまとめて研修していきます。厚生労働省は内科を6カ月と定めていますが、当院では循環器内科を別にして9カ月としています。総合内科の患者さんの中には診断のつきにくい方やマルチプルに問題を抱えた方がおり、そういった複雑な患者さんの症例も含めて私ども総合診療教育部の指導医や各科の専門医とで協力して教育しているんですね。総合病棟での研修は全国でも数少なく、当院の研修の核とも言えるのではないでしょうか。
  • 先生は総合病棟での研修が各病院に広がっていくといいと思われますか。
    石丸:どういった医師を養成したいのかという目標によって変わってくることなので、難しいですね。私としては全ての病院が当院のような形式を採る必要はないと思っています。ただ、「患者さんの主治医として働くとはどういうことか」ということを学ぶには最適の研修システムでしょう。専門化された内科をローテートすれば、似た疾患の患者さんが集まりますので、その科の知識を効率的に吸収できるというメリットがあります。しかし、問題点として、例えば消化器内科に入院中の患者さんに糖尿病があることが分かった場合、消化器内科が終わってから糖尿病の科に紹介するというようなことが起こりがちです。しかし総合病棟であれば、主治医が解決すべき問題として、糖尿病の専門医に相談しながら同時に問題を解決していく、というような診療が可能になります。
  • 総合医と専門医はどのように親和性を保てばよいのでしょうか。
    石丸:初期研修では医療の全体像に触れる機会は多くありませんが、専門医になる医師であっても総合医的な診療に初期研修のうちに触れることが重要と感じています。地域医療の現場を知ったうえで専門科の内容を学び、地域医療が出発点だった患者さんが、再び地域に帰っていくということを認識することで、患者さんのQOLもふまえた懐の深い専門診療が行えると思います。単一疾患の時代は終わり、今は高度医療で救った、しかしながらさまざまな問題を抱えている患者さんを、受け入れ先を整え、地域へ戻し、生活を支えていく視点が重要になってきています。総合医と専門医がチームで解決していかないと、高齢社会を過ごしていくことは難しいのではないでしょうか。
  • 天理よろづ相談所病院の初期研修プログラムの特徴として、屋根瓦式も挙げられますね。
    石丸:当院は1年目に内科を半年回るのですが、そのときは2年目の研修医が必ずいる環境でローテートさせています。私の方は初期研修医と年齢のギャップや距離感を感じていないつもりでも、相手は感じていますからね(笑)。そのため、1年上の研修医や後期研修医など、年齢の近い身近な先輩に話を聞いたり、相談できる環境が必要です。お蔭様で当院は後期研修医も多いので、そういった環境で徐々に成長していけるのではないでしょうか。
  • 天理よろづ相談所病院での研修の方針や教育理念について、お聞かせください。
    石丸:昔から変わっていないこととして、「全ての医師に必要な基本的な診療能力を身に付けること」、「問題解決力を付けること」、「医療の基本を身に付けたうえで全人的医療を目指すこと」が挙げられます。全人的医療とは、患者さんの病気を診るのではなく、病気を持った患者さんを治療していこうとする態度のことです。
  • 指導するお立場として心がけていらっしゃることはどんなことですか。
    石丸:当院の研修医は非常によく勉強していますよ。私たちの頃よりも研修当初から社会人として成熟している印象ですね。今の研修医は多くの科をローテートしているし、病棟でよく患者さんと話したり、観察したりしているので、私の方が教わったり、患者さんの情報などを聞く機会も多いです。私としては研修医と会話や対話を通じてアドバイスやフィードバックを行うといった双方向的な姿勢を心がけています。細かい指示を出すだけではなく、まず自分で考えて、意見を述べていくことを一緒に考えるというスタンスですね。
  • 研修医に対して、「これだけは言いたい」と思っていらっしゃることをお聞かせください。
    石丸:最近、臨床の現場で教育を行う、ということが当たり前のようになってきて、それはそれで良いことだとは思います。きちんと教えられた初期研修医はきちんと教える後期研修医になるものですよ。今の時代は研修医向けの優れた著作が出版されたり、指導医の質が向上したり、ITの発達もあって、勉強する時間がかからなくなり、効率的に勉強できるようになってきました。そのためか、研修医が早く答えを求めすぎているような気がしています。患者さんを診るのは知識の寄せ集めだけでなく、経験や時間も必要です。どんな領域であっても、一人前になるためには5000時間の訓練が必要だと言われています。医師も同じことです。否応なく患者さんのために働く時間も大事であって、それは効率だけで測れるものではないと思います。
    医療の現場は教科書で学んだことをそのまま活かせるわけではありません。医師不足の環境であったり、複合した問題を抱えた患者さんであったり、種々の社会的問題などから、必ずしも教科書通りに解決できる問題ばかりではありません。教科書や最新の知識も踏まえたうえで、経験もあわせて個々のケースで最良の解決法を探ることが大切です。
    初期研修医には、指導医の言うことがそれぞれ違うということがストレスになるようですが、その違った意見をどう調整して、患者さんにお返ししていくかが頑張りどころであり、プロとしての腕の見せ所になるんですね。
  • これまでに印象に残っている研修医はいますか。
    石丸:当院の研修プログラムは指導医主導ではなく、研修医によるところが大きいんです。研修医は皆、前向きですね。毎朝7時半からの1時間で新患カンファレンスをしているのですが、これは私より上の世代の研修医からの発案なんですよ。また、1年ごとに、研修医と指導医が総合評価でのレビューを行っていますが、そのシステムも研修医が作ってきたものです。かつては私もそういった研修医の一人だったわけですが、研修医が集団的に勉強し、自らシステムを改善することに継続的に取り組んできた病院であることに誇りを感じています。
  • 天理よろづ相談所病院の勤務環境などについて、お聞かせください。
    石丸:無形なものに関しては自慢できますよ(笑)。研修医用の医局は1年目から5~6年目ぐらいまでの研修医が数人ずつ入っているのですが、寮のような雰囲気です。研修医同士がとても仲がいいんですね。と言っても、馴れ合いという感じではありません。評価する立場である私どもが研修医を叱るのは難しい面がありますが、日頃、信頼している先輩から叱られるのは信頼関係ゆえのことなので、研修医も受け止めやすくなります。もちろん、誉められることにしても同じで、そういう信頼関係のもとで学べる環境になっています。
  • 現在の臨床研修制度について、ご意見をお願いします。
    石丸:当院がもともと意図してきた主旨で始まった制度ですから、私は肯定的です。精神科を経験してきた初期研修医はせん妄や認知症の患者さんへの対応が上手ですし、産婦人科を回った初期研修医は「お腹が痛い」と訴えてきた患者さんを婦人科にコンサルトすることに慣れています。高齢社会に適した制度であると言えるでしょう。指導の環境さえ整えば、良い医師を作っていける制度ですね。福井大学の寺沢秀一教授が「ローテートした医師だからこそ良いローテーターを育てられる」とおっしゃっていましたが、私もそのとおりだと思います。2004年以降の初期研修医が指導医になる時代が間もなく来るので、もっと適切に運用されるようになるでしょう。したがって、拙速な判断は避けるべきではないでしょうか。
  • 奈良県での初期研修を考えている医学生にメッセージをお願いします。
    石丸:奈良県立医大の 赤井 靖宏 准教授が奈良県は日本の縮図だとおっしゃっていました。全国で年間500万台の救急車が出動しますが、奈良県だと5万台であるように、日本のデータを100分の1にしたら奈良のデータになるそうです。奈良県には都市もあれば、過疎地域もあり、高度医療もプライマリケアもトップクラスの指導医が揃う県でもあります。救急医療や医師不足の問題もありますが、様々な力を合わせて良い研修制度を作ろうという雰囲気に満ちています。是非、奈良県で初期研修をして、日本の医療全体を一緒に考えていきましょう。

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