第2回

須崎先生 本日はお忙しい中、ありがとうございます。
私は常日頃、呼吸器内科医として大学で働いています。
水野先生と共に、平成23年度に設立された女性研究者支援センターのコーディネーターをしています。
 第1回のオープンカフェは県立医科大学で開催し、医師・臨床研修医にもご参加いただきました。比較的若い方が参加され、どんな医局を選べばよいか、また育児と仕事の両立についてお話をしていただきました。
 今回は第2回が県立奈良病院で開催されるとお伺いし、勤務医の第一線で活躍されている先生方と交流する機会が少ないため、ぜひ私たちもご一緒させていただきたいと思い、非常に興味を持って参りました。
 先生方の日常の工夫や仕事の進め方というのは、ホームページを見ている若い医師や研修医のみなさんにも参考にしていただけると思います。
ではよろしくお願いします。

 ご自身のこれまでの仕事の進め方や、キャリア形成の途中でライフイベントが仕事にどう影響を与えたのか、そして勤務されていた病院の支援や上司の理解に助けられたこと、もしくはこんな支援があれば助かっていた、あるいは支援がなく非常に苦労した点があればお話ください。

吉田先生
 24歳で医者になり、1年間大学で研修を受けました。2年目から15年間を県内の公立病院で勤務しこの病院に来ました。
 仕事がとても面白かったので、まったく結婚する気はなく30歳までに一人前になりた いというのが最初の目標でした。思い込むタイプなので、1日も休暇を取らず勤務しよう とか、毎日遅くまで残って勉強しようと思っていました。
 36歳で結婚しましたが、週末婚と言われるもので、主人は岐阜県の病院に勤務しています。結婚時から仲良く別に暮らしていて、週末に行き来するので仕事に支障はなく、平 日は好きなだけ仕事をしていました。
 42歳で子どもを授かり、急に人生が変わりました。健康であった私が妊娠した瞬間にひどいつわりにより脱水症状で救急車で運ばれ、そのまま入退院を繰り返しました。 15年勤務した病院から異動後2~3年のことです。
 本当は育児休業をとって少しゆっくりしようとも考えていましたが、誰かに相談する余裕もないまま、何の前触れもなく、また何の準備もなく倒れ、産後もお休みを頂き、ほぼ1年もの間とてもご迷惑をかけたので育児休暇という選択肢はなく、半年で復帰しました。
 復帰後1年間は実家に子どもを預けて仕事に来ていましたが、1歳半から保育所に入れていて、今は4歳になりました。

 お休みされている間の欠員の補充はありましたか? 

吉田先生
 ありませんでした。私の患者さんも私の仕事も全部残りの方が受けてくださいました。


 大学医局へ増員の交渉をしたけれど、できなかったということですか? 

吉田先生
 交渉をしていたかどうかはわかりません。私が元気であれば「こうしてください」とか「では辞めます」という話もできていましたが、入院のため産休に入る準備が全くできず、急にいなくなった状態で、私自身に余裕がなく当時の部長も私を気遣ってくださって、そういう連絡はありませんでした。


 もし、補充があればあと6ヵ月、合計1年の育児休業を取得されましたか? 


吉田先生
 子どもには申し訳ないですが、仕事の面では産後6ヵ月で復帰してよかったと思っています。補充があるということは全く考えていなかったです。補充があれば、その方にも病院にも迷惑をかけたくないので、いったん退職する事を考えていたかもしれません。


 扇谷先生はいかがでしたか? 


扇谷先生
 この病院に来てから2人目を出産しました。
 1人目も2人目も切迫流産になったので、2人目は週3日の勤務から週1日勤務になり、自宅安静、入院という形になりました。
 出産後7ヵ月で復帰しましたが、まずNICUの外来に週1回の勤務で戻りました。ただ、常勤からパートへという扱いがなかったので、部分休暇と年休を使い、徐々に復帰しました。
 4月からフルタイムで復帰しています。


 もし今後、後輩が出産育児となった場合、人員の要求をされますか? 

吉田先生
 増員になるかならないかはわかりませんが、産休育休で人員が減るのであれば、その期間は仕事が回らなくなるので、できれば増員をお願いしたいと思います。


 妊娠育児をきっかけに辞めてしまうと、キャリアが途絶えてしまいます。女性医師は、同僚等に迷惑をかけるのではという思いで辞めてしまうのでしょうが、育児休業を取り復帰して、就労継続することでキャリアを積み、社会貢献を果す方がより生産的ではないでしょうか。
 フルタイムの方が育児休業を取るのであれば、フルタイムに近い方の補充がなければ、周りの方にそれなりの負担があるということですね。
 出産育児で休業している方が安心して子育てをし復帰出来るよう、人員の補充をしてもらえるのが理想ですね。 

この病院で出産・育児をされて良かった点はありますか? 

吉田先生
 子どもと一緒に過ごす時間が少ない分、保育園の用事などには出来るだけ行きたいと思っています。他の病院と比べると小児科医が多い病院なので、仕事との兼ね合いにはなりますが、保育園の行事に行かせてもらえることは本当にありがたいと思っています。


出産・育児が自分のキャリアに繋がっている、仕事上において自分を豊かにしているという実感はありますか? 

吉田先生
 すごく思います。子どもに対する親の気持ちを今までも理解しているつもりでしたが、実感として本当に理解できたという点で、産んでよかったと思います。
大変な面もありますが、良い面もたくさんありました。


自分の子どもを持って、管理者として後輩に対して変わったところはありますか? 

吉田先生
 今はまだ子どもがいて働いているという後輩が当院の小児科にはいないので、今後彼女たちが同じような立場になったときには、いろいろ受け止めてあげられると思います。


吉田先生、扇谷先生はこの病院の保育園をご利用ですか? 

吉田先生
 最初何も考えていなくて、ここの保育園に相談したところ、『看護師さんの子どもさんが優先なので、途中で保育園をやめてもらうこともあり得る』と言われ、預けるのをやめました。


扇谷先生
 1人目は違う病院でしたので、そちらの病院の院内保育園に預けました。こちらの病院に異動になった際は他の保育園にお世話になりました。
 2人目の時は、最初は他の先生方に紹介していただいた託児所を利用し、4月から公立の保育園に預けています。


 奈良医大にある保育園は定員60名に対し、すでに53名の利用があります。待機児童もなく、医師・看護師共に利用が可能です。
 こちらの保育園は定員15名に対し利用が2~3名と聞いています。利用される医師・看護師のニーズもあるかと思いますが、何か理由があるのでしょうか? 

堀川先生
 狭くて園庭がないので、子どもは室内でビデオ鑑賞をするしかなく、職場に近いので預けたいけれど、預けられないと言う声は聞いています。


 保育園の整備は『私たちは子育てをする職員を応援します』という、働く場所からの大きなメッセージだと思います。
 病院の姿勢として、どういうメッセージを送っているのかが見えないとダメですね。 

堀川先生
 世間では待機児童が多いと言います。預けたくても預けられていないという事、また定員15名に対して利用者が2~3名という事は、何か不都合な部分があるからだと思うので、その部分についてもう少し問題意識を持っていただきたいと思います。


 今後、働く職員へのメッセージを発信できるような保育園整備が進められると良いですね。
 少し遅い時間帯に預けることもでき、また夜間保育や病児保育ができる保育園であるとより良いですね。 

堀川先生
 そうですね。これからは24時間保育というキーワードもあるので、院内保育・病児保育も含め保育園のことを反映していただきたいと思います。


 自分の子どもを預けるかどうかは最終的には個人の価値観になりますが、預けたくなるような、保育園選びの大きな選択肢になるような院内の保育園はぜひ叶えたいもののひとつですね。
 奈良県の大きな柱になる病院ですから、院内保育園であったり、ここに良い保育園があるということが見えてくれば、仕事は忙しいかもしれないけれど、ここで働いてみようと思う医師も多くなることでしょう。 

当直はどうされていますか?子どもが小さい時は何歳まで免除とか決まりはありますか? 

吉田先生
 決まりは特になく、私の場合は生後6ヵ月で復帰し、子どもが1歳までは平日はフルタイムで働き、土日の当番も出ていましたが、当直は免除していただきました。子どもが1歳になってからは、当直も復帰しました。


週に何時間までは働けるけれど、何時間以上は働けないというのはありますか? 

吉田先生
 重症患者さんがあれば遅くもなります。特に何時間というのはありません。


では、当直の日は、お子さんはどうされてますか? 

吉田先生
 わたしはすごく恵まれていて、両親がすぐ近くに住んでいるので、普段は保育園の送迎をお願いしています。熱が出たときも迎えに行ってもらってますし、当直のときは一晩付いてもらっています。両親の協力がなければ働けていないですね。


扇谷先生はいかがですか? 

扇谷先生
 今日は皆さんにどうされていたのかを聞きたくて参加しました。
 私の場合は、当直は子どもが1歳3ヵ月のときからしていました。月2回ですが、主人がいる日に当直を入れてもらっていました。最初は母に来てもらって、慣らす感じでした。2人目ができてから当直を免除してもらっていますが、10月から月2回で当直に入る予定です。


お子さんはおいくつですか? 

扇谷先生
 2人目は1歳7ヵ月です。私が当直に入ったら、主人はどうするのかなとも思いますが、そこはもうお願いするしかないですね。一番頼れるのは母なので、風邪をひいた時などは来てもらっています。


以前はどちらに勤務されてましたか? 

扇谷先生
 1人目を妊娠したときは、県内の私立病院に勤めていました。妊娠したので一旦退職しました。その頃は退職することはごく普通のことでしたよね。


 これまで女性医師は、出産後一旦退職するという事が、何の問題もなく普通に行われていましたね。医師が恒常的に不足している状況では、同僚の先生方の負担を考えると人員の補充なしでは育児休業の申し出は難しいことでした。
 今後は、育児休業中には代替の医師を確保し、有効な制度運用を行う努力が、管理者には求められると思います。 

堀川先生
 責任のある方々が運用について考えてくださると思いますか?


 考えていただけるよう、話をしていく事が大切ですね。考えていただいていない訳ではないと思いますが、話をすることによってより深く考えていただけることもあります。 

堀川先生
 そうですね。話をしないとわからないと思います。 放射線科にも妊娠された先生がいらっしゃるのですが、補充についてどうなるのかがわからないので、毎週のようにお話をさせていただいてます。


 皆さんが勤務されている病院はとても医療技術が高く、その補充に来られる先生にも、ある程度以上の医療技術が求められると思います。
 症例も多く様々な経験ができる病院でもあるので、こちらの病院に勤めたいと思われる先生はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。 

宮田先生のところはいかがですか?

宮田先生
 私は眼科で、子供はまだいません。


眼科は何人で勤務されていますか?

宮田先生
 部長と私の2人で勤務しています。


もし宮田先生が出産・育児の休暇を取得した場合、大学医局としてはどうしてもらえると思いますか?

宮田先生
 2人なのでなんとも言えないですね。
他の病院で産休中の先生がいらっしゃるところがあるのですが、常勤の先生に来ていただくのは無理のようで、非常勤の先生に週3回来ていただいている状況のようです。


常勤の先生が増えれば解決されることもありますか?

宮田先生
 そうですね。いろいろ解決出来るかと思います。


辻先生の所はいかがですか?

辻先生
 私は外科で、現在医師は5名です。そして、救命センターに外科メインの医師がおり、 その先生を含めて何とか仕事が回っている状況なので、誰かが抜けるということは考えられないですね。


辻先生はお若いから休むという状況がなくてもあまり不安はないかと思いますが、病気で欠員が出る場合もあるので、人的に余裕が全くない職場に不安はないですか?

辻先生
 私ももちろん将来的な不安はあって、このまま仕事を続けられるのか考えてしまいます。 外科は、特に若手は他の科の先生と比べてちょっと特殊で、1年おきに交代なんですね。 入局して最初の1年で大学、その後3~4年は1年ごとに他の病院に研修に行きます。多くの病院、多くの先生のところで手術の勉強をします。システム的にはとても勉強になると思います。ただ、1年単位なので、休むということをあまり考えません。
 外科で、出産・育児をして第一線で働かれている女性医師はそんなにいらっしゃいません。

水野先生
 私の知っている方は、お子さんが3人いらっしゃって、フルタイムで勤務されてます。

辻先生
 はい。その先生は大学で9時~17時の勤務、さらに他の医師のカバーもあるようです。同じことが他の病院でできるかと言われれば、今は難しいかなと思います。
 1年ごとの異動で、その間はそこの病院でしかできないことを勉強したいです。その後大学に戻った時には、結婚や出産についても考えられるかなと思います。


前もって医局に結婚・出産の計画を話せる雰囲気はありますか?

辻先生
 最近は入局する半数が女性医師で、少し上の先生にも女性が多いので話せると思います。今後はより女性医師のことを考えていただいけるようになると思います。


 辻先生のお話のように今は女性医師、特に20歳~30歳代の若い女性医師が多くなっているので、その先生たちがどのようにキャリアを伸ばし、ライフイベントと両立していくのかを見せるということは、次の世代への大きなメッセージになりますね。
 多くの女性医師が活躍する放射線科や小児科は、良い見本になると思います。女性医師が多い眼科や皮膚科もそうでしょうか。そういう先生方の働き方や在り方を学生たちは見ていると思います。その上でこうすれば働けるとわかれば、入局者も増えるのではと思います。

堀川先生はどのように子育てをされましたか?

堀川先生
 私は放射線科に勤務しています。入局して2~3年目で子どもができ、33歳と34歳で産みました。当時勤務していた病院の保育園に預けていました。
 子どもが3、4歳の時に大学に戻ったので、そこで当直もするようになりました。当直のときは母に来てもらっていましたね。母は大阪に住んでいたので、できるだけ金曜日に当直を入れてもらえるようにお願いしました。


そのお願いは受け入れてもらえましたか?

堀川先生
 「これしかできません」とお願いしました。ただ保育園は困りましたね。
17時に迎えに来てくださいと言われたのですが、その当時は絶対無理なので、保育園を掛け持ちしていました。それでも19時までしか預かってもらえませんでした。


堀川先生が子育てされていた時と今と比べて、改善されて良くなってきているところはありますか?

堀川先生
 上の子どもが4、5歳くらいの時に、やっと19時までの保育ができるようになったことですね。


では逆に、ここは変わらないなと思うところはありますか?

堀川先生
 当直しても次の日に働かないといけないところですね。
 当直免除になったとしても、「では誰が代わりに?」って思ってしまいますが。
私は24時間保育があれば、ずいぶん前進するのかなと思いますね。


堀川先生は24時間保育があれば子どもを預けますか?

堀川先生
 緊急で呼び出しを受けたときにはお願いすることができると思いますね。 実際、もう何度もそういう経験があって、子どもを病院に連れて行き、看護師さんに少しお願いしていました。
 もちろん、制限は必要かとは思います。たとえば「月2回までなら大丈夫か」と聞かれれば、月2回なら子どもに少し我慢をしてもらい24時間保育を利用するということもできますよね。
 主人も泌尿器科で当直も多かったので子どもと2人の時に緊急の電話がかかってくると、本当にどうしようって思っていました。


 問題は医師の勤務体系にもあると思います。
 長時間勤務の是正をしてこなかったことが、女性医師の活躍を妨げてきたと感じます。
 長時間勤務の改善は、男女両方の勤務医にとって重要ですから、今から一歩ずつでもいいので、医師の働く環境について考えていかなければなりません。
 女性医師の皆さんでお互いの悩みを共有していくことも大切ですね。

宮田先生は今後の予定というのはどういった感じですか?

宮田先生
 私は医局人事にお任せしています。1~2年でこの病院から異動と聞いています。
教授に次はここって言われれば、その病院に勤務しますね。
 急性期病院には急性期病院の良いところがあるので、私はまだ眼科医になって4年目ですので、どこに勤務しても自分のキャリアには良いと思っています。勤務した病院でその特色を活かして働きたいと思います。
 でも、子どもは欲しいですね。ただ、仕事と両立するとなると時間も私の自由ではなくなるので、子どもが産まれ、仕事もがんばろうって思うと、どちらかの親の近くに引っ越さなければならないと思いますね。


社会の育児支援とかを受けられれば良いと思いますか?

堀川先生
 24時間保育があれば利用しようと思いますが、今は現実的ではないですね。


水野先生
 どうしてもっていうときは親を頼る医師の方が多いと思います。当直日がわかっていれば、遠くても来てもらえるのでね。


 専門的な技術の習得や患者さんの病状の為、時として医師が長時間勤務になることはしかたのないことです。
 でも、20時、21時まで毎日働かなければ現場が回らないのであれば、それは管理者のマネジメントがうまくいっていないということではないのかなと思います。特に幼い子どもを育てながら20時、21時まで毎日働くことは普通でしょうか?

扇谷先生
 私はNICUなので少し特殊ですが、24時間365日、誰かが宿直をしなければいけません。今は医師7名でそのうち6名はもう40代です。誰か1人が欠ければ、月6回の宿直になるので、普通でもつらい状況ですね。ただ、宿直明けの日は一応フリーで自分の仕事が終われば帰れるという制度にしてもらっています。緊急のときはもちろん例外ですが、19時まで残ることはあっても21時ということはないので、毎日外来をされている科とは違うと思います。


 皆さん勤務時間内は、目一杯働かれていると思うんです。だからこそ当直明けをフリーにして仕事が終われば帰れる等の環境整備をしている部署では、女性医師が辞めずに働き続けていけますね。

 私、実は院長先生から、女性医師の皆さんと院長先生が意見交換をされた際の資料をお預かりして読ませていただきました。その中に子育て中の問題という課題があり、管理職の意識と他の医師への負担という記載がありました。

皆さんにとっての管理職とはどなたですか?

堀川先生
 科の部長先生になりますね。


扇谷先生
 私にとってはNICU、小児科の部長になりますね。
「自分で考えて、患者さんと他の先生の負担にならなければいい」と言ってもらえてます。


 私の思いとしては、患者さんと他の先生の負担にならないように考えていくのは管理職の仕事だと思うのですが、違うのでしょうか?

扇谷先生
 私は、自分で考えて実行させてもらえていることで助かっていますね。
スタッフにも恵まれていて、私が不在でも他の先生方がカバーしてくださっていて、今のメンバーだからこそ勤務できているように思います。


 自分が働いている職場の環境や理解が整うことが、仕事をしていく上で非常に重要になるということですね。

水野先生
 扇谷先生は、育休後の復帰の際に、他の先生方にご自分で勤務体制の希望を説明されましたか?

扇谷先生
 まず部長先生に状況と復職する際の希望を説明しました。部長先生の了承をもらえたので、他の先生方にも同じように希望を伝えました。
私の立場は部長先生の次という位置なので、みんなに無理をさせてしまっているように思います。


 若い医師にとって先生は良い見本になっていると思いますよ。「次は私の番かな」と思うと、扇谷先生がされていることが前例になり、同じようにできると思えるはずです。

水野先生
 もっと若い先生が復職される際には、自分から言えない状況になるので、やはり部長先生から他の医師に説明してもらいたいと思うのですが、どうですか?

扇谷先生
 私の下に子育て中の医師がいるのですが、諸事情で当直ができない状況で、その先生に関しては部長が説明されてました。

水野先生
 そういう部長先生がいらっしゃると安心して働けますね。


 私がいつも病院に対して思うことは、カンファレンスについてですね。
開始時間によっては、育児中の女性医師は参加できません。私は奈良医大の各医局長にアンケートをお願いしたことがあります。
 「育児中の女性医師が『カンファレンスに出れません。』と言った時どうしますか?」との質問に対し、医局長全員が「免除します」という回答でした。「重要なことはメールで連絡します」、「出席しなくても大丈夫です」と言われ、そこで完結しているんです。  でもそうではないんです。カンファレンスというのは、大切な学びの場になります。そこに出席しなくていいということは、学びの時間を与えられないということになり、その先生の医師としての力量に影響する可能性もあるわけです。昔は参加することが当然で、強制だったと思いますが、強制ではなくなり良い方向かというと、「来ないでいいよ」と言い換えているだけですよね。それが、その医師の成長を妨げてしまうところがあるので、カンファレンスや成長につながるような会というのを就業時間の中でできるように環境を整える必要がありますよね。
 実際は子どもを迎えに行くため参加できないけれど、本当はカンファレンスには出席したいと考える医師は多いので、その声を届けたいと思っています。

女性医師が多く在籍する科には、他の科にはない工夫や働きやすさがあるのでしょうか?

宮田先生
 教授自身が医局員1人1人に直接声をかけて、ちゃんと相談にのってくださって、それぞれにアドバイスもされるので、働きやすいのかなと思います。お子さんを2人育てて、旦那さんも医者という教授です。


 実際に子育てをしながら勤務を続けられた先生なので、どのようにすれば働きやすいのか、わかっていらっしゃるんですね。

宮田先生
 今は私の1つ下の後輩が産休に入っているので、復職したときに今後のモデルになってもらえればと、他の先生方と話しています。


24時間保育や病児保育に関しては、やはりあれば良いと思いますか?

宮田先生
 私はあったほうが良いと思います。


堀川先生はいかがですか?

堀川先生
 24時間保育があるからフルで当直が可能ということではなく、何かの時に預けられればいいとは思います。そういう意味では、当直の免除や制限は必要ですね。
 私はずっと、子どもには自分が作ったご飯をちゃんと食べさせたいという思いから、夕食の時間はできるだけ家で過ごせるよう、朝早く起きて夜の準備をし、日中もなるべく時間を有効に使って、なんとか早く帰れるようにしていました。
 働く環境が管理職の方の意識でどう変わるのかはわからないですが、たとえば何歳までのお子さんがいる人は、勤務時間を週40時間までにするなど、きっちり決める必要があると思いますね。当直の免除も当然のことにならなければ、働きやすい環境とは言えないです。やはり勤務形態についてはしっかり考えないといけないですね。


 短時間勤務であっても、この病院のようなチャレンジングでやりがいと責任のある仕事ができる職場で働き、いずれは通常勤務に戻る。その姿を見せることが、後輩にとっても大きな意味があると思います。
 長時間勤務を厭わず、今まで奈良の医療を支えてこられた医師の方々に対して強い尊敬の念を持っていますが、女性医師が全体の30%に達したときに現状の勤務体系のままでは維持不可能であることに早く気付き、対策をしなければならないと思います。

堀川先生
 そうですね。女性が働かなければ医師不足だと言われていますが、子育てをする女性医師はフルタイムでは働けないので、パートのような勤務になります。これって医師不足ですよね。勤務形態を考えずに女性医師不足を解消するのは難しいでしょうね。
 放射線科で子育てと仕事を両立されていた先生は、家にご両親がいらっしゃった方です。  介護についても、時間短縮勤務ができるのは6ヶ月だけです。その後は何の対応もなくなります。


堀川先生のところも、たとえ1人でも医師の数が増えれば、ずいぶん変わりますか?

堀川先生
 放射線治療という特殊な分野なので、今は入局者も本当にいなくて困っています。


 各医局に一人でも多くの医師が入局してくれると良いですね。
 みなさんはすでにこの病院に勤務されているので感じられないかもしれませんが、やはり若い医師や研修医にとってこの病院は憧れの1つであると思います。
 自分も頑張ってみなさんのような医師になりたいと思っている医師もたくさんいらっしゃるので、みなさんのお話を参考にしてもらいたいと思っています。

最後に、みなさんが重い疾患の患者さんが多いこの忙しい病院で、大変だけれど医師として頑張れている理由、または医師とし大切にしている思いがあればお話ください。

辻先生
 私は独身なのでフレキシブルに動くことができますから、今は緊急の時はいつでも呼んでいただきたいと思っています。やりがいのある症例、緊急性の高い症例が多いので、勉強させてもらえる機会を大切に勤務しています。

宮田先生
 私がこの病院で働きやすいと感じるのは、部長がどっしり構えてくださっているからですね。自分が見ている中でなら、やりやすいようにしてくれてかまわないというスタンスでいらっしゃるので、相談もしやすいです。
 また、急性期病院なので症例も多く、経験を積むという意味ではとても良い病院です。 今のうちに多くのことを吸収しようと思って頑張っています。

扇谷先生
 私の場合は、NICUの仕事が好きだからです。子育て中で時間の制約があり、他の先生のようにできないこともあるので、日々葛藤です。今は自分のおかれた立場でできることをしようと言い聞かせています。
 ここから離れてしまえば、もう戻れないと思うので、これから先、子どもが大きくなった時にできることが増えているよう、自分のキャリアを途切れさせないよう頑張ろうと思います。

堀川先生
 子どもが病気になったとき、辞めようと悩んだこともありました。ですが、この病院に異動して、その当時の部長が仕事をきっちり分けてくださったので、それならばしっかりこの病院で勤務しようと思いました。
 放射線治療は特殊なので、携わる医師が少ない分、求められている実感もあればやりがいを感じることもできます。辞めようと思った時期もありました。でも今は続けてきて良かったと思います。

水野先生
 こちらの病院にこれだけの女性医師がいらっしゃることを知りませんでした。
 大学病院と違い、地域の病院としてのキャリアを積むことができると思います。これから体制が変わり多くの課題があると思いますが、制度改革等が行われ、より働きやすい病院になればと思っています。


 本日はお忙しいところありがとうございました。
 今日皆さんとお話させていただいたことが、これから医師の道に進む医学生や研修医の方への参考になればと思います。