ひたむきな愛をささやく 平城宮跡・佐保川・ならまち
佐保川ルート
飛鳥ルートマップ
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佐保川
佐保川
文庫1巻P285
ちどりなく さほのかわせの さざれなみ やむときもなし わがこいうらくは
千鳥が悲しげに鳴く佐保河の瀬の小波、そのようにやむ時もないわが恋心よ。
佐保川沿いにはいくつもの歌碑が立っている。
その中でも、佐保に住んでいたとされる大伴坂上郎女の歌碑が多い。
この歌は、佐保川の流れに自らの恋心を重ね合わせた歌。
川の流れが途切れないように、あなたへの私の想いも途切れることがない、と。
恋の歌が多いことで知られる郎女。この歌を誰に向けてうたったのだろうか。
さやか先生の「ここに注目」

大伴坂上郎女は、優れた万葉歌人として知られる大伴旅人の妹。頭が良く、歌も上手、そのうえ家のことを取り仕切れる“スーパーレディ”でした。この歌は婚姻関係にあった藤原麻呂に向けてうたったもの。藤原麻呂が「久しぶりに君の家に行きたいんだけど」と詠んだ歌に対して返した4首のうちの一つ。残り3首は下記の通りです。

●佐保河の小石を踏み渡って宵闇の中をあなたの黒馬の来る夜は、年に一度でもあってほしいものです。(巻4-525)
●来ようといったって来ない時のあるものを、来られないだろうといっているのに来るだろうなどと待ってはいますまい。来られないだろうとおっしゃっているものを。(巻4-527)
●千鳥の鳴く洲もあるような佐保河の渡りは瀬が広いので、板を打って橋だって作りましょう。末長くあなたが来るというのでしたら。(巻4-528)

文庫2巻P52
つきたちて ただみかづきの まよねかき けながくこいし きみにあえるかも
新しい月になってたった三日ほどの月のような眉を掻きつつ、日々長く慕って来たあなたにお逢いしたことよ。
「恋するあの人に会いたい」という想いは、昔も今も同じ。
古代、眉がかゆいのは恋人に会える前兆とされ、転じて眉を掻くと恋人に会えるというおまじないがあった。
「三日月のような眉を掻いたら、本当にあなたに会えたわ」と詠むこの歌。なんとも可愛らしい。
現代のように携帯電話も何もない時代。ただひたすら、恋人がくるのを待つしかなかった切なさを思うと、おまじないを信じたくなる気持ちに共感できる。
さやか先生の「ここに注目」

現代でも、時代の変化とともに化粧スタイルの流行り廃りはありますが、万葉歌から、当時の化粧スタイルの流行りがわかります。この当時の流行は、三日月眉の「蛾眉(がび)」。蛾眉は、蛾の触角のように美しい弧を描いた細い眉のことで、当時の美女の証でした。

  • 奈良市法蓮町
  • 自由
大仏鉄道記念公園
大仏鉄道記念公園
文庫1巻P197
さほすぎて ならのたむけに おくぬさは いもをめかれず あいみしめとそ
佐保を通りすぎ寧楽山の峠に手向けとして置く幣は、長旅にはさせないで早く帰って妻にいつも逢えるようにしてくださいと祈ることだ。
佐保を過ぎた寧楽山(ならやま)とは、現在の平城山(ならやま)あたりか。 無事に妻のもとへ帰ることができるようにと、峠で旅の安全を祈った長屋王。 当時は、山や峠を越えるときは、必ず旅の無事を祈ったのだとか。 妻への深い愛情からこの歌を詠んだのかな。
さやか先生の「ここに注目」

当時の「旅」の概念は、現代人とは少し違います。私たちの旅といえば、楽しい観光旅行などを思い浮かべますが、古代では旅は危険や死と隣合わせでした。だから、旅の安全を祈り、神に幣(ぬさ)と呼ばれる紙や布で作った供え物などを捧げました。
また、「妻」と「家」は日常、「旅」は非日常の状態と考えられており、「妻に会いたい」とは「妻のいる家に帰りたい」ということを表しています。

  • 奈良市法蓮町986
  • 自由
東大寺
東大寺
文庫2巻P235
わがせこと ふたりみませば いくばくか このふるゆきの うれしからまし
したわしい方と二人で見ましたら、どれほどか、この降る雪も嬉しいことでしょう。
詠んでいるのは、光明皇后。
東大寺の大仏を建立した聖武天皇の后で、病人や孤児に治療や施薬を行う「施薬院」を設置するなど、慈善活動に力を注いだことでも知られる。
降り積もる雪を、夫と一緒に見られたらどんなにうれしいことか。
感動や喜びを、愛する人と共有したいという想いが伝わってくる。
さやか先生の「ここに注目」

「わが背子」は「愛しいあなた」のような意味。天皇のことをうたっていますが「大王(おおきみ)」ではなく、「私の夫」と詠んでいる、親密な恋歌です。現代の私たちも、素晴らしい景色を見て、「彼氏と見たかった~」と思うこともあるのでは。奈良時代の光明皇后も同じ。「1番大切な人と一緒に見たかった!」とうたっているのです。

  • 奈良市雑司町406-1
  • 自由
吉城川
吉城川
文庫3巻P135
わぎもこに ころもかすがの よしきがわ よしもあらぬか いもがめをみん
吾妹子に衣を貸す春日の宜寸川よ。手段もないものか。吾妹子に逢いたいことよ。
「宜寸川(よしきがわ)」は、東大寺の境内を流れる「吉城川」のこと。
春日山から流れ出る川で、鹿が水に足をつけ、喉を潤している光景を目にすることができる。
あれこれ理由をつけて好きな人に会いに行く口実を見つけるのは、今も同じ。
現代の男性たちとなんら変わらない行動に、頬が緩む。
さやか先生の「ここに注目」

言葉遊びの歌。衣を「貸す」と「春日」、「宜寸川(よしきがわ)」と「縁(よし)」と、かけ言葉が多用されています。
「衣を貸す」とは、次に会うためのおまじないとして、恋人同士で衣を交換すること。身につけている物には、その人の魂が宿るとされていました。現代でいうと、普段使っているアイテム、例えばペアの腕時計などを男女で交換して使うようなものです。その人の物を持つことで、愛する人を傍に感じることができるのでしょう。

  • 奈良市雑司町406-1
  • 自由
■歌の表記は『万葉集 全訳注原文付』(編者/中西進 発行/講談社)を参考にしました。
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