スーパーなどの店頭で販売されている農産物の中には、奈良県で生まれた品種が多くあります。私どもの奈良県農業研究開発センターでは、生産者や消費者の皆様に評価の高い品種の育成を目指し、これまで多くの品種を世に出してきました。近年育成した品種には、イチゴの「アスカルビー」、「古都華(ことか)」、大和まなの「夏なら菜」、「冬なら菜」、二輪ギクの「千都の輝(せんとのかがやき)」、小ギクの「春日の紅(かすがのべに)」があります。
「アスカルビー」は、果実の光沢のある赤色が、宝石の「ルビー」を連想させることから名付けられました。大きくて果汁が多く、ジューシーな味わいのある奈良県の主力品種です。「古都華」は、平成23年に登録された良食味品種で、強い甘みがあり、濃厚な味わいで、外観も鮮赤色で美しく、果肉もしっかりしている三拍子揃った品種です。また、日持ちにも優れています。
「夏なら菜」と「冬なら菜」は、奈良県の伝統野菜である大和まなの新品種で、収穫後に葉が黄化しやすいという従来の欠点を改良して、日持ちが良くなっています。
「千都の輝」は、わき芽が発生しにくい性質がある品種で、二輪ギクに仕立てるために必要であった芽かき作業を大幅に省力化できるようになりました。「春日の紅」は、高温の年でも8月上旬に開花し、お盆に安定的に出荷できる品種です。
本センターで育成された品種のほかに、奈良県内で発見された品種もあります。数多くあるカキの品種のうち、「刀根早生」は、天理市萱生で発見された平核無の枝変わりの品種です。普通の平核無より10~15日程度早く収穫でき、甘みが強く、豊富な果汁が特長です。歴史を遡れば、「大和白桃」といった最近では非常に珍しくなった桃の品種もあります。
こうした奈良生まれの品種を覚えておいて、店先でそれを探してみるのも面白いでしょう。

豆知識
昔からの代表的な育種法と言えば、交雑育種と枝変わりの発見です。
交雑育種は、特徴のある2つの品種の雄しべと雌しべを用いて強制的に受粉し、採取した種子を育て、その中から有用な個体を選抜する方法です。枝変わりは、植物の一部が異なった性質になることで、挿し木や接ぎ木で、その性質を持った植物を増やすことが出来ます。枝変わりを探すのは、果樹では最近でも行われています。ともに、個人の園芸愛好家でも可能な育種方法なので、興味のある方は、一度チャレンジされるのも楽しいでしょう。ただし、良い個体が発見される確率は、非常に低いのが現実です。
また、近年、話題になっているのが、遺伝子診断を利用した育種です。病気に強い、味が良い、収量が多いなどの特定の形質に対応するDNA配列を調べることで、選抜にかかる手間や時間を大幅に効率化できます。本センターでもカキでこの育種法を用いた新品種開発に取り組んでいます。