植物のウィルス病

 ウイルスによる病気と言えば、インフルエンザウイルスによる発熱やノロウイルスによる感染性胃腸炎などを思い浮かべる方が多いと思いますが、植物もヒトと同じようにウイルスにより病気になることをご存知でしょうか?
 植物のウイルス病の主な症状は、葉の縮れや生育の抑制です。これらは、ウイルスが植物体内で増殖することにより、植物側が正常に生育できなくなるために起こります。このため、農業生産現場では、ウイルス病による生産性の低下、外観の悪化が問題となっています。
ヒトは病原体を認識して抗体を作る獲得免疫機能を持っているため、体内に入ったウイルスを攻撃することができます。しかし、植物はこの機能を持たないため、一度ウイルスに感染すると治ることがありません。また、ウイルス病に対する治療薬も開発されていません。そのため、対策は、ウイルス感染の予防しかありません。
 ウイルスに感染した植物は、伝染源となります。もし、家庭菜園で上に書いたような症状を見つけたら、もったいないと思わずに抜き取って処分して、ウイルス感染の拡大を防ぐことが大切です。ただ、ウイルスが感染していても症状が軽微な場合も多く、発見が遅れることがあります。普段からよく植物を観察することが重要です。ウイルス感染植物から未感染植物への伝染は、管理作業で使うハサミに付着した植物片やアブラムシ等の小さな虫の吸汁により起こります。そのため、面倒でも熱によりハサミを消毒したり、殺虫剤による害虫の防除を行うことが有効です。
 植物は獲得免疫機能を持っていませんが、ウイルスに対する抵抗性遺伝子の存在が明らかになっています。現在、この遺伝子を利用したウイルスに強いトマトなどの品種開発が行われています。しかし、すべてのウイルスに対する抵抗性遺伝子は見つかっておらず、これからの技術の進歩が期待されます。

トマトのウイルスによる葉の縮れと生育抑制

【豆知識】
 ヒトのインフルエンザでは発症を抑えるための予防接種があります。この仕組みは病原性が無いあるいは低いインフルエンザウイルスを注射することで、抗体が作られ、免疫力を向上させるというものです。発症抑制メカニズムは異なりますが、植物にも予防接種と呼べる「弱毒ウイルス」の接種があります。弱毒ウイルスは、病原性ウイルスに似ているものの病原性を示さないウイルスのことです。弱毒ウイルスを接種すると、植物体内で増殖します。そのため、後から病原性ウイルスが感染しても、弱毒ウイルスが優占しているために増殖できず、症状の発現を抑えることができます。病原性ウイルスの感染後に弱毒ウイルスを接種しても効果がないので、予防的に使用する必要があります。トマトでは弱毒ウイルスが接種されている苗が販売されているので、家庭菜園でウイルス病にお悩みの方はお試しください。