店頭に並ぶ小麦粉には、強力粉(きょうりきこ)、中力粉(ちゅうりきこ)、薄力粉(はくりきこ)といった名称があります。この分類は、加水してできる生地の粘りと弾力(粘弾)などを目安にしており、これらの小麦粉の名称は、その程度の強さを示しています。そして、粘弾などの強さによって食感や加工適性は異なり、パンには強力粉、麺類には中力粉、菓子類には薄力粉、というそれぞれに適した用途があります。それでは、小麦粉生地の強さの違いはなぜ生じるのでしょうか。
小麦粉の生地の粘弾は、主に小麦粉に含まれる「グルテン」というタンパク質が作り出します。さらに、グルテンは複数種のタンパク質から構成されており、その組み合わせによって粘弾の強さが異なります。そのため、強い組み合わせのグルテンが多く含まれると、生地は強くなりますが、弱い組み合わせのグルテンであったり、グルテン量が少ないと生地は弱くなります。
そして、グルテン量と組み合わせは、小麦の品種によって異なります。小麦粉は小麦種子を原料としますが、種子中のグルテンは、各品種の遺伝子でほぼ決定づけられます。奈良県で栽培されている小麦品種「ふくはるか」は、グルテン量とタンパク質の組み合わせがともに中力粉になる遺伝子を持ちます。また、グルテン量は栽培方法によっても変動します。例えば、同一品種でも種子が実る時期に肥料を多くあげると、グルテン量は高くなります。奈良県農業研究開発センターでは、県産小麦でそうめんを作れるように、通常は中力粉の「ふくはるか」を、この方法で強力粉の品質に近づける研究を行っています。さらに、三輪そうめん製造会社と共同で、強力粉の品質に近づけた「ふくはるか」を用いてそうめんを試作しています。本来は強力粉を原料とする三輪そうめんですが、小麦の栽培方法を工夫することで、奈良県産小麦のそうめんが実現しつつあります。
【豆知識】国内産小麦をより身近に
小麦はヨーロッパや北米で生産が盛んな作物で、もともとは梅雨のある日本での栽培が難しい作物でした。これは、小麦の国内自給率が13%と大変低いの理由のひとつとなっています。ところが、近年では日本での栽培に適した品種が多く開発されており、香川県産の「さぬきの夢2009」を使用したうどんや、北海道産の「ゆめちから」を使用したパンなどがあります。奈良県で2011年から栽培を奨励している品種「ふくはるか」は、奈良県で育てやすく、さらさらとして塊になりにくい高品質な小麦粉になります。そしてうどんの原料として高評価を得ています。このように、現在では産地や品種が異なる国内産小麦粉製品が多くあり、生産量が多い地域では、地元産小麦粉のPRが盛んに行われています。いろいろな品種や生産地の小麦粉が、どのような加工食品に使用されているかを調べてみるのもおもしろいですよ。