奈良のむかしばなしvol.55

 


奈良に古くから伝わるむかしばなしをご紹介します。
當麻蹶速(たいまのけはや)
文・山崎しげ子 

 中将姫(ちゅうじょうひめ)伝説で有名な當麻の里。奈良盆地の西に連なる葛城山系の麓では、稲刈りも終わった晩秋の田園風景が広がる。
 當麻寺への参道の中ほどに相撲館「けはや座」がある。
 中に入れば、寄せ太鼓に相撲甚句(じんく)のBGMに迎えられる。本場所と同じ大きさの土俵があり、色鮮やかな幟(のぼり)が並ぶ。力水、塩、桝席も。もうすっかり力士気分だ。

 さて、さて。今回はその當麻蹶速のお話。蹶速は怪力の持ち主で、動物の角をへし折ったり、足で人を蹴り倒したり。日頃から「この世で自分と互角に力比べできる者はいない。もしいれば対戦したいものだ」と、豪語していた。
 それを聞いた大和朝廷の初期の天皇である垂仁(すいにん)天皇は、家臣に「彼と力比べをする者はいないか」と問われた。「出雲に野見宿禰(のみのすくね)という者がいます」と答えると、「その者を呼べ」と仰せになった。
 垂仁天皇七年七月七日が、対戦の日と決まった。天皇、家臣らが居並ぶ緊張の中で、蹶速と宿禰の相撲が始まった。
 互いに足を上げて蹴り合った。長い戦いの末に、蹶速は腰、脇の骨を折られ、とうとう命を失った。
 この時、勝った宿禰は、褒美として蹶速の所有していた領地を賜った。

 この対戦が、日本の国技、相撲の起源とされ、天覧相撲の初めとされる。『日本書紀』にこの記述がみられ、その後も奈良時代の天平六年(七三四)七月七日、聖武天皇の前で相撲が行われた。もとは豊作祈願の意味ももつ相撲。諸国から力士が召し出されて相撲をとる「相撲節(すまひのせち)」と呼ばれる宮中行事が平安時代まで行われていたようだ。
 秋深い當麻の里に、今も伸びやかな抑揚の相撲甚句が聞こえてくる。

葛城市相撲館「けはや座」
 蹶速の墓とされている蹶速塚の横に、全国的にも珍しい相撲の資料館「けはや座」がある。館内には誰でも上がることができる土俵があり、まわしをしめ、塩をまいて力士気分が味わえる。関連イベントや相撲甚句の披露が定期的に開催され、毎年7月には、蹶速塚の法要とワンパク相撲大会も開催される。
 葛城市と、宿禰が賜ったとされる腰折田(こしおれだ)伝承地と土俵跡や桟敷席が残る大坂山口神社(穴虫)がある香芝市、初の天覧相撲が行われたとされる相撲神社のある桜井市の3市は「相撲発祥の地」として注目されている。


物語の場所を訪れよう

葛城市相撲館「けはや座」へは…
近鉄南大阪線当麻寺駅から
西へ約400m
地図
葛城市相撲館「けはや座」
TEL 0745-48-4611
火・水曜(※祝日は開館)
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