社会福祉法人 明徳会(御所市)
やりたいことをやれる風土は 人としての心遣いが基本
京奈和自動車道、御所インターから車でおよそ5分のところに、社会福祉法人明徳会が運営する総合老人福祉施設「テンダーヒル御所」があります。
明徳会は、この施設の中で、特別養護老人ホームやユニット型介護老人福祉施設、ケアハウス、デイサービスなどの事業を行っている、職員数約140名、その過半数が女性という介護の職場です。
超高齢化社会となり、介護事業の需要はどんどん増えています。しかし、介護施設での仕事と聞くと、どうしても「体力的・精神的にきつい」というイメージがつきまといます。介護施設での仕事は実際のところどのようなものなのでしょうか?
入居した後も変わりなく、”その人らしく”あってほしいから、支える
介護の現場第一線で働くケア・ディレクターの西川志津代(にしかわしずよ)さんにお話を伺いました。
- 介護の現場で働く皆さんは、いつもどんなお気持ちで働いておられるのでしょうか。
「自ら望んでこの施設に入ってこられる方はいません。施設に渋々入ってこられた方が、『施設ではこんな楽しいこともあるんや。それやったらちょっと居てもいいかな』と思ってもらえたら、私たちの想いは伝わったのではないかなと思うんです。体が不自由になったり、認知症になったりしても個人の価値は変わらない、だから入居者の方の個々の希望にたどり着くまで支えるという気持ちで職員は仕事をしています。」
「入居者それぞれの方のしたいこと、希望に”少し”お手伝いを」というのが明徳会の介護の考え方です。それは、明徳会の基本理念である「すべては個人の尊厳のために」が職員ひとりひとりに浸透しているということを表しています。
介護の仕事は、テクノロジーとチームプレーで乗り切れる
- 人の役に立つ、尊い仕事ではありますが、その分大変そうですが。
「介護の仕事は大変なわけではありません。大きな力が必要な場面はすべて介護機器が導入されているので、体力的に辛いと感じることは少ないんです。」
言われてみると現場には小柄な女性職員の方もたくさんおられるようです。
((上)座ったまま入浴できる機械。(下)寝たきりでも入浴ができる機械。テクノロジーが「介護する側・される側」の負担を軽減している)
「また、利用者の大半は認知症の症状をお持ちなので、利用者の方とのコミュニケーションが大変だと思うかも知れませんね。利用者と職員は長時間ともに過ごす家族のような関係です。自分の家族同様、利用者の感情、希望はだんだんと関係性ができてくるとつかめるようになるものです。」
利用者が入居され、関係性を作っていき、相手のことがわかってきた時が、この仕事の楽しさ、うれしさを感じられるところだそうです。
一方で西川さんは、利用者と自分の関係ではなく、利用者のご家族と現場の介護士を繋ぐ「相談員」として働いていたときにご苦労が多かったようです。
「ご家族の要望と、現場でできることの折り合いをどうしていくかでよく悩みました。でもそのときの上司が相談に乗ってくれ、自分がどうしたいのかを自分の言葉で出せるまでつきあってくれました。うちの現場はそういう体制面では恵まれている環境だなと思います。」
介護の現場はチームプレーが基本。ひとりだけが突っ走ってできるものではないので、みんなで振り返りができる体制を作っているのだそうです。
職員がやってみたいことは、すべて受け入れてくれる風土
明徳会は職員がやってみたいと思ったことを受け入れてくれる風土があるそうです。最近、人材不足解消のため「求人推進チーム」を立ち上げたそうですが、これも現場からの提案がベースとなって立ち上げ、運営されています。
「提案し、変えていくことがダメという風潮はまったくありません。今までやってきたことでも現状に合わなくなってきたのに、そのままでいいわけがないという風土です。
本当に、やってみたいと提案しダメと言われたことがないですね。施設長はとりあえず『やってみよう』と応援してくれます。やってみたいことを実行に移せることで職員のやりがいにも繋がり、さらにもっとやっていきたい!とどんどん良くなっていくんです。」
変化を受け入れる風土、お互い様の精神の元、やりたいことを形に
女性ロールモデル 石田久美(いしだくみ)さん
次にお話を伺ったのが、入社3年目の石田さん。機能訓練指導員として介護の仕事に携わっています。
機能訓練指導員の仕事は、例えば、自分で姿勢を変えることができないベッドに寝たきりの人を楽な姿勢、ポジションに変えてあげたり、ひとりで歩くことができない方と散歩をするなど体を動かすお手伝いなど様々です。また入居者の体の状態を見て、現場の介護士にアドバイスをする間の仕事でもあります。
- 明徳会に就職されたのはどういったきっかけからですか。
「以前は、柔道整復師として接骨院に勤めていました。その接骨院は小さい子どもを育てながら働けるタイムスケジュールではないと思い、妊娠を機に退職しました。出産後子どもを育てながら、もう一度資格を生かして働きたいと思い、仕事を探していてここを見つけました。福祉の仕事にこだわったつもりはないのですが、祖母が特別養護老人ホームで最期を迎えたときに、『もっと何かしてあげられたのかな』とひっかかっていたところがあったので、選ぶきっかけにはなったと思います。」
祖母への思いから、利用者に対しても、「もっと何か私にできることがあるかな」と思いながら働いているそうです。
- 入社されてから、これまでにどのようなご苦労がありましたか。
「明徳会では、私が初めての機能訓練指導員でした。専門的な立場から他の職員に『もっとこうすれば』と提案をするのですが、これまで問題なくやってきているのに新しく来た私が意見を言うので初めは『誰?』『何言ってるの?』という感じでしたね(笑)。
でも、明徳会には変化を受け入れる風土があったので、私の提案をまずは一度は受け入れてくれ、それが上手くいったら、次からは様々な相談をしてくれるようになりました。」
介護されている人は、本当はできるだけ自分でしたいという思いが強いことから、最近石田さんは、デイサービスで「運動教室」を立ち上げました。地域の人ができるだけ長く、その人らしく元気で過ごせるようになり、介護される側もする側も負担がなくなることを目標にしているそう。今や、石田さんは明徳会にとってなくてはならない存在と西川さんのお墨付きです。
産休・育休・介護休暇は「お互いさま」の精神で
- 子育てされていますが、明徳会の両立の環境はどうですか。
「明徳会では、結婚や妊娠を機に退職した人はいませんし、産休・育休の制度を利用して当たり前にみんな復帰してきます。家族の介護休暇制度や子供の看護休暇制度もあり、小学校就学までの子供がいる職員はより多くの休暇が割り当てられています。ただ、制度はありますが、使って当然というよりは、たとえば若い人でも、この先結婚して子供を産むかもしれない、親の介護を担うかもしれない。そこはお互いさまで、みんなで助け合おうという文化があるから取得しやすいのだと思います。」
「お互いさま」だからこそ、休む前には引き継ぎもきっちりするそう。それは「人としての心遣い」の領域だと、お二人は頷きます。
(綺麗で明るい「テンダーヒル御所」)
編集後記
-大学生プロジェクトメンバーより-
今回明徳会さんを取材し、私がこれまで想像していた大変そうだと思っていた介護の職場の印象は変わりました。テクノロジーで負担が軽減されていることはありますが、明徳会の職員さんは、大変なことをやりがいに変えていました。
他にも魅力を感じる内容がたくさんありました。
まず明徳会での仕事は、何事もチームプレーであるということです。実際の介護の現場や困難に陥ったとき、産休や育休などの制度を利用するとき、重要なのはチームであり、お互いさまの精神であるということを、お話を伺っていて感じました。
とても新鮮に感じたことは、変革を受け入れ「やりたいことを叶えることができる」風土ということです。
介護の仕事に興味を持った方、自分でどんどん提案したいと思う方は、是非EXPOに来て直接お話ししてみてください。
EXPO当日に来てくださるのは、取材に答えてくださった西川さんと石田さんです!
社会福祉法人明徳会
所在地 御所市船路415
従業員数 正規職員72人(うち女性46人) 非正規社員68人(うち女性60人)(平成30年8月27日現在)
事業内容 特別養護老人ホーム、ユニット型介護老人福祉施設、ケアハウス、デイサービス
HP http://www.tender.or.jp/
取材担当 奈良女子大学1年生 杉本京香、矢部まどか
記事作成:平成30年10月2日