はじめての万葉集

県民だより奈良
2021年1月号

はじめての万葉集
【vol.81】
わが里に 大雪降(おほゆきふ)れり
大原(おほはら)の 古(ふ)りにし里に 降(ふ)らまくは後(のち)
天武天皇 巻二 (一〇三番歌)
わが飛鳥の里に大雪が降っている。おまえの住む大原の古びた里に降るのは、まだ後だろう。
飛鳥に降る雪

 奈良盆地ではそれほど雪が降らないので、積もれば写真でも撮りたくなりますね。今回は雪をテーマにした天武天皇の歌です。
 勇ましいイメージがある天武ですが、歌が『万葉集』に五首収められています。まだ兄の天智が天皇だった時、別れた妻である額田王(ぬかたのおおきみ)に「人妻ゆゑに我(あれ)恋ひめやも」と歌う歌(巻一・二一番歌)。物思いにふけりながら吉野の山道を歩いたものだと、感慨深く思い出す長歌(巻一・二五〜二六番歌)。そして、天武八年の「吉野の盟約」(持統と皇子(みこ)たちを吉野に連れて行き、争いを起こさないと誓いを立てさせた)の折に詠まれた「よき人のよしとよく見てよしと言ひし吉野よく見よよき人よく見」(巻一・二七番歌)。以上四首は巻一「雑歌(ぞうか)」という部分に収められています。
 今回の歌は、天武の歌で唯一、巻二「相聞(そうもん)」(恋の歌)に入っています。五十歳弱の天武が二十歳弱の藤原夫人(ふじわらのぶにん)(鎌足の娘・五百重(いおえ)だといわれています)に賜った歌です。まだ新しい飛鳥浄御原宮(あすかのきよみはらのみや)周辺に大雪が降ったが、五百重の住む大原という古びた里にはまだ降らないだろう、という自慢の歌です。ただここで重要なのは、天武の宮と大原(現・明日香村小原(おおはら))はその距離およそ七百メートルの近さ、いわば隣町で、宮から北東に見えるのです。
 続いて藤原夫人は、「我が岡の龗(おかみ)に言ひて降らしめし雪の砕けしそこに散りけむ」(わたしがこの岡の龍神に言いつけて降らせた雪の砕けたのが、そこにちらついたのでしょう/巻二・一〇四番歌)と負けずにこたえています。
 二人の間には天武にとって十番目の男子、新田部皇子(にいたべのみこ)が誕生しますが、この歌と誕生の前後関係は分かりません。初々しさを感じる気もしますが、どうでしょうか。
 言い合いながらも和やかな二人と、美しい雪の日が想像されます。
(本文 万葉文化館 阪口由佳)

飛鳥に降る雪
万葉ちゃんのつぶやき
大原神社(明日香村)
 藤原鎌足(ふじわらのかまたり)の誕生の候補地の一つとされている明日香村小原にある大原神社。
 境内には今回紹介している天武天皇と藤原夫人の歌の万葉歌碑があります。
万葉歌碑
明日香村 大原神社
明日香村役場
電話 0744-54-2001
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