2021年1月号
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【第71話】
源九郎(げんくろう)ぎつね
文・絵 山崎しげ子
奈良県大和郡山市。有名な郡山城のかつての城下町に源九郎稲荷神社がある。稲荷と言えば狐。今回はその狐が故(ゆえ)あって人間に変身した切な~いお話。
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天正十三(一五八五)年、天下人豊臣秀吉(とよとみひでよし)の弟、秀長(ひでなが)は郡山城に入った。そして守護神として、源九郎稲荷を遠く吉野川のほとりから遷(うつ)された。稲荷は五穀豊穣(ほうじょう)、商売繁盛、家内安全の神である。秀長はこの源九郎稲荷を信仰していた。
さて、その神社名となった源九郎は、実は源義経(みなもとのよしつね)の幼名である。その経緯を芝居化したのが、歌舞伎の人気演目「義経千本桜」。
舞台は、桜花爛漫(おうからんまん)の吉野山。源平の戦いで数々の武功をたてた義経だが、鎌倉にいる兄頼朝(よりとも)との不和から刺客に追われ、山に身を隠した。
この時、義経を慕って都から来たのが恋人の静御前(しずかごぜん)。その警護をしたのが、佐藤忠信(さとうただのぶ)だった。
ここから、お話は本題に入る。静が義経から預かった「初音(はつね)の鼓」。
静が鼓を打つと、どこからともなく忠信が現れる。この忠信、実は狐の化身であった。かつて、雨乞い祈願のため父母を鼓の皮に張られた狐の子どもが親を慕って現れるのだ。
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ある時、義経の前で人間の忠信と鉢合わせ。狐忠信は本性を白状する。義経は、親子の情愛を思い、狐忠信に鼓と、静を守った褒美に自分の幼名「源九郎」の名を与えた。
さて、ここで注目は、狐忠信を演じる俳優の所作(しょさ)(イラスト参照)。「狐手(きつねで)」という両手の指を内に曲げて狐のしぐさ。頭の元結(もとゆい)には狐の耳が見える。
一瞬の「早変わり」で本性に戻った狐は、父母の鼓に頬ずりし、白い毛を靡(なび)かせながら「宙乗(ちゅうの)り」という奇抜な演出で消える。ここで観客は大興奮、涙の拍手喝采となる。
このあと、義経一行は源九郎狐の不思議な力にも助けられ、吉野山を脱出、東北の豪族を頼って落ち延びていくのだった。
この「義経千本桜」ゆかりの源九郎稲荷神社。上演に際し、俳優の市川猿之助さんらが参拝に訪れる。
源九郎稲荷神社
「やまとの源九郎さん」と童謡で歌われている、歌舞伎の「義経千本桜」ゆかりの稲荷神社。
拝殿前の二匹の狐は宝珠と巻物をそれぞれくわえており、「宝珠に触れば金持ちになり、巻物に触れば賢くなる」といわれている。
「義経千本桜」公演の際には、歌舞伎役者の参拝があり、境内では六代目中村勘九郎丈が襲名披露公演前に記念植樹された枝垂れ梅と枝垂れ桜を見ることができる。
また、源九郎ぎつねにちなみ、春の大和郡山お城まつりでは、白狐面をつけた子ども行列が練り歩く「白狐渡御(とぎょ)」が行われている。
物語の場所を訪れよう
「源九郎稲荷神社」(大和郡山市洞泉寺町15)
近鉄郡山駅から南東へ約200m、JR郡山駅から南西へ約270m
問
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大和郡山市都市計画課
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電話
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FAX
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