はじめての万葉集

県民だより奈良
2021年5月号

はじめての万葉集
【vol.85】
み吉野の 山の嵐(あらし)の 寒(さむ)けくに
    はたや今夜(こよひ)も わが独り寝(ね)む
文武天皇 巻一 (七四番歌)
み吉野の山の嵐は寒いことだのに、
あるいは今夜も私は一人で寝るのだろうか。
はたや今夜も

 吉野山の山おろしの風は寒いのに、「はたや今夜も」一人で寝ることか、と独り寝のわびしさを嘆いた歌です。
 「はた」とは、あるいは、ひょっとして、という意味の言葉です。漢字本文では「為当」と表記されています。中国六朝以降の俗語的用法で、そうした知識を持っていた人が書き記したとみられます。
 「山の嵐」は「山下風」と表記されており、峰から吹き降ろす山おろしであることが伝わります。
 吉野山で過ごす夜の染み入るような寒さ、建物を揺らすように響く山おろしの音、そこで独り寝る様子が目に浮かぶようです。名歌として知られ、平安時代の『拾遺和歌集』(しゅういわかしゅう)や鎌倉時代の『新勅撰和歌集』(しんちょくせんわかしゅう)などにも採られています。
 この歌は、「大行天皇」(さきのすめらみこと)の吉野行幸のときの歌だと『万葉集』に記されています。「大行天皇」とは、崩御したあと諡号(しごう)(おくりな)を贈られる前の天皇のことですが、『万葉集』では文武天皇に限って用いられています。文武天皇は持統天皇の孫にあたる人物で、六国史の二番目である『続日本紀』(しょくにほんぎ)は、この天皇の即位記事から始まります。持統天皇は文武天皇に生前譲位し、史上初の「太上天皇」(おほきすめらみこと)となりました。
 文武天皇五(七〇一)年三月二十一日、元号を建てて「大宝元年」とし、以降、現在の「令和」まで年号が途切れることなく続くこととなりました。また、初めての本格的な律令である大宝律令も、この年に成立しました。律令とは古代東アジアにみられる法体系で、文字によって記された体系的な法律でした。
 文武天皇はわずか十五歳で即位し、慶雲四(七〇七)年に二十五歳で崩御しました。陵墓は明日香村の栗原塚穴古墳に治定されていますが、八角墳である中尾山古墳が現在は有力視されています。
(本文 万葉文化館 井上さやか)

はたや今夜も
万葉ちゃんのつぶやき
中尾山古墳(明日香村)
 高松塚古墳から北にある小規模な古墳。天皇陵独特の八角形墳で、二〇二〇年の調査では、精巧な横口式石槨(せっかく)と三段構造の墳丘が確認されました。
中尾山古墳
中尾山古墳

※現在は埋め戻されています

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