はじめての万葉集

県民だより奈良
2022年5月号

はじめての万葉集
【vol.97】
み吉野の 耳我(みみが)の嶺(みね)に
時なくそ 雪は降りける
間なくそ 雨は零(ふ)りける
その雪の 時なきが如(ごと)
その雨の 間なきが如
隈(くま)もおちず 思ひつつぞ来し
その山道を
天武天皇 巻一 (二五番歌)
吉野連山の耳我の山には、
時しれず雪が降りしきるという。
間断なく雨が降るという。
その雪や雨の絶え間ないように、
道を曲るごとに物思いを重ねながら
辿って来たことだ。
その山道を。
天武天皇と吉野

 この歌は「明日香清原宮天皇代」という標目の中の「天皇御製歌」と題された一首で、飛鳥浄御原宮で即位した天武天皇の歌であったことがわかります。
 「み吉野」の「み」とは美称であり、良い野の意味を持つ「吉野」の地名をさらに讃えています。ほかには「み熊野」や「み越道」などの例があるだけで、いずれも特別な場所と認識されていた可能性があります。
 「耳我の嶺」とは現在の金峯山のことかといわれますが、諸説あって明確にはわかっていません。歌の表現によれば、そこは雪が降りしきり間断なく雨が降るという場所であった、ということです。
 万葉歌はすべて外来の文字であった漢字で書き記されており、この部分は「…時無曽 雪者落家留間無曽 雨者零計類…」とあって、明らかに「ける(家留/計類)」と記されています。降りしきる雪や雨を回想しているとみる説と、現在も体験中とみる説とがあり、そうした雪や雨のように絶え間なく物思いをしながらこの山道を辿って来た、と表現しています。雪や雨の中を進む困難な山道を表現することで、それほど難儀な物思いであったことも想像させます。
 巻一・二六、巻十三・三二六〇、三二九三番歌として、よく似た歌が掲載されていることから、この歌が天武天皇の作歌ではなかった可能性も指摘されています。
 ただ、後世に生きる我々は『日本書紀』によって、大海人皇子が皇位継承を辞退して追われるように吉野に隠棲(いんせい)したことや、そこから「壬申(じんしん)の乱」がはじまったことなどを読み知っています。当初は味方も少ない辛い道行だっただろう、これはその時の歌ではないか、と想像がつながっていきます。
 そうした天武天皇物語とでもいうべきものが、『日本書紀』だけでなく、『万葉集』でも形成されていたとみられます。
(本文 万葉文化館 井上さやか)

万葉ちゃんのつぶやき
宮滝遺跡(吉野町)
 吉野町宮滝地内に所在する国指定史跡です。『日本書紀』や『続日本紀』で、斉明天皇が造営し、天武天皇をふくめ、聖武天皇の時代までたびたび行幸があったと紹介されている吉野宮の比定地です。この地を題材にした歌が『万葉集』には多く収められています。
 古くから調査・研究がされている遺跡で、宮滝の集落のほぼ全域から、飛鳥時代〜奈良時代の遺物や大型の掘立柱建物跡、池状遺構などが確認されています。
宮滝遺跡
画像提供:吉野町
吉野町宮滝
吉野町産業観光課
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