はじめての万葉集

県民だより奈良
2022年7月号

はじめての万葉集
【vol.99】
天地(あめつち)の 初(はじめ)の時 ひさかたの 天(あま)の河原(かはら)に 八百万(やほよろづ) 千万神(ちよろづがみ)の 神集(かむつど)ひ集ひ座(いま)して 神分(かむあが)ち 分ちし時に天照(あまて)らす 日女(ひるめ)の尊(みこと) 天(あめ)をば 知らしめすと 葦原(あしはら)の 瑞穂(みずほ)の国を 天地の 寄り合ひの極(きはみ) 知らしめす神の命(みこと)と 天雲(ぐも)の 八重かき別けて神下(かむくだ)し 座せまつりし 高照らす日の皇子は 飛鳥(とぶとり)の 浄(きよみ)の宮に 神ながら 太敷(ふとし)きまして 天皇(すめろぎ)の 敷きます国と 天の原 石門(いはと)を開き神あがり あがり座しぬ
わご王(おほきみ) 皇子の命の 天の下 知らしめしせば 春花(はるはな)の 貴(たふと)からむと望月(もちづき)の 満(たたは)しけむと 天の下 四方(よも)の人の 大船(おほふね)の 思ひ憑(たの)みて 天つ水仰(あふ)ぎて待つに いかさまに 思ほしめせか 由縁(つれ)もなき 真弓の岡に宮柱 太敷き座し 御殿(みあらか)を 高知りまして 朝ごとに 御言(みこと)問はさぬ日月(ひつき)の 数多(まね)くなりぬる そこゆゑに 皇子の宮人 行方知らずも
柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ) 巻二 (一六七番歌)
 天地創造の初め、遥か彼方の天の河原に、八百万、一千万という大勢の神々が神々(こうごう)しくお集りになり、神々をそれぞれの支配すべき国々に神としてお分かちになった時、天照大神(あまてらすおおみかみ)は、天を支配なさるというので、その下の葦原の中つ国を天地の接する果てまで統治なさる神の命として、天雲の八重に重なる雲をかき分けて神々しくお下し申した、天高く輝く日の御子(みこ)は、明日香の浄御原の宮に神として御統治なさり、やがて天上を、天皇のお治めになる永生(えいせい)の国として、天の石門を開いて、神としておのぼりになった。
 その後わが大君たる皇子の尊が天下を御統治なさったら、春の花のように貴いことだろう、満月のごとくにみち足りておられるだろうと、天下のあちこちの人が、まるで大船のような期待を心にもって、天の慈雨を待ち仰ぐごとくであったのに、どういう御配慮からか、ゆかりもない真弓の岡に宮殿の柱もりっぱにお建てになり、宮殿を高々とお作りになって、いつの朝の奉仕にもおことばを賜わらぬ月日が多くなったことだ。そのために、皇子の宮にお仕えした人々は、どうしたらよいか途方にくれることよ。
草壁皇子(くさかべのみこ)の挽歌

 この歌は六八九年、草壁皇子の死に際して柿本人麻呂が詠んだ歌です。六八六年に天武天皇が亡くなり、皇太子であった草壁皇子の即位が期待されながらも、二十八歳の若さで亡くなりました。
 前半三十六句では、神々の時代に日女の尊が降らせた神が飛鳥浄御原の天皇(天武)であり、天武天皇がまた天に上がっていったと歌います。日女の尊とは天照大神のことで、『日本書紀』にも「大日孁尊(おおひるめのみこと)」と名が記されています。天武天皇が天から降臨するというのは人麻呂独自の表現で、記紀神話では初代神武天皇の曾祖父にあたるニニギという神が天から降臨します。
 後半二十九句では、殯宮(ひんきゅう)(遺体を安置する宮)におられる草壁皇子への人々の嘆きぶりをありありと叙述します。
 壮大な前半部を伴うこの歌からは、壬申の乱を経て、新たな王朝の始祖としての天武天皇の位置づけがうかがえます。歌の世界でこそ成り立つ、いわば人麻呂による神話が形成されています。
(本文 万葉文化館 阪口由佳)

万葉ちゃんのつぶやき
芋峠
壬申の乱が始まる約7カ月半前、大海人皇子(のちの天武天皇)が吉野に隠棲した際に通ったとされる、明日香村と吉野町をつなぐ古道です。天武天皇が崩御してからも、妻の持統天皇がこの峠を越えて、都の置かれた飛鳥・藤原から吉野へ30回あまり訪れたとされています。
芋峠
芋峠(撮影者:上山好庸さん)
明日香村稲渕~吉野町
(一社)飛鳥観光協会
電話 0744-54-3240
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