この歌は六八九年、草壁皇子の死に際して柿本人麻呂が詠んだ歌です。六八六年に天武天皇が亡くなり、皇太子であった草壁皇子の即位が期待されながらも、二十八歳の若さで亡くなりました。 前半三十六句では、神々の時代に日女の尊が降らせた神が飛鳥浄御原の天皇(天武)であり、天武天皇がまた天に上がっていったと歌います。日女の尊とは天照大神のことで、『日本書紀』にも「大日孁尊(おおひるめのみこと)」と名が記されています。天武天皇が天から降臨するというのは人麻呂独自の表現で、記紀神話では初代神武天皇の曾祖父にあたるニニギという神が天から降臨します。 後半二十九句では、殯宮(ひんきゅう)(遺体を安置する宮)におられる草壁皇子への人々の嘆きぶりをありありと叙述します。 壮大な前半部を伴うこの歌からは、壬申の乱を経て、新たな王朝の始祖としての天武天皇の位置づけがうかがえます。歌の世界でこそ成り立つ、いわば人麻呂による”神話”が形成されています。 (本文 万葉文化館 阪口由佳)
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