赤岩の高坊主
文・山崎しげ子
奈良県のほぼ中央に位置する黒滝村。「森の村」ともいわれ、村域の97%を杉、桧の豊かな森林が占める。
近鉄下市口駅から車で走ること、約30分。視界の限り、美しい緑の深い森と山並みが続く。
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その昔、黒滝村では、夜になるとあちこちの小道に高坊主が現れ、道行く人々を恐れさせていた。中でも、よく知られていたのが「赤岩の高坊主」。
高坊主は、杉や桧と同じくらいの背丈で、一つ目と口のある薄気味悪い妖怪だった。
ある夜、度胸自慢の男が吉野の下市からの帰り、この赤岩にさしかかったところ、案の定、高坊主が現れた。覚悟の上とはいえ、男は震えあがり、気絶しそうになりながらも、高坊主を睨みつけた。すると、何と、高坊主が何やら話しかけてくるではないか。
「私は木こりの弥助といい、七年前、倒れる木に打たれて無惨な死に方をしました。ただ、いまだに往生(おうじょう)できず、こんな姿でさまよっています。どうか、このことを家族に伝え、往生できるようにお経をあげてほしいのです」と、高坊主は、意外にも優しい口調でいった。
「そのことを、村の誰かに頼みたかったのですが、今は、私を恐れて道行く人もなくなりました。今日は、長年の願いがかない、本当にありがたい」といい残し、妖怪は姿を消した。
豪傑といわれた男も、さすが、その日から三日三晩うなされ続けたが、木こりの弥助の頼みは遺族の耳にも届いた。ねんごろに供養もされ、それからは高坊主も現れなくなったそうだ。めでたし、めでたし。
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吉野川の源流である黒滝川。かつては水量も多く、木材を筏(いかだ)に組んで流していたらしい。その川に、川床と両岸一帯に赤色の岩石が露出している不思議なところがある。そこが赤岩渓谷。
赤岩はチャート岩らしい。非常に硬い岩石で、層状をなす。赤岩渓谷が別名「よろい岩」といわれるのは、この層状が鎧(よろい)の草摺(くさずり)のような段々を思わせるところからか。
さて、その赤岩渓谷。赤岩の両岸は、緑の豊かな樹々が天を覆い、木漏れ日の陽光も清々しい。その下を黒滝川の清流が浅瀬の赤岩に当たっては白く泡立ち、さわさわと音を立てて流れている。
その美しさはまさに格別。夏休みの川遊びが楽しみである。
日本最大級の吊橋体験や黒滝川の川遊びで夏を満喫
黒滝・森物語村 黒滝吊橋
緑の木々とのコントラストも美しい赤岩渓谷から下流に進むと、自然と触れ合えるリゾート施設「黒滝・森物語村」があります。日帰りで利用できる黒滝の湯やバーベキューコーナーのほか、黒滝村の名所の一つである「黒滝吊橋」も人気。全長115m、高さ35mで、日本最大級の吊床版木造橋です。山から山へと渡る吊橋からは雄大な山の景色を望むことができ、冒険気分も味わえます。橋の下を流れる清流黒滝川は、夏には大勢の観光客が川遊びに訪れるスポット。「黒滝・森物語村」周辺の川は浅めなので、小さい子どもも水遊びを楽しむことができます。
物語の場所、黒滝村を訪れよう
黒滝吊橋(黒滝村粟飯谷1)
アクセス
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橿原市から国道309号線を経由し、車で約60分
黒滝・森物語村敷地内分
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問
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黒滝村企画政策課 |
電話
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0747-62-2031 |