はじめての万葉集

県民だより奈良
2025年9月号

はじめての万葉集
【vol.137】
難波門(なにはと)を 漕(こ)ぎ出(で)て見れば
神(かみ)さぶる 生駒高嶺(いこまたかね)に
雲そたなびく
大田部三成(おおたべのみなり)(巻二十・四三八〇番歌)
難波の港を漕ぎ出してみると、神々しい生駒の高嶺に雲がたなびいている。
 防人が見た生駒山 

 本歌を含む四三七三~四三八三番歌の十一首は、四三八三番歌の左注によると、下野国(しもつけのくに)(現在の栃木県)の防人(さきもり)の詠んだものとして収められています。元々、進上された歌は十八首でしたが、出来の良くないものは収められなかったと記されています。また、本歌の左注によると、作者は、梁田(やなだ)郡(現在の栃木県足利市)の人、大田部三成です。すなわち、三成が防人として西海道(九州)に向かう途中で詠んだことが分かります。
 防人とは、古代に辺境の防備についた兵のことです。天智二(六六三)年八月、百済(くだら)救援戦争(白村江(はくすきのえ/はくそんこう)の戦い)で唐・新羅(しらぎ)の連合軍に敗れた日本には、大陸からの派兵に備える必要が生じていました。そのため、九州北部沿岸の防備が、以前よりも重視されるようになったのです。
 防人は、本歌のように東国から徴発されることが多く、その往還も負担の大きいものでした。難波は梁田郡から大宰府までのおおよそ中間点にあたります。「難波門」は難波の門(入口)と考えられますが、「門」を「津」の誤りとする説もあります。
 難波から大宰府までは、瀬戸内海を船で通過することが通常でした。そのため、難波からは比較的安全な内海を通り、九州上陸後は自らの足で歩く距離もあと少しとなります。また、難波までの食料は防人本人の負担でしたが、以降は公用として支給されました。
 難波から出航して一息ついた際に、故郷のある東を向くと、生駒山が目に入ってきます。生駒山を神々しいと詠んでいますが、どのような想いで見たのでしょうか。
(本文 万葉文化館 中本和)

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◆特別展 天翔(あまかけ)る飛鳥(あすか)
 烏頭尾精の世界
開催中~9月15日(祝)
明日香村出身の画家で、満93歳になる烏頭尾精さん。本展では、16年の歳月をかけて奈良や京都の古都の風景を描いた「古都シリーズ」を一挙に公開します。
烏頭尾精《夏蒼天》
2023年 個人蔵
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◆万葉の日記念講座
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●文学研究からみた
 「飛鳥池工房遺跡」の意義
[講師]井上さやか(当館企画・研究係長)
●国宝・重要文化財に指定された
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[講師]榎戸渉吾(当館研究員)
●世界記憶遺産『御堂関白記』
 ―文化の庇護者としての藤原道長―
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「秋の雑歌(ぞうか)(6)」
(巻8・1574~1591番歌)
[講師]榎戸渉吾(当館研究員)
[定員]150人(先着・申込不要)
 ※オンライン視聴は要申込(定員なし)
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