写真提供:自然写真家 佐藤和斗
歴史ある神社仏閣と四季折々の自然が織り成す美しい景観の中を、野生の鹿たちが悠々と闊歩する…。市街地のすぐそばにありながら、世界に類を見ない光景が楽しめる奈良公園。県民にとっては何度も訪れたことがあるおなじみの場所かもしれませんが、実は地元の人でも知らない魅力がたくさんあるのです。今回は、観光客でにぎわう日中とは全く違う奈良公園の顔、そして公園の奥に広がる太古の森・特別天然記念物・世界文化遺産「春日山原始林」を紹介します。
※表紙の大杉は、立ち入り禁止区域にあります。
自然写真家「佐藤和斗」さんのレンズが導く
奈良公園の知られざる風景
早朝や夕暮れ時は静寂に包まれ、夜は鹿ではなくムササビの楽園に一変。通勤時間になると人と一緒に鹿たちも出勤し、いつも通りのにぎわいが戻ってきます。
奈良公園のまだ見ぬ魅力とは、訪れる時間帯を変えるだけで全く違う表情を見せてくれること。また奈良公園の東側に位置する「春日山原始林」では、千年以上もの間大切に守り続けられてきた貴重な森とそこに住まう生き物たちに出会えます。
写真提供:自然写真家 佐藤和斗
朝もやのかかりやすい秋〜冬の早朝は、凜とした空気の中で、光ともやが溶け合う幻想的な光景が見られます。
また秋冬は美しい夕景が早い時間から楽しめるというメリット も。おすすめのビューポイントは若草⼭⼀重⽬から⼆重⽬です。
写真提供:自然写真家 佐藤和斗
奈良公園に暮らす生き物たちと共に
奈良公園に通い、生き物の姿を記録し続けている自然写真家・佐藤和斗さんにおすすめスポットや素敵な写真の撮り方を伺いました。
佐藤さんがおすすめの“奈良公園の秘められた魅力”とは?
奈良は空の広さを感じられる場所、その中でもおすすめの癒しスポットが若草⼭から眺める⼣景です。春⽇⼭原始林では巨⽊を仰ぎ、森の空気を吸い、⽣き物たちの痕跡を探しながら⾃然を楽しんでほしいですね。
生き物の写真を撮る時に気をつけていることは?
まずは⽣き物たちのことを知ること。鹿の撮影も、鹿たちの空間にお邪魔しているという気持ちで挑みます。あとは鹿の動きをじっくり観察し、その瞬間がくるのを静かに待ちます。ちなみに⿅は、同じ⽬線か下から⾒上げるように撮影すると、瞳に光が写り込み、表情をかわいく撮ることができます。
県民の皆さんへ奈良公園の魅力に触れたメッセージを
奈良公園は皆さんが思っている以上に世界中から⾒ても珍しい奇跡の場所なんです。季節や時間が変われば、まだ知らない光景が広がっています。少し⾜を伸ばして春⽇⼭遊歩道を散策すると、素晴らしい世界遺産の森を体感することができますよ。
自然写真家 佐藤 和斗さん
1984年
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奈良市⽣まれ。写真家 中野晴⽣⽒に師事し2008年に独⽴。
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2014年〜
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奈良公園にて「⿅たちの楽園」をテーマに撮影を始め、これまでに写真集を多数発刊。
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2020年〜
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春⽇⼭原始林にて「⽣き物たちの暮す森」をテーマに現在も撮影を続けている。
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2025年
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11⽉には新刊写真集『⽣き物たちの暮す森』を出版予定。雑誌や観光ポスター、カレンダーなどへの作品提供、講演会、YouTube、TV・ラジオ出演の他、写真教室を主催するなど幅広い分野で活動。Canon EOS学園 ⼤阪校講師。
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講演会
13時〜15時30分
春⽇⼭原始林 & 奈良公園の知られざる⽣き物たちの魅⼒!
〜⾃然写真家・佐藤和⽃と⼀緒に世界でここにしかない奇跡の場所へ〜
スライドトーク&写真展⽰ in奈良公園バスターミナルレクチャーホール
【定員】200⼈(先着)
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【申込開始】10/1~
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奈良公園は「⿅」のイメージが強いですが、実は奈良公園の東側に位置する「春日山原始林」には多種多様な命が息づく美しい森が広がっています。春⽇⼭原始林と奈良公園に秘められた、まだ広く知られていない⾃然や⽣き物たちの魅⼒を、⾃然写真家・佐藤和⽃さんが写真とともに紹介します。
佐藤和斗写真展「生き物たちの暮す森」キヤノンギャラリー
【銀座】
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10月28日(火)~11月8日(土)
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【大阪】
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12月9日(火)~25日(木)
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日・月曜・祝日休館
春日大社の神域で静けさと歴史に触れる
神秘の森、春日山原始林へ
春日山原始林は春日大社の神域として狩猟や伐採が禁じられ、千年以上前から守られてきました。日本人の自然観、古代の信仰を今に伝える場所として、特別天然記念物・世界文化遺産にも指定されています。
ここでは、あまり知られてない春日山原始林の魅力と、原始林を守るための活動に迫ります。
いちばんの魅力は太古の森が市街地のすぐそばに残されていること。原始林内はシイやカシ類などの照葉樹林の中にスギやモミの巨樹がそびえ、鹿やムササビ、リスをはじめ、昆虫や野鳥など珍しい生き物も生息しています。
写真提供:春日山原始林を未来へつなぐ会
野生動物の採食などにより次世代を担う後継樹が育たず、虫が要因で木が枯れるナラ枯れの被害も深刻化。外来種による森林生態系の変化や、人を危険にさらす倒木や土砂崩れも危惧されています。
写真提供:春日山原始林を未来へつなぐ会
春日山原始林を管理している県では、その価値と魅力をより多くの人に知ってもらうため、市民団体「春日山原始林を未来へつなぐ会」と連携しています。
「保全再生」「普及啓発」「人材育成」の3つの柱で活動を展開し、貴重な照葉樹林を未来世代へ受け継いでいきます。
植生保護柵の設置による照葉樹林の維持保全
写真提供:春日山原始林を未来へつなぐ会
外来種ナンキンハゼの拡大抑制のための除去作業
写真提供:春日山原始林を未来へつなぐ会
千年の森を次の千年後まで残していくために
ネイチャーガイドとしても活躍する「春日山原始林を未来へつなぐ会」の事務局長・杉山拓次さんに春日山原始林の魅力を伺いました。
春日山原始林の保全活動に携わったきっかけは?
初めて訪れた時、街の近くに原始の森があることに大感激。同時に原始林の危機的状況を知り、会に参加しました。近い将来「奈良と言えば、大仏、鹿、原始林」となるよう保全活動と認知度アップに力を注いでいます。
杉山さんが伝えたい春日山原始林の魅力とは?
原始林内には遊歩道が整備されており、世界でその価値を認められた奇跡の森をハイキング感覚で気軽に散策できます。
春日山をぐるりと歩く周遊コースの途中には、人工林のエリアが現れるので、ぜひ自然林との違いを見比べてみてください。
原始林を残していくために大切なこととは?
人が自然に対してできることは限られています。ただ、原始林の貴重な価値を理解して関わり続け、次代に引き継ぐことはできます。まずは原始林の存在を知ってください。そして足を踏み入れ、その圧倒的な自然を感じてください。
春日山原始林を未来へつなぐ会
杉山 拓次さん
春日山原始林を未来へつなぐ会事務局長
1977年東京都生まれ、奈良県在住。
25歳から東京の環境NGOで10年間デザイナーとして勤務。35歳で奈良に移り住む。奈良市起業家育成プログラムに参加後、同会事務局長に就任。その他、有限会社OM環境計画研究所研究員、奈良教育大学ESD・SDGsセンター研究員、NPO法人奈良ストップ温暖化の会スタッフも兼任。BOKUNARAの屋号でネイチャーガイドとしても活動。
守るのは、命とこの場所の未来
鹿と共に生きる、奈良のかたち
奈良公園の顔として大人気の鹿は1,300年以上前から生息する野生動物です。春日大社が創建されてからは神の使いとして大切に保護され、野生でありながらも人と共存する今日の姿を創り上げてきました。
現在は奈良公園内に約1,400頭が生息。国の天然記念物にも指定されています。これからも鹿と人が共に暮らせる場所であり続けるために、鹿の保護などを行う「奈良の鹿愛護会」の活動について紹介します。
鹿の角で人がけがをしないよう約350年前に始まった奈良の伝統行事です。当日は安全を願う神事が行われた後、「勢子(せこ)」と呼ばれる人たちがオス鹿を会場に追い込み、十字型の道具で鹿を捕獲。鹿を落ち着かせてからのこぎりで角を切断します。ちなみにこの時期の鹿の角には血管や神経が通っていないのでご安心を。
写真提供:自然写真家 佐藤和斗
秋のオス鹿にはご注意を!
秋になり発情期を迎えたオス鹿は気が荒くなります。奈良公園などで、角のあるオス鹿を見かけたら、むやみに近づかないように気をつけてください。
また発情期のオス鹿は、角を切った後でも思わぬ行動をとることがあるので十分注意しましょう。
写真提供:自然写真家 佐藤和斗
11/8 土 ・9 日
11時45分~15時
(開場11時15分 最終入場14時30分)
【場所】
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春日大社境内 鹿苑角きり場
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【料金】
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大人(中学生以上):1,000円
子ども(小学生) :500円
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奈良公園に暮らす生き物たちと共に
鹿苑(ろくえん)を拠点に鹿と人が共に暮らせるまちづくりに取り組む「奈良の鹿愛護会」。第一線で活躍する石川周さんにお話しを伺いました。
奈良の鹿愛護会では、どんな仕事をされていますか?
傷ついた鹿がいると通報があれば、状況に応じて駆けつけ、収容などの対応を行っています。毎年6月には奈良公園内の頭数調査。8月後半になるとオス鹿は発情期を迎え、気性が荒くなります。さらに、角が鋭くとがり非常に危険なため、人とのトラブルを防ぐ目的で、行事以外でも公園内で角切りを行います。また、奈良市内の小学校で鹿の生態や正しい接し方について知ってもらう出張講義など、啓発活動も私たちの仕事です。
奈良公園の鹿は誰かが飼っているのですか?
鹿せんべいで餌付けしている訳ではありませんし、夜も鹿苑に帰ってきません。奈良の鹿はすべて野生。公園の草や樹木の葉を食べ、夜は公園内のどこかで眠ります。ぜひ野生として生息している「奈良のシカ」の本来のあり方を理解していただきたいと思います。
鹿と暮らす未来のために私たちができることとは?
近年、園内のごみを食べて健康を害する鹿が増えています。奈良公園は街の中で野生の鹿の生態が見られる世界でも貴重な場所です。これからも鹿が安心して暮らせる場所であるために、ぜひごみは持ち帰るようご協力ください。
一般財団法人奈良の鹿愛護会
石川 周さん
1891年に奈良公園における鹿を取り巻く環境悪化を何とかしようと地域の人たちが中心になってできた団体です。(当初は神鹿保護会)主な事業は、奈良公園の鹿の保護育成です。
奈良公園の鹿は自然の中で人と共生し生息している世界でもここにしか存在しない野生動物です。最近では、撮影のために鹿を付け回したり、鹿せんべい以外のものを与えたり、課題が多数ありますが、当会は引き続き人と鹿の共生のためのお手伝いをしていきます。
問
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県奈良公園室
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電話
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0742‐22‐8677
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FAX
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0742‐22‐7832
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