同和問題に関する県民啓発活動の基本方針
昭和63年5月25日
奈 良 県
基本的認識について
同和問題は、日本国憲法において国民に等しく保障されている基本的人権と人間の尊厳にかかわる問題であり、その解決は、民主主義社会実現の重要な課題である。
これが解決のためには、総合的な同和対策の推進に、すべての機関・団体及び関係者が不断の努力をはらわなければならない。
同和問題の解決は行政の責務であるとの認識のもとに、同和対策を行政の主要な施策として位置づけ諸事業を推進するとともに、県民意識の実態に即した啓発活動を積極的に推進しなければならない。
また、県民は、研修会や学習会等に参加するなど自己啓発に努め、同和問題の正しい理解と認識を深め、自らの課題として取り組みをすすめなければならない。
本県においては、全国に先がけて同和対策事業に着手し、その後の行政施策の推進により、同和地区の生活実態、物的環境は、かなりの水準まで改善されてきた。また、同和問題を中心とする各種の啓発活動や同和教育の推進により、人権意識の普及・高揚と同和問題の理解もある程度まで進んできた。しかし、環境改善事業をはじめとした物的事業や、福祉、産業・職業、教育にまだ多くの課題が残されており、また、差別事象があとをたたない状況にある。
意識調査の結果からも明らかなように、県民の同和問題についての理解と認識のあり方については、依然として問題があり、同和対策の進捗にともなって、逆差別・ねたみ意識の発生や、啓発活動のマンネリズム化、参加者の固定化、地域による格差などの問題も生じてきている。
同和問題の啓発活動は、県民の人権意識を高揚し、同和問題の正しい理解と認識を培い、意識の変革をうながし、差別をなくす意欲と実践力を高めることにある。そのために、県民意識の実態をふまえ、今日までの啓発のあり方に点検を加え、長期的な展望と総合的な視点に立って、積極的な啓発活動を促進する必要がある。
その際に、昭和40年同和対策審議会答申の精神をふまえ、県同和対策協議会「今後における同和対策のあり方について」の建議(昭和62年5月18日)を尊重し、これまでの経緯・経過と地域の実態に即した啓発活動に努力を払うべきである。また、本県の同和教育のこれまでの取り組みや現状に配意しつつすすめる必要がある。
国内はもとより国際的にも、人権尊重思想の普及により、人権の確保・尊重の気運が次第に高まりつつある中で、同和問題の解決をめざし、部落差別をはじめあらゆる差別の撤廃のため、人権尊重の理念を県政の基本にすえ、“21世紀をひらく奈良県づくり”を進めなければならない。
これまでの啓発の内容が、身近な生活課題と結合したものであったかどうか、同和問題に対する県民の疑問に答えるものとなっていたかどうか、県民の自主的・主体的な学習意欲を抱かせる魅力的なものとなっていたかどうか等抜本的な見直しをするとともに、住民構成の変化や同和対策事業の推進に伴い生起する県民意識にも留意し、啓発内容の体系化に努めなければならない。
(1) 同和問題の本質や、差別の現実と生活実態、同和行政施策と解放運動、発掘された資料や研究にもとづく新しい歴史観に立った同和地区の歴史・創造してきた文化等について、同和問題の基本的認識の徹底に努める。
(2) 同和対策審議会答申や特別措置法、同和問題を解決する方法等、同和対策事業に対する理解と協力を得るための啓発の促進を図る。
また、その際には、単に行政施策の成果のみをとりあげるのではなく、事業を実施するうえでの同和地区住民の負担等、今まで見落としてきた側面にも視点をあてる。
(3) 同和問題に対する県民の意識の背景には、人権感覚の希薄性、社会意識への同調傾向といった社会・文化構造が存在していることが否定できないことから、あらゆる人権問題についての基本的認識の徹底と人権確立の展望についての内容をとりあげる。
啓発の方法について
関係行政機関は、県民に対して、正確で的確な情報の提供、体系的な学習資料及び教材の提供をしなければならない。そのためには、これまでの講演会、研修会のあり方の点検や、広報紙、テレビなど啓発媒体の充実等に努め、県民の参加意識を高める方法に配慮しなければならない。
(1) 啓発の効果測定を行い、県民の意識や学習ニーズを把握し、それに基づいて啓発を実施する。
(2) 学習内容の創造、教材の編成や啓発資料の開発を図り、これらを活用し、体系的な啓発・研修計画をたて、それに基づいて啓発を実施する。
(3) 効果的な啓発活動を推進するためには、指導者の果たす役割がきわめて大きいことから、関係機関・団体が連携し、指導者養成に努める。また、研修担当者や講師団の編成などの整備をはかり、研究・研修の成果や、各種の関係情報の提供を行う。
(4) 啓発媒体については、専門分野からの意見も聴取しながら、広報紙(誌)、リーフレット、冊子、テレビ、映画あるいは、講演会、研修会など、多様な手法をさらに効果的に活用し、それぞれの特性を生かした幅広い啓発に努める。
啓発活動は、行政、教育、運動、企業、労働、宗教、文化等の機関・団体が、それぞれのもつ特性を生かし、より効果的な推進をはかるため、相互の連携を密にして、適切な役割・責任分担に配慮しなければならない。
(1) 啓発推進体制の強化・充実を図り、関係部課相互の役割分担を明確にしつつ、相互の連携を深め、効果ある啓発に努めるとともに、職員研修を一層推進する。
また、この基本方針を具体化するための推進計画を策定し、効果的、組織的な啓発に努める。
(2) 市町村、関係機関・団体と密接な連携を保ちながら、それぞれがその特性を生かし、一層効果的な啓発活動の推進を図ることができるよう、企画、調整、奨励、援助をするなど、条件整備に努める。
(3) 推進母体、推進事業の具体的想定に立ち、県民各層に浸透させるため、県民一体となった取り組みが推進されるよう留意する。
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