優良賞10

「思いやり」

智辯学園奈良カレッジ中学部 1年 安田 和香子

 小さい頃から私は両親に、優しく思いやりのある人になりなさいと言われていました。母はめったに怒らない人ですが、兄と私が相手のことは考えず、自分のことばかり考えてケンカになってしまった時は、怒るというより、とても悲しそうな顔をします。そして、
「相手を思うということは、むずかしそうでそんなにむずかしいことじゃないと思うよ。もし、自分が相手ならと考えてみればいいんじゃない。」
と、私達に言います。
 習い事や通学でほとんど毎日電車に乗っていますが、幼稚園の頃、習い事の帰りの電車は満員で、ちょうど兄が熱を出して体調の悪い日がありました。フーフー言いながら、赤い顔でふらふら立っている兄がかわいそうで、私は泣いてしまいそうになりました。すると、人をかきわけて、大学生くらいのお兄さんが私達の所まで来て下さり、
「大丈夫ですか。どうぞ座って下さい。」
と、声をかけて下さいました。その日の、母のうれしそうな顔と、兄の安心したような顔は今でもよく覚えています。お兄さんがいつから私達に気付いて下さっていたのかは分かりませんが、自分も座っていたかったかもしれないのに、周りの人に気を配れる優しさに感謝の気持ちでいっぱいです。
 とはいえ、なかなか私は電車内でも、席をゆずる、声をかけるということが実行できずにいました。はずかしいという気持ちが先に立って、勇気が出なかったのです。
 ですが、数年前に家族で広島に旅行に行った時、路面電車に乗りました。その時、大きくて、重そうな荷物を持ったおばあさんが乗ってこられたのを見た瞬間、はずかしい気持ちも忘れ、体が勝手に動いて、気付いたら、「どうぞ。」
と言って、席を立っている私がいました。おばあさんは何度もありがとうね、と言って下さり、はずかしくなりましたが、とても幸せな気持ちになりました。
 席をゆずることはそんなに大変なことじゃない、と分かっていても、なかなか、一歩が踏み出せませんでしたが、それからの私は電車内で高齢の方を見かけた時、この方がもし、自分の祖父、祖母だったら、と考えて、少しの勇気を出し、声をかけたいなと思っています。
 先日、母にある動画を見せてもらいました。それは、4才くらいのお兄ちゃんと2才くらいの妹の動画で、先に溝を渡ったお兄ちゃんが、渡れないとこまっている妹を見て、どうしようと考えた結果、自分がねて、橋のかわりになり、体の上を妹に歩かせるというものでした。大人から見るとその幅はせまくて、たいした長さではありませんが、妹のために一生懸命考え、行動してあげているのだと思います。自分も怖いし、いたかったと思うのに、こまっている妹を助けたい一心で動いているお兄ちゃんは本当に思いやりのある子だなと思いました。
 だれにも、自分が幸せでいたいし、楽に生きたいと思う心はあると思いますが、だれかを傷つけたり、不幸にしてまで、自分の気持ちを通しても、その先にある未来は幸せではないように思います。
 人は一人では生きていけません。一人で生きていても、楽しくないし、笑うこともできません。だれかを思いやる気持ちを持って、周りの人と笑って過ごせる毎日を送っていけたらいいなと思っています。