奈良県立奈良病院

福田和由先生

奈良県立奈良病院
指導医
福田 和由 先生

奈良県立奈良病院 小児科 診療部長
(※所属・役職は2013年3月インタビュー当時)

〒631-0846 奈良県奈良市平松1丁目30番1号
TEL:0742-46-6001
FAX:0742-46-6011
病院URL:http://www.nara-hp.jp/

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  • 当院の特徴やポジションについてお聞かせください。
    福田:当院は奈良県北和地域の拠点病院で救命センターも併設されており、北和における最後の砦の性格をもちえる病院だと考えています。京都の南部には大きな病院がないので、奈良県の北部からだけではなく京都の南部からも患者さんが来られます。
  • 先生のサブスペシャリティについて教えてください
    福田:一般小児科医です。私がこの病院で担当しているのは小児循環器と小児神経、その2つを担当しております。
  • 小児科を選んだきっかけについて教えてください
    福田:研修医の方からも「先生は何で小児科を選んだのですか」とよく聞かれ、実は立派な理由はなかったという話をしています。
    あえて言うと20数年前にポリクリをしていた時期に、大学には多くの診療科・医局があったのですが、その中で唯一解剖学的に区切られていない科は小児科だけでした。つまり内科にしても循環器内科や呼吸器内科、消化器内科、外科にいたっては心臓血管外科、腹部外科、脳外科、眼科、耳鼻科など解剖学的に区切ることができます。その中で小児科は唯一年齢で区切られた科となります。逆に言うと全身を診なければならない、あるいは診ることができる。そういった部分に魅力を感じたのです。子どもも嫌いでもなかった。そこで小児科を選択したのです。
  • 小児科の魅力・おもしろさについて教えてください
    福田:私は、小児科しか知りませんが他科に比べてやはり勝負が早いことでしょうね。魅力というか怖さでもあります。ご存知だと思いますけど特に赤ちゃんなど小児の疾患は悪くなるのも良くなるのも早いです。一晩で急変することが多々あり、一晩で急激に良くなることがあります。そこでは、我々医師の判断が非常に重要となります。そこで判断を誤ればもちろん怖いことになりますけど、しっかり判断すれば急激に良くなってくれるという、そこが魅力ではないかなと感じています。
  • 具体的なエピソードはございますか
    福田:私がまだ大学に勤めていた時の患者さんですので、もう十年以上前ですね。
    痙攣がなかなか止まらないという生後4ヶ月位の患者さんを担当した時です。何をしても痙攣が止まらないものすごい難治性の痙攣の子がいました。そこで全身麻酔をかけるほどの痙攣抑制剤を使ったのですが、呼吸は止まりそうなのに痙攣は止まらない。しかし、あるきっかけから気づいて、ビタミン剤を投与しました。そうすると1分後から痙攣が完全に止まりました。ビタミン剤で痙攣がピタッと止まるという私にとって足が震えるくらい驚いたというか今でも鮮明に覚えている経験ですね。ビタミンB6依存性痙攣という疾患だったのです。それが20数年間の医者人生の中で、小児科医の判断一つで患者さんの命が左右されることを最も思い知らされた瞬間です。
  • 小児科医の不足について
    福田:医療の光の部分と影の部分は当然あるのですけれど、実は、訴訟ということで言えば小児科は件数からいくと意外と少ないのですね。よく言われるように少子高齢化で子ども一人に注目する親御さんの注目度が高くなった。子どもの病気に関してもある意味注目度が高まっているのは事実でしょうね。でも個人的な印象ですけど、もう23、24年前の私が医師として駆け出し時代の時と、今の親御さんを比較して特に小児科の医療に対して過敏になってきているという印象はあんまり受けないですね。たぶんマスコミとかテレビなどで過剰に報道している部分も多少あるのかなと。たまにそのような質問を学生さんから受けますが、現場で働いている肌感覚としては、ゼロとは言いませんがそこまではないよと答えています。
  • 先生の受けた初期研修について教えてください
    福田:私の若い頃というのは、ほとんどの学生が大学病院で研修するわけで、今とは随分違いますね。
    私達の頃は倒れるまで働くというのが、むしろ医者の美徳みたいな時代でした。体も健康だったし若かったからよかったと思いますが、一年間で小児科、救命それから新生児科を4ヶ月ごと回りましたが、どの科でも月8回ずつ、年間ほぼ100回位当直しました。当直の後も当然普通に勤務し、36時間労働、48時間労働などがあたり前でした。今思えば、よくできたなと思います。
    でも、個人の犠牲というかそういうものに頼るのではなく、システムで補っていかないと長続きしないし、疲弊して持たなくなるということを今考えます。
    今は、研修医の健康管理も含めてどんどんシステム的になってきています。当直した後はなるべく早く帰そうとか、そういうのは歓迎される姿勢だと思います。
  • 現在の研修、スーパーローテート方式についてはどう思われますか。
    福田:これは賛否両論ありますね。私の気持ちの中でも個人的にも良いと思う部分と、いかがなものかと思う部分があります。研修医の側に立ってみれば、色々な科を最初の2年間で診れるわけですよね。我々の頃は、大学6年生からいきなり入局して進路が決まったわけです。今は、2年間の間に実際の現場を経験することで、自分の本当にやりたかったことと現場の食い違いがあった場合には、医局を選ぶ段階で微調整できます。自分が思い描いていたこととかけ離れていたら、別の道へ進むこともできる期間かなという感じがします。だから、我々の時代よりも入局したけど途中リタイヤするとかそういうケースが減るのではないかな。より適材適所に人材がはまっていく、そういう傾向があるとそれぞれのスキルも身につきやすいと思います。
    ただし、専門科へのスタートは遅れますけどね。ですが長い目でみたらそういうことがあるのがこの研修なのだろうなとは思います。
    一方これはいかがなものかと思う面は、スーパーローテートが始まった時から言われていたのですけど、マクロ的なシェアでみたらやはり地方は厳しいですね。今までは地方の大学であっても卒業した大学病院へ研修医として進んでいたわけですけど、今は東京・大阪を代表とする大都会に集中していますね。都会は、症例数も多いだろうし魅力的ですから。奈良も近隣に大阪、京都、兵庫があるとどうしても自由競争でやや苦しくなる。医療は電気や新聞、水道などと同じくライフラインみたいなもので、自由競争にすべきでないというのが私個人の考え方です。つまり一都道府県一医大制というのが作られた理由は、人材を全国へばらまくためですよ。津々浦々郵便がどんな田舎にも届くように、各地で水道が使えるように、医療もやっぱり届かさなければいけないとしていたのが、スーパーローテートによっていったんバラまいた人材がまた都会に集中しています。そこはちょっと問題かなというふうには考えますね。
  • 地方に行くほどそのような意見が多いですね。
    福田:スーパーローテートを実施するなら、田舎にも人材を再分布するべきで、昔の医局制度の良さというのはその辺にあったのだろうなと思います。今までだったら医局の教授が人事権をもって対応していましたが、教授じゃなくてもいいから、人事課みたいなところがあって、何年かは必ず地方で研修するといったルール作りが同時に必要だったなと思いますね。
  • 大学病院と市中病院での研修がよく比較されますが、どのようにお考えでしょうか。
    福田:私は小児科しか分かりませんけど、こと小児科に関していうと、どっちも必要なのではないでしょうか。初期研修に限っていえば、市中病院から始める方が馴染みやすいのではないかなと。大学病院から入っても悪くはないですが、いきなり高度な医療や難しい病気から入るとなかなか身に付きにくいですし研修医もかなり戸惑うのではないかなと思います。 やっぱり標準的な医療をまず知って、基礎を鍛えた上で派生していくのが本筋だろうと思いますね。つまり、いきなり応用編から入るのではなくてやはりまず基礎から固めるべきと思います。
    そういう意味で基礎を学べるのは、どちらかといえば市中病院ではないかなと思います。
  • 後期の研修についてはいかがですか?
    福田:後期の研修については、どちらも必要ですね。先ほども言ったようにベーシックな最初の2年間は市中病院で基礎的な足腰を鍛えますが、それだけでは物足りないので大学病院に行って後期ローテートまで入れると5年間ですよね。だいたい小児科に限らず5年目が終わったときに専門医の認定試験があります。その頃になると色々な疾患を診ていることが要求されます。骨髄移植であったり小児の循環器、心臓の手術などの経験は市中病院では扱えない。やはり大学病院での経験も必要です。
    当然、市中病院での経験も必要でどちらもまわっておく必要があります。当院は大学病院と提携して後期研修3年間のうちこの病院で1年間、大学病院の小児科が1年間、それから新生児集中治療はこれからの小児科にとっては欠かせないファクターなのでそれも1年間まわろうと、その3本立てで後期研修をまわすようにしています。
  • 指導の際に心がけていらっしゃるのはどんなことでしょうか。
    福田:初期研修というのは最初の駆け出しの2年ですよね。三つ子の魂100までとよく言いますけど、僕の印象でも最初の2年に接した指導医の影響って結構良くも悪くも大きいです。そういう意味でかなり責任は感じますね。指導医の一言一句や、患者さんに対する態度を彼らは見ています。我々の接し方とかを見て、こういうふうにするのだとか、こうすれば良いのだということをきっと彼らは見ているはずです。我々が言葉でどうこう言うよりもそういう部分も大事なのかなと。だから常に研修医の視線を意識するというのが大事なのだろうと思っています。
  • 「すごい研修医がいた」というエピソードがあれば、お聞かせください。
    福田:一人にしぼることはできませんね。小児科というのは子どもさんを相手にする科なのですけど結局は、お母さんであったりお父さんであったりそのご両親と対話することが必要で、赤ちゃんと対話するわけではありません。コミュニケーション能力の高い研修医は非常に任せやすいですね。逆にコミュニケーション能力がちょっと厳しいかなという研修医は、もう非常に心配で横で付きっきりで耳をそばだてたりとかしていますね。もちろん点滴など医療能力技術も必要ですけど、やはり一つ必要な能力を挙げろと言われたらコミュニケーション能力です。それが高かった研修医というのは印象に残っているということでしょうね。
  • コミュニケーション能力は経験していくうちに磨かれていくものですか?
    福田:もちろんそうでしょうね。やはりこれは性格もありますが経験が大事だと思います。口ベタな人もいれば、しゃべるのが上手な人もいます。学生の頃から口のうまい人もいますよね。やはりそれは先天的なものもありますけど、ある程度は磨かれていくものだろうと思いますね。例えば口が下手でも誠心誠意しゃべっているのは案外伝わるものです。最低限その相手の目を見て話せということをよく言います。最近は電子カルテしか見ていなくて、患者の目を見ないで話す医者が多いという苦情が実は多いですね。それは研修医にも言いますね。相手の目を見て話すということはやはり基本だとは思いますね。
  • 小児科の場合は親御さんとのコミュニケーションがすごく重要ですね。
    福田:重要でしょうね。特にお母さんはよき観察者といいますか、ずっと子どもさんを見ておられるので、子どもさんの重症度をみるには、まずお母さんの顔色をよく見ろとよく言います。お母さんが切羽詰った顔をして診察室に並ばれていたら、たいてい重症なことが多いですね。コミュニケーションというのはその辺から始まっています。本当に危ない時はお母さんが、自分が仕事を休んでも必ず連れてこられます。でもお母さんも実は頭の中が不安で一杯ですから、なかなかその整理整頓してしゃべれる人はいないですよね。まず自分が不安に思っていることを、まくし立てられることが多いと思います。そのときは、一分間は黙って聞きます。その後で、こちらから整理してお伺いすることで、何を一番不安に思っているかはそれで大体分かります10分間も聞いていると待ち時間が長くクレームが出ますから、1分間で自分で頭の中を整理して、後はお母さんが答えやすいようにこちらから質問を投げかけるということ、そのあたりは基本ではないでしょうか。
  • 研修医に対して、これだけは肝に銘じておくべきだということをお聞かせください。
    福田:どの職業もそうかもしれないですけど特に医療関係者というのは、他人の心配をする仕事です。他人の健康を心配する仕事であり管理する仕事ですね。
    でも、自分自身心配事があったら他人の心配などできないですね。研修医のみなさんは、心身共にコンスタントに、むらなく健康な状態を保つこと、これが全てではないでしょうか。ムラなくコンスタントに心身ともに体調維持をするように心がけてもらいたい。医療という仕事に入ったからには、学生とは違って、例えば遊びに行っても明日のことを考えてちょっと早めに帰るとか、それも仕事のうちですね。
  • これから研修病院を選ぶ医学生に対し、研修病院を選ぶポイントはどのようなことでしょうか
    福田:医療というのは技術職ですから、それなりに症例数があり、1次から3次まで幅の広い症例が集まっている病院が必要だろうと思います。あまりにも症例が少ない病院では技術はあがらないでしょうし、知識は増えないということが考えられます。これが原則だろうと思います。
    あとは風通しのいい病院、例えば指導医層が診療科を超えて、産婦人科あるいは外科、内科など横の繋がりがスムーズな病院というのは多分研修医のみなさんも働きやすいと思います。そういう部分を尋ねてみると良いと思います。「ここの病院は横の連携はどうですか」って。その逆の病院は働いていて辛く感じるのではないでしょうか。1つポイントをあげろといわれたらそういう点ですね。
  • 後期研修を選ぶポイントを教えてください。
    福田:後期は初期と違って、より高度に派生した医療が必要だということですから、やはり症例数というのは1つポイントになると思います。指導医の先生はどういう病気を診ておられるのかというのは重要でしょうね。実は小児科に関していえば初期研修だけでは全然力はついてなくても、後期研修に入ってからが本格的で、そこでどれだけ伸びるかに関しては、症例数というのが非常に大きなウエイトを占めてきます。どれだけの患者さんを経験させてもらえるのかというのは1つ大きなポイントですね。
    後はスタッフのパーソナリティーでしょうね。世話好きな先生が揃っていると良い。幸い県立奈良病院の小児科では新生児科も含めてですけど、私の見るところ、しつこい位に教えすぎというか世話好きな先生が揃っていますので、そういう意味では良いですよ。
  • 最後に、再度病院のPRお願いします。
    福田:3年後には新県立奈良病院となり、伸び行く病院であるというのが一つ。奈良市それから京都の南部からも患者さんが来ます。対象人口が結構多いので症例、質、量ともに豊富だと思います。研修病院としては好環境ではないでしょうか。人間関係も非常に潤滑で、この病院は診療科の垣根が確かに少ないです。初期研修後に再び県立奈良病院で働きたいと言ってくださる研修医の先生が割と多い。奈良医大だけでなく自治医大や県外大学出身の方も多いですので、割と自由な感じで出身大学で不利になることもない。研修医のみなさんも研修医ルームというのがあって研修医同士割と仲が良いようです。みんなで旅行に行ったりなどもしていますし、研修医は研修医でまとまりがあるなというふうには感じていますね。

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