奈良県立奈良病院

中谷敏也先生

奈良県総合医療センター
指導医
中谷 敏也 先生

奈良県総合医療センター 消化器内科部長
(※所属・役職は2014年12月インタビュー当時)

〒631-0846 奈良県奈良市平松1丁目30番1号
TEL:0742-46-6001
FAX:0742-46-6011
病院URL:http://www.nara-hp.jp/

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  • 病院の特徴や地域での役割について、お聞かせください。
    中谷:当センターは救命救急センターと21の診療科を持っており、一次から三次救急まで対応可能な総合病院です。基本理念に「医の心と技を最高レベルに磨き県民の健康を生涯に渡ってささえつづけます」とあり、奈良県北和地区の基幹病院として、県民及び住民の皆さんに安心と信頼を得られるセンターづくりと良質な医療の提供を目指しています。
  • 奈良県総合医療センターの初期研修の特徴について、教えてください。
    中谷:初期研修は全ての基本となる内科でスタートしますが、その後の選択科目は非常にフレキシブルになっています。1年目と2年目を合わせて自由な選択枠が約10カ月ありますので、皆が将来、希望する診療科を踏まえて選択しています。私は消化器内科医ですが、消化器内科は消化器外科や読影などの放射線科の知識が必要ですから、消化器外科と放射線科を重点的に選択したり、ほかの内科のことを知っておきたいのであれば循環器内科や呼吸器内科を選択することもできます。一方で、外科系希望の研修医は麻酔科を選択することが多いですね。
    救命救急センターでの救急科の研修はあえて1年目と2年目のそれぞれに分けています。これは1年目に分からなかったことでも、2年目になったら理解できるようになっていることがあるためです。救急科のみ、2年目の初期研修医が1年目の初期研修医を指導し、2年目は専攻医が指導するといった、いわゆる屋根瓦式の指導を行っています。教える側も勉強になりますので、そういった意味では特徴的だと思っています。
  • 現在の研修制度についてのご感想を教えてください。
    中谷:私のように卒後27、28年といった世代は学生のときに志望する診療科を決めていなくても、何となくのイメージで入るしかないのですが、学生のときと実際に働くのとでは全く違いますから、働いてから診療科を決めることができる今の制度はいいですね。昔は「俺の背中を見ろ」のような感じで、必死に食らいついて研修していきましたし、問題点を教えてもらうよりは自分で見つけていかないといけなくて、それが当たり前だったんですね。しかし、今は逆に色々な資料を提供してもらえますし、カンファレンスなどの研修のチャンスも多いので、恵まれていると思います。
    それに、私は入局以来消化器内科のことを中心に勉強してきたため、他科の内容に接する機会が少なかったですが、最初から志望する科が決まっていたとしても、ほかの科を幅広く診たあとで志望する科に行けるのも今の研修の大きなメリットですね。個人的には全科ローテートはいいという印象を持っています。ただ、外科系のように「手に職を」というところは専門に入るのが遅れることがマイナスになると考える人もいるかもしれません。でも、皆が同じ道を通りますから、差がついてしまうことはないでしょう。幅広く診ることができるということはこれから特に大事になってくると思われます。
  • 先生が受けた初期研修についてお聞かせください。
    中谷:ひたすら指導医のあとをついて、指導医がすることを見て、それを真似て、「あれは何をやっていたのかな」と本を読み、当直の場で簡単な薬の処方などをしながら試したりしていました。1年目の10月頃には一人で当直していましたね。そして、2年目の夏には市中病院に放り出されて、外来や検査も一人でしていましたよ(笑)。2年目からは一人というのは分かっていましたから、1年目の後半からは焦りもあって、皆が必死でしたね。カンファレンスが少なかった時期もありましたが、自分で問題点を見つけていました。だから、我々の世代からは今の研修制度は贅沢すぎるように見えることもあります。
  • 先生が医師を目指したきっかけ、サブスペシャリティを選ばれた理由をお聞かせください。
    中谷:祖父ががんで亡くなったのですが、そのときの主治医の姿がとても良かったので、がんに関わる仕事として医師を選びました。多くのがんに関われる診療科は内科か外科ですし、私の場合は祖父を直腸がんで亡くしていますので、消化器内科か消化器外科かという選択でした。その中で亡くなっていく人や死に関われるのは内科だと思ったんです。確かに外科医は治せますし、かっこいいイメージがありましたが、当時はがんは助かるよりも亡くなっていく人の方が多かったですし、治せたら、それに越したことはありませんが、私は治すよりも亡くなっていく人にいかに寄り添っていける科の方に興味がありました。
  • 消化器内科に進んでからはいかがでしたか。
    中谷:一時期はやはり技術偏重手技に陥りましたね。4年目から5年目ぐらいになると、自分に変な自信ができて、何でもできるんだと思ってしまうのです。若い医師には色々な技術ができることがかっこよく見えますし、私も技術をひたすら追い求めました。これで自分の目的を果たせたという満足感もありましたが、亡くなっていく人はいくら頑張っても亡くなっていくのだと気づいたんです。その時期に大学に戻って、学位のための勉強をしなくてはいけなかったのですが、そのときの研究テーマががんの遺伝子治療でした。全く未知の領域でしたし、これでがんが治るかもしれないと思い、研究にのめり込み、留学もさせてもらいました。最先端の研究を見ましたが、それが実際に臨床応用されるには超えなくてはいけないハードルが多く、私の現役の間は難しいという限界も少し感じましたので、また臨床に戻り、現在に至っています。
  • 消化器内科の魅力、面白さはどんなところにありますか。
    中谷:消化器内科は内科の中では患者数が最も多い診療科ではないでしょうか。食べたり、飲んだりしますし、当然アルコールも摂取しますから、身近な診療科ですね。色々な患者さんや色々なキャラクターの方々と接することができます。また、内視鏡を駆使して様々な技術を身につけることもできます。技術があればアピールできますから、大学の所属から離れて独り立ちするときの求人にも役に立つでしょう。循環器の心臓カテーテルなどは設備がないとなかなかできませんが、内視鏡は個人経営の診療所でも使っておられるところが多いので、エコー、上部、下部の内視鏡ができれば強みになると思います。
  • 初期研修医への指導の際に心がけていることについて、教えてください。
    中谷:医師は病気を診ているのではなく、病気を持っている人間を診ているのだということを肝に銘じて接しなさいということですね。病気を治すにあたっては答えは一つですが、患者さんのQOLをいかにいいところに持っていくかということについては答えは複数あります。担当する主治医によって変わってくることもあるでしょう。いかに相手の立場を考えてあげられるかという接し方が大切です。自分だったら、自分の親だったらどうするということをいつも言っています。インフォームドコンセントと言っても、患者さんが全てを決めることは難しいですね。データを出して「どれを取りますか」と言って、患者さんが選択したもののあとで何かあったら選んだ者の責任となり、罪悪感に変わってきます。患者さんに尋ねられたときは「答えが正しいかどうかは別として、自分だったら、こうしたい。自分の親だったら、こうすると思います。一緒に頑張っていきましょう」などと答えるのが大事だと思っています。もちろん、そこまで悪い選択肢の提示はしませんから、一緒に相談して、信頼し合って決めれば満足されますし、早く亡くなったとしても満足されていたら、それは一つの正解なのです。
    今はどうしても数やエビデンスが必要とされますが、自分がどういう気持ちで向き合っているのかということが患者さんに伝われば、信頼関係ができてきます。研修医であっても主治医としての信頼感があれば、指導医よりも素晴らしい主治医として認めてもらえるはずです。そこを伝えていきたいですね。
  • そのほかに研修医に必要な心構えはありますか。
    中谷:挨拶をする、時間を守るといった、社会人として最低限、当たり前のことをするということですね。学生時代はずっと勉強してきて、ややもすれば変人扱いされている人が医師になって、「先生、先生」と言われると、自分は偉いのだと勘違いしてしまうこともあります。研修医はまだ走り出したばかりの新米だという気持ちを常に持ち、ある程度、偉くなっても、へりくだる必要はないですが、患者さんに上から目線ではなく、対等に話していると患者さんに感じてもらえるような接し方ができることが大切だと思います。
  • 女性医師が増えていますね。
    中谷:女性の進出は医療の世界だけではありませんが、以前、妊娠初期の研修医が一生懸命に頑張りすぎて流産したという苦い経験があります。男性と女性は構造的に違うことを理解し、休ませるところは休ませることが必要ですし、男性も協力しないといけないですね。
  • そのための環境づくりについては、いかがですか。
    中谷:女性用の更衣室は以前からありましたが、綺麗ではありませんでしたし、保育室の利用者も少なかったのです。そこで、女性用の更衣室のほか、当直室も作ってもらいました。保育室も初期研修医や専攻医が使えるようになっていますので、かなり変わってきましたね。
  • 最近の研修医の先生をご覧になられて感じられることを教えてください。
    中谷:優等生が多いかなと思います。皆が優秀で、あまり苦労せずにここまで来たという印象がありますが、コミュニケーションが苦手な人が多いですね。最初は仕方ないのかもしれませんし、個人で話をすると、皆とてもいい人たちです。ただ、幅広い年齢の人たちとの付き合いが少なかったり、違うグループに入ったときに遠慮したりしています。昔の方が厚かましかったですね(笑)。
  • どのような性格の方が奈良県総合医療センターの研修に向いていますか。
    中谷:先々のことを計算して動くよりも、あまり考えず、とにかく体力勝負でやってみようと思える人でしょうか。実際に忙しい病院ですから、目の前にある仕事をこなしていこうという感じで、一夜漬けで試験に臨むタイプの人の方がいいかもしれませんね。
  • 医局の雰囲気はいかがですか。
    中谷:診療科ごとに分かれていませんので、大学とは違って、隣の科との垣根が非常に低いです。机も診療科ごとに固まっているわけではありません。大学は高度医療を行っていますが、何か頼みごとをするときに、他科の医局のドアをノックしないといけません。そして、そこに入っていくときに「また仕事を持ってきたのか」という白い目で見られる感じがあります(笑)。そういった雰囲気が当センターにはなく、お互いが協力するという暗黙の了解で、誰も嫌な顔をしないんです。消化器内科医師も外科医と一緒に手術室に入り、患者さんにとって最も侵襲の少ない方法で行うこともあります。大学ではありえないですから、非常に友好的ですね。
    研修医も色々な医師に気軽に質問できる環境です。研修医の数と指導医の数が適度な密度になっていますので、2年の初期研修の間に全診療科の医師の顔と名前が分かるようになり、指導医も全ての研修医を知ることができます。したがって、後期研修に残っても、知らない人がいないので、アットホームな感じになりますね。
    今は様々なことができるレベルですし、初期研修には恵まれた場所になっています。これ以上の規模になると、専門科の医師の意見を簡単に聞くのは難しいかもしれません。これが市中病院の良さだと思います。
  • 先生が今の時代に研修をしていたら、大学病院と市中病院のどちらで研修をしていましたか。
    中谷:恐らく市中病院ですね。医学部に入る人は普通は臨床をしたい人です。少しでも早く技術を身につけたい、経験をしたい、臨床の場で役に立ちたいという欲求がありますから、少しぐらい忙しくても市中病院を選んだのではないでしょうか。
  • 良い人材を増やすための取り組みで考えていることはありますか。
    中谷:まずは業績を上げていくことと研修医への指導を充実したものにすることです。レベルの高い医療を行い、業績を出していく必要があります。一方で、いくら我々が良いことを言っても、先輩研修医が後輩に伝えた情報には勝てません。研修医が充実した研修をできなければ、おのずとそのことは後輩に伝えられていくことでしょう。
  • 研修病院を選ぶポイントを教えてください。
    中谷:やはり症例数が多い、研修医が多い、マッチング率が高いところは研修が充実している病院ですね。もともとの定員が少ないところは別ですが、マッチング率が高い病院は定員が増えていくことがよくあります。当センターもそうでした。プログラムに関しては、内科系から入っていき、あとは自由に選択できるところがいいでしょう。最初からマイナー科を志望している人は内科に興味が持てないかもしれませんが、眼科でも皮膚科でも全身疾患の一症状として現れていることもありますので、少しでも内科の記憶があるというのは大事です。また、自由度は適度にあるべきだと思います。あまり自由度の高さを売り文句にするのは個人的には違和感があります。
  • 最後に、医学生に対してメッセージ、病院のPRをお願いします。
    中谷:当センターはプライマリケアから三次救急までの幅広い疾患に対応しています。北和地区の基幹病院であり、最後の砦として機能していますので、受け持った患者さんに最初から最後まで関わることができます。3年後には新しい場所に移転します。そこには全ての診療科が揃い、文字通りの高度医療を行うほか、素晴らしい研修施設も建つ予定です。
    現在の当センターの当直は外科系、内科系の全ての患者さんに対して、研修医がファーストタッチするシステムです。2年目と1年目の研修医、2年目の研修医と指導医という、屋根瓦式の体制です。2年目が1年目を指導して、最後に指導医と一緒にやると、確かに眠れないのですが、実力がつきますよ。自分の科だけの当直ですと、その科の範囲の知識だけしか使いませんが、何が来るか分からない状態で、全ての救急車に対応していきます。腹痛と思っていたら婦人科疾患や泌尿器疾患だったり、実は大動脈瘤が破裂していて手術の必要があったりなど、指導医も常にアドレナリンを流しています。研修医にとってはそういう指導医のもとで当直できるという安心感がありますから、この点は胸を張ってお勧めできますね。体力的にはきついですが、充実した研修の一つでしょう。
    レクリエーションとしては研修医の親睦とリフレッシュを兼ねて、2泊3日の冬のスキーツアーがあります。ネイティブによる英会話教室や色々なイベントもありますので、メリハリをつけて仕事をしたい方には是非、来ていただけたらと思っています。

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